DALTON

  イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「DALTON」。 73 年結成。 二枚のアルバムとシングルを残す。 77 年解散。 アコースティックな「泣き」の歌ものにキーボード、ギター、フルートが放り込まれたヘヴィ・ロック。

 Riflessioni:Idea D'infinito
 
Reduzzi Temistocle piano, organ, mellotron, moog, synthesizer, vocals
Cereda Aronne 6 & 12 string acoustic guitar, electric guitar, vocals
Limonta Rino bass, vocals
Locatelli Tati drums, vocals
Chiesa Alex flute, vocals

  73 年発表の第一作「Riflessioni:Idea D'infinito」。 内容は、フルート、強烈なシンセサイザーらをフィーチュアした JETHRO TULL 風のワイルドなヘヴィ・ロック。 熱情をたぎらせる歌唱を激しく狂おしい演奏が支える不器用で男臭いスタイルである。 世間の寒風に擦れきった本家との違いは、ヴォーカルの甘みとナイーヴな若々しさ。 そして、北部イタリアらしいクラシックのたしなみ。 演奏は、ファズの酸味で息苦しくなるギターと感電しそうなシンセサイザーが唸りを上げるハードなインストゥルメンタルからアコースティック・ギターやピアノによる美しいバラードまで、さまざまに変化する。 そして、ひたすら歌舞く狂言廻しはフルートである。 メロトロン、オルガンもあり。 曲間にはクラシカルな極小品が挿入されて次曲への導きとなっている。 これが、絵本をめくるような独特の効果を上げている。 収録時間が 30 分に満たない作品である。

  「Idea D'infinito(idea of infinity)」(4:48) ほとんどノイズであるシンセサイザーとファズ・ギターが時代の熱気を感じさせるブルージーなハードロック。 泥臭く荒々しい調子にシンセサイザーを無理やり放り込み、唾飛びフルートが先導する。 フルートは重たいリフとソロの両方で活躍し、シンセサイザーは強烈なサウンドとは裏腹なメロディアスなオブリガートを放つ。 ギターのファズがなんとも毒々しい。 イタリアの GRAVY TRAIN です。

  「Stagione Che Muore(season that dies)」(4:20) 切ないテーマを熱いオルガンのバッキング、フルートの荒っぽいオブリガート、吠えるようなギターのコード・ストロークで盛り上げてゆくシンフォニック・チューン。 ランニング・ベースと、ピアノ、フルートによるクラシカルな序章/終章は、MYTHOS の作品を連想させる。 メイン・パートは、イタリアン・ロックらしく雄々しく気高いヴォーカル・ハーモニーが盛り上げる。 間奏部は、クラシカルなエレクトリック・ピアノ(もしくはシンセサイザー)。 ブレイクやタメを多用してテンポに変化をつけ、最後はスピーディなシャフル・ビートに変化してフルートの独壇場となる。 ドラムスはシンバルをうまく使っている。 プログレッシヴなアプローチがわりと「まとも」に思える曲だ。

  「Cara Emily(beloved Emily)」(4:55) チェンバロに導かれ、ピアノとストリングス・シンセサイザーが支えるあまやかなラヴ・ソング。 メイン・パートのバックはクラシカルなピアノとうっすらとしたストリングス。 ヴォーカルはラヴ・ロック風。 フルートのオブリガートもここでは愛らしいが、リードを取るシンセサイザーはあいかわらずどこかあぶなっかしい感じがある。 ドラムスを中心に演奏はかなり荒っぽいのだが不思議とカッコいい。 ベースのオブリガートなんて凄いセンスだ。 次第にシンセサイザーが高まってシンフォニックな高揚感を生むが、フルートが決してクラシック調に聴こえないところがユニークである。 エンディング後に 2 曲目の冒頭と同じ、メランコリックなアンサンブルがはさまれる。

  「Riflessioni(reflections)」(3:50) ギター独壇場の軽快なハードロック。 泥酔系の乱れたソロとパワー・コードで押し捲るリフがカッコいい。 BLACK SABBATHDEEP PURPLE 系統である。 タメの効いたドラムスとシャフルのリズムをしっかりつかんだ鋭いギターがいい。 ギターは、プレイはわりとシンプルだが勢いのよさで押し切っている。 ヴォーカルの代わりにフルートがシャウトするハードロック・インストゥルメンタルだ。 ここでも、エンディング後に 2 曲目の冒頭と同じ、メランコリックなアンサンブルがはさまれる。

  「Un Bambino, Un Uomo, Un Vecchio(a child, a man, an old)」(3:34) イタリアン・ロックらしい牧歌調のメロディをアコースティックな演奏が支える愛らしい作品。 カンツォーネ調の伸びやかなハーモニーをクラシカルなピアノがオブリガートする。 ブレスの強いトーキング・フルートがアクセントになっている。 クラシックのエチュードのようなピアノが話しかけフルートが応ずるアンサンブルが可愛らしい。 間奏部はチェンバロとピアノのデュオ。 ほっと一息。

  「Dimensione Lavoro(dimension job)」(6:42) 今度は冒頭部に 2 曲目の冒頭と同じ、メランコリックなアンサンブルがはさまれる。 本編はハードなブルーズ・ロックへさまざまな起伏を叩き込んだ野心的なヘヴィ・シンフォニック・チューン。 フルートとピアノによるアコースティックな序章から、ピアノ・ソロのブリッジ、そしてブルーズ・ロックに変化するなど、短い時間で曲調を変化させる。 ブルーズ・ロックではヴォーカルとギターがカッコよく、オブリガートのトーキング・フルートも強烈だ。 そして間奏部はシャープなオルガン。 3 分半辺りでいったん曲が終わったように聴こえるが、そこからがフリー・フォームの弩サイケデリックな展開となる。 おそらくエフェクトされたフルートとギターがどしゃめしゃなアドリヴ合戦をする。 リフの復活とともにブルーズ・ロックへと復帰、英国ロック調のオーセンティックな表情で駆け抜ける。 エンディングもノイジーなシンセサイザーとフルートがけばけばしくリードする。 アルバムを通して最後まで一貫したものを感じる。


  ブルージーなハードロックにムーグやフルートを放り込んだ荒っぽいイタリアン・ロック。 あくまでイタリア臭い歌メロとキーボードが味つけするハードな曲調があいまって、しつこいくらい濃厚な世界ができている。 感電しそうな電気処理を用いた演奏や曲をつなぐフルートのブリッジなどの構成も、まさしくプログレッシヴだったはず。 また、エネルギッシュなトーキング・フルートには、熱っぽさを越えたペーソスと愛すべき滑稽味が混在する。 一方、イタリアン・ポップス風のヴォーカルをキーボードで盛り上げるナンバーは、キャリアを感じさせるすばらしいでき映えだ。 この時代のイタリアン・ロック独特の、歌もの調とアヴァンギャルド志向の極端な落差が生む刹那の芸術性を、ここでも感じとることができる。 とにかく古臭いし、野蛮だが、何かやってやろうという気概がある。 ハードロックという観点では、イタリア 70 年代という贔屓目なしでも勝負可能だ。 いわゆる洗練とは完全に無縁だが、愛すべき音なのだ。 なお第二作では、リーダーのキーボーディストとフルーティストが脱退している。 これでは、まったく音楽性に想像が及ばないではないか。
(VM 012)


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