FROGG CAFE

  アメリカのプログレッシヴ・ロック・グループ「FROGG CAFE」。 フランク・ザッパのカヴァー・バンドとして結成。作品は五枚。最新盤はライヴ。 けったいなグループ名はメンバーのフェイバリット、ダウランドの佳曲「蛙のガリアルド」から取ったそうですが、冗談だと思います。

 Bateless Edge
 No Image
Bill Ayasse violin, viola, mandolin, hand percussion, vocals
Frank Camlola guitar, banjo, string bass
James Guarnieri drums, glocken spiel, orchestral percussion
John Lieto trombone, bass trombone
Nick Lieto lead vocals, piano, keyboards, trumpet, flugelhorn
Andrew Sussman bass, cello, acoustic guitar

  2010 年発表の第五作「Bateless Edge」。 内容は、弾き捲くりギターを中心に管弦楽器や鍵盤楽器もフィーチュアしたフランク・ザッパ風のインストゥルメンタル・ミュージック。 スペイシーなギター・プレイやインパクトのあるキメも交えながらも、室内楽を意図したらしき表現が多用されるのが特徴だ。 室内楽といってもリズム・セクションありのエレクトリックな器楽によるものなので、ヘヴィな音や過激なインパクトはある。 それでも、各パートの有機的な連携と形式の準拠という点で室内楽を志向していると思う。 いわば、UNIVERS ZERO のようなアプローチである。 ただし、そういった現代音楽志向のある、変拍子も用いる複雑なアンサンブルにもかかわらず、楽想は険しさや深刻さ一辺倒では決してなく、演奏は管弦のリードで常にメロディアスでユーモラスな表情を保ち、サウンドも暖かい。 その点は本家(無論ザッパのことである)と共通する。 本家との違いは、モダン・ジャズやドゥワップといったルーツ・ミュージックに言及してノスタルジーを掲げることがないこと、過剰な下品さがないこと、むしろクラシックの室内楽に直結していることなどである。 親しみやすい旋律を軸としながらも、精緻なパターンを描く抽象的な表現や逸脱感ある和声など正統現代クラシック的な表現が得意なようだ。(ストラヴィンスキーやラヴェル(2 曲目はモロか)などは根っこにありそう) プログレとしてはオーセンティックな立ち位置だと思う。 トランペットなど管楽器もジャズらしいブルージーな音よりもクラシックのブラス・セクションに近いニュアンスを感じさせる。 また、管楽器アンサンブルにファズ・ギターが加わると、小洒落た諧謔味のあるタッチも生まれて、カンタベリー・ジャズロックとの接近も感じる。 ビートが強くないために腰の据わったグルーヴはさほど感じられないので、ロックのカタルシスよりも、構築的なエレクトリック室内楽としてカノン的な表現や明快な係り結びを楽しむべきだろう。 ザッパ系列であることは、切れのいい鍵盤パーカッションが飛び込むとすぐに分かる。 一曲を除き 10 分を越える大作ばかり。 4 曲目の組曲はクラシカルな哀愁やジャジーなタッチもあるオルタナ風の歌もの。
   インスト好きにはお薦め。

  「Terra Sancta」(12:10)
  「Move Over I'm Driving」(7:59)
  「Pasta Fazeuhl」(14:01)迫力も痛快さもあるレコメン系力作。元気で明るい HENRY COW
  「Under Wuhu Son」(20:12)
    「I. In The Bright Light」(8:22)
    「II. Left For Dead」(5:36)
    「III. Brace Against The Fail」(6:14)
  「From The Fence」(12:03)
  「Belgian Boogie Board」(10:31)
  
(10T10043)

 Frogg Cafe
 No Image
Nick Lieto vocals, keyboards, trumpet
Bill Ayasse violin, vocals
Andrew Sussman bass, guitar, vocals
Frank Camiola guitars, bass
James Guarnieri drums

