Al Di Meola

  スーパー・ギタリスト 「Al Di Meola」。 72 年、20 才で RETRUN TO FOREVER に参加以来、スーパー・ギタリストとしての道を歩む。 80 年代スーパー・ギター・トリオでの活躍も有名。 超絶的な技巧の裏付けに「弦を確実にとらえて弾いている」感がある稀有なギタリスト。

 Land of the Midnight Sun
 
Al Di Meola guitars, acoustic 6 & 12 string guitar, synth on 4, chime on 4, gong on 6
Steve Gadd drums on 1Lenny White drums on 2
Alphonse Mouzon drums on 5Chick Corea piano on 6, marimba on 6
Barry Miles electric piano on 2, mini-moog on 2Anthony Jackson bass on 1,2
Stanley Clake bass on 4Jaco Pastorius bass on 5
Mingo Lewis keyboards on 1, percussion on 1,2,4,5

  76 年発表の第一作「Land of the Midnight Sun」。 若きギター・ヒーローの誕生に相応しい錚々たる顔ぶれを揃えた作品である。 スリルとロマンにあふれる演奏を情熱的に全編で繰り広げる。 超絶的なスピード・プレイに独特なミューティングを交えるソロ、メカニカルなフレージングによるバッキング、メロディアスなプレイで見せる歌心、スパニッシュなアコースティック・ギターさばきなど、すでにギタリストとしての実力は十分だ。 同じく高速ピッキングを得意とするジョン・マクラフリンとの違いは暴走気味になってもレスポール特有の太く粒の揃った音になっているところ。 曲調が多彩でさまざまに楽しめる、70 年代のテクニカル・ジャズロック作品を代表する一枚といえるだろう。

  「The Wizard」(6:46)ギターが強烈に攻めたててドライヴ感あふれるジャズロック。 ラテン風のエキゾティックな香りがほのかに漂わせながら、キツキツの技巧を詰め込んで突っ走る。 ゆったりしたテーマを弾いてもドキドキの緊張感を感じさせるところがこの人の凄みである。 ハードロック・ギターのようにソリッドで太めの音色もいい。 うねるようなテーマ、ミューティングによるアドリヴ、込み入った反復フレーズを執拗にたたみかけるバッキングなどが得意なようだ。 ビジーなフレーズを折り重ねてたまった抑圧を一気に吐き出すカタルシスは、この時代のジャズロックならでは。 後半はシンセサイザーも現れてラテン・ジャズロックに宇宙的な広がりを付与し、いよいよプログレ然としてくる。 小気味のいいルイスのパーカッション、重戦車のようなガッドのドラムスがエンジンとして曲を支える。 ギターを大きくフィーチュアしたド派手なジャズロック・ナンバーの傑作だろう。 ミンゴ・ルイス作。

  「Land of the Midnight Sun」(9:10) 官能的でなめらかなギター・テーマが印象的なテクニカル・ラテン・フュージョン。 うねるギターのフレージングの呼吸で一気に惹き込まれる。 エレクトリック・ピアノのバッキングや緻密なドラミングなどは、RETURN TO FOREVER そのもの。 ギターは暖色系の豊かな音色と得意のミューティングで寛いだプレイを見せる。 ムーグとの若々しいフォープレイのようなかけあいもいい。 軽妙にして官能的である。 パーカッションの彩りでぎゅっと集中したリズムを解きほぐし、粘り気のあるライト・ファンク調も見せる。 クライマックスは、ミューティングでためたエネルギーを白夜の空に向けて解き放つギター・プレイ。 粘っこいリズムの上でギターが自由闊達、縦横無尽にキャンバスにイメージを描いてゆく。 やがてリズム・セクションは煮えたぎり、ギターとのスリリングな応酬を繰り広げると演奏は収束し、テーマへ回帰する。 テクニカルな緊迫感とスリルと華麗なテーマによる豊かな歌心が合わさった名曲だ。 ドラムスはレニー・ホワイトの方がガッドよりも派手。 デメオラ作。

  「Sarabande from Violin Sonata in B Minor」(1:20)ギター・ソロによるバッハのヴァイオリン・ソナタの小曲。 クラシック・ギターの教本に出てくるような選曲は、バークレイ卒を証明するためか。 演奏は無難なだけ。 ヨハン・セバスティアン・バッハ作。

  「Love Theme from "Picture of the Sea"」(2:25)小さなファンタジー。 甘くセクシーなトーンのギターの調べが緩やかなアンサンブルをリードする。 一夜の夢のように熱くはかない演奏だ。 エキゾチズムはやがて幻想になってゆったりと空気の色を変えてゆく。 アコースティック・ギターの伴奏も夜風のように涼やか。 つぶやきのような混声ヴォーカルが幻想性を強める。 タイトルの通り、いかにも一部だけを取り出したような内容だ。 デメオラ作。

