AVE ROCK

  アルゼンチンのプログレッシヴ・ロック・グループ「AVE ROCK」。 72 年結成、作品は二枚。 オルガンと二本のギターによるハードかつ叙情的なサウンド。 荒っぽいユニゾンとエネルギッシュなアンサンブルが聴きもの。

 Ave Rock
 
Luis Borda guitar, vocals
Oscar Glavic bass, vocals
Osvaldo Caló keyboards
Federico Sainz guitar, vocals
Daddy Antogna percussion

  74 年発表の第一作「Ave Rock」 内容は、ヘヴィかつ俊敏なツイン・ギターのプレイとオルガンのクラシカルなプレイをフィーチュアした典型的な 70 年代前半英国風ロック。 ハードな音を使いながらも哀愁のメロディと過剰に劇的な展開のある、古き良き時代の演奏である。 飛び切りのソロではなくアンサンブル全体の調子の変化で聴かせるタイプであり、ギターやオルガンのジャズ/ブルーズ的なフレージングはアンサンブルのパーツとしてうまく機能している。 ヴォーカルと演奏の一体感もいい。 共感を呼びやすい自然な情動を巧みに構造として音楽に盛り込めているということだろう。 曲想も変化に富んでおり、オールド・ロック・ファンの鑑賞に長く耐えるものだ。
  サウンド面でまず語るべきは、オルガンの存在である。 オルガンの音が全体に豊かな厚みと広がりを付与している。 そして、このオルガンとベースも含めたギターらが、緩急の変化をつけつつ、ユニゾンにハモリに緊密なアンサンブルを構成している。 CRUCIS ほど緊迫感あるテクニカルなクライマックスこそないものの、演奏全体に安定したグルーヴがある。 ハードなプレイの応酬にピアノなどアコースティックな音を交えるのも巧みである。 そして、二つのギターのプレイ。 うねりを効かせたメロディアスなフレージングと小気味のいいコード・プレイで、オーソドックスながらも、ハードで性急なロックらしさの演出を一手に引き受けている。 またヴォーカルは、いかにもアルゼンチンのグループらしく、繊細な歌声でたおやかなメロディを歌い上げる「弾き語りフォーク」スタイル。 ラテン・ミュージックらしい、うっすらとした郷愁と官能への訴えかけがある。 このヴォーカルに象徴される叙情的な調子は全編を彩っており、オルガンやギターのハードなプレイにすらテクニックを越えた「歌」が感じられる。 本作品は、この「歌」をもったプレイを丁寧に積み重ねることによってできあがった音楽といってもいいだろう。 明快なフレージングとエネルギッシュに反応しあう器楽が生んだ、叙情的な傑作である。
  2 曲目の大作は、アルバムを代表するインストゥルメンタル。 変拍子を交えたスピーディなアンサンブルによる、屈折しながらも手馴れた感じの演奏が聴きものだ。 作風はイタリアン・ロックに近い。 4 曲目では、アコースティック・ピアノを使い、繊細な美しさを見せる。 6 曲目のリズミカルなロックンロールも、ピアノやギター、オルガンのリフで、演奏の表情を微妙に変化させている。 こういううまさが、飽きさせない要因だろう。 英国のホワイト・ブルーズ・ロックが渋味や哀感をメインに演出し、その分だけ感傷が爆発的に噴出するようなところがあったのに対し、こちらは、英国ロックの影響を受けつつも、もっとすなおに感情を現していると思う。 典型的なオルガン・ハードロックともいえる音がなぜか瑞々しい表情をもつのも、この辺りが理由かもしれない。 ラフながらも魅力の多い作品だ。 ヴォーカルはスペイン語。

  「Dejenme Seguir(Let Me Follow)」(6:46) ツイン・ギターのブルージーな絡みとジャジーなオルガンをフィーチュアした叙情的な歌ものハードロック。 コーラスも交えたヴォーカル・パートはスローなバラード。 サビではややヒステリックなハードロック調に変化し、間奏は、ミドル・テンポのアルペジオ伴奏で哀愁たっぷりに歌うギター・ソロ、ハードロック調の攻撃的なツイン・ギターによるインタープレイ、そしてクラシカルにしてジャジーなオルガン・ソロである。 バラードを軸にしてハードロック、ジャズ、クラシックまでをごく自然に行き交う演奏になっている。

