IZZ

  アメリカのプログレッシヴ・ロック・グループ「IZZ」。2014 年 現在作品は七枚。 新しきオルタナティヴ・シンフォニック・ロック。2015 年新譜「Everlasting Instant」発表。

 Everlasting Instant
 
Paul Bremner electric & acoustic guitars Anmarie Byrnes vocals
Brian Coralian electric & acoustic drums & percussion Greg Dimiceli drums, percussion
John Galgano bass, guitars, vocals, keyboards Tom Galgano keyboards, vocals, guitar
Laura Meade vocals
guest:
Caty Galgano cello on 1
Madeline Galgano flute on 1

  2015 年発表の第六作「Everlasting Instant」。 内容は、ひさびさに二人の女声ヴォーカリストを擁した、ジャジーなオルタナティヴ・シンフォニック・ロック。 ナイーヴな男声含めた複数のリード・ヴォーカリストの歌唱をフィーチュアして、立体的で美しいハーモニーも生かし、モダン・ジャズのエッセンスを散りばめつつ、スタイリッシュにじっくりと歌いこむ作風が基本だ。 健康的な声による美しい歌唱に乾いた、それでいてセンチメンタルな憂愁がにじむところは、まさにアメリカン・ポップスの魅力である。 そして、さらに味付けとして交わるのは、魔女の秘法のようなミステリアスなタッチ。 また、ふと気づけば、ギターがスティーヴ・ハウっぽかったり、キーボードがアナログ・シンセサイザーのキュウキュウしたさえずりだったり、アンサンブルがまるで YES だったりと、プログレらしい味つけが随所に施されている。 フルートのさえずりやアコースティック・ピアノの上品で自由闊達な演奏も特徴だ。 そして、アーシーなギターの弾き語りのはずがシンセサイザーやオルガン、ピアノ、ワウ・ギターによっていつしか空の彼方へ飛翔し始めるという胸熱な瞬間もある。 いわば、王道的なポップスの骨格にキレのいい演奏と多彩すぎる音色とオールド・ロックへの憧憬で肉付けしたプログレである。 メンバーの多さをうまく曲に活かしているので、そういう意味では演劇的ともいえるだろう。
   ヴォーカルとギターのしなやかなレガートを精密で多彩で弾力あるリズムが支え、キーボードがマジカルなタッチでアクセントをつけるシンフォニック・ロック。 GLASS HAMMER よりは一ランク上の、ECHOLYN、初期 SPOCK'S BEARD と同系統のアメリカンなプログレの力作である。 東海岸っぽいと思います。 ゲストまで家族を迎えてガルガノ一族色強まる?
  
  「Own The Mistery」(6:22)ECHOLYN のバラードのように繊細なブルーズ・フィーリングを湛えた佳曲。 ウォームなエレクトリック・ピアノの響きも含め、男声は苦味のないドナルド・フェイゲンといったところ。リズミカルだが尖り過ぎない演奏もいい。

  「Every Minute」(1:44)スペイシーでエネルギッシュなインストゥルメンタル。アナログ風のシンセサイザーが全開。

  「Start Again」(7:44) 緩急と粗密を行き交いドラマを成すネオ・プログレ風、いや高級なプログレ・ポップスな作品。 冒頭のコンプレッサを強く効かせたようなギターの音が面白い。 相聞歌のような男女ヴォーカルのかけあいや珍しい女性のハーモニーもあり。 ツイン・ドラムスのきめ細かいプレイもいい。

  「If It's True」(3:20)MAGENTA の作風に似た女声を主人公にした歌もの。 アンニュイにして透明感あるヴォイス、それを支えるオクターヴのギターなどジャジーに迫る。

  「The Three Seers」(4:40)デリケートでほんのりサイケなフォーク・ソング。ややヨーロッパ風。 なよやかなピアノ伴奏が、ソロ・パートではソフトなキース・エマーソンともいうべき圧倒的な演奏力を見せる。

  「The Everlasting Instant」(5:16)タイトル曲は、初期 GENESIS 的なフォーマット(オルゴール風のイントロのせいだけか?)でヘヴィな音も交えたアクの強い典型的なプログレ作品。