  「Suite-Golden Dawn」三部構成の作品。 デメオラ作。
    「Morning Fire」(1:15)冒頭からスリリングなユニゾンをたたみかけるテンション MAX のジャズロック。 ハードなロック・マインドあふれるアグレッシヴな演奏だ。 もつれるようなユニゾンに巻き込まれて興奮する。 たかだか 1 分 15 秒がなんと濃密な時間であることか。
    「Calmer of the Tempests」(1:12)ゆるやかにうねるギターの調べ。ソフトなトーンで包まれた世界であり、ファンタジックにして洒脱。 ギターとベースがエロティックに絡みあう。
    「From Ocean to the Clouds」(7:22)小粋なファンク・グルーヴのあるジャズロック。 このノリの主役は、ミューティング・プレイとパストリウスのベース・プレイだ。 ギターは自由自在にリズミカルなフレーズを奏でて疾走と小爆発を繰り返す。 エレクトリック・ピアノとギターのかけあいは今となっては典型的なものだが、フュージョンという語感には合わない硬派なロック・スピリットがある。 最後まで軽妙でダンサブルな調子を変えずに進む。 抑制を通じてグルーヴを生む演奏の中でギターだけが無邪気にやりたい放題。 存在感のあるパストリアスのベース・プレイは、テクニカル・フュージョン・クリシェとして永遠である。

  「Short Tales of the Black Forest」(5:41) ピアノ、マリンバとアコースティック・ギターによる美しくもホットなアンサンブル。 初期 RTF にアコースティック・ギターが加わった感じ、あるいは、ブラジルの鬼才、エグベルト・ジスモンティの世界に近い。 火を吐くプレイの応酬から絶妙の呼吸で攻め、受けを演じ分けて熱っぽいファンタジーを描く。 ピアノはつむじ風のようなギターと丁々発止と渡りあい、ときに慈愛に満ちて柔らかく包み込む。 室内楽風のクラシカルなニュアンスが顔をのぞかせる瞬間もあり。 息詰まる緊張感と解放感が繰り返し現れてやがて絶頂。 コリア作。 デメオラといったときにまず思い出すプレイはここのアコースティック・ギターです。

(PC 34074 / CK 34074)

 Elegant Gypsy
 
Al Di Meola electric & acoustic guitars, percussion on 2, synth on 2,7Paco De Lucia acoustic guitar
Jan Hammer electric piano on 1,7, mini-moog on 1,7Barry Miles electric & acoustic piano on 2, 5, mini-moog on 5
Anthony Jackson bassSteve Gadd drums on 1
Lenny White drums on 2,3,5Mingo Lewis percussion, keyboards

  77 年発表の第二作「Elegant Gypsy」。 内容は、前作とほぼ同じメンバーに、スパニッシュ・ギターの名手パコ・デ・ルシア、MAHAVISHNU ORCHESTRA のヤン・ハマーを加えた、強力な布陣によるスペイン風味あふれるエキゾティックなジャズロック。 掟破りな技巧の切れとロマンティシズムが均衡した豊かな作品であり、その魅力は小賢しい完成度ではなく若々しく大胆な挑戦をする姿勢にある。 ただし、埋め草風の小品はいただけない。 もう一つでもいいから高密度の作品が用意できれば、さらになる名盤になったはず。
  少し脱線。技巧を凝らすことだけを希求する速弾きプレイには歌心や音楽性が感じられない、というような意見はたしかにある意味筋が通っている。 また、加齢とともにリスナーの鑑賞の仕方がそういう傾向を帯びてくること(老衰とも成熟ともいう)もあるだろう。 しかし、あえて本作のような音楽を大音量で聴いてみると、意外や胸の奥で眠っていたもしくは半分死んでいた何かが甦り、おちつきはらったはずの感性をグツグツとたぎらせ始めないだろうか。 弦もブチ切れよとピックを奥深くまで突っ込んで勢いまかせの速弾きをする姿は、死んだジジイが思わず起き上がりそうなくらいエネルギッシュで官能的だ。 おそらく美辞麗句やおためごかしに満ちた、フワフワした音楽や世の中にウンザリしたときに聴くべきなのはこの作品なのだろう。

  「Flight Over Rio」(7:15) RETRUN TO FOREVER そのものともいえる、フィエスタなシンコペーションで奏でる疾走感あふれるスパニッシュ・ジャズロック。 イントロ、アウトロのギター・リフやメイン・パートのへヴィ・ディストーション・ギター、ヤン・ハマーのミニ・ムーグなどは、BRAND X にもよく似ている、というかこの時代の典型的な音。 グルーヴと緊張感。

