BLÅKULLA

  スウェーデンのシンフォニック・ロック・グループ「BLÅKULLA」。 母体のグループは 70 年結成。 ハードロックから英国プログレの影響でシンフォニックなサウンドへと変化し、75 年アルバム・デビュー。 同年末解散。

 Blakulla
 
Bosse Ferm organ, piano
Dennis Lindegren vocals, chimes
Tomas Olsson drums
Hannes Rastam bass
Mats Ohberg electric & acoustic guitars

  75 年発表のアルバム「Blåkulla」。 内容は、初期 YES を思わせるオルガン、ギター中心のシンフォニック・ロック。 ナチュラル・トーンによるサイケデリックでけたたましいギターとパーカッシヴで毛羽立ったハモンド・オルガン、強引にしてテクニカルなリズム・セクションが、緊迫感ある演奏を繰り広げる。 ベースは、もちろんトレモロを駆使するリッケンバッカー速弾きタイプ。 そして、ハードエッジな感触を和らげるのは、フォーク風のメロディ・ラインとスウェーデン語の暖かい響き(決して美声ではないが)である。 トラッド・ミュージック風のアコースティックでひなびた演奏もある。 逞しさと愛らしさが同居した北欧独特の音であり、同郷の TRETTIO ARIGA KRIGGETTDICE などが思い浮かぶ。
   ヴォーカルはスウェーデン語。プロデュースはグループとボブ・ランデル。

  1 曲目「Frigivningen」(1:36) 二つのアコースティック・ギターが美しい弾き語りフォーク・ソング。 原語の素朴な響きと竪琴のようなギター。 夢見るような、すてきなアルバム・イントロダクションだ。

  2 曲目「Sirenernas Sång」(6:05) オープニングからオルガンとギターが迸る、セカンド・アルバム辺りの YES によく似たハードなシンフォニック・ロック。 ひずんだ音色のオルガン、敏捷ながらもひっかかりが強いギター、逞しくも躍動感あふれるベースなど、YES の影響は強い。 ハードにして華やかなイメージも共通する。 一方、ヴォーカルに目をやると、メロディは人懐こいフォーク・タッチであり、原語のいかつい響きになんともいえない暖かさをある。 ざわめく水泡のようなピアノ、鳴り響くチャイムもおもしろい。 レガートともスタカートともいえないところが、ロック。 KAIPA をワイルドにしたような音の感じといってもいい。

  3 曲目「Idealet」(3:44) 労働歌のように単調で力強い歌と尖った躍動的なパートがリズムの変化をつけながら交錯する、どことなくユーモラスな味わいの作品。 ひずんだギター、オルガンなど、前曲と音の感じは酷似。 メインの歌メロは、シンプルな繰り返し。 サビは、ギターとオルガンのユニゾンによるたたみかけるような調子の演奏を、ややとってつけたような THE BEATLES 風のヴォーカルとコーラスのコール・レスポンスが和らげる。 ここのメロディ・ラインも、イタリアン・ロックを思わせる土臭いものである。 オープニングのギターのアルペジオやオブリガートはスティーヴ・ハウにそっくり。

  4 曲目「De' Få' La Stå Öppe'tess Vidare」(1:46) ベースのリフがリードするハード・ジャズロック調のインストゥルメンタル。 指が落ちそうなくらい研ぎ澄まされたベースのプレイが強烈だ。 エネルギッシュに暴れるギター・ソロは完全にハードロックの表現である。 オルガンはほとばしる音で背景を彩る。

  5 曲目「Maskinsång」(5:48)シャフル・ビートで疾走するサスペンスフルなハードロック。 クライマックス目指して一直線に走りつつも、随所にさまざまな演奏を散りばめて変化をつける。 ヴォーカルがなまめかしい。 全体的に、主役は荒くれるオルガン。 時おりはさまれるギターの 3 連のパターンがカッコいい。 間奏は、THE NICE を思わせるクラシカルなオルガン・ソロ。 エネルギッシュにビートを提供し続けるドラムス含め、オルガン・ロックの秀作ともいえる。