  「Keep Away」(6:47)ストリングス系の音によるクラシカルなタッチとギター、ベースの相克がプログレらしいのロマンある佳作。 ドラム・ビート不在のシーンを巧みに挿入して起伏を作っている。

  「Can't Feel The Earth, Part IV」(5:36)アグレッシヴなベースラインが印象的な攻めの変拍子チューン。モールス信号のようなビートとヴィヴラフォンが特徴的。

  「Illuminata」(5:30)フォーク・ソングが宇宙へと広がる、まるで PINK FLOYD のようなプログレらしさに満ちた作品。

  「Sincerest Life」(7:00) SPOCK'S BEARD 風。

  「Like A Straight Life」(5:21)YES のアコースティック・アンサンブル版のような美しくもスリリングなフィナーレである。
  
(DR12-669563)

 Sliver Of A Sun
 
Tom Galgano piano, synthesizer, acoustic guitar, vocals
John Galgano guitar, bass
Philip Gaita bass, piccolo bass, acoustic guitar
Brian Coralian percussion, drums
Greg Dimiceli drums
guest:
Paul Bremner guitars on 2,8,9,11
Michela Salustri vocals on 3,5,6,11
Danielle Altieri vocals on 3,11, flute on 3

  99 年発表の第一作「Sliver Of A Sun」。 内容は、初期の YES を思わせるパーカッシヴなオルタナ系プログレッシヴ・ロック。 YES らしさは、硬質なベース・サウンドとクリーントーンで音数の多いギター(ヴォリューム奏法あり)、アナログ風キーボードの多用、ハイトーンのヴォーカル・ハーモニーなどに顕著。 エレクトリック・パーカッションも用いるツイン・ドラムス編成なだけあって、全体にリズムの強調された、鋭角的でひっかかりの多い演奏である。 メロディアスな場面だけ聴いているとごく普通のアメリカンなロックだが、アナログっぽいシンセサイザーのリードする演奏やヴァイオリン奏法のギター、ヘヴィに歪んだベースといった特定の「音」の与えるイメージが強烈であり、EL&PYES を思い出さざるを得ないのである。 記名性が高い、というやつだ。 特に、ギターとキーボードは意図的なスタイルの模倣も多そうだ。 せわしなくぎくしゃくと角ばったインストゥルメンタルとゆったり緩やかなヴォーカル・パートが対比、交錯する展開もプログレらしい。 そして、アコースティック・ギターの弾き語りによるルーラルで伸びやかな演奏は、ECHOLYNSPOCK'S BEARD と全く同質のものである。 これらのグループ同様、エネルギッシュなアメリカン・オルタナティヴと 70 年代英国プログレ的表現が結びついた作風といえるだろう。 スネアをひっぱたくドラムスの生むチープなストリートっぽいビートも、このスタイルには合っている。 一部女声のコーラスも入る。
   いわゆるプログレらしい大作は少なく(もっとも短い曲の中で思い切り暴れているところは多いが)、わりとキャッチーなメロディがリードする小品が中心になっている。 YES にも似たようなアプローチのアルバムがあるが、彼のグループが時流/世間に合わせたのに対して、こちらには、ごく自然に好みの音をまぜあわせて迫った若い勢いが感じられる。 結果の音が似ていても、姿勢の違いが大きな聴き応えの差をもたらしているようだ。
   REMYES の合体、もしくはリード・ヴォーカルとギタリストが兄弟らしいというところまで似ている第二の SPOCK'S BEARD。 もっとも、ハモンド・オルガンの音が少ない分、暖かみや広がりよりも跳ねるような活きのよさが強調されてます。 また、インディ系っぽいプロダクションがじつにハマってます。 1 曲目「Endless Calling」、8 曲目「Just A Girl」、 10 曲目「Razor」がカッコいい。 ぜひタランティーノの作品で使っていただきたい。 即物的なタイトルに若さとともにある苦悩が響く。

  「Endless Calling」(5:07) 「YES に影響されたアメリカのバンド」そのもののような力作。

  「I Get Lost」(4:41)

