ELOY

  ドイツのプログレッシヴ・ハードロック・グループ「ELOY」。 69 年フランク・ボルネマンを中心に結成。 70 年代中盤は本国ではトップ・セールスを飛ばし、84 年の解散まで常に一線で活躍した。 サウンドは JETHRO TULLPINK FLOYD など英国グループの影響を受けたサイケデリックなハードロック。

 Inside
 
Frank Bornemann vocals, guitar, percussion
Fritz Randow drums, acoustic guitar, vocals, percussion
Wolfgang Stöcker bass
Manfred Wieczorke organ, guitar, vocals, percussion

  73 年発表の二作目「Inside」。 内容は、オルガン、ギターをフィーチュアした、うねるようなドライヴ感のあるハードロック。 特徴的なのは、ジェット・マシーンとともにぐいぐい突っ走る痛快な演奏と荒々しくもクラシカルなオルガンを中心とした叙情的な演出である。 バラードでの「泣き」はずっしり重く濃厚だ。 ただし、演奏は決してタイトとはいえず、むしろ「緩め」である。 キレ味という点では今一歩だ。 ドイツのグループらしい「緩さ」の旨みも、こういうハードロックだと活かすのは難しそうだ。 ギターよりもオルガンが主役を張る場面が多いことと、この「緩さ」のおかげで、ヘヴィなサウンドながらどことなく甘くまろやかな感じがある。 サイケデリック・ロック的なずるずるっとした垂れ流し感もこの「緩さ」を構成する一つの要素だろう。 ヴォーカルは、英語であり、なぜかイアン・アンダーソン似である。
  個人的には太く荒っぽいリズムと DEEP PURPLE よりもぐっとサイケっぽいギトギト感が好み。 シャープなハードロックを期待してはいけない。 また、やや力んでしまって曲想を描ききれなかった感もあるが、その点はきちんと理解していたようで、次の作品で完成度は一気にグレードアップする。

  「Land Of No Body」(17:20)テーマからオルガンによるフリー・フォームのインプロヴィゼーションを経て、再び、怒涛のテーマへと回帰するハード・サイケデリック・ロック。 PINK "Echoes" FLOYD の影響を随所に散りばめる。 11 分辺りから終盤に向け、攻撃的なシャフル・ビートと三連スネアで手に汗にぎる力尽くの大盛り上がりを見せる。 オルガン、ギター、ベース、ドラムスそれぞれにストレートで野太い主張をしている。

  「Inside」(6:35) 哀愁のハードロック・バラード。 アコースティック・ギターによるマイナー・コードのアルペジオ、ほとばしるオルガンをフィーチュアした「泣き」のバラードがオーバーダヴされたツイン・エレキギターに点火されて、やおら疾走し始める。 エレクトリック・ギターは快速ビートともに奔放なソロを繰り広げる。 ヴォーカルは、二人でつとめる。 DEEP PURPLE と共通する音の要素を使いながら、トータルな感覚としては、同時期の CAMEL に近い。

  「Future City」(5:35)さまざまなパーカッションとアコースティック・ギターのコード・ストロークを用い、リズムを強調した呪術的ハードロック。 民族音楽的な面を生かすところが、さすが、ドイツのロックである。 アコースティック・ギターをかき鳴らして歌い語るヴォーカルは、「Thick As A Brick」風。 エレクトリック・ギターが吠える安定の快速進行を怪しい民謡調でぶった切る。

  「Up And Down」(8:25)無常感が明け方のクラブの紫煙のように漂う序盤からマーチ風のブリッジを経て、再び空しさいっぱいのオルガンのオスティナートへと進む白昼夢のような作品。 けだるく、虚脱感がある。 アップアンドダウンというより、ダウンばっかりな感じである。 サイケデリック・ロック全盛時代に腕を磨いたことがよく分かる。

  「Daybreak」(3:39)ボーナス・トラック・シングル A 面。

  「On The Road」(2:30)ボーナス・トラック・シングル B 面。

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 Floating
 
Frank Bornemann vocals, guitar
Manfred Wieczorke organ, guitar
Luitjen Jansen bass
Fritz Randow drums

