ドイツのプログレッシヴ・ロック・グループ「SCHICKE FÜHRS FRÖHLING」。 SPEKTAKEL 出身のドラマー、ギタリストと SAMSPEL 出身のキーボードディストによって 74 年に結成。 78 年解散。 作品は三枚。 解散後、キーボーディストとギタリストはデュオで活動継続し三枚のアルバムを製作。 作風は、繊細なサウンド・メイキングと緊張感が特徴的な技巧派シンフォニック・ロック。 作品毎にメイン・ストリームの音を巧みに取り入れているので、キーボード・ロックの変遷の見て取ることができる。 Brain レーベル。
Eduard Schicke | drums, percussion, Moog, Metallophone, xylophone |
Gerd Führs | grand piano, electric piano, Moog, clavinet, Mellotron, string ensemble, bassett |
Heinz Fröhling | bass, acoustic & electric guitar, Mellotron, clavinet, string ensemble |
76 年発表の第一作「Symphonic Pictures」。
内容は、キーボード、ギター、ドラムスによる緻密で清潔感のあるシンフォニック・ロック・インストゥルメンタル作品。
富田勲かラリー・ファースト風のスペイシーなサウンドでクラシック調の演出をするシンセサイザーを中心に、メロトロン、ピアノ、ムーグ、ギターらが幾何学模様のように端正なアンサンブルを成す。
そのアンサンブルは、サウンドからすると緩やかな感じがありフレーズもシンプルだが、丹念で精密(やや偏執的に)に積み重ねられ、反復される。
冷静さと一種無機的な表情が特徴である。
表現スタイルは、スペイシーでアンビエントな調子から、やや強迫的で厳格な KING CRIMSON 型、険しい現代音楽調、ジャジーでリラックスした感じまで多彩である。
変則リズムを使用するところでは各楽器がたたみかけるようなフレーズで激しく呼応し合ってもつれあい、独特の緊張感を生み出している。
CRIMSON 直伝のメロトロンによる叙情的、神秘的な演出もある。
また、エレクトリック・ビートや電子音ノイズもドイツのグループらしい特徴である。
全体に分厚い音という印象はなく、直截的で線の細い音を使ってフレーズを緻密に組み上げた、輪郭のはっきりした表現といえる。
キーボードのみならず、アンサンブルをジャストビートの変拍子で支えるドラムスと、ギターの丹念なプレイにも注目したい。
ギタリストは、ツイン・ネックでベーシストを兼ねるばかりか、キーボードも演奏しているようだ。
聴きものは、旧 LP B 面全体を占める大作。
ピアノも使用したオムニバス風のクラシカルな演奏に、奇妙に無表情なテクノ風の味わいが交じりあった、ユニークな作品である。
それまでの淡々としたお行儀の良さをひっくり返すような終盤の緊迫感がすごい。HELDON にも通じる感触である。
全曲インストゥルメンタル。
プロデュースは、当初フランク・ザッパが予定されていたが、スケジュールが合わずディーター・ディルクスが起用された。
シンセサイザーの新奇なサウンドをさまざまに散りばめた沈着冷静な作品もおもしろいが、やはり偏執的に追い立てるような演奏に真骨頂があると思う。
個人的に、いかにもユーロロックらしい音のアルバムと感じている。
「Tao」(8:37)シンセサイザーやギターのなだらかな旋律が重なり合うメロディアスな、しかし独特の緊張感をはらんだ作品。輪郭だけで陰影や深みがないところが特徴か。傑作。
「Solution」(2:54)ギターのリフレインに支えられてシンセサイザーの旋律が幾重にも流れる。ドラムレス。
「Dialog」(5:31)変拍子が織り成すKING CRIMSON 風の緊迫感と歪みのあるへヴィ・チューン。込み入った演奏である。
「Sundrops」(2:27)饒舌なエレクトリック・ピアノとメロトロンのやり取りがいい。シンセ・ベースとなぜか SOFT MACHINE 風のオルガンのコンビネーションもいい。
「Pictures」(16:26)重厚な大作。変拍子、へヴィなリズム・セクション、轟音メロトロン、ピアノ。
PINK FLOYD の「Sysysphus」を思い出す場面も。
(BRAIN RECORD 60.010)
Eduard Schicke | drums, percussion, Moog, Metallophone, xylophone |
Gerd Führs | grand piano, electric piano, Moog, clavinet, Mellotron, string ensemble, bassett |
Heinz Fröhling | bass, acoustic & electric guitar, Mellotron, clavinet, string ensemble |
guest: | |
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Eduard Brumund-Ruther | bass |
77 年発表の第ニ作「Sunburst」。
内容は、キーボードを中心にしたテクニカルなシンフォニック/ジャズロック。
丹念に音色を使い分けるキーボードによるシンフォニックなサウンド、という点では前作から大きな変化はないが、ジャズロック的な面を見せる作品が加わった。
スピーディなプレイの連続に、メロトロンがしっかりとついていっているところがユニークだ。
ドラムスも手数勝負全開で凄まじいプレイを続ける。
この激しく技巧的な演奏と神秘的なシーンを丹念に描く演奏とのメリハリが、きわめて劇的な効果を生んでいるようだ。
アナログ・シンセサイザー独特の音色の魅力を活かした、ファンタジックな描写がすばらしい。
アンビエント、ニューエイジ風味など、いわゆる「シンセサイザー・ミュージック」的な面もある。
全曲インストゥルメンタル。
プロデュースはディーター・ディルクス。
「Wizzard」(4:28)RETURN TO FOREVER ばりのスピーディなジャズロック。
案内役はレゾナンスを効かせたシンセサイザー。タイトルからして RTF の「Romantic Warriors」を意識か。
