PELL MELL

  ドイツのクラシカル・ロック・グループ「PELL MELL」。 71 年結成。 78 年解散。 80 年に再編されるも、翌年再解散。 ヴァイオリン、リコーダーなどを用い、クラシックの名曲を換骨奪胎したシンフォニック・ロック。 ヴァイオリンのプレイは、前世紀のヴィルトゥオーソを思わせる本格派。

 Marburg
 
Thomas Schmitt violin, guitars, vocals
Rudolf Schön vocals, recorder, guitar
Otto Pusch organ, piano
Mitch Kniesmeijer drums
Jorg Gotzfried bass

  72 年発表の第一作「Marburg」。 内容は、クラシックのテーマを用いた古色蒼然たるシンフォニック・ロック。 オルガン中心のヘヴィな演奏に、ヴァイオリン・リコーダーなどのリリカルなプレイも盛り込み、ドラマチックな展開を見せる。 分厚いコーラス・ハーモニーを使ったヴォーカル・パートは、ポップでメロディアスな聴きやすさもあり。 全体に、重厚というよりは、素朴さとあふれ出るロマンチシズムが特徴だろう。 ギターと野太く甲高いヴォーカルは、この時期なので、サイケデリック・ロック、ハードロック調だが、リズム・セクションに落ちつきがあることとオルガンの音の丸みのおかげで、さほどアシッドな感じはナイ。 むしろ、その荒っぽさが全体に滔々と流れるクラシカル、ロマンティック過ぎる味わいに変化をつけていて効果的だ。 英国でいうと THE NICE のクラシカルな部分や、初期 VERTIGO の BEGGARS OPERA を思わせる内容だ。 充実してます。 クラシカル・ロック、オルガン・ファンには欠かせません。 プロデュースはペーター・ハウケ。 ヴォーカルは英語。

  「The Clown And The Queen」(8:37)ヘヴィなギターとクラシカルなオルガンが拮抗する、ややヒステリックなハードロック。 ハイトーンというよりは、胴間声を張り上げるヴォーカル、コーラスによるテーマは、荒っぽさに隠れているが、悲愴感あり。 ソロでは、オルガンよりもギターがフィーチュアされている。 ヴァイオリンは出番なし。

  「Moldau」(5:24)もちろんスメタナの名高い交響詩。 テーマはリコーダーによる。 鳥のさえずりと水の音からテーマを経て、メランコリックなオルガンが立ち上がる。 再び、テーマはオルガン、ヴァイオリン、メロトロンらによる古式ゆかしいアンサンブル。 ストレートな演奏であり、かなり感動的。 ギミックなしの古びた色合いがいい。 クラシカル・ロックの傑作。

  「Friend」(7:04) 民族音楽調のリコーダー・デュオやバロック風アカペラ・コーラス、奇天烈なスキャット、ヘヴィなトゥッティ、トリッキーな構成など、どことなくネジの外れた GENTLE GIANT 風の作品。 コーラスによるポップでメランコリックな前半から、奇妙な演奏が続く中盤を経て、後半は一気にハードロックへ。 前半の音数の多い(そのわりにはシンプルな)リズム・セクションは EL&P を思わせる。 終盤はオルガン、ギターが暴れまわる。 ドラマーはかなりの腕前。

  「City Monster」(8:42) ブルージーでシンプルなテーマを繰り返すヴォーカル・パートを前後に、中間部にピアノ、オルガン、ヴァイオリンによるクラシカルなアンサンブルを配したプログレらしい作品。 イントロからフィーチュアされるヴァイオリンは、音程のせいか、かなり不気味である。 伴奏部分は、ダリル・ウェイの WOLF のようだ。 1、3 曲目同様テーマは、調子ッ外れでやけくそ気味のヴォーカル・ハーモニーである。 ヴォーカル・パートの間奏から現れるピアノも、ミステリアスだが新鮮で美しい。 中間部は、クラシカルな演奏が、ジャジーなオルガンによって、みごとに変貌してゆく。 第一印象は軽妙な感じだが、リズムの変化やスリリングなコール・レスポンスなど、さまざまなアイデアが詰め込まれていることが分かる。 タイトルや奇妙なヴァイオリンから、STACKRIDGE への連想もある。

  「Alone」(9:24)オーケストラのチューニング風景を思わせるイントロから始まるのは、ヴァイオリン入り BLACK SABATTH のような演奏。 しかし、それも一瞬、ヴァイオリンが華麗に走ると一気にビートポップ風の香りが高まり、演奏が軽やかな姿へ変化する。 それでも、オルガン、ピアノの間奏はかなりハードロック調。 ヴォーカル・コーラスがいい感じだ。 展開部は、メランコリックな気品あるピアノに導かれたロマンティックなヴァイオリン・ソロから始まる。 コーラスはおだやかで空しさ漂う表情だ。 厳かなオルガン。 そして、哀愁極まるヴァイオリンの調べ。 ドラムスが入ると野暮ったくなりがちだが、叩き方かミックスのせいか全くそういう感じはない。 むしろ、緊張感が生まれいい感じだ。 翳りあるメロトロンが、それでも、悠然と広がり始める。 歌い続けるヴァイオリン。 終章は、再び空しく厳かなコーラスからカデンツァで大見得。 ポップとクラシカルなロマンティシズム、けれん味がちょうどよくブレンドした佳作。 沈んだ表情がいいです。

(Bacillus BLPS 19090/Bellaphon 287-09-004)

 From The New World
 
Thomas Schmitt flute, violin, keyboards, vocals
Otto Pusch keyboards
Dietrich T.Noll keyboards
Rudolf Schön percussion, vocals
Jorg Gotzfried bass, vocals
Mitch Kniesmeijer drums, percussion