  74 年発表の三作目「Floating」。 前作と同じ路線の、オルガン全開かつリヴァーヴも効いたサイケデリックなハードロック。 ベーシスト交代が奏功したのか、録音のせいか、リズムはヘヴィかつ前作よりキレを増す。 このリズムをフルに活かし、一体となって突進するのも、うねるようにグラインドして躍動するのも、お手のものである。 ギターも、前作ほどはペンタトニックのアドリヴを垂れ流さず、より音とフレーズを適所で活かすプレイへと移行した。 音楽的なバランスという点でこの判断は的確だ。 コード・プレイやリフもビシっと決まっている。 そして、手数は到底追いつかないが音だけは THE NICE ばりのオルガンは、イアン・アンダーソンなヴォーカルとともに完全に演奏を掌握し、中心にいる。 ヴォーカルは、ナレーションやスキャットを使うなどして抑えも効かせ、幅広い表現を心がけているようだ。 一種暴力的な反復が酩酊感と漂流感を生み出し、にもかかわらずそこに内省的でほのかなリリシズムが浮かび上がらせる作風は、PINK FLOYDGONG に通じるものがある。 独特なのは、緩んだリフをかっ飛ばすギターに象徴される、全体的なネジの外れ具合である。 ヘタウマというかヘタヘタなところがよく分かるが、それがあまり欠点には感じられない。 あと一歩でズッコケてしまいそうなのにカッコいい。 これは強みだ。
   2 曲目の大作は R&B 風味あるサイケデリック・オルガン・ロックの逸品。 厳かなオルガン、アコースティック・ギター弾き語りの虚脱感あふれるヴォーカル・パート、OZRIC TENTACLES ばりのアッパーなリフが生み出す、深く躍動的な幻想絵巻である。 あふれる濃厚なロマンは、後半で極彩色の海へと注ぎ込まれてゆく。 4 曲目「Plastic Girl」は、泣きのギターをフィーチュアした叙情的なハードロックの名品。 後半、8 分の 6 拍子に変化後のサラセン魔術風味がカッコいい。 名盤。

  「Floating」(3:59)
  「The Light From Deep Darkness」(14:35)
  「Castle In The Air」(7:13)
  「Plastic Girl」(9:07)
  「Madhouse」(5:15)
  「Future City(Live)」(4:59)ボーナス・トラック。
  「Castle In The Air(Live)」(8:08)ボーナス・トラック。
  「Flying High(Live)」(3:30)ボーナス・トラック。

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 Power And The Passion
 
Frank Bornemann vocals, guitar
Manfred Wieczorke organ, Moog synthesizer, Mellotron, electric piano, grand piano
Detlev Pitter Schwaar guitar
Luitjen Harvey Jansen bass
Fritz Randow Gretch drums, Paoste cymbals

  75 年発表の四作目「Power And The Passion」。 科学者である父親が開発した時間旅行薬を服用して 14 世紀にタイム・トラヴェルした男を描いたトータル・アルバム。 新メンバーとしてギタリスト、デトレフ・シュワーが加入し、演奏の安定感が格段に増す。 キーボードの音色は充実し(オルガンに加えて、メロトロン、ムーグ・シンセサイザー、クラヴィネットがふんだんに使われている)ギターの表現力もアップした。 さらに、楽曲には的確な起伏が練り込まれてストーリー・テリングが冴え渡り、サイケデリックなハードロックというスタイルにとどまらない、より深い芸術性が発揮された内容となった。 どのようなアンサンブルを組み、どのように音を配置してゆけば、劇的に特定のシーンを描けるのかを考えることが、そのままハードロック・ジャムからのグレードアップにつながったのだろう。 (しつこいようだが、多くのグループはこのグレードアップのために、オーケストラ的な表現を含めさまざまな音を出せるキーボードを演奏の中心に置き、その選択がそのままプログレッシヴ・ロックの隆盛につながった) 必然的に、叙景的な構築型のインストゥルメンタルとともに、メロディをじっくり活かした演奏も多く盛り込まれることとなり、後者においては叙情的な表現が増えていると思う。 叙情的といってしまうと、メロディアスでエモーショナル、女性的で優しげなイメージに取られる可能性があるが、ここの叙情性には、相克や確執に明け暮れる世の無常の果ての安らぎのような、軽々しさのない厳粛な響きがある。 オルガンとギターがスリリングなやり取りは今までと変わらない。 むしろ明確で鋭いインタープレイは増えている。 リズムにしても、パワーオンリーの押し捲りだけではなく(もちろんパワフルな打撃はあらゆるロックの原点なのだが)、巧みな変拍子処理を見せている。 そして、単純なハードロック色は減退し、より詩的、つまり PINK FLOYD 的なイマジネーションにあふれたスペイシーなシンフォニック・ロックに向かい一歩を踏み出している。 終曲、胡蝶の夢か杜子春か元の場所に帰った主人公の胸のうちに響く調べは、おそらく究極のブルーズだろう。 この心情をメロトロンの厳かな響きと空ろなヴォイスで淡々と描くが、そこでもこのグループらしい独特の軽さというか緩さがあり、それが救いになっていると思う。 ハードロック・ファンには軽すぎるかもしれないが、プログレ・ファンには自信をもってお薦めできる内容だ。

