スイスのプログレッシヴ・ロック・グループ「BLUE MOTION」。 CIRCUS を脱退したフリッツ・ハウザーが、同グループのキーボーディストとともに結成。作品は一枚のみ。
Stephan Ammann | keyboards |
Stephan Grieder | keyboards |
Fritz Hauzer | drums, xylophone |
80 年発表の「Blue Motion」。
内容は、ダブル・キーボードとドラムスのトリオによる、テクニカルかつハイ・テンションの現代音楽調キーボード・ロック。
変拍子を駆使した厳格なプレイを交えた緻密なアンサンブルによる高度な演奏だ。
キーボードは、クラシカルなアコースティック・ピアノ、ワイルドなオルガンを主に、シンセサイザーとエレクトリック・ピアノも用いる。
ハウザーの音楽志向か、変則編成のせいなのか、音に険しく冷徹な質感があり、攻撃的なプレイや叙情的な演奏ですら、音は冷ややかで硬質そのものだ。
エンタテインメントというよりはアートであり、アカデミックな気風も感じられる。
即興的な面も強いため、はっと耳をそばだたせるようなフレーズや展開が必ずしも多くはない。
しかし、アンサンブルがまとまりを見せたときの爆発的なカタルシスは、いわゆるキーボード・ロックのそれであり、ファンには垂涎ものであるのも間違いない。
全編インストゥルメンタル。
80 年 10 月 1 日および 2 日、スタジオ・ライヴ形式での録音。
1 曲目「Stromboli」(14:24)
ロマン派風のピアノ、オルガンのユニゾンによるクラシカルな反復に、ドラムスが挑戦的なアクセントをつけるオープニング。
2 拍子系のキーボードに対して 3 拍子のリズムでドラムスが絡む。
いきなり爆発的なテンションをもつ演奏である。
変拍子で沸立つピアノ、ドラムスの上で、メロディアスなオルガンがリードする。
オルガンのテーマは、無機的な響きが不気味だ。
オルガンのリフレインが沈み込むと、リズムはシャープな 8 ビートへと進む。
エレピ伴奏でオルガンによるクレシェンドを活かしたパッセージが続く。
続いて、クラシカルな教会風のオルガンがリード。
熱いオブリガートがカッコいい。
ドラムスは、ジャスト・ビートで緻密な演奏を見せる。
鮮やかな指捌きが EL&P を思わせるオルガンのプレイ。
挑戦的なリフレイン/速弾きにメロディアスなプレイを巧みに交え、ミステリアスなムードのソロが続く。
再びオープニングのアンサンブルを経て、章を改め、クラシカルなオルガンのオスティナートとハイハットの連打が続く。
互いに次の展開を待ち受けるような演奏だ。
ベース音とともに、一方のエレピがジャズ風のアドリヴを始める。
ライド・シンバルの連打に高まる緊張。
クールにして邪悪な表情もある、スリリングな演奏である。
エレピを引き継ぐのは、シンセサイザー・ベースのリフレイン。
ドラムスもスネアへの鋭い打撃で応酬し、次第にアドリヴ的な打撃による主張を始める。
応じるはベースのリフのみ。
そのドラムスに刺激されたかのように、メロトロンが地の底から湧きあがってくる。(7:25)
身もだえするような緊張を孕む長いクレシェンドを経て、一気にクライマックス。
頂点での凄まじい一撃は爆発音のよう。
オルガン、ピアノ、ドラムスが轟音を立てる。
爆撃の跡に立ち上る硝煙のようなさまざまな音の余韻。
きな臭い抽象的な音の断片が散らばる。
現代音楽風のピアノが静かに立ち上がり歩みだす。(9:03)
しかし、一気にオルガンのリードで演奏が走り出す。
虚を突かれ対応しようがない。
これは完全に暴走である。
オルガンはピッチが不安定な独特の音。
ピアノも重厚な音で荒々しく伴奏する。
華々しくも破綻寸前のオブリガート。
せきたてるようなドラムス。
ピアノ、オルガン、ドラムスが一体となって突っ走る。
狂乱の巷を一気にリタルダンドで沈め、ピアノの和音が高鳴り、荒々しいフォロースルーが渦を巻く。
後に残るは、ねじれ迸るノイズと凶暴なオルガンの調べ。
オルガンは荒々しくも教会風の厳かな調子をもち、朗々と歌い上げ、そして時おり邪悪な表情で牙をむく。
オルガンは高まり沈み込みを繰り返し、次第に去ってゆく。
シンバルの一撃。
強烈なプレイの応酬で迫る、疾走感あふれる攻撃的大作。
クラシカルなオスティナートのもつ不気味なパワーを活かし、現代音楽風の抽象的なアンサンブルを凶悪な表情へと捻じ曲げてゆく。
中盤、一瞬緊張感を失い(ややジャズ風の展開を見せる)宙を漂うも、華麗なオープニングからシリアスなアンサンブルを経て、暴力的疾走へと飛び込む。
鮮やかな展開だ。
特徴的なのは、オルガンのプレイと本格的なピアノ、あまりに多彩なドラミングなど。
印象的なメロディこそないが、圧迫感ある音の洪水という意味では、本作を象徴する内容といっていい。
THE NICE 系のオルガン・ロックをぐっとモダン・クラシックへと接近させた傑作だ。
ステファン・アマンの作品。
2 曲目「FingersT」(00:35)
モーダルなピアノ・ソロ。
落ちつくところのない不安。
傾いだ風景の BGM。
ステファン・グリーダーの作品。
3 曲目「Moontales W」(2:29)
オルガン・ソロによる厳かなバロック風小品。