  2001 年発表の第一作「Frogg Cafe」。 内容は、カントリー・フィドル調のヴァイオリンをフィーチュアした現代音楽調の変拍子ジャズロック。 つまりフランク・ザッパ影響下の音楽である。 特徴は、緩やかながらも込み入ったアンサンブル、意外にキャッチーなメイン・テーマ、まろやかな音色と粘っこさ。 ザッパ直系の変拍子リフや圧迫感の強い反復もあるが、カラっと穏かなメイン・テーマと明朗な音色のおかげで、シリアスな感じはない。 不協和音や無調性といったアプローチはさほどでない。 ただし、アンサンブルの結束はよく、凝ったスコアもスペイシーな即興もきっちりと決めてくる。 徹底した変拍子への固執はザッパ研究生としては当然なのだろう。 それでも、堅苦しさよりはリラックスした緩やかな調子が基本である。 時おり交えるノーブルにしてちょっととぼけたヴォーカル・ハーモニーもそののんびり感の理由の一つだろう。 ほのかにユーモラスで力の抜けたヴォーカルは誰かに似ているが思い出せない。(寝不足のエディ・ヴェダー?) 歌だけ聴いていると中西部の田舎のガレージでがんばるオルタナティヴ・ロック・バンドのような感じだが、ヴァイオリンを中心としたアンサンブルには室内楽風のアカデミックな緻密さとフュージョンのスタイリッシュな響きが同時にあり、そこに不思議なミスマッチの魅力がある。 全体に、モダン・ジャズへの展開はわりと手馴れた感じである。 また、オルガンが加わってブラス・ロック風のエネルギッシュな展開になることもある。
   丹念なファズ・ギターや癖とひねりのある曲調などカンタベリー直結といってもいい。 ただし、ジャズよりもダイレクトなクラシック、室内楽風寄りの作風がより強く印象に残る。 3、4 曲目の組曲は演奏力が凝縮された傑作。
   CD は 2004 年にリマスターされている模様。 ジャケットには本当に蛙(Frog)のバンドが描かれている。
  
  「Deltitnu」(5:48)
  「Old Souls」(4:07)いい感じにねじれたオルタナ風の歌もの。傑作。
  「Candy Korn Part 1」(3:48)KING CRIMSON が聴こえてくるプログレッシヴかつロマンティックな作品。
  「Candy Korn Part 2」(4:13)ノイズに取り囲まれてトランペットが際立つ。
  「While You Were Sleeping」(7:43)
  「Old Man」(7:38)
  「Space Dust」(5:29)
  「Questions Without Answers」(8:55)
  「Candy Korn」(8:24) ボーナス・トラック。ライヴ・ヴァージョン。

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 Creatures
 No Image
Nick Lieto vocals, keyboards, mellotron, organ, piano, trumpet, percussion, hot water
Frank Camiola guitars, 12 string acoustic, classical guitar, tenor banjo, string bass, keyboards, percussion
Bill Ayasse electric & acoustic violin, viola, mandolin, octave mandolin, background vocals, percussion
Andrew Sussman bass
James Guarnieri drums, percussion

  2003 年発表の第三作「Creatures」。 内容は、小気味いいギター、マリンバ、室内楽風アンサンブル、アメリカン・ロックらしいライトでアーシーなハーモニーが特徴のコンプレクシャスなジャズロック。 かなり込み入った演奏だが、サウンドは明朗で爽やか、トータルとしてはヌケがよく、ヴォーカルもしなやかだ。 ギターが唸りを上げるとハードロックっぽくもなるし、ハードなまま細やかさが出ると往年のプログレに非常に近いイメージになる。 メロトロンがゴーっと鳴り響く最終曲の大作なんて、GENESISYES ばりのシンフォニックな盛り上がりがある。 まずは、こういったところが特徴的だ。 MAHAVISHNU ORCHESTRA ほどではないがヴァイオリンがフロントに踊り出て、流麗かつスリリングに演奏を引き締めることもあれば、トランペットが派手にぶちかますところもある。 また、こういった演奏力に任せた楽曲のみならず、ロック黎明期を思わせる大胆な音響実験や、クラシカルなチェンバー・ミュージックの要素もある。 つまり、往年のイタリアン・ロックを思わせるプログレッシヴ・ロックの精神が息づいている。 とにかく、音情報が豊かであり、多彩なのだ。 主要メンバーは驚くばかりのマルチ楽器奏者であり、ギター一本くらいなら眠っていても弾けてしまう、といった輩に違いなく、そのスキルを惜しみなく楽曲、演奏に突っ込んでいる。 その上で、プログレ好きという趣味も全開なのだ。 また、こういうテイストでメロトロンを多用するところもユニークである。 もちろん、転がるようなマリンバとギター、ハーモニーによるシャープな変拍子ユニゾンと性急に折れ曲がるアンサンブルは、70 年代中盤くらいのフランク・ザッパのグループそのもの。
   複雑な展開とアヴァンギャルドな感性を、多彩な音色とメロディアスなテーマ、ハーモニーでセンスよくアクセスしやすくした佳作である。 音楽に対するアカデミックで高潔な姿勢は間違いのないところだが、このジャケットのセンスからして、ぜひ FRENCH TV のような下世話オルタナティヴな精神をもがっちり引き継いでほしい。
   1 曲目「All This Time」は、明快なテーマとほの暗い響きが英国的、たとえば VdGG に迫るような傑作。必殺メロトロンが唸ります。 2 曲目「Creatures」は、一転して 70 年代中後半辺りのフランク・ザッパ流フュージョン。マリンバが大活躍する。軽快だが人を食ったようなところがあり、カッコいい。爽やかなのに空ろに響くハーモニーのイメージから、ECHOLYN を思い切りジャジーにした感じも。 ヴォーカルのアメリカらしいソウルっぽさも個人的には懐かしいです。
  
