DICE

  スウェーデンのシンフォニック・ロック・グループ「DICE」。 72 年結成。 78 年デビュー。 ライヴ盤含め、作品は三枚。 サウンドは、キーボードを主体にしたリズミカルなシンフォニック・ロック。 キーボードのまるみのある音と、フル・ピッキング型のギターによる鋭角的なプレイのバランスがとれた、魅力的な作風である。 技巧的ながらも北欧らしい郷愁あふれるメロディとユーモラスなアレンジを散りばめている。

 Dice
 
Leif Larsson keyboards, vocals
Fredrik Vildo bass, vocals
Robert Holmin lead vocals, saxes
Orian Strandberg guitars, vocals
Per Andersson percussion, vocals

  78 年発表の第一作「Dice」。 A 面に中編 4 曲、B 面に大作の組曲を据えた作品。 内容は、変拍子を用いたテクニカルで活気ある演奏に、泣かせるメロディとユーモラスな味つけ、さらにはクラシカルなアンサンブルの妙味も加えた理想的なシンフォニック・ロックである。 キーボード、ギターを中心とした演奏は、溌剌としており音色もカラフル。 細かく刻むリズム・セクションによるドライヴ感もある。 そして、なんといっても人懐こいメロディがある。 2 曲目のように、FOCUSKAIPA を思わせる万人の胸を打つであろうメロディが、あちこちに散りばめられており、せわしなくなりちがちな曲調に自然な息遣いと表情を与えている。 ギターは、ピッキングとシャープなコード・カッティングを主に、ヴァイオリン奏法も巧みな技巧派スティーヴ・ハウ・タイプ。 ブルーズ色をなくした FINCH のニムヴェーゲンといってもいい。 キーボードは、ストリングス・シンセサイザー、メロトロンやオルガンに加えて、ピアノ、クラヴィネットも目立ち、躍動する演奏をリードしている。 全体を貫くリズミカルな曲調とリッケンバッカー・ベースの音は、スイスの WELCOME など、一連の YES フォロワーにも近い。 駆け巡るように変化する演奏の軸となるのは、チャイルディッシュにして普遍的な親しみやすさをもつテーマである。 3 曲目のようなコミカルな面もあるが、特筆すべきは、アコースティックな音色を活かした演奏における神秘的な美しさの方だろう。

  「Alea Lacta Est」(6:13) オルガン、ギター、ベースがフロントを取り合い、せわしないテンポでたたみかけるシンフォニック・チューン。 3 連符特有のリズミカルなタッチと、跳ねるようなプレイが中心であり、全体に尖がった感じの演奏である。 メローな演奏への切り換えもいい感じだ。 ユーモアというか、可愛らしさが特徴だろう。 活気ある演奏とは裏腹に、テーマは反戦である。 オープニングの何かが転がる音は当然サイコロでしょう。

  「Annika」(3:47) ギターがクラシカルかつロマンティックなテーマを切なく奏でるインストゥルメンタル。 伴奏するチャーチ・オルガン、ピアノも美しい。 中盤では、シンセサイザーがキュートなソロを取る。 FOCUS に近いニュアンスの名曲である。

  「The Utopian Suntan」(5:51) オゾン層破壊による紫外線の悪影響を、ノスタルジックなサウンドでシニカルに描いた作品。 変拍子でドライヴするリズミカルかつスピーディな曲調は、YES を越え GENTLE GIANT に迫る。 また、コミカルな演劇タッチは、GENESIS の「Get'hem Out By Friday」の路線。 イコライザで変調したヴォーカル、ラグタイム、ジャズをコラージュし、グレン・ミラーの「In The Mood」も飛び出すアレンジがユーモラス。 改めて、テンポを落としてメローな表情に切り換わるところのうまさに感服。

  「The Venetian Bargain」(7:49) ギター、キーボードを主役に、音数の多いリズム・セクションを活かしたオムニバス風のシンフォニック・チューン。 オープニングは、アコースティック・ギター、ピアノも用いたリリカルなアンサンブル。 やがて、変化が訪れる。 エレキギターとオルガンがけたたましく攻め込む、その脇で、ピアノがおだやかな調べを奏でる。 変拍子リフで唸りを上げるベース、ギターとともに、チェンバロがさざめき、メロトロンが轟々と鳴り響く。 拮抗する力を自在に操って、さまざまなアンサンブルが連なってゆく。 ストーリーらしいものはないが、次々に変化する演奏が、とにかく楽しい。 ピアノ、チェンバロ、メロトロン、オルガン、エレクトリック・ピアノまで、キーボードは多彩な音色でクラシカルな演出を効かせる。 リズミカルで快調な演奏が主だ。 インストゥルメンタル。