  73 年発表の第二作「From The New World」。 タイトル通り、ドボルザークの交響曲第九番をモチーフに、ハードロック的なアレンジを持ち込んだ大作等、クラシック・ロック路線がよりスケール・アップする。 オルガン、ヴァイオリンらのクラシカルかつジャジーな演奏に、ワイルドなリズム・セクションを取り入れ、男性的なヴォーカルを配した剛健な作風である。 THE NICE にヴァイオリンが入ったといえば近いだろう。 本作の目玉は、独走するそのヴァイオリン。 1 曲目ではギターはほとんど登場せず、ヴァイオリン・ソロが延々続く。 また、突如ジャズ・ピアノ・トリオが現れるなど、プログレらしいしかけは盛りだくさん。 キーボーディストが途中脱退したため、二人の名前がクレジットされている。 プロデュースはウォルフガング・サンドナーとグループ。 近年ようやく CD 化。

  「From The New World」(16:06)ドボルザークのシンフォニーより。 ヴォーカル入り。
  「Toccata」(3:53)バッハのオルガン曲「トッカータとフーガ」より。 もちろんオルガン、ヴァイオリンを大々的にフィーチュアしたインストゥルメンタル。
  「Suite I」(8:05)原曲はモーツァルトかベートーベンか。 ハードロック、ラテンなど多彩な曲調が入り乱れる。 ヴォーカル入り。
  「Suite II」(11:30)

(Phillips 6305 193)

 Rhapsody
 
Thomas Schmitt violin, keyboards, electric & acoustic guitar, flutes, vocals
Rudolf Schön vocals
Ralf Flipper' Lippmann vocals, keyboards, electric & acoustic guitar
Cherry Hochdörfer keyboards
Cornelis Mitch' Fniesmijer drums
Götz Draeger bass

  75 年発表の第三作「Rhapsody」。 内容は、流麗なヴァイオリンと美しいピアノ、そしてヘヴィなオルガンをリードに繰り広げられる、名曲喫茶なクラシック・ロック。 バロックからロマン派まで、幅広いクラシック・スタンダードをふんだんにモチーフとした作品が揃っている。 BEGGERS OPERA のような初期型クラシック・ロックよりも優れているのは、ヴァイオリンの演奏がかなり本格的であることと、音にモダンな明るさがあることか。 もっとも、コーラスを多用するポップ・チューンの甘過ぎない渋くくすんだ味わいは、共通している。 もちろん、ピアノとヴァイオリンによる演奏は、前世紀を思わせる古式ゆかしいソナタ調だ。 そして、アグレッシヴなハモンド・オルガン、クラシカル・ロックの醍醐味たる重厚なチャーチ・オルガン、濃厚なロマンティシズムを湛えるヴォーカルらとともに、ギターやリコーダーによるみごとなアコースティック・アンサンブルもある。 おもしろいことに、クラシカルな演奏のみならず、エレキギターとすさまじい音のシンセサイザー/エレピによる泣きのハードロックですら、ロマン派かくあるべしといった趣の濃厚な情感が満ちている。 さらには、芳しき世紀末のサロンやキャバレエを思わせる、退廃的にしてユーモラスな演奏も盛り込んでおり、まさに無声映画専門の楽団の如き多彩な表現が楽しめる。 インチキ・クラシック・プログレと思って聴くと、あまりに本物なプレイが次々と現れて、息を呑みます。 キーボードを多用したハードロックとしても楽しめる。 1 曲目の終盤は、バッハのリュート組曲 BWV1001 からのフーガ。 最終曲は、おそらくスペインのフォリアをテーマとしたドイツらしいハード・シンフォニック・ロック。 R&B 調の中間部は異色。 プロデュースはコーネリアス・ハダラ。 ヴォーカルは英語。

  「Rhapsody」リストの「ハンガリー狂詩曲第二番」の翻案。バッハも交え、ロマンティックな主題と武骨な演奏の取り合わせの生む乱調美、ここに極まれり。
  「a) Frost Of An Alien Darkness」(9:24)
  「b) Wanderer」(2:31)
  「c) Can Can」(3:38)
  「Prelude」(3:18)
  「Desert In Your Mind」(6:18)
  「The Riot」(6:06)
  「Paris The Past」(8:10)

(SPALAX CD 4901)

 Only A Star
 
Thomas Schmitt violin, strings, Mellotron, synthesizer, flutes, vocals, vibraphone
Rudolf Schön vocals
Ralf Flipper' Lippmann vocals, electric & acoustic guitars, grand piano, electric piano, synthesizer, organ strings
Cherry Hochdörfer keyboards
Götz Draeger bass
Wolfgang Claus drums, vocals

  77 年発表の第四作「Only A Star」。 内容は、キーボード・サウンドと弦楽器をフィーチュアしたファンタジックなシンフォニック・ロック。 古色蒼然としたクラシック・アレンジ路線から、クリスチャン・ミュージックと見まごうばかりにメロディアスで優美な作品や、アメリカン・ポップス風のキャッチーな作品も盛り込んだ作品となった。 もちろん、クラシックの翻案がなくなったわけではなく「あちこち」に大胆に散りばめられている。後半にいくに従ってマンマになっている。 ヴァイオリンは変わらず活躍し、AOR 風の曲の間奏がいきなりヴァイオリンとハモンド・オルガンになって驚かされる。 バランスはよくないが憎みきれないハーモニーも健在。 キーボードを中心としたアレンジがいいアクセントになって曲を締めていると思う。 全体的には、ポップでコンテンポラリーな音を模索している最中という印象である。 スタイルによく合った 4 曲目「Across The Uiverse」は名曲。 クラシック翻案の 5 曲目「Disillusion」は力演。 プロデュースはコーネリアス・ハダラ。 ヴォーカルは英語。


(SPALAX CD 14902)


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