  「Midnight Tango」(6:17) SANTANA ばりの官能的なギターが冴える情熱のフュージョン。 バリー・マイルスの気品あるエレクトリック・ピアノもいい。 中盤は、得意のミューティングによる速弾き、そしてアコースティック・ギターとアコースティック・ピアノによってスペイン情趣あふれる展開となる。 もっとも、プレイは意外なまでにアッサリしている。(ストリングスが上品過ぎるのかもしれない) もっと濃密にコブシを効かせて迫ってもいいと思うのだが。

  「Percussion Intro」(1:10) ミンゴ・ルイスとレニー・ホワイトのデュオによるパーカッション・インプロヴィゼーション。

  「Mediterranean Sundance」(5:11) パコ・デ・ルシアとのデュオ。 デメオラもアコースティック・ギターにもちかえ、ミューティングを駆使した超絶的な速弾きを披露する。 名手の真っ向ぶつかり合いながらバトルという感じではなく、熱気とともに湧き出てくるのはあくまで物悲しいジプシーの歌である。 おそらく右チャネルがデメオラ、左がルシア。 パコ・デ・ルシアはこの時点ですでにフラメンコの大御所であり、ジャンルを超えたギタリストの挑戦状を受けて、堂々火花の散るようなぶつかり合いを見せている。 本アルバムの最初のクライマックスであり、この二人にジョン・マクラフリンを加えたスーパー・ギター・トリオの「Friday Night in San Francisco」にも収録された名曲中の名曲。

  「Race With Devil On Spanish Highway」(6:17) おそらくデメオラの代表作といっていい「スペイン高速悪魔との死闘」である。 本曲で、ついにデメオラのプレイは爆走ハードロック・ギターと化す。 ヘヴィなリフ、スピーディなソロ、ラテン色たっぷりの泣きのフレーズ、爆走するアドリヴ、超速ユニゾンまで、ヴァラエティ豊かなギター・プレイが突きつけられるのだ。 重戦車的なドラムスと唸りを上げるベースらによるパワフルな演奏は、MAGMAKING CRIMSON のようであり、その遥か上空をデメオラのギターが飛翔する。 おそらくデメオラは、ジャズをベースにしているがジョン・マクラフリンと同じくハードロック・ギターが大好きで、速弾きできればできるほどうれしいというタイプなのだろう。 楽曲そのものはほとんど枠組だけであり、超絶的なプレイを堪能すべき作品である。

  「Lady Of Rome, Sister Of Brazil」(1:45) 12 弦ギターだろうか、ライトゲージのアコースティック・ギターをオーヴァーダビングしたロマンティックで官能的なラテン小品。

  「Elegant Gipsy Suite」(9:14) 1 曲目同様 RETRUN TO FOREVER での経験を活かしたスペイシーなラテン・ジャズロック大作。 カラフルにしてハイ・テンションなアンサンブルを前面に押し出した組曲であり、デメオラ独特のミューティング、豪快きわまる重量級速弾き、エレクトリック・ピアノとベースの壮絶ユニゾン、個性的な超絶ミニムーグなど、見所満載だ。 強面で迫るだけではなく、メローな表現も巧みに演じて、いい感じのグルーヴを打ち出している。


(PC 34461 / SRCS 9181)

 Friday Night In San Francisco
 
Al Di Meola acoustic guitars
John McLaughlin acoustic guitars
Paco De Lucia acoustic guitars

  81 年発表の作品「Friday Night In San Francisco」。 80 年 12 月 5 日サン・フランシスコ、ワーフィールド・シアターでのライヴ録音。 内容は、超絶的なギター・プレイヤーによる遠慮会釈のないバトルである。 三組のデュオによる三曲とトリオによる二曲。 エレクトリック・ギターの寵児であったデメオラが、フラメンコの巨人との共演を契機にアコースティックなプレイへの目覚めを見せ、奇しくもジャズ・ギタリストとして過激な実験の果てにアコースティックな音にたどりついていたマクラフリンも惹き寄せて、スーパー・ギター・トリオを成り立たせ空前絶後の作品を残した。 オープニングはデメオラとルシアのデュオによる名曲「Mediterranean Sundance」。両者譲らず、ルシアはとことんえげつない。圧巻。 デメオラとマクラフリンの高速ジャズ・ギター・バトルは、「ピンク・パンサー」のテーマも飛び出すユーモアと緊張感が絶妙のバランスを見せる。 マクラフリンとルシアのデュオはエグベルト・ジスモンチ作の名曲「Frevo」。 一世を風靡しました。

  「Mediterranean Sundance / Rio Ancho」(11:31)ルシア/デメオラ。
  「Short Tales Of The Black Forest」(8:41)マクラフリン/デメオラ。
  「Frevo Rasgado」(7:55)マクラフリン/ルシア。
  「Fantasia Suite」(8:50)トリオ。
  「Guardian Angel」(4:00)トリオ。

(SICP 750)


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