アメリカのプログレッシヴ・ロック・グループ「CURLEW」。 79 年結成。作品は十一枚。 ジョージ・カートライトを中心に 80〜90 年代を駆け抜けた先鋭的ミクスチャー・グループの一つ。ライヴで鳴らした猛者。
George Cartwright | alto, tenor & soprano sax |
Bill Laswell | bass |
Tom Cora | cello, indingiti |
Nicky Skopelitis | guitars |
Bill Bacon | drums, percussion, gamelan |
81 年発表の第一作「Curlew」。
内容は、サックス、ギター、チェロをフィーチュアしたパンクでエクスペリメンタルなジャズロック。
俗っぽくパンチのあるテーマとノイズ、フリージャズ的な即興のコンビネーションであり、パワフルで野趣あふれる変拍子全体演奏がブリブリと突き進み、サディスティックでアクの強い個人プレイが無理やり隙間を押し広げて居座る。
重く手数もあるリズムセクションに支えられて弾力あるサックスがパワーと人臭さで演奏をリードし、ギターとチェロがサスペンスフルでアブストラクトな演出を効かす。
全編に、滑稽さと険しさ、秩序とカオスが予期せぬタイミングですりかわる緊張感あり。
故トム・コラのチェロはまさに衝撃的であり、ニッキー・スコペリティスのギター・プレイは今の水準でも十分過激でカッコいい。
小気味よくスピーディでどこへ行くのか分からない危うさ、スリルがあるところ、アドリヴの応酬がどことなく緩く、いわゆる「グルーヴ」のようなフィジカルなカタルシスとは異なるところが特徴的だ。
このまろやかさは予定調和を拒む反逆精神の現れか、若気の至りの思い込み先行で技巧が未熟なせいなのか。
サックスのアドリヴだけならば他のフリージャズでもっと尖ったものがあったと思う。
いや、単にジャズ的な技巧を駆使しただけでは、このサイケデリック・ロックやプログレのような味わいは出ない。
諧謔と批判のある優れた精神性を支えるためにこそ音楽的技巧がある、そんな決意がありそうだ。
キレの味のいいインタープレイを支えるのもその決意への各メンバーの合意の強さだろう。
だとすれば、芸術として極上である。
同様な覚悟や主張やチンドン屋的したたかさがあるグループとして ETRON FOU LELOUBLAN が思い浮ぶ。
即興空間の成り立ちは、おそらく 60 年代から典型的なフリージャズに近いのだろうが、フリージャズに詳しくないわたしにとってはギターが空間を切り裂いた途端に KING CRIMSON との共通性を見てしまう。
ライヴ録音の楽曲は即興を大幅に採用したきわめてアヴァンギャルドな内容である。
2008 年めでたく CD 化。6 曲のボーナス・トラック(80 年 2 月 6 日のライヴ録音)と 80 年 10 月 1 日のライヴ録音を収めたボーナス・ディスク付き。
ジャケットは左側が再発 LP、右側が再発 CD。
「Panther Burn」(6:30)
「The Bear」(1:45)
「Bitter Thumbs」(6:00)
「The Victim」(2:33)
「The Hardwood」(5:13)ライヴ録音。
「Sports」(1:30)
「Bruno」(1:00)
「But Get It」(2:33)
「Rudders」(3:11)ライヴ録音。
「Binoculars」(1:00)
「The Ole Miss Exercise Song」(8:00)
以下ボーナス・トラック。
「Sports」
「Bitter Thumbs」
「Intro / The March」
「Social Work」
「The Ole Miss Exercise Song」
「Panther Burn」
(LC 1004 / DMG/ARC-0704)
George Cartwright | alto & tenor sax |
Tom Cora | cello, accordon on 7 |
Mark Howell | guitars |
Fred Frith | guitars, bass, violin |
Rick Brown | drums on 1,3,7,12 |
Pippin Barnett | drums on 2,4,5,6,8,9,10,11 |
guest: | |
---|---|
Polly Bradfield | viola on 6,10 |
Butch Morris | cornet on 3 |