  「Viva Belgica(Viva Belgium)」(13:24) 現代室内楽をロックでアレンジしたような技巧的なインストゥルメンタル大作。 スペイシーな点描にキメの一発が轟く衝撃的なイントロダクション。 凶暴なギターと荒々しいオルガンによる 8 分の 6 拍子の急き立てるようにリズミカルなリフ、それを受け止めるオルガンとギターの鋭い応酬。 8 ビートの短いブリッジをはさんで、忙しないやり取りが繰り返される。 8 ビートに戻して、ギターによるマイナーの泣きのテーマを一瞬はさむと、オルガンのざわめきに導かれてギターのコード・ストロークによる 8 分の 6 拍子のメジャーの奔放なリフが提示される。 一気に開放感が生まれる。 シンコペーションを利用した変拍子風の 8 分の 8 拍子の邪悪なリフで変化を付け、MUSEO ROSENBACH 風のオルガンとギターのユニゾンによるヘヴィでクラシカルなブリッジ。 再び 8 分の 6 拍子のメジャーのコード・ストロークが現れ、演奏はゆったりと広がり始める。 ここまで、3 拍子系と 2 拍子系が交差したつっかかるようなノリがあり、そしてスペイシーなオルガンが常に全体をうっすらと包み込んでいる。 開放感と閉塞感がくるくると入れ替わる。 オルガンとギターのハーモニーによるテーマと展開、ゆったりとしたアンサンブルと忙しないアンサンブルが、ギターのアドリヴをはさみながら、交互に繰り返される。 ここで、最初の 8 分の 6 拍子の急き立てるようにリズミカルなリフとギター、オルガンの応酬が再現される。 忙しないリズム・チェンジ、そして静まってゆく。 (6:26)
   オルガンが遠く空しくたなびくリズムレスのブリッジ。 シンバルのざわめきとベースのリフをきっかけに、小刻みなリズムが打ち出されて後半へ。 テクニカルなドラム・パターンとジャジーなベース・パターンの上で、ギターとオルガンが追い込まれるように険しく呼応し、シャープな演奏が次第に高まってゆく。 ギターとオルガンのユニゾンによる忙しないテーマの応酬と展開で暴れまわる。 イタリアン・ロックを思わせるアヴァンギャルドな演奏だ。 一転、ジャストな 8 ビートに切りかわってクランチなギターによる奔放なアドリヴを経て(ここはベースもカッコいい)、チェンバー・アンサンブルの倍速模倣のような演奏が続いてゆく。ギターとオルガンのユニゾンのテーマは荒々しいが、よく聴けば、クラシカルである。 テンション高くクライマックスへ上りつめ、前半に現れたソロ・ギターによるマイナーの泣きのテーマが再現する。 ギターのアドリヴとキメの連続、次第に高まるギターをオルガンが受け止めて、ブルージーなソロでエンディングへと流れ込む。 余韻はイントロと同じく幻想的だ。
   息詰まるように性急なアンサンブルを次々と打ち出しては緊張感を高めて突き進む奔放なインストゥルメンタル大作。 呼吸を整えるような緩急の変化が巧みである。 アヴァンギャルドで美しいというところはイタリアン・ロック似、ヘヴィな音だが緩いというところはジャーマン・ロック似である。

  「Gritos(Shouts)」(7:17) 狂乱する泣きのギターとワイルドなオルガンで迫る、どこまでもドラマティックなプログレッシヴ・ハードロック。 ギター、オルガン、リズムが一体となってハードなリフをたたきつけ、泣きのソロ・パートで救いの手を差し伸べる。 押し込めるようにハード・アタックな演奏と比して、ヴォーカル・ハーモニーは開放感が強く、デリケートで切ない。 序盤とエンディングで唐突に放り込まれる荒々しく性急な 8 分の 6 拍子のユニゾンは、いかにもな英国プログレ(イタリアもか?)の影響である。 一気に沸騰するプロローグ、スペイシーで虚脱感あるブリッジを経て、重厚厳粛なムードを盛り上げ、メイン・ヴォーカルで熱いパッションを解き放つ。 そして、その熱気はギターとオルガンに飛び火し、エモーショナルなプレイが次々と繰り広げられる。 このナチュラルかつ計算された展開もいい。 濃密だが若々しさにあふれるラテンのロックだ。

  「Ausencia(Absence)」(5:50) クラシカルなアコースティック・ピアノを活かしたフォーク・ソング。 けだるくもどこか清潔感のあるヴォーカル・ハーモニー。 寄り添うのは、水晶がささやくようにマジカルな 12 弦アコースティック・ギターとフルートのようなオルガンの調べ。 スライド・ギターは泉へ注ぎ込む小さなせせらぎの響きである。 牧歌的でありながら、異次元への扉をまたいでしまったような田園幻想というべき世界である。 アコースティック・ピアノによるプロローグ、ブリッジが異世界へ誘う魔法の呪文である。 オルガンのハイ・トーンにしてもスライドギターにしても、その深いリヴァーヴにどうしようもない懐かしさにあふれている。 メイン・ヴォーカルはラテン風味だが、全体の雰囲気は英国フォークやドイツ・フォークロックに通じる、冷ややかなファンタジーである。 ドラムレス。CELESTE ってこういう感じだったっけ。