宗教的瞑想を思わせる静謐で謎めいた響きである。
諦念と無常感、そして静かな哀しみ。
ラストの不協和音の響きは、宗教的法悦にいても不安に揺れる人間の心を現すようである。
ステファン・アマンの作品。
4 曲目「Motions」(0:34)
木琴によるユーモラスなソロ。
複雑なリズムとあえて安定を避けるような進行。
フリッツ・ハウザーの作品。
5 曲目「FingersU」(0:47)
素早いパッセージが高く低く飛び交う現代音楽、もしくはフリー・ジャズ風のピアノ即興演奏。
通常の脈絡は破綻するも、ピアノの素の音色が活かされており不思議と美しい。
ステファン・グリーダーの作品。
6 曲目「Blue Motion」(2:58)
打楽器とピアノが互いの様子を伺うような素振りを見せる密やかなオープニング。
次第にピアノが低音からゆっくりと湧き上がり、点描風のプレイを見せると、それに応ずるようにメタリックなストリングス・シンセサイザーが流れ出す。
宇宙/星の脈動をイメージさせる演奏だ。
ピアノとシンバル、シンセサイザーが互いに背を向けるような対話を続ける。
ピアノは美しくも儚い歌を奏でる。
シンセサイザーに重なる笛のような音は、トーンを操作したオルガンだろう。
メロトロンのようなニュアンスである。
再び宇宙的な広がりが生まれる。
瑞々しい幻想に耽美な翳りも感じられる即興曲。
グループの作品。
7 曲目「31/8」(2:20)
深い残響が豊かなピアノのアルペジオ。
反復を経て右手はトリルを主にさまざまな旋律を絡めてくる。
悲劇的な重さがある。
タイトルは 31/8 だがリズムは 10/8 のようだ。
ステファン・グリーダーの作品。ピアノ・ソロ。
8 曲目「Stonehenge」(12:02)
変拍子を強調した、パーカッシヴかつ魔術的な EL&P 風の作品。
変拍子パッセージ/リフで緊張感を高め、抑え切れずに噴出するように次の展開へと移ってゆく。
一体感のあるパーカッシヴな演奏スタイルは、どうしたって EL&P である。
(もっとも、キース・エマーソンはこれを一人でやるのだからすごい)
ピアノは徹底してビートをキープし、ドラムスは激しくも緻密で計算されたプレイ。
キーボードとパーカッションそれぞれが全力を出し切った非常にスリリングな演奏といえるだろう。
悠然たるピアノを迎えるエンディングは感動的。
ステファン・グリーダー作曲。
9 曲目「MoontalesT」(1:37)
ローズ・ピアノとオルガンによる暖かかみある小曲。
音色や和音はジャジーな AOR タッチ、ただし、どことなくクラシカルな趣もある。
ステファン・アマンの作品。
10 曲目「Motions」(1:33)
規則的に刻まれるタムとフリーなドラミングが緊張を呼ぶドラム・ソロ作品。
いわゆるロック・ドラムスのソロではなく、打楽器を用いた一つの曲である。
硬質でとげとげしい音だ。
フリッツ・ハウザーの作品。
11 曲目「Parking」(1:16)
美しく叙情的なピアノ・ソロ。
寄せて返す波の泡立ちのように一瞬の幻想へ誘う。
印象派風ながらも、熱いロマンも感じられ存在感あり。
ステファン・グリーダーの作品。
12 曲目「Slow Motion」(4:23)
夢見がちで頼りなげなエレピのリフレイン。
美しくもよるべない寂しさがある。
ハイハットのビートが時計のように刻まれ、フルートのようなシンセサイザーがうっすらと通り過ぎてゆく。
シンセサイザーとエレピが微かに交差する。
ひずんだクラリネットのようなシンセサイザーが、むせび泣くように湧き上がっては、去ってゆく。
突如打ち鳴らされるドラムス、オルガンらの轟音。
そして、再び寂しげな演奏が続く。
どこまでも続くハイハット。
一人でどこかへ放り出されたような、寂しげで頼りなげな作品。
ふらふらと浮遊し、立ち止まっては涙に暮れる。
決めの轟音は変化のなさに対する苛立ちだろうか。
ステファン・アマン作曲。
大作二つと小品から構成されるアルバムである。
大作は、冷徹緻密にして熱狂的なキーボード・ロック。
スリリングでエネルギッシュなアンサンブルを堪能できる。
特徴は、変拍子を駆使した演奏とせわしない場面展開。
そして、正確かつ稠密なドラミングがあらゆる場面で現れ、タイム・キープから煽るような鋭利なフィルまで、多彩な技で主導権を握る。
現代音楽のパーカッショニストとして活躍するだけあって、技術はべらぼうだ。
キーボードは、ピアノ、オルガンを主にしたプレイにシンセサイザーをアクセントとして効果的に使っている。
クレジットからすると、ステファン・グリーダーがピアノを担当し、ステファン・アマンがオルガン系を担当しているようだ。
巷のキーボード・ロックのイメージと違ってソロよりもアンサンブル重視の一見地味なスタイルだが、一瞬にして単なるテク見せ合戦を超越した緊張感ある世界が開けていく。
みるみるうちに白熱してゆくのだ。
かたや小品は、クラシックやアヴァンギャルド・ミュージックに通じるユニークなものばかり。
1 分に満たない作品が鮮烈な印象を残す。
SFF や ISLAND に匹敵するテクニカル・キーボード・ロックの傑作。
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