  「Introduction」(1:10)
  「Journey into 1358」(2:56)
  「Love Over Six Centuries」(10:05)
  「Mutiny」(9:07)
  「Imprisonment」(3:12)
  「Daylight」(2:38)
  「Thoughts of Home」(1:04)
  「The Zany Magician」(2:38)
  「Back into the Present」(3:07)
  「The Bells of Notre Dame」(6:26)
  「The Bells of Notre Dame」(6:26)ボーナス・トラック。 1999年のリミックス・ヴァージョン。

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 Dawn
 
Frank Bornemann lead vocals, electric & acoustic guitars
Klaus-Peter Matziol bass, vocals
Detlev Schmidtchen organ, mini-moog, mellotron, piano, computer, guitars, vocals
Jurgen Rosenthal drums, voices

  76 年発表の五作目「Dawn」。 前作で一つの音楽的なピークに達したか、リーダーであるフランク・ボルネマン以外のメンバーを一新した。 内容は、キーボードを用いたスペイシーなサウンドとミドル・テンポでじっくりと語りかけるシンフォニックなハードロック。 管弦楽も取り入れて劇的な展開を企てている。 ギター・プレイはペンタトニック主体のシンプルなスタイルだが、リフが引っ張るハードロックにおいてすら、キーボードがサウンドに広がりと彩りを加えている。 もはやハードロックというよりはシンフォニック・ロックという呼称がふさわしい。 管弦楽の効果は、ドラマティックで大仰な表現、メロディアスな優美さの演出、そしてワイルドなバンドとのコントラストによるインパクトである。 特に、ストリングスとティンパニが活かされている。 透明感のある弦楽の響きは、NEW TROLLS の名作と共通する演出効果を上げる。 また、ギターがアルペジオを刻みキーボードがゆったりと響く場面のように、苦悩から救済を願う表情とハードに攻める演奏とが交差しており、味わい深い。 むろん、10 曲目のクライマックスのように、管弦楽と渡り合いつつもアップテンポの豪快なハードロックでかっ飛ばすところも用意されている。
   歌詞がないため定かではないが、小曲が切れ目なく並んでいるところから考えて、ロック・オペラ風のトータル・アルバムになっているようだ。 配役のあるモノローグ、女声ヴォーカル、コラールなど、いかにもドラマティックな演出が成されている。 唯一弱点があるとすれば、ヴォーカル。 グラム・ロック風の表現は変化球として悪くないが、発音が日本人並なところが苦しい。 素直に母国語にするべきだったろう。

  「Awakening」(2:38)
  「Between The Times」(1:50)
  「The Sun-Song」(1:57)
  「The Dance In Doubt And Fear」(1:12)
  「Lost??(Introduction)」(1:08)
  「Memory - Flash」(4:55)
  「Appearance Of The Voice」(4:25)
  「Return Of The Voice」(5:18)
  「Lost??(The Decision)」(4:58)
  「The Midnight-Flight/The Victory Of Mental Force」(8:09)
  「Gliding Into Light And Knowledge」(4:15)
  「Le Reveil Du Soleil/The Dawn」(6:45)

(CDP 538-7 91129 2)