  6 曲目「I Solnedgången」(4:51)メロディアスなギターのテーマと切ないメロディ・ラインが際立つ、歌ものシンフォニック・ハードロック。 今度はギターが主役であり、メロディアスなメイン・テーマに加えて、珍しくブルージーなフレーズやヘヴィなパワー・コードも用いて緊張感を保ちつつ、ヴォーカルを守り立て、ソロで朗々と歌う。 ヴォーカリストは、安定したリズムで気持ちよさそうに歌い込む。 間奏では、オルガンの上をギターが軽やかに舞う。その訴えは饒舌だが若さのせいだろうか、嫌味がない。 ノスタルジックな響きとポジティヴな明るさが心地よい。

  7 曲目「Drottningholmsmusiken, Sats 1」(2:19) ギターとオルガンを中心に奏でるクラシカル・ロック・インストゥルメンタル。 愛らしいテーマをユニゾン主体に歌い上げる、現代のバロック・アンサンブルだ。 原作はスウェーデンの作曲家ヨハン・ロマン。 オルガンは二通りの音色を使い分けている。 若干ギターがけたたましいことを除けば、明るく愛らしく端正な雰囲気は KAIPA と同質。 小品ながらも、テレマンやヘンデルを思わせるみごとなパフォーマンスだ。

  8 曲目「Världens Gång」(1:51)トラッド調のアコースティック・ギターの弾き語り。 絶え間なくさざめくアルペジオに、トーン調整したオルガンらしきノイジーな電子音が湧きあがり、リズムとギターが加わると、サイケデリックな夢想が広がり始める。 コーラスまで加わって、発展しそうになるが、あっという間に終わり。

  9 曲目「Erinran」(10:40) ギターのリードによる YES 風の雄大なシンフォニック・ロック作品。 攻めるドラムス、ベース、オルガン、ヘヴィなギターの順で現れて、轟々たるリフへとまとまるハードロック風の序盤から(3:30)、アコースティックな牧歌調のヴォーカル・パートを経て、エレクトリックにうねる間奏(6:40)、そして最後は、再びフォーキーなヴォーカル・パートから火を噴くオルガンとともに高みへと駆け上がってゆく。 シンプルなペンタトニックでも工夫次第でギター・リフにはいくらでも味が出ることを再認識した。 単純な構成と一気呵成の演奏ながらも、ドラマを感じさせ、10 分がまったく長くない。 ヴォーカルのバックで迸るオルガンやアタックの強いベース、饒舌なギターのオブリガートなど、きわめて YES 的シンフォニック・ロックである。 2 曲目を拡大したようなイメージだ。 名残惜しそうなエンディングもいい。 やや地味ですが傑作でしょう。

  以下ボーナス・トラック。
  10 曲目「Mars」(7:45)。 目まぐるしく変化するエキセントリックなシンフォニック・ロック・インストゥルメンタル。 ユニゾンを多用した、8 分の 6 拍子や 8 分の 7 拍子でせわしなく迫る。 オルガン、ムーグ、ギターからリズム・セクションまでが一線に並んで走り続ける。 ドラムスも全拍スネア連打のやかましい演奏だ。 キーボードは主としてクラシカルな味わいを演出し、ギターはミステリアスかつヘヴィなインパクトを生む。 それら拮抗するとプログレらしい緊張感のある演奏になるようだ。 ただし、キーボードやギターの提示するテーマがレガートで親しみやすいので、目まぐるしくはあるが場面を追って楽しむことはできる。

  11 曲目「Linnéa」(5:48)70 年代後半風のジャジーな歌ものロックに振れたオルガン・ロック。 変拍子による挑戦的なイントロとは裏腹に、洒落た、余裕のある演奏である。 いわば、GRACIOUSBEGGARS' OPERA といった武骨系オルガン・ロックを思い切り洗練した感じ。 クールなオルガンを活かしたメイン・ヴァース、ピアノを用いたサビのこなれ方、意外やブルージーな泣きのオルガン・ソロ、抜群のアクセントたるややハードロック寄りのギター・ソロなど、ジャジーにこなれたところとハードロック・マインドが正面衝突した上で一体化している。 このアレンジは只事ではない。 WIGWAM 的な達者な芸風である。 個人的に好きな音です。

  12 曲目「Idolen」(6:39)ギターとムーグによるシンプルなリフで突っ走る爆走ハードロック。 ハードロックといいつつも、リフやオブリガートには北欧独特のトラッド・フォーク臭と場末感が。 オルガン、ムーグ、ギターのユニゾンがぐいぐい進むドライヴ感を生み、奔放なソロは DEEP PURPLEEL&P が合わさったよう。 痛快。

  (APM 9717 AT / SYMPHILIS 7)



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