アメリカのジャズロック・グループ「BOUD DEUN」。 94 年結成。 99 年解散。 作品はライヴ盤一枚を含めて四枚。 ヴァイオリンをフィーチュアしたラフでヘヴィな変拍子ジャズロック。 ギタリストは解散後 FRENCH TV のアルバムに参加し、現在はアコースティック・デュオで活動中。
Shawn Persinger | guitar |
Matt Eiland | bass |
Rocky Cancelose | drums |
Greg Hiser | violin |
95 年発表の第一作「Fiction And Several Days」。
内容は、ヴァイオリンをフィーチュアしたエネルギッシュなジャズロック。
ハイ・テンションをキープしたままの弾き捲くりとめまぐるしい展開でリスナーの緊張の糸を引き伸ばしたままグイングイン振り回すスタイルである。
各楽器のアドリヴそのものはさほどではないが、組み合わさったときのヤケッパチ気味の勢いと熱気がすごい。
そして、パワフルなジャズロック調に現代音楽風のアブストラクトなフレーズや変拍子の反復パターンなどを積極的に盛り込んでいる。
複雑なスコアをパンク的な能天気さと闇雲さでかっ飛ばしており、構築性よりも一発芸のカッコよさと活きの良さがあるところにロックやジャズの精神性が表れている。
荒っぽく頭悪そうなのだがかなり込み入った楽曲をクールに決めていることなど、技巧という点では「トンデモナイ」人たちのようだ。
70 年代の先達が打ち立てた正攻法のジャズロック的スリルの連続の中に、オルタナティヴ系の反則技が散りばめられているところが新しい。
作風は、後期 KING CRIMSON 的変拍子ポリフォニック・ミニマル・ミュージックから室内楽風、アグレッシヴな MAHAVISHNU ORCHESTRA 調ハードロック調まで幅広いが、エネルギッシュでテンパリっ放しという点で一貫している。
曲展開には一癖あり、先はなかなか読めない。
音楽的な気難しさが一筋縄ではいかない感じである。
その一方で、テクニカルな弾き倒しモードにほんのりコミカルなタッチや脳天気さが出てしまうところが、いかにもアメリカの若者による作品らしい。
バカではないが演奏バカであることは間違いない。
特徴的なのは、軽やかに演奏を牽引して華やかに飛翔し、時にカントリー・フィドル・タッチで祝祭的な演出も怠りないヴァイオリン、複雑なフレージングとともにサブやバッキングの役割をきちんとこなせる堅実なギター、これらのユニゾンと込み入ったアンサンブルなどなど。
リズム・セクションも乾いたアタックがカッコいい逸材である。
シリアスになりそうなところでも演奏の勢いとスピードが雰囲気をひっくり返してしまうこともしばしばだ。
ヴァイオリンを用いたジャズロックということで当然のように MAHAVISHNU ORCHESTRA や DIXIE DREGS らとの比較が語られるが、これら 70-80 年代の大家と比べると、こちらはパンク・マインドやガレージ色が強く、また、クラシカルなアプローチもある。
偏執的なポリフォニーや小気味よい突っ走り感など 後期 KING CRIMSON に端を発すテクニカル・ロックやアメリカ産のオルタナティヴ・ロックの影響の方も大きいのではないだろうか。
全曲インストゥルメンタル。
次作とくらべると、若干の手探り感あり、というか次作で爆発する。
1 曲目「Sleeping Again」(4:51)
2 曲目「Continued」(2:37)
3 曲目「Making Circles/This Is」(6:54)
4 曲目「Swimming For Help」(3:05)
5 曲目「Smoking In Japan」(5:04)ソロ・ベース、鬱なヴァイオリンをフィーチュア。
6 曲目「Calvin's Lost His Head Again」(3:15)
Calvin は「Calvin and Hobbs」だね。(と思ったらギタリストの息子の名前らしい)
7 曲目「The Drift」(3:12)
8 曲目「Drake #7」(4:28)
9 曲目「Boud Deun」(7:19)
(EHP 020)
Shawn Persinger | guitar |
Matt Eiland | bass |
Rocky Cancelose | drums |
Greg Hiser | violin |
