スイスのプログレッシヴ・ロック・グループ「CIRCUS」。
72 年結成。82 年解散。
作品は四枚。
解散後、ドラマーのフリッツ・ハウザーは BLUE MOTION を結成。
管楽器、アコースティック・ギター、ベース、ドラムスという、エレキギター、キーボードのない特異な編成。
正確無比の神経症的ドラムスを筆頭とする巧みな器楽と、神々しきナルシスのヴォーカルが織り成す、妖しく、緊迫感にあふれたロックである。
Fritz Hauser | percussion, vibraphon |
Marco Cerletti | bass, basspedal, guitar |
Andreas Grieder | flutes |
Roland Frei | vocals, 6 & 12 string acoustic guitar, tenor sax |
76 年発表の第一作「Circus」。
フルート、アコースティック・ギター、ベース、パーカッションという変則的な編成による、サイケデリックでアンビエントな現代音楽調ロック。
器楽とナルシスティックでなまめかしいテナー・ヴォイスが密に連携したアンサンブルには、独特の官能的な美と緊迫感がある。
演奏には、いわゆるリード、サイド、リズムといった区分けが通用しない。
ジャズをベースとすると思われる即興的なプレイでせめぎあいつつ進み、フォーク風の素朴な味わいやノイズによる音響効果、統率の取れた全体演奏などを散りばめてゆく。
音数はさほど多くないにもかかわらず、張り詰めたテンションがあり、展開は敏捷そのもの。
圧倒的にテクニカルなドラムス、アルペジオやコード・ストロークを見せる多彩なベースなど、プレイそのものも個性的だが、それ以上に曲想がしっかりとあって雰囲気ができ上がっているような気がする。
一部で聴こえるハモンド・オルガンのような音は、フルートかベースのボウイングか、はたまたエフェクトしたサックスか。
KING CRIMSON や VAN DER GRAAF GENERATOR のファンへお薦め。
「I talk To The Wind」の世界、つまり McDonald & Giles の世界観に通じるものが確かにある。
最後の大作における牧歌的なフォーク・タッチの演奏とコーラスは、YES のファンへも響くかもしれない。
ヴォーカルは英語。
「Stormsplinter」(2:45)
JETHRO TULL 調のブルーズ・フィーリングを漂わせる初期 VERTIGO 風の作品。
ヴォーカリストは、コブシは効かすが声質がきわめて中性的。
間奏でフルートをフィーチュア。
ただし、微妙な捻れと翳りがある。
「Nowadays」(10:49)
呪術的な序章から無調の弛緩と大胆な和声の破裂へと進む、アヴァンギャルドにしてセンチメンタルで内向的なフォーク・ソング。
難しいことはできないが、できることだけを巧みに組み合わせたような作品である。(ただし、ドラムスだけは別。悪目立ちするようなレベルは完全に超えた技巧派である)
大胆なブレイクでコンティニュイティを崩壊させるなど、脈絡へのこだわりのなさは VdGG の世界に酷似、また器楽が集中すると KING CRIMSON 化。
轟くファズ・ベース、ヴィヴラフォンとフルートの寂寞、ギターのアルペジオ、ひとり語りのヴォーカル。
「Sundays」(6:56)波打つようなギターのアルペジオと哀しげに歌うフルート。
デリケートな音であり語り口も穏やかだが、胸のうちに湧き上がる爆発寸前の思いを歌っていると思う。
初期 GENESIS を思わせる作品だ。
モノクロームのフルートの調べ、さりげないヴァイヴの響きも印象的。
「Dawntalk」(5:07)現代音楽調の性急なインストゥルメンタル。
フルート、ギター、サックス、ヴァイブ、ベースによる反復と断片的なフレーズの散りばめを主としたアンサンブル。
ISLAND と共通する世界である。
「Room For Sale」(15:07)再びフォーク・タッチの大作。
序盤はギターのコード・ストロークが心地よく曲をドライヴする
コード進行もなだらかであり、その上で、フルートも愛らしく舞い踊る。
ドラムスだけは、あえて通常の打撃技を拒否しているようなプレイ。
ヴォーカルは、内的沈潜の深みにはまり懊悩の果てにハイになってしまった文学青年といった趣である。
GENESIS/VdGG 直系の力作であるのみならず、FAIRFIELD PARLOR のようなアコースティック・ポップに十分通じる世界であり、英国フォーク・ファンにもお勧めできる。
(ZYT 208)
Fritz Hauser | percussion, durms |
Marco Cerletti | bass, basspedal, 12 string acoustic guitar, vocals |
Andreas Grieder | flutes, tambourine, alto sax, vocals |
Roland Frei | lead vocals, acoustic guitar, tenor sax |
77 年発表の第二作「Movin' On」。
内容は、ジャジーなポップ・フィーリングとフォーク、さらに現代音楽調パーカッションが結びついた、ミステリアスでエキセントリックなアコースティック・ロック。