「Autumn Sun In Cold Water」(4:43)スペイシーなキーボード・アンサンブルとリズミカルなプレイがかみ合ったシンフォニック・チューン。
SBB にも通じる世界である。
「Artificial Energy」(5:27)JADE WARRIOR ばりのエスニック・チューン。
サイケなギターの咆哮やパーカッション、うっすらとしたシンセサイザーの使い方がそっくり。
「Driftin'」(3:20)ホィッスル風の音色のメロトロン、シンセサイザーによる中華風のテーマをフィーチュアした作品。コミカルなタッチと音の透明さが HAPPY THE MAN に近い。
「Troja」(7:16)リリカルな序章が印象的なシンフォニック・スペクタクル。
リズムが単調でビートが固いのが気になるが、演奏の歩みは堂々としている。
終盤のボレロ風の演奏がカッコいい。
「1580」(5:16)アコースティックなサウンドを使ったフュージョン・タッチとメカニカルな表現が合わさった独特な作品。ピアノを中心に即興もあるかもしれない。
「Explorer」(4:50)エレクトリックなサウンドとシンフォニックな広がり、ジャジーななめらかさがマッチした勢いある佳作。このグループの正確をよく表現している作品だ。
(BRAIN RECORD 60.0168)
Eduard Schicke | drums, percussion, Moog, Metallophone, xylophone |
Gerd Führs | grand piano, electric piano, Moog, clavinet, Mellotron, string ensemble, bassett |
Heinz Fröhling | bass, acoustic & electric guitar, Mellotron, clavinet, string ensemble |
guest: | |
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Klause Meine(SCORPIONS) | vocals on 2 |
79 年発表の第三作「Ticket To Everywhere」。
内容は、スペイシーながらも軽快なキーボード・ロック。
キーボードの繊細な音色にこだわりつつも、ドラムスとキーボードがせめぎあって疾走するキーボード・ロックから、安定したビートとともに豊かなメロディを響かせる開放的なスタイルへと移行したと思う。
かつてはメロディアスなフレーズを使いながらも無機的な趣が強かったが、ずいぶんと息遣いの感じられる、分かりやすい演奏になった。
メインストリームを意識した、特定のスタイルへの依拠という面もありそうだ。
キーボードはシンセサイザーが主。
開放的になったとはいえ、そのサウンドには TANGERINE DREAM のようにへヴィなエレクトロニクス・フェティシズムがあり、プレイも精密である。
やや「緩く」なったのは、あくまで前二作と比較してにすぎない。
また、シンセサイザー・ビートやヴォイスによるテクノ・ポップ色もあり。
かつての無機的な表情はユーモアを交えつつこのテクノ・タッチに活かされているのかもしれない。
ドラムスのスタイルが音数を抑えたニューウェーヴ型に変化(退化?)しているとこもある。
全般に 70 年代終盤の典型というべき音になっている。
音楽的な方向の定まらない感あるも、キーボード・サウンドにはいまだ魅力のある作品である。
5 曲目のヴォーカルは誰でしょう。
プロデュースはディーター・ディルクス。
本作品発表以前にキーボーディストのヒューズとギタリストのフレリングはデュオを結成して作品を発表している。
「Open Doors」(5:27)タイトル通り開放感のあるメロディアスなキーボード・ロック。
「Song From India」(4:18)テクノ風味を盛り込んだおもしろい作品。
「Ticket To Everywhere」(3:45)ノイジーでグラマラスなニューウェーブ風ハードロック。
「Spain Span Spanish」(4:00)シンセサイザーが奏でるクラシック翻案風の作品。少しけたたましいイージー・リスニング。
「Here And Now」(5:47)キャッチーなポップロックに神秘的なキーボード・サウンドを入れ込んだ作品。
「Slow Motion」(8:04)モダンなイメージのシンセサイザー・ミュージック。TANGERINE DREAM にポップなデカダンスを取り入れた感じ。シンセサイザーの音が好きな方にはたまらないはず。
「Folk 'n Roll」(4:15)素朴な舞踊音楽風のテーマをキーボードで再現した、超ライト版 EL&P のような作品。
(BRAIN RECORD 60.173)
(LE1017/18)
Wener Protzner | bass, vocals |
Detlef Wiedecke | Hammond organ, Mellotron, Moog, vocals |
Eduard Schicke | drums |
Heinz Fröhling | guitars, Mellotron, vocals |
1996 年発表の作品「Spektakel」。
69 年結成のSFF の前身グループ「SPEKTAKEL」の発掘音源。74 年の録音。
フル・プロダクションではないが、一般的なブートよりははるかに聴くに耐える音質である。
内容は、初期 YES 風のファンタジックなサウンドスケープが特徴的なシンフォニック・ロック。
DEEP PURPLE の影響を受けてスタートしただけあって、ブルーズ・ロック色が皆無であり、バロックや近現代クラシック風のアンサンブル志向である。
そこへさらに YES の田園フォーク・タッチを交えた感じといえばいいだろう。
メロトロンは縦横無尽に駆使。
ヴォーカルは英語。
解散後、ギタリストとドラマーは SFF 結成に向かう。
「The Eternal Question」(15:32)
「Big Boss's Eye」(8:58)
「7 Pounds Tommy」(17:34)GENTLE GIANT 風のミニマルな展開あり。
「No No Not You」(20:14)ボーナス・トラック。ライヴ録音。KING CRIMSON に激似のエキゾティックで緊張感あるインプロヴィゼーション。
(LE 1026)