  「El Absurdo Y La Melodia(The Absurd And The Melody)」(7:27) シンプルなロックンロールをジャジーにクラシカルに膨らませ、シンフォニックに高めた力作。 冒頭からヴォーカルが珍しくシャウト・スタイルを見せる。 軽快なロックンロールをベースにするも、これでは 7 分はもたない。 B メロはやはりたおやかなバラード調となり、間奏ではオルガンもギターも一気にジャジーに変化する。 ノー天気ロケンローが復活するも、もはやブリッジとして機能させていることは明らかである。 シャンソン調のピアノに導かれ、ファズ・ギターやリズムセクションが荒々しくもセンチメンタルな表情を見せ、やがてオルガンのリードで、アンサンブルは性急な反復とともに捩れてゆく。 すでにロケンローは忘れ去られたようだ。 再び、メローなリード・ヴォイスの歌唱とともに、オルガンが厳かに高まり、ギターが朗々と歌い、リズムも悠然と駆け上がってゆく。 雄大なシンフォニーとなってのエンディングである。 シンプルなロックンロールを素材にしたリミックス・ヴァージョンのような作品である。

(PRW 029)

 Espacious
 
Federico Sainz guitar, vocals
Oscar Glavic bass, vocals
Alfredo Salomone acoustic & electric piano, hammond organ, mini moog
Francisco Arregui guitar, vocals
Hector Ruiz drums, percussion

  77 年発表の第二作「Espacious」 リードヴォーカル兼ギタリストおよびベーシスト以外の三人がメンバー交代。 アルバムは、インプロヴィゼーションをたっぷり交えた、想像力を刺激する劇的な大作を中心としたプログレらしいものとなっている。 この構成だと、おそらく、トータル・コンセプトのあるアルバムなのだろう。 演奏は、ほぼ前作同様、優美なヴォーカルと痛快な弾き捲くりギターを軸に、ギター同士、ギターとベース、ギターとキーボードがすばやい反応を見せながら、自由な発想でさまざまなプレイを繰り広げるもの。 クラシカルな繊細さを見せる場面から、雄大な広がりのある場面、サイケデリックなフリー・フォームのプレイまで、極端な緩急をつけながら、インストゥルメンタル主体で突っ走る。 即興性が高いだけにムラもあるが、ギターとベース、キーボードはスピーディに呼吸よく反応し合っている。 ゆったりとするパートでのキーボードによるスペイシーな演出も、音こそやや古めかしいが、文脈として適切だし、忙しなく音を積み上げるラウドな演奏とゆったりとしたソロやヴォーカルとの緩急の落差も係り結びとしては自然であり効果的である。 個々の音の要素はハードロックだが、ベース、ギター、キーボードを立体的に組み上げた演奏は、初期 YES のようなシンフォニック・ロックという表現が合う。(実際、スタイルはかなり影響を受けている) あえて文句をつけるなら、ドラムスが手数のわりには安定感がなく、演奏の歯切れがやや悪いこと、曲全体の筋書きが分かりにくいことぐらいだろう。
   全体としては、初期のYES 含め 70 年代初期の英国プログレ、スウェーデンの DICE、オランダの FINCH に通じるサウンドであり、アルゼンチン・ロックらしい繊細なヴォーカルもしっかりと活かされた作品である。 現行 CD は盤起しのためか、音質は今一つ。 前作もそうだったが、青色が基調のジャケット、LP サイズで見てみたいものです。

  「Pausa En Espacious(Pause In Spaces)」(21:13)田園風のゆったり、たおやかな歌と音数の多い尖った器楽(ベースのプレイや走り気味のギター・ソロはどうしたって YES を思い出す)を大袈裟にコントラストさせながら、自信たっぷりに進んでゆく。 このぎくしゃくとした感じもまたプログレらしいというべきだろう。 また、そもそもこういう情熱的な演奏には理屈を越えた感動がある。 後半の幻想的なフリー・フォームのパートには、時代をさらに遡った、60 年代末のアートロックのイメージがある。

  「4.30 En El Universo(4.30 In The Universe)」(4:45)伸びやかなヴォーカル・ハーモニーが活かされたアコースティックな歌ものが、モダンジャズ調のギターやオルガンに彩られるうちに、サイケデリックな幻想に巻きこまれてゆき、熱く高まってゆく。 メンラコリーと情熱の交差は、イタリアン・ロックにありそうな展開だ。

  「Surcos En El Aire(Furrows In The Air)」(15:20)クラシカルなピアノに導かれて、情熱的な歌、そして、1 曲目よりも若干キャッチーな、しかしプログレなアンサンブルが走る。大胆にスケール・アウトするギターがイイ感じだ。ドラムスに煽られるように無茶に音を詰め込むプレイが多いだけにメロディアスなソロが光る。オムニバスもしくは奇想曲風に展開するため、ドラマがある感じはしない。歌詞が分かるとまた違うのかもしれませんが。 やはり YES 化したといっていいんでしょう。

(PRW 030)


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