  「Follies」(22:03) 旧 B 面を占めた六部構成の超大作。DICE 結成以前から、ストランドバーグとラーソンが作曲していた作品だそうだ。
      「Either」(5:46) メロトロン、シンセサイザー、なめらかな朗誦による力強いシンフォニック・ロック。

      「Labyrinth」(4:17) 得意のリズミカルなアンサンブルでたたみかけるテクニカル・チューン。 ギター、オルガン、ハーモニーを主役にした鋭角的なサウンドであり、YES との類似の仕方が、スイスの WELCOME と似ている(なんともややこしい言い方になっているが)。ヴァイブの音が新鮮。 エンディングは波乱含みのソロ・ピアノ。

      「At The Gate Of Entrudivorce」(3:52) 華やかなクラシック・アコースティック・ピアノ伴奏によるセンチメンタルなバラード。 イコライズ処理されたハーモニーは何を表すのだろう。 後半は、リズムが加わって、チャーチオルガンの音とともに強引に羽ばたいてゆく。

      「I'm Entrudivorian」(2:01) オルガンが轟く力強く、スピーディなアンサンブル。一直線に盛り上がる。

      「You Are ? 」(1:49) おちつきを取り戻したアンサンブルによる演奏。 メロディアスなギターと管楽器風のシンセサイザーが朗誦を彩る。

      「You Are」(4:13) 一転して、コミカルなクラヴィネットとパーカッションが導く狂おしい演奏へ。 ポリリズミックで目の回りそうな演奏だ。 迸るメロトロン。 踊りが止められなくなった人形のように回り続け、最後は、嬌声とともにバーンと弾けてしまう。 怪奇な民話のような後味をもつ、奇天烈な終曲である。

(NKCD 343)

 The Four Rider Of The Apocalypse
 
Leif Larsson Wlm-organ, piano, Korg synthesizer, pianet, mellotron
Fredrik Vildo bass, acoustinc guitar
Orian Strandberg 6 & 12 strings douleneck guitar, acoustinc guitar
Per Andersson drums, glockenspiel, timpani, percussion

  77 年録音のアルバム「The Four Rider Of The Apocalypse」。 「Dice」録音と同時期につくられたマスターからの CD 化である。 楽曲そのものは、ストランドベルグ、ラーソンにより、73 年に作曲された。 内容は、「ヨハネ黙示録の四騎士」を描いたデューラーの木版作品(ただしこのジャケットの絵はメンバーの手によるもの)にインスパイアされた、全編インストゥルメンタルのシンフォニック・ロック。 ギター、キーボード、多彩な打楽器らを用いて、ロック・バンドによるオーケストラに果敢にチャレンジし、表情豊かな作品に仕上げている。 録音はライヴに近い形式で行われたらしく、音質もデモ録音程度である。 しかし、演奏は即興風の展開も含めたスリリングなものである。

  「War 1st impression
    「Overture」(1:23) ハイドンのシンフォニーのような、勇ましくクラシカルなテーマを用いた導入部。 急転直下、邪悪にたたみかけるオルガン、ギターらによる緊張とメロディアスなギターによる弛緩のバランスもいい。 急転するアンサンブルがかなり衝撃的。

    「Fronts」(6:17) 騎兵隊のラッパのようなイントロから、スネアが小気味よくロールする勇壮なるボレロが、ゆっくりクレシェンド。 ホイッスルがリードする力強いビートによる行進曲だ。 ギター、オルガンによる切り返しもカッコいい。 最初のクライマックスを経て、中間部の緩やかに渦巻くようなアンサンブルでじっくりと力を蓄え(7 + 6 拍子)、荒々しいギターのコード・ストロークから、オルガンの目まぐるしいソロへと突入する。 ベースのアタックが演奏をドライヴしている。 最後は、勇壮なマーチのテーマを切羽詰ったように再現。 メロディアスなギターがいい。

    「Battle」(2:37)どろどろと渦を巻き蠢くような不気味なイントロから、叩きつけるようなアクセントのある攻撃的なアンサンブルが咆哮し始める。 ベースを中心にへヴィなアタックが繰り返され、もつれるようにキーボードが交錯し、ムーグのオブリガートが悲鳴を上げる。 メロトロンのミステリアスなアクセントが効いている。 後半、重苦しく蠢動するティンパニは EL&P の「Toccata」を髣髴させる。
    「Deserted battleground」(0:43)一転して、グロッケンシュピールが静かにざわめき、メロトロン・フルートとオルガンがゆるゆると流れ出す。 ソフトな音だが空ろな響き。