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 Fortunate Observer Of Time
 No Image
Bill Ayasse electric & acoustic violin, vocals, mandolin, percussion
Steve Uh electric & acoustic guitar, keyboards, violin
Nick Lieto lead vocals, keyboards, piano, trumpet, flugelhorn
Andrew Sussman bass, cello, vocals, marinated ice
James Guarnieri drums, percussion

  2005 年発表の第四作「Fortunate Observer Of Time」。 内容は、ヴァイオリンをフィーチュアし、フランク・ザッパ風味があちこちに散りばめられたメロディアスな歌ものジャズロック。 管弦楽器の充実度合いや全員マルチ・インストゥルメンタリストであるところなど、ほとんど往年の GENTLE GIANT だが、こちらは、込み入った近現代音楽風のアンサンブルの芯として明快な音色とロマンティックなメロディを盛り込み、圧倒的に解きほぐしやすくしている。 テーマ部ではヴォーカルも大きく取り入れて、器楽だけではなし得ない音楽的な主張をしっかりと行っている。 そして、器楽では、明快なモダン・ジャズやフュージョンに近接したスタイルのアドリヴもしっかり取り入れて、アクセスしやすさをアピールしている。 つまり「聴きやすさ」を十二分に考慮しているのだ。 いや順序が逆だった。 まず何より、トランペットとヴァイオリン、ギターらによるアンサンブルに知的で上品で暖かい魅力があり、そのせいで耳になじみやすいのだ。 変拍子を変拍子と思わせず、緻密な構成を厳(いかめ)しく感じさせない。 リード楽器またはヴォーカルのたどる旋律がそのままナビゲータとなり、精緻に組み上げられた音楽を鳥瞰することができる、というわけだ。 そして、タイトなアンサンブルをジャズやクラシックへと自在なハンドル捌きで自然に動き回るところも特徴だろう。 角ばった変拍子ジャズロックがなめらかに美しい室内楽へと姿を変えていくところにものすごいセンスを感じる。 また、俊敏に切り返すオブリガートがどうしてもザッパ風になってしまうが、これはご愛嬌でいいだろう。 新加入ギタリストは、現代的でオーソドックスなプレイを得意とするようだ。 ECHOLYN をジャズロック寄りにしたような内容といえば通りがいいかもしれない。
   10 分を越す二つの大作が聴きもの。変拍子の嵐。最終曲のチェンバー・アンサンブルもいい。

  「Eternal Optimist」(6:31)メロディアスなヴォーカルを饒舌なギターとタイトなアンサンブルで支えてメローな曲調に仕上げた作品。 テーマ部のマリンバを交えたオブリガートはザッパそのもの。 後半、鮮やかなヴァイオリン・ソロから現代音楽調への展開がおみごと。

  「Fortunate Observer Of Time」(7:04)7 拍子によるジャズ風室内楽からジャズロックへ。中盤に元気なトランペット・ソロ。終盤に向けてポジティヴで健やかなイメージのアンサンブルが続く。

  「Reluctant Observer」(9:27)メロディアスだが緊張感のある歌もの。推しの強いピアノなど、カンタベリー色強し。

  「No Regrets」(8:13)5 拍子によるしなやかでグルーヴ感の強い歌ものジャズロック。終盤のヴァイオリン・ソロが見せ場。

  「Resing」(1:05)マンドリンのトレモロが印象的な小品。

  「You're Still Sleeping」(10:43)

  「Abyss Of Dissension」(14:38)サスペンスフルなムードと郷愁あるペーソスがいいモンド・ミュージック風ジャズロック。ギターをフィーチュア。GG 風マドリガルもあり。

  「Release」(3:56)管弦による室内楽。
  
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