97年発表の第二作「Astronomy Made Easy」。
内容は、ヴァイオリン、ギターを中心にしたガレージ系ジャズロック。
前作を経て、完全に吹っ切れた感じである。
爆発力あり。
変態的なギター・フレーズ、ヴァイオリンを巻き込んだ痛快ユニゾン、ポリフォニックなギターとヴァイオリンのもつれあい、妙にかっちりした変拍子アンサンブルなどなど、アイデアとライヴで培ったらしき演奏力をフル回転させて、クライマックスのテンションを維持したまま、ノンストップで突っ走っている。
叩きつけるようにパンキッシュなノリは、ストリート系のリズム・セクション(特に、スネアひっぱたきドラムス)にもよるのだろう。
過激だがもったいぶった様式はなく、いわゆるハードともへヴィとも違う。
そして少しバカっぽい。
この辺もパンク風に感じる所以だ。
それでいて、込み入ったアンサンブルや変拍子パターンに眼を廻しつつ、解きほぐすおもしろさも提供している。
曲の中での気まぐれ風の変転も特徴といえるが、当たりはずれが大きく、打率はあまり高くない。(ほぼ即興に近いのだとすると、それでもすごい打率だが)
全体に、いわゆるフュージョン / ジャズロックというくくりよりも、東欧あたりに多いパンク系のチェンバー・ロックに近い音といっていいだろう。
また、これだけライヴのようなスタジオ盤プロダクションというのも珍しい気がする。(単にお金かけてないだけか)
ヴァイオリンのプレイには意外なほどカントリー・フィドル味はなく、どちらかといえばヨーロッパのロマ/ジプシー系(ラカトシュみたいな)に近い。
KING CRIMSON のデヴィッド・クロスや MAHAVISHNU ORCHESTRA のジェリー・グッドマンを意図的に真似ているようなところもある。
1 曲目「December 17th」(3:22)
2 曲目「Good King Friday」(2:38)
3 曲目「Spiders」(4:57)珍しく全体の勢いよりもパートごとの音の立ち姿がカッコいい佳作。
4 曲目「Sleeping」(1:17)ギターとヴァイオリンの安らかで、少しかわいいデュオ。
5 曲目「Neither」(2:54)XLEGGED SALLY ばりの炸裂チューン。
6 曲目「Copper Ink」(9:51)全速でぐねぐねと捻じれ捲くる大作。エキゾティックで変なパターンを次々と打ち出しては放り出し、やりたい放題。ソロもあり、やっつけ風なわりには詩的な瞬間も訪れる。
7 曲目「Conversations With Ellis」(3:43)GENTLE GIANT 風の変な曲。
8 曲目「Coal Boxes And Daisy Cutters」(3:35)饒舌でへヴィなジャズロック。カッコいい。やはり少し XLS 風。詰め込んできます。
9 曲目「Lincoln」(5:23)ヴァイオリン・ブギー。珍しくカントリー・フィドルっぽい。
10 曲目「Jupiter」(7:42)サイケなワウ・ヴァイオリンと HM ギターによるエネルギッシュな変拍子ロック。
ピチカートやベースのミュートなど変な音がいろいろ。ドラム・ソロもあり。
11 曲目「The Miller's Tale」(1:18)
12 曲目「The Quince Tree」(5:07)
(RUNE 91)
Shawn Persinger | guitar |
Matt Eiland | bass |
Rocky Cancelose | drums |
Greg Hiser | violin |
98 年発表の第三作「A General Observation」。
初のライヴ・アルバム。
スタジオ盤も一発録りで加工なしのようだったので、サウンド面ではライヴになっても大きな変化は感じられない。
(むしろスタジオ盤よりもミックスなどバランスがいい気がする)
個々の楽曲のパフォーマンスはスタジオ・テイクよりもテンション高く、ストリート系ジャズロックの面目を施している。
アブストラクトなフレーズが折り重なる中、常にパンチの効いた主張があり、その主張の下に一直線で迫る勢いがある。
そして徹頭徹尾けたたましい。
デカイ音はロックの基本の一つである、とフランク・ザッパがいっている(と思う)が、まさにそのツボをおさえたパフォーマンスである。
クールな無機性が一転して白熱のインタープレイへと昇華する快感。
やはりこういうグループはライヴが本物か。
重量感はさほどではないが、やんちゃなようでいて渦を巻くようにしなやかな演奏である。
「Copper Ink」(10:10)第二作より。MAHAVISHNU のように勿体ぶらず、いきなり全開でぶっ飛んでゆく。
思いつきのままのやっつけギター・ソロもガレージ・パンク風のドラムスも悪くない。即興からの集中と発展の仕方は KING CRIMSON や MAHAVISHNU ORCHESTRA をよく研究していると思う。
「Raniliegh Gardens」(2:18)見知らぬ国のトラッド・フォークか。攻撃的なアンサンブルをリリカルなヴァイオリンが貫く。
「Sleeping Again / Hespheria And Phelan」(7:32)第一作より。危うい均衡を感じさせる変拍子チューン。
「Hartford's Coffin」(5:31)
「Spiders」(4:44)第二作より。
「Lincoln」(5:28)第二作より。
「Two Words」(5:18)第四作より。
「Jupiter」(9:57)第二作より。
「The Quince Tree」(5:03)第二作より。
「Smoking In Japan」(4:54)第一作より。
(EHP 021)
Shawn Persinger | guitar |
Matt Eiland | bass |
Rocky Cancelose | drums |
Greg Hiser | violin |
98 年発表の第四作「The Stolen Bicycle」。
内容は、ギターとヴァイオリンのインタープレイを軸としたけたたましく荒削りなジャズロック。
今回は、40 分にわたる組曲に挑戦している。
そこでは、必然的に、ごり押し一辺倒ではなく叙景的な、緩急、粗密のある演奏になっている。
しかし、素に戻れば、やはり爆発的な勢いでいきり立って迫るスタイルになる。
80 年代 KING CRIMSON の即興を少しパンク気味にしたような、メタリックで凶暴なおかつこんがらがったプレイと MAHAVISHNU ORCHESTRA に通じる天井知らずのハイ・テンション・プレイが全開になるのだ。
その素に戻るときの痛快さのカタルシスを強めるために、メリハリをつけることを学んだのだろう。
食いやタメなどプレイヤー間の呼吸が非常によく、スタジオ盤にもかかわらずスリリングなライヴの熱気にあふれている。
地を揺るがせながら這いずるリズム・セクションも超絶を超絶に聴こえさせない堅実さ、安定感をもっている。
アメリカのグループだがヴァイオリンを中心とした演奏にカントリー色はほとんどなく、どこまでもアブストラクトで実験的な現代音楽調である。
(逸脱の果ての巧まざるユーモアが吹き出すところはある)
そして無調の現代音楽でありながら、バンドのアンサンブルは室内楽と同等に音と音の間に有機的な連携がきちんとできている。
このダイナミックな連携こそがこのグループの音楽全体を魅力的にしているのだと思う。
この演奏で楽しめるリスナーはかなり限定されるだろうが、ハマる人は徹底的にハマるだろう。
緻密で意固地なインストゥルメンタル主義を貫いた作品ともいえる。
それにしてもスリーヴに載っているアレゴリーというには可愛らしすぎるお話は、何か深淵なる意味合いがあるのでしょうか。
全曲インストゥルメンタル。
「Waterford」(4:01)
「Ralis」(3:01)
「Churches」
「Belfast」(2:07)
「Saints」(3:27)
「Cotton's Sermon」(1:53)
「No River Deserves A King」(1:10)
「7a)Ten Pence / 7b)Bridges」(4:05)
「A Terrible Accident」(1:37)
「9a)Orlando / 9b)Jacks」(3:01)
「Burnsville」(2:51)
「The Last Of A Thousand Days」(3:05)
「A Famous Rabbit」(2:44)
「Lantern Effect」(2:12)
「Desperate Albert Sloop」(1:44)
「Train, Rain, Zero」(2:14)
「16a)A Horseshoe Invasion / 16b)A Church In York」(4:21)
「Broken Spokes」(4:45)
「Two Words」(5:50)
(RUNE 111)