  「Disease 2nd impression」(8:07) 一部がデビュー・アルバムにも流用されているクラシカルな佳曲。 SEBASTIAN HARDIE を思わせるドリーミーなギターがリードする場面と、オルガン、ギターらによるハイドン/モーツァルト風の忙しないアンサンブルが明快にコントラストして展開する。 変拍子パターンでの疾走は GENESIS 風。 アグレッシヴなオルガンがいい。

  「Greed 3rd impression」(7:47) ギターのスピーディなフレーズとともに無窮動で突っ走るテクニカル・チューン。 GENTLE GIANT ばりの複雑な変拍子アンサンブルにキーボード・ソロを巧みに交えてゆく。 ここのトゥッティのテーマもデビュー・アルバムで流用されている。 中盤のクラシカルなアンサンブルがじつにいい。 終盤は、ラグタイム風のリズミカルな演奏。

  「Death 4th impression
    「Requiem」(2:10) 厳かな、謎めいたオルガンの響きとギターのうねりによる重厚な演奏。 長いブレイクを埋めるのはひそひそと重なりあうメロトロンの調べである。 手回しオルガンを思わせる音の揺らぎ。 鎮魂歌らしい重苦しい小品だ。

    「Dance of the Devils」(4:24) 崩れ落ちるような打撃音をきっかけに KING CRIMSON のように凶暴な演奏が立ち上がる。 切り刻むような 5 拍子のリフが「太陽と戦慄」を思わせる。 しかし、荒々しいサウンドながらも、得意のリズミカルな演奏がオーヴァーラップし始める。奇妙なコンビネーションだ。 いわば、YES の音による CRIMSON である。 ブレイク、そして淡々としたビートともにシンセサイザーのソロがゆるゆると奏でられる。 続いて、ギターはデビュー作でも現れたグレン・ミラーのパロディを奏でる。 次第に高まるノリ、ジャジーなギターのリードで快調なシャフル・ビートが走り出す。 しかし、再び暗転、KING CRIMSON そのものな演奏が復活する。 サイケデリック・ギターのべたつくコード・ストロークとディストーション・ベースが激しく交錯する。 KING CRIMSON に倣ったへヴィで狂おしく乱れる演奏であり、邪悪なイメージも強い。

    「Transition」(1:08) 一転してひたひたと満ちてゆく慈愛のオルガン。 そして、はるか彼方に柔らかなギターの調べが漂う。 夜明けをイメージさせる緩徐楽章。

    「Heaven」(4:11) ギターが力強く刻むテーマとそれを支えるオルガン、ストリングスの豊かな響き。 悠然と着実に歩む演奏だ。 テーマを受けるのは、メランコリックなメロトロン。 大団円らしい、すべてが一体となった堂々たる演奏が続く。 再び切り返しは、ストリングスがざわめく、慈しみにあふれる演奏である。 三度現れる重厚な演奏、ベースとギターがけたたましく唸りを上げるも、クラシカルなアンサンブルがハッシと受け止め、エンディングへと駆け上がってゆく。 クライマックスで余裕のリタルダンド、華やかに和音が轟き、オルガンがたなびくような余韻を残す。 シンプルなテーマとその切り返しを繰り返して、一気にクライマックスへと到達する終楽章である。

(BELLE ANTIQUE 9225)

 LIVE Dice
 
Leif Larsson keyboards, vocals
Fredrik Vildo bass, vocals
Orian Strandberg guitars, vocals
Per Andersson drums, percussion, vocals
Robert Holmin lead vocals on 6

  93 年発表の作品「LIVE Dice」。6 曲のライヴ録音と 4 曲の未発表音源から成る編集盤。ライヴは 78-79 年に収録。 内容は、クラシカルなフレーズをかき鳴らすギターを軸にキーボードが適切な音で寄り添うテクニカルなシンフォニック・ロック。 弾力はあるが硬めの音のリズム・セクションもこのスタイルにはぴったりである。 オランダの FINCH と共通する喧しくも愛らしい作風であり、陽性の TRETTIO ARIGA KRIGET というべき技巧的なロックである。 けたたましいギターが実にライヴ映えする。

  「Greed 」(6:08)
  「Disease 」(7:57)代表曲。
  「The Drum Thing 」(4:06)
  「Life, Where Have You Been All My Life 」(3:38)
  「Follies 」(13:55)
  「Alea Iacta Est 」(6:28)
  以下、ボーナス・トラック。
  「Merchandise」(6:00)
  「Springtime 」(5:25)
  「Drowned In Time 」(5:50)
  「An Urgent Request 」(4:10)

(BELLE ANTIQUE 9340)



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