MUTANTES

  ブラジルのサイケデリック・ロック・グループ「MUTANTES」。 60 年代から活動する有名グループ。78 年に解散するも 90 年代に入って再編。フェスティバルでは YES のカヴァーもやっていたそうです。

 Tudo Foi Feito Pelo Sol
 
Turio Mourão piano, hammond organ, mini moog, vocals
Sergio Dias electric & acoustic guitars, sitar, wind, vocals
A.Pedro De Medeiros bass, vocals
Rui Motta drums, percussion, vocals

  74 年発表の第七作「Tudo Foi Feito Pelo Sol」。 もともとガレージ・サイケ・グループだったらしいが、時代の音に敏感に反応しつつ変遷を重ね、世がプログレを謳歌した時期に発表した作品である。 すでにオリジナル・メンバーはギタリストのみ。 内容は、エフェクトを多用するスペース・ロック調ギターを中心に、ツイン・バスらしきパワー・ドラムス、和声よりもフレーズ重視でギターに迫るベース、多彩なキーボード、そして南米らしさを一手に引き受けるハイトーンのコーラスも取り入れた、YES 風のプログレッシヴ・ロックンロールである。 ピアノやギター、ヴォーカル・ハーモニーなど、アコースティックな音の美しさを前面に出すことによって、繊細なレガートときらきらした粒立ちの音の均衡がよく分かり、爽やかなイメージを作り出している。 また、ギターを筆頭に全パートがテクニカルなプレイを放つが、この時期のロックに特有の現象として、キーボードの存在感がかなり大きい。 あまりにリリカルなピアノ、ヘヴィなオルガン、新しさの象徴の如きムーグ・シンセサイザーが、テーマにオブリガートに伴奏にソロに、たっぷりと使われている。 本作の特徴は、ロックにはもったいないほどにたおやかな歌メロ、ピアノやアコースティック・ギターなどアコースティックな音が巧みに用いられていることに加えて、このキーボードを駆使して既存のロックのイディオムを電気の力で変容させたことである。 また、ドラムスが分離のいい音で録音されているためにリズムにモダンな迫力があるのも指摘するべきだろう。 一方、ギターのディレイやドラムスにも用いられるエフェクトなど、サイケデリック・ロックの面持ちも十分に残している。 このサイケ/トランス・テイストと透明感あるフォーク・タッチはまったく矛盾なく同居している。 そういえば、ドイツでもサン・フランシスコでも、サイケな曲でファズ・ギターとともにアコースティック・ギターが使われている気がする。 また、ブルーズやブギーを素材に巧みなアレンジを施して凝った演奏に仕上げる手法は、テーマがあまりにシンプルなために見逃しがちではあるが、GENTLE GIANT と共通するプログレッシヴなアプローチである。 しかし、このグループについては、プログレという文脈だけでとらえるともったいなさ過ぎる。 それだけ、基本である「ロック」についていいセンをいってるということだ。 とにかく、南米ロックの傑作である。

  「Deixe Entrar Um Pouco D'agua No Quintal」(5:05)冒頭のトレモロのリフがカッコいい、YES 風シンフォニック・ロックンロール。 メイン・パートは、ハイトーンのハーモニーを深いエコーのギターやピアノが細かく彩り、リズム・セクションも小刻みに変化する。 メロディアスなヴォーカルと鋭く尖ったイメージのアンサンブルが対比して、それぞれの彫りを深めている。 ベースが目立つところも YES 風。 ピアノの説得力もある。

  「Pitagoras」(6:54) リック・ウェイクマンばりのアコースティック・ピアノとドラムスが小気味よくリードするユニークな味わいのインストゥルメンタル。 アコースティック・ギターも巻きこんで終始リズミカルな調子が維持される サイケデリックなエコーやシンセサイザーもある。 ピアノとドラムスが組んだ演奏のキレが抜群にいい。 傑作。

  「Desanuviar」(8:10)憂鬱でサイケデリックなバラード。 低音主体であまりシンバルを叩かないドラミング、太いベース、轟々うなるオルガンが、あくまで繊細で視線が定まらないヴォーカルを取り巻く。 キラキラ素朴に飛び捲くるシンセサイザーと、あまりにフォーキーなギターの調べ、空ろな歌声。 68 年頃、親戚の長髪お兄さん、トンボ・メガネお姉さんたちのこういうけだるさに憧れましたっけ。 バックに誰かの演説?アジテーション?がオーヴァー・ラップする。 中盤のシンセサイザー・ソロは、宇宙と地球をつなぐ架け橋か。 最後は、爆音を経てシタールが締める。 傑作。

  「Eu So Penso Em Te Ajudar」(4:54) マイナー・ブルーズ調のブギウギ。 鮮やかな酔いどれピアノ、キレのいいギターのオブリガート、そしてヴォーカルのシャウトもカッコいい。 シンプルなブギーの間奏は、まずは何気なくもつややかなムーグ・シンセサイザー、二回目はヘヴィなオルガンと再びムーグである。 ぜいたくな鍵盤でロックンロールしちゃう辺りが EL&P のセンスに近い。 中盤、ベースがリードするトゥッティによるリフは、ほとんど LED ZEPPELIN である。 思い切り黒人するヴォーカルをブリッジに、目まぐるしく演奏は変転する。 しなやかで小気味のいいアンサンブルによるぜいたくなブギーである。

  「Cidadao Da Terra」(5:51) ATOMIC ROOSTERBLACK SABBATH を思わせる導入部、ギターとベースのトレモロ風のユニゾンがカッコいい。 メインのリフをオルガンが刻む趣向もニクい。 ハードロックだが単純なスピード志向やひきずるような重さはなく、どちらかといえば R&B 風、そして得意のフォーク・タッチを活かした演奏である。 キメがファルセットによるメロディアスなハーモニーだったりするし。 間奏もパーカッシヴなオルガン、そしてムーグが唸りを上げ、ピアノが走る。 変幻自在のアンサンブルで迫る、軽快な王道ハードロックである。

  「O Contrario De Nada E Nada」(2:55) ホンキートンク・ピアノがリードする CAROL、COOLS 風(笑)の快調ロケンロー。 サビのハーモニーは、NEW TROLLS 風か。

  「Tudo Foi Feito Pelo Sol」(8:45) うっすらとした幻影がよぎる、ほろ酔い加減のブラジリアン・ロック。 音数の少ない、「引き算」のアンサンブルが、みごとなまでにグルーヴを生んでいる。 終盤の挑発的な調子がカッコいい。 少ない音でグルーヴし、扇動する。 PRINCE の最近のジャズロック・アルバム「N.E.W.S」を思い出しました。 美しくカッコいい作品です。
  
(GALA 4179-2)


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