  「Lornadoone」(4:14)ECHOLYN そっくりのカントリー・フレーヴァーあふれるアメリカン・フォークロック。 躍動する演奏、コケットな女声のコーラス、鼓笛隊風のフルートが冴える。 トレモロ風のギター・リフは、YES というか、YES の原点 BIRDSCSN&Y か。 物語風の展開にパーカッションが巧みに活かされている。 密度の高い作品だ。

  「She Walked Out The Door」(3:00)乾いた感じのバラード。 手が切れそうなアコースティック・ギター、涙が固まったようなピアノの音。 モダンなオルタナティヴ・ロックである。

  「Assurance」(9:03)英国ロック風の憂鬱なバラードから YESEL&P、ネオプログレ調の怪しげなシンフォニック・ロックへと羽ばたく大作。

  「Take It Higher」(3:14)今風の音。

  「Double Bass」(2:23)ベースを目立たせたリズミカルなインストゥルメンタル。 弾力ある変拍子反復が "DISCIPLINE" CRIMSONGENTLE GIANT 風だが、ぐっとストリートっぽい。

  「Just A Girl」(4:16)今風の音。小気味いいリズム。挨拶代わりに横っ面を張ったらすぐさま張り返される、そんな感じです。

  「Meteor」(5:21)イタリアでこの 3 連だとタランテラだが、アメリカなので妙にクラシカルかつフォークダンス調。(豆知識:映画音楽の大家ジョン・ウィリアムスの師匠カステルヌォーヴォ・テデスコは亡命イタリア人作曲家である)アコースティック・ピアノが受け止めると一気にファンタジーの世界が広がり、オルガンとヘヴィなギターで一気にプログレ化。 大仰なヴォーカル含めアメリカン・プログレらしい佳作である。

  「Razor」(7:00)リズミカルでパーカッシヴなアンサンブルを活かした個性的な傑作。 ひねくれた展開とエキゾティックなアクセントもカッコいい。 サウンド面で PORCUPINE TREE、雑食性の処理の巧みさの面で SPOCK'S BEARD にも一脈通じる新しいプログレだ。

  「Where I Belong」(10:19)終曲らしいメロディアスで厳か、救済をイメージさせる作品。 リード・ヴォーカルは女性。 MAGENTAIONA のような音も、ワンポイントとして入るとなかなかいい感じです。 エピローグのサウンド・スケープは「危機」のイントロでしょうか。
  
(DR1-2233)

 I Move
 
Tom Galgano keyboards, vocals
Paul Bremner guitars
Brian Coralian electric & acoustic percussion, drums programming
Greg Dimiceli drums
John Galgano bass, guitars, vocals

  2002 年発表の第二作「I Move」。 ベーシストが脱退し、前作のゲスト・ギタリストがメンバーとして加入。 その内容は、ダブ、ヒップホップ調のリズム、ECHOLYN を思わせるアメリカン・ロックらしいヴォーカル・ハーモニーなど乾いたアメリカの音に、OASIS にも迫る鼻っ柱の強さと PORCUPINE TREE のメランコリーなど英国の翳りがほどよく交じりあい、おまけに 70 年代プログレの香りとニューウェーヴっぽさ(タイトル曲なんてコリン・ムールディングの曲に似てないか?)、さらにはギターロック系のコンテンポラリーなセンスまでもが散りばめられた、きわめてキャッチーなロックである。(長くてすまん) クールなハーモニーもいい感じだが、とりわけみごとなのがギター。 昨今 HM やフュージョンの馬鹿速弾き系以外ではどちらかといえばワサビやヒネリ、リズミックな使い方が主になってしまったギターだが、ここでは前時代的ともいうべき正統的なフレーズ・センスで堂々と真っ向勝負をしかけて、ときに大爆発している。
  そして、シンセサイザーやギターによるプログレ然としたイディオムを抑えたのも正解だった。 なにせ、ナントカっぽいという入りやすさは瞬く間に陳腐になるものだから。 オブリガートやバッキング、間奏に「あれっ」と思わせるプレイをさりげなく置いた方が、どれだけ曲が活きるかをちゃんと分かっているのだろう。 また、ヴァイブ含めパーカッション類は今回もカッコよく散りばめられていて、微かなラテンっぽさがリズムをしなやかで逞しくしている。(アメリカン・ロックに共通するこのラテンっぽさは、近年 MARS VOLTA によってもクローズアップされていると思う)
   一部で頭の悪い大学生のようなヴォーカル表現にその審美センスを疑いそうになるが、要所で聴こえる個性的なキーボード、ノイジーでひねくれ返ったギターの薬味や、思いのほかロマンティックな表情をたたえて迫る展開などがあり、プログレ・ファンの琴線には必ずひっかかると思う。 かつて JAMIROQUAI を耳にしてオールド・ポップス・ファンが「おおっ」と身を乗り出したのと状況は似ているし、往年のイタリアン・ロックを思わせる「無理やりなのだが憎めない」というところもたくさんある。 SPOCK'S BEARD と比べると演奏の運動性ではやや分が悪いながらも、英国ロック直系のひねくれリリシズムとパーカッションを活かした音のトンがり具合は、かなりのもの。 プログレを核とした幅広い表現に MARILLION との類似性も感じられるが、違いはこちらの方がリズム中心でありタッチが鋭角的なことだ。
  キャッチーな佳作が並ぶが、白眉は、インダストリアルなタッチで迫る 7 曲目のインスト・ナンバー「Star Evil Gnoma Su」と、とんでもない爆発力を発揮した 14 曲目「Coming Like Light」。 この大作はまちがいなくプログレど真ん中であり、ひさびさのヒットでしょう。 集中と発散など抑揚のつけ方がみごと。 個人的には 10 曲目の小曲「Believe」も好み。 逆に 11 曲目「Knight Of Nights」のようなモロにネオプログレな音は今一つ。
  HM っぽさは皆無の英国ギターロック系の音であり、プログレを下地にしつつもベタつかず小気味いい。 ECHOLYN の再デビュー作が気に入った方もぜひ。 本作品は 2001 年 9 月 11 日の事故の関係者に捧げられている。

  「Spinnin' Round」()
  「I Move」()
  「Weak Little Lad」()
  「I Already Know」()
  「I Wanna Win」()スティーヴ・ロザリーばりのギター・ソロがみごと。
  「All The New」()
  「Star Evil Gnoma Su」() "Nuovo Metal" CRIMSON ばりのアグレッシヴで無機的な変拍子インストゥルメンタル。
  「Another Door」()
  「Something True」()
  「Believe」()
  「Knight Of Nights」() 珍しく普通にネオプログレな作品。トリビュートものに向けた練習でしょうか。
  「The Mists Of Dalriada」()ヘヴィな音を使ったヨーロッパ舞曲風のインストゥルメンタル。前作の「Meteor」を思い出します。
  「Oh, How It's Great 」()
  「Coming Like Light」()
  「Light From Your Eyes」()
  
(DR2-669563)

 My River Flow
 
Tom Galgano keyboards, vocals
Paul Bremner guitars
Greg Dimiceli drums, percussion
Brian Coralian electric & acoustic drums & percussion
John Galgano bass, guitars, vocals, keyboards
Anmarie Byrnes vocals
Laura Meade vocals

  2005 年発表の第四作「My River Flows」。 二人の女性ヴォーカリストが加入し、デリケートな表情の歌唱と可憐なハーモニーを演じている。 その内容は、適所に配した的確なサウンドと変拍子を自然に聴かせる安定感ある演奏に風格すら漂う傑作アルバムである。 多彩極まる表現はまさに現代的なプログレッシヴ・ロックだが、目まぐるしい演奏に悪食に感じさせないセンスのよさがある。 リラックス、レイドバックしたアメリカン・ロックのいいところがしっかり生きている感じだ。 この作風ならラジオから流れてきても違和感はまったくない。 キレとパンチのある演奏にヴォーカル・ハーモニーがまろやかさを加味し、全体としては透明感がある。 それにしてもこのこなれた、落ちつきある作風はどこからどう辿りついたのだろう。
  デリケートなたたずまいに魅せられるばかりか、すっと走り出したときのしなやかで爽やかな姿には思わず息を呑んでしまう。 躍動するエネルギーの源になっているのはツイン・ドラムス。 今回もアンサンブルに丹念に表情をつけるばかりか、他では聴くことのできないツイン・パーカッションならではの華やかなプレイをフィーチュアされている。 そして、意外なほどにテクニシャンのギタリスト。 キメ過ぎずさりげなくアンサンブルをリードするところがいい。 キーボーディストはさりげなく全体を見渡して抑えを効かせている感じだ。 アコースティック・ピアノの響きには乾いたリスナーが心を寄り添わせるのにちょうどいい手ざわりがある。
   ECHOLYN よりも音の洗練度合いは進んでおり、幻想的でナイーヴな心象風景と現世に躍動するポップを矛盾なく結びつけてメッセージを送り出すところは、往年の YES クラスに迫る出来映えです。 ドラムス含め、きわめて生っぽいのに、細かな音がきちんと聴こえてくる辺りは、テクニックとともに製作面も相当に充実しているのでしょう。 現代アメリカン・プログレの代表作の一つといっていいでしょう。 個人的にも最高傑作。

  「My River Flows」(5:28)
  「Late Night Salvation」(12:17)
  「Rose Coloured Lenses」(3:41)
  「Deception」(7:18)MARILLION や現代ヨーロッパ系プログレの表現法に近いメロディアスで陰鬱な歌もの。
  「Crossfire」(8:33)これも佳曲。後半のインスト・パートは最盛期の FLOWER KINGSYES に匹敵する充実度。
  「Anything I Can Dream」(3:22)一転、BEATLES を思わせるブリット・ビートポップ。サビだけアメリカン。
  「Abby's Song」(3:48)爽やかでルーラルなフォークソング。アメリカンではあるが、ほんのり XTC (コリン・ムールディングか)テイストも。
  「Deafening Silence」(21:37)MARILLION のようなネオプログレが根っこにある作品だと思う。もちろんその向こうには「超音速科学者」 GENESIS の影が立ちはだかっている。エンディングがたまらなくいい。
    「i. Realization
    「ii. Lesson From the Heart
    「iii. Deafening Silence
    「iv. Passage of Life
    「v. Sanctuary
    「vi. Illumination
  
(DOONE RECORDS 5669563)

 The Darkened Room
 
Tom Galgano keyboards, vocals
Paul Bremner guitars
Brian Coralian electric & acoustic drums & percussion
Greg Dimiceli drums, percussion
John Galgano bass, guitars, vocals, keyboards
Anmarie Byrnes vocals

  2009 年発表の第五作「The Darkened Room」。 英国王道ロック調に磨きがかかった大傑作。 オルタナティヴ・マインドあふれる若々しいロックを前作で獲得した瑞々しく豊かな響きで包んだ作品である。 過剰なまでにセンチメンタルで、血がたぎって熱くなればなるほどクールに青ざめて、涙をあふれさせながら絶叫を止められない、そういう魂を抱えながら音を紡いでスタイリッシュに(カッコつけて)ぶつけてくる。 ロマンを掲げても決してキレイごとには足をすくわれていないし、のぼせたリスナーにはやんちゃなギターで一撃をかます。 そして、独特の色調でこれだけしっかりと全体をまとめていながらも、コンセプトなんてうんざりだぜといい放ってしまうところもいい。 そのとおり、コンセプトなんかじゃなくて音なのだ、肝心なのは。 XTCTEARS FOR FEARSMARILLIONPORCUPINE TREE との共通点を云々するより、英国ロックの叙情味、ロマンのエッセンスをみごとに吸収、会得したことを賞賛したい。 今の世の中、自分をゴマカサずにこういう風になれるってのはそれだけで大したものだ。 そういえば、YES はアメリカン・ロックの影響を強く受けてスタイルを作り上げたが、そのこだまがアメリカに返ってきて、こういう音を生み出している。 渡り鳥か回遊魚のように大西洋を巡る何かがあるのだろう。 とても興味深い。 また、フランスの NEMO とともに SPOCK'SBEARDECHOLYN を追いかけていつしか同じ地平にたどりつたと思う。 もしブレット・カルやニール・モースが見ていた景色がちょっぴりダサく思えたら、そこからがまたおもしろくなるはず。
  唖然とするほど堂々としたシンセサイザーの調べ、キレのあるアコースティック・ギターと問答無用のエレキギター、慈愛と郷愁のトリプル・ヴォーカル、沸騰するリズム、雷鳴のようなツイン・ドラミング。 カッコいいロックです。 真っ暗なのに永遠に続く瑞々しさのある時間、とっくの昔に忘れましたが。 個人的に 2010 年愛聴盤ベスト 5 入り確実。 三部に分かれる「Can't Feel The Earth」はプログレらしさ満点の力作。

  「Swallow Our Pride」(5:16)
  「Day Of Innocence」(2:56) アコースティック・ギターをフィーチュアした、感傷に満ち、溌剌とはち切れそうなインストゥルメンタル。
  「Regret」(4:32)
  「Can't Feel The Earth - Part I」(4:39) パワフルかつ繊細なピアノをフィーチュアした目まぐるしくもカラフルなシンフォニック・ロック。YES っぽさもあり。
  「Ticking Away」(2:47) XTC の新作だったらうれしい作品。
  「Can't Feel The Earth - Part II」(10:36) YES 風の世界中の目覚まし時計が鳴り出したようなアンサンブルで迫るスペイシーなファンタジック・ロック。
  「Stumbling」(5:23)
  「The Message」(3:07)
  「23 Minutes Of Tragedy」(7:00) タイトルも演奏も GENESIS 路線。
  「Can't Feel The Earth - Part III」(5:07)
  
(DOONE RECORDS DR8-669563)

 Crush Of Night
 
Paul Bremner guitarsBrian Coralian electric & acoustic drums & percussion
Anmarie Byrnes vocalsJohn Galgano bass, guitars, vocals, keyboards
Greg Dimiceli drums, percussionTom Galgano keyboards, vocals
guest:
Gary Green guitars
Greg Meade guitars

  2012 年発表の第六作「Crush Of Night」。 内容は、メランコリックで美しい、オルタナティヴ・ロック風シンフォニック・ロック。 熱気をはらんだ演奏がいつしか涼風とせせらぎで癒されてゆくようなタッチは、まるで YES の最上の部分を取り出したかのようだ。 それは、遡れば、フォーク・ソングの素朴な歌とギターとピアノの和音の響きへとたどりつく。 歌は叫ぶのではなく口ずさまれ、密やかに、抑制された調子で、頑なな心にも届く。
   アレンジの基本をツイン・パーカッションを活かしたリズム構造に置きながらも、男女のハーモニーとピアノによる官能的なリリシズムとギターによるしなやかなうねりが曲に生命を吹き込んでいる。 メロディ・ラインはメインストリームのアメリカン・ロックのものであり、普通に MTV やラジオから流れても違和感はない。 ナチュラルで時にアーシーなサウンドのまま変拍子を取り入れられる辺りが新世代である。 ポスト・ロック調のサウンドなどの挑戦的な姿勢は、RADIOHEAD と同列に置くべきものだろう。 それはスタイルについてだけではなく、若々しさと矛盾なく共存する無常感についてもである。
   元 GENTLE GIANT のゲイリー・グリーンが客演、一部の作曲とアレンジも手がけている。 グリーンのギターをフィーチュアした 2 曲目は、まさに GG ばりの変拍子でアブストラクトなリフが炸裂する。 タイトル曲は二部構成の組曲。ほのかな絶望感と幻想をクラシカルなタッチで綴る力作。第二部後半、ギターがひっぱるリズミカルな展開がすばらしい。

  「You've Got A Time」(4:09)
  「Words And Miracles」(7:18)
  「Solid Groud」(6:02)
  「Half The Way」(6:07)
  「Crush Of Night
    「This Reality」(13:32)
    「The Crush Of Night」(13:18)
  「Almost Over」(4:19)
  
(DR10-669563)


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