 Ocean
 
Frank Bornemann Lead vocals, guitars
Klaus-Peter Matzoil vocals, bass
Detlev Schmidtchen Hammond organ, Mini moog, Arp synthesizer, mellotron, xylophone
Jurgen Rosenthal drums

  77 年発表の六作目「Ocean」。 アトランティスをテーマにしたコンセプト・アルバム。 8 分から 15 分にわたる大作四曲でドラマチックに迫るスケールの大きな作風である。 サウンドは、ヘヴィながらもかなりシンフォニックなものである。 テーマに沿ってシアトリカルなアレンジのあった前作と比べると、本作はキーボードを核としたバンドの演奏を主としたものになっている。 ハードロック・グループによるシンセサイザーを多用した作品というよりは、スペイシーなプログレッシヴ・ロックと呼びたい。 演奏は、シンセサイザー、オルガン、メロトロンが厚く背景を成し、シンプルながらもよく歌うギターとヴォーカルが悠然とした流れを前景に組み立ててゆくスタイル。 ベースが積極的に演奏をひっぱって、シンセサイザー、ギターのテーマと対等のやりとりを見せるなど、アンサンブルもしっかりしている。 ギターのアルペジオやリズム・セクションの鋭いプレイが、空間的でゆったりとした曲調のいいアクセントになっている。 トリッキーなプレイよりも誠実な演奏で叙情的に迫っており、じわじわと染みてくるタイプの音といえるだろう。 たしかにヴォーカルがやや弱いし、ワンパターンなきらいはあるが、過剰すぎないていねいな演奏は 70 年代プログレッシヴ・ロックの魅力の一つをよく伝えていると思う。 PINK FLOYD 風といってしまっていいのかどうか、あまり自信はないが、モノローグ調の沈んだヴォーカルや空間的なキーボードなどでは、明らかに若干の影響はあるようだ。 一方、リズミカルなパートでは、意外なほどキャッチーなメロディも用いており、重苦しさから開放するような効果がある。 幻想的なシンセサイザー、オルガンが隅々へとゆきわたり、丹念なリズム・キープが次第に曲を高潮させてゆく様子には、すでに風格もある。 残念ながら、アメリカで発表されていなかったため、日本でもあまり知られていないようだ。 ジャーマン・プログレの隠れ名作の一つといえるだろう。 今の感覚で聴くと NEKTARBIRTH CONTROL らと比べて演奏のユルさにちょっとドギマギしますが。

  「Poseidon's Creation」(11:38)
  「Incarnation Of The Logos」(8:25)
  「Decay Of The Logos」(8:15)
  「Atlantis' Agony At June 5th- 8498, 13 P.M. Gregorian Earthtime」(15:35)

(CDP 538-7 92020 2)

 Silent Cries And Mighty Echoes
 
Frank Bornemann lead vocals, electric & acoustic guitars
Klaus-Peter Matziol bass, vocals
Detlev Schmidtchen organ, mini-moog, mellotron, piano, computer, guitars, vocals
Jurgen Rosenthal drums, voices

  79 年発表の七作目「Silent Cries And Mighty Echoes」大作 5 曲で勝負のアルバム。 ややシンプルなリズム・パターンやメロディ・ラインは、すでに 80 年代デカダンスの香りを漂わせている。 思わず眉をひそめたくなるが、それでも、シンセサイザーを中心としたスペイシーなサウンドは従来通りの重厚かつ悠然たる響きをもっている。 ハードロックのようでいて、ストレートなハードネスというよりは、PINK FLOYD 風の屈折した情感とメランコリーに満ちている。 ヴォーカルは、英語圏の人々には強烈なドイツ訛に聴こえるらしいが、僕にはとても渋くていい味わいである。 前半は、伸びやかなギター・プレイと TANGERINE DREAM を思い浮かべさせるシンセサイザーの音響がみごと。 一方、後半は、少しエモーショナルなメロディに傾きすぎて単調になっているようだ。 いずれにしても、後の作風を予想させてしまうところはある。

  「Astral Entrance
  「The Apocalypse
  「Pilot To Paradise
  「De Labore Solis
  「Mighty Echoes

(CDP 538-7 92021 2)


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