スイスのプログレッシヴ・ロック・グループ「ISLAND」。 70 年結成。 76 年解散。 唯一作は、後のチェンバー・ロック的な要素を先取りしたミスティカルなシンフォニック・ロック。
Benjamin Jager | lead vocals, percussion |
Guge Jurg Meier | drums, gongs, percussion |
Peter Scherer | keyboards, pedal-bass, crotales, voices |
Rene Fisch | sax, flute, clarinet, triangle, voices |
77 年発表のアルバム「Pictures」。
内容は、サックス、キーボード、パーカッションという特異な編成による、インストゥルメンタル主体のシンフォニック・ロック。
現代音楽にフリー・ジャズを加味したような、恐るべき作風である。
シンフォニックでありながらも、邪教的、ディオニソス的な暗黒のイメージに満ちており、ロック室内楽、つまりいわゆるチェンバー・ロック的な性格も強い。
演奏は、メロディアスながらも凝ったテーマと偏執狂的なユニゾン・ライン、さらには、対位的なアンサンブルと変則的な拍子による精緻な作りである。
演奏の中心はキーボードであり、敏捷なハモンド・オルガン、重厚きわまるピアノ、そして不気味な ARP シンセサイザーなどが綿密なシナリオにしたがって駆使される。
ベーシストが担うべき低音部もキーボードのペダル演奏となっている。
また、サックスはアンサンブルではキーボード、パーカッションと対比するラインの役割であり、レガート、スタカートも意図的に他の楽器とは反転させているようだ。
また、ヴォイスとともに旋律部を担うと、基調がパーカッシヴな演奏なだけに、その存在感は一層強まる。
深淵の如く黒々とした演奏において、このサックスとヴォイスが嘘のように輝かしく響き、かえって不気味であり非現実感が強まる。一方、パーカッションは、いわゆるロック的なビート感は皆無であり、クラシカルな打楽器としてアンサンブルに加わっている。
この、精密機械のように音を刻むパーカションのプレイだけでも、かなり楽しめる。
エキセントリックな清潔感を漂わすヴォーカル、そのヴォーカルとともにテーマをリードするサックスなどの管楽器、さらには、緻密なドラミング、ギターレスの演奏など、同国の CIRCUS との共通項は多い。
しかし、大きな違いは、多彩きわまるキーボードの存在(とはいえ、サウンドそのものが活発に自己主張するというよりは、そそり立つ精密機械のような威容としての存在感なのだが)である。
精緻なアンサンブルとサウンド面から、SFF との共通性もある。
5 曲目を代表に、すべての音が一つに収斂しエネルギッシュに高まるかと思えば、急転直下、拡散/無秩序へと落ち込むなど、過激な変化をするが、即興/自発的な演奏のようでいて自然なドラマがあり、やはり綿密なシナリオ/スコアの存在が感じられる。
必要な音をストイックにくみ上げてゆく姿勢が、リスナーにも緊張を強いるタイプの音であり、VAN DER GRAAF GENERATOR の「Pawn Hearts」の世界を純技巧的に推し進めたイメージもある。
あえて悪夢をなぞり直すような曲展開には、アーティスティックな矜持とともに、青年期独特の神経症的な感性も見られる。
まさに、早熟の才能群が生んだ、孤高のチェンバー・シンフォニック・ロック。
ジャケットのイメージそのものの音です。
録音は、イタリア・リコルディ・スタジオ。
そして、プロデュースは、P.F.M をてがけたクラウディオ・ファビ。
ジャケットは、もちろん、エイドリアン「頭脳改革」ギーガー。
KING CRIMSON、MAGMA、UNIVERS ZERO ファンへはお薦め。
「Introduction」(1:26)名前とおりクラシカルな序奏。無限の波乱を予兆する。
「Zero」(6:13)輝かしいピアノのリフレインを狂言回しとするジャジーな変拍子チューン。
サックスがメロディアスに妖しく迫る、緊迫感あふれる作品だ。
「Pictures」(16:50)内的沈潜ともいうべきロマンティシズムと偏執的な熱狂が交錯する代表作。
甘めの声質ながら呪術的でエキセントリックな表現も操るヴォーカルをフィーチュアする。
スタカートの変拍子テーマ、スキャット、メロディアスなサックス、小刻みなパーカッションとベースラインが、長いクレシェンドとデクレシェンドで大きなうねりを作ってゆく。
複数の断片が、わりと大胆な編集で接ぎ合わされているようだ。
「Herold And King(Dloreh)」(12:13)攻撃的、前衛的な作風が熟した大傑作。UNIVERS ZERO、MAGMA 直系。序奏のソロ・ピアノは圧巻。ヴォイス・パフォーマンスもあり。
「Here And Now」(12:16)
「Empty Bottles」(23:31)ボーナス・トラック。
オルガンに独特の偏執的なプレイが見られるが、全体に SOFT MACHINE を思わせるジャズロック調である。
音質は自宅録音並。
(LE 1024)