メロディアスで取りつきやすいといっていいが、精緻でメカニカルな打楽器プレイと青白く燃え上がる妖しいナルシスのヴォーカルが加わったときの、全体の音の感触が異様なのだ。
メタリックな光沢を放ちつつも耽美で肉感的とでもいえばいいのだろうか。
音色こそまろやかなサックスも、朗々たる調べでジャズ風に演奏をリードする以上に、不気味な官能美の演出に一役かっている。
また、フルートやヴァイブの音も繊細なリリシズムを演出するが、同時に冷え冷えとした刺し貫くような緊張感も醸し出している。
そして、この異様なタッチのより糸のようなアンサンブルのエンジンとなるのが、ギター以上に饒舌なベースである。
いわゆるベース・ラインのみならず、ストロークやハーモニクスも駆使して、積極的に前面に出て音楽的な流れを担っている。
エレクトリック・ギターのない初期 KING CRIMSON というのが一つの喩えだろう。
つややかな歌唱・メロディを軸にしながらも、演奏はどこまでも緊迫感に満ち、鋭利なイメージで迫る。
そして、いわゆるチェンバー・ロックのダークなゴシック色ではない、アポロン的というべきポジティヴな生命感と輝きがあるが、その眩いオーラには、間違いなくバルトークやワーグナーと同種の狂気が感じられる。
過剰なまでの緊迫感は、演奏者の緊張がそのまま音に乗り移り、リスナーに迫ってくるためではないだろうか。
アコースティック・ギター、ベースのストロークやフルートの音にも、必要以上の力が入っているようだ。
開放される瞬間がえもいわれず美しいのは、それだけ閉塞感に満ち満ちているからだろう。
音とパートをパラノイアックに継ぎ合わせて狂気すれすれの感情の高ぶりをまぶしたような演奏は、やはり新手のチェンバー・ロックいうべきかもしれない。
全員が一斉に走り出す最終曲のエンディングでは、このアンサンブルの異形のパワーをしっかりと見せつけている。
恐ろしいことに、これでベース以外はアコースティック楽器なのである。
喩えていうならば、初期 KING CRIMSON の茫漠たる叙情と VAN DER GRAAF GENERATOR のナルシスティックな怨念をクローズアップしたような音である。
ちなみに、ドラムスは 1.5 倍速マイケル・ジャイルスです。
音の種類を補うための、ヴォリューム奏法やハーモニクスなどの細かい工夫も当たっている。
1 曲目冒頭のヴォーカル「Somebody knows...」を聴いておっと思えばしめたもの。
一部エレキギターも用いられている。
4 曲目はシリアスなユニゾン・リフが強烈なインストゥルメンタル。
フルートとベースのコード・ストロークが織り成すエンディングが美しい。
5 曲目の旧 B 面を占める大作は、ファズ・ベースとドラムスがドライヴする幻想的にして破壊力を持つ作品。
KING CRIMSON にまばゆいばかりの光沢を付与した戦慄の大傑作である。
さらに各曲も鑑賞予定。
「The Bandman」(4:25)
「Laughter Lane」(4:11)
「Loveless Time」(5:32)
「Dawn」(7:51)「Moonchild」〜「Fracture」にあたるような即興風インストゥルメンタル。ヴァイヴが印象的。目まぐるしくロールするパーカッションに合わせるように各楽器がトリル、トレモロの効果を生かして音を粒立てている。
「Movin'g On」(22:13)機械のように精緻に間断なくたたみかけることによる緊張と急停止による弛緩の狭間に雅楽を思わせる幽玄の美を漂わせる異形の大作。邪悪で荒々しい力も誇示する。後半はジャジーでメロディアスに迫り、「Starless」を意識した展開に。
(ZYT 211 / Decoder 38701)
Fritz Hauser | drums, vibraharp, Wooden laugther |
Marco Cerletti | fretless & Levinson bass, frettless guitar, vocals |
Stephan Ammann | Hammond C-3, Arp quadra |
Roland Frei | lead vocals, guitars, tenor sax |
ライヴ盤に続いて、80 年に発表された第四作「Fearless Tearless And Even Less」。
フルート奏者が脱退し、キーボード奏者が加入。
全体に曲調にポップなノリが強まるも、神経質なビート、変拍子、個性的な声質のヴォーカル、メロディアスなサックスといった構成要素による眩いサウンドは変わらない。
すさまじい手数のドラミングが全編をおおい尽くすが、ハモンド・オルガンの暖かみある音によるオスティナートが、その尖り過ぎのリズムを抑えてバランスをとっている。
編成は VdGG だが、音楽性は PINK FLOYD や KING CRIMSON を思わせるところが多い。
B 面 1 曲目は、エレキギター、キーボードを多用した叙情的なシンフォニック・ロック大作。
演奏は大したことはないが雰囲気はいい。
B 面 2 曲目は、ハウザーのクラシック・パーカッションをフィーチュアした力作。
ロンドン、トライデント・スタジオ録音。
(ILLUMINATUS 001)