Martin Bisi | fake bass drum on 4 |
86 年発表の第二作「North America」。
サックス、ディストーション・チェロを狂言廻しに、さまざまな器楽を主役としてフィーチュアした小品集という趣の作品。
軽快なロカビリー、ブルーグラス、ファンク、室内楽、サイケデリック・ジャズロック、スィング・ジャズ、モダン・ジャズ、フリー・ジャズなどなどメンバーの嗜好のままに自由に音楽が紡がれている。
全体をリードする役はやはり饒舌で猥雑なアルト・サックスだろう。
フレッド・フリスが加入、ギター、ベース、ヴィオリンの演奏のみならず、作曲面でも独特の険しさや緻密さといった個性を発揮している。(4 曲目と 5 曲目)
テーマの明快さやプレイの勢いとは対照的に変拍子やポリフォニーなどアンサンブルは込み入っている。
したがって、アメリカン・ルーツ的な音楽要素は確かにあるものの、それを目立たせなくするほどに全体としてレコメン色が強いと思う。
緩い感じなのに音楽としては込み入っている、それが特徴。
10 曲目「Moonlake」は名曲。
「Feelin' Good」以外全編インストゥルメンタル。
本アルバムはドイツのみで発表された。
2002 年 CD 再発では、6 曲のボーナス・トラック(83 年録音 NY ライヴ録音)付き。
ライヴの演奏は、得意のパワフルでテクニカルでナンセンスなアヴァンギャルド・ロック。
カートライトのいななきサックスはもちろん、トム・コラの無法なチェロも威力大。
このライヴ録音でのギタリストはニッキー・スコペリティス、ドラムスはアントン・フィア。
乱れっ放しの演奏における一糸乱れぬユニゾンにカタルシス。
「Ray」(5:25)
「Oklahoma」(3:47)
「Knee Songs 2」(2:10)
「Person To Person」(2:10)
「Time And A Half 」(2:10)
「Mink's Dream」(3:01)
「Two-day 'Till Tomorrow」(1:22)
「Light Sentence」(2:25)
「First Bite」(2:25)
「Moonlake」(5:14)
「Shoats」(2:18)
「Agitar / The Victim」(4:50)
「Feelin' Good」(2:50)
以下ボーナス・トラック。
「Oklahoma」(6:00)
「Shoats」(3:43)
「Moonlake」(4:32)
「Mink's Dream」(3:41)
「The Ole Miss Exercise Song」(5:36)
「First Bite」(3:10)
(MM 02042 / RUNE 167)
George Cartwright | saxophones |
Tom Cora | cello |
Pippin Barnett | drums |
Dave Williams | guitar |
Wayne Horvitz | keyboards bass, keyboards |
88 年発表の第三作「Live In Berlin」。
86 年ベルリンでのライヴ録音を中心にしたライヴ盤。
演奏曲目は 86 年発表の第二作「North America」収録曲が中心。
内容は、ジャズのスウィング感覚やブルーズのコブシ、カントリー・ミュージックのライトなグルーヴを凝縮して扇動的でアグレッシヴに(時に脱力気味に)解き放ったようなアヴァンギャルド・ファンク・ジャズである。
チェロのパフォーマンスに代表されるアカデミックな前衛音楽への意気込みを、脂っこく下世話な「ジャズ」のテイストに満ち満ちたサックスのプレイに象徴されるストリート感覚たっぷりにインプリメントした音楽だ。
大胆な即興パートでは、各楽器が特殊奏法も多用して訥々と対話をスタートする。
一つ間違えると珍妙になりかねない対話は、弛緩と緊張を彷徨し、きっかけを得ると一気にハイテンションのアンサンブルを構成する。
絶妙の呼吸で攻め、受けるインタープレイとビシッと決まるドラムスがじつにカッコいい。
ただしそれでも、へヴィネスやスピードという単純な方向にはなかなか進まず、ジャズロック的な部分をチラ見せしつつ、フリージャズの解体衝動、どこにも依拠しないという衝動を持ち続けている。
過激な特殊奏法の音は、どちらかといえば、緊張感よりもルーズなユーモアを漂わせるし、ドラムスがタイトにビートを刻みユニゾンで突き進むときにも、意地でも真面目に、真っ直ぐには演奏したくないように、脱力フレーズをブカブカ、ドカドカと演奏するのだ。
個人的には、イタリア RIO 代表の STORMY SIX の後期作品と共通するものを感じる。
もしくは SOFT MACHINE の 「4」をスクラッチやノイズでよりアヴァンギャルドに仕上げた感じ。
ところどころでアクセントを付けるウェイン・ホーヴィッツのキーボード・サウンドに存在感あり。
最終曲「Feelin' Good」(黒人ブルーズのカヴァー)のみヴォーカル入り。
ビル・フリゼールが売れたならこれが売れても不思議はない、なんてことを思った。
(RUNE 12)
George Cartwright | saxes |
Pippin Barnett | drums |
Tom Cora | cello |
Davey Williams | guitar |
Ann Rupel | bass, vocals |
91 年発表の第四作「Bee」。
前作までの屈折・脱力系アヴァンギャルドな即興空間を若干限定して、エネルギッシュながらも鋭利で密度の高いバンド演奏をクローズ・アップした作品となる。
変拍子による無調のテーマがアナーキーな緊張感を生み、逞しいアンサンブルがそれを突き破る。
濃密なジャズ・フィーリングのあるサックスと現代音楽的な表現を駆使するチェロはそれぞれに強烈な存在感を示す。
そして、それらに負けずギターも表情豊かであり、テーマを大胆過激に発展させるスゴ技を随所で見せる。
シュアーなロック・ビートを放つドラムスも目立っているし、スピード感とグルーヴを支えるベーシストの復活もうれしい。
脱力プレイが得意なサックスが真面目な顔でシャープなフレーズを決めることも多く、フリージャズ的なパワーとファンク・ロック度合いは、本作がピカ一。
攻め/動き一辺倒ではなく、意外なほどに劇的なアレンジ/演出も施されていて、シリアスな現代音楽調から詩的なロマンまでもが表現されている。
RIO というキーワードもあてはまるが、フリージャズ風のジャズロックややファンク寄りという方がより合っていると思う。
N.Y ダウンタウンのライヴ・ハウスの熱気を伝えている作品だ。
基本は緩めではありますが。
プログレ、ジャズロック・ファンにはお薦め。
「To the Summer in Our Hearts」と「Kissing Goodbye」の 2 曲のみドイツ、ケルンでのライヴ録音。
ライヴ録音では、各パートのソロが大きくフィーチュアされる。
「To the Summer in Our Hearts」でのデイヴ・ウィリアムスのギター、トム・コラのチェロのアドリヴがカッコいい。
また、最終曲「As You Said」(CREAM の名曲のカヴァー)のみアン・ラペルのヴォーカル入り。
「The March Or Ornette Went To Miles' House And They Didn't Get Along」(2:57)タイトルの後半は、オーネット・コールマンがマイルス・デイヴィスの家を訪問したが二人は仲良くなれなかった、という意味でしょうか。
「St. Croix」(5:02)壮絶なギター・アドリヴ。
「Jim (To The James River) 」(4:48)SOFT MACHINE 系変拍子ジャズロック。
「It Must Be A Sign」(7:05)冒頭はキナ臭いチェロのアドリヴだが、以後はサックス中心の田舎臭いファンク・ジャズ。そしてエンディングはサックスの絶叫。
「To The Summer In Our Hearts」(10:43)現代音楽風のノイジーなチェロをフィーチュア。
「Saint Dog」(7:01)チェロとギターがリードする GS 歌謡風の作品。
「The Hard Wood」(6:56)リズム・セクション大活躍のパワー・チューン。
「The March (Reprise)」(4:59)1曲目のリプライズ。さらにドシャメシャ。
「Rudders」(4:19)
「Gary Brown」(4:26)
「Kissing Goodbye」(5:52)
「As You Said」(5:27)
(RUNE 27)
George Cartwright | alto & tenor saxes |
Pippin Barnett | drums |
Tom Cora | cello |
Davey Williams | guitar |
Ann Rupel | bass |
Amy Denio | vocals |
93 年発表の第五作「A Beautiful Western Saddle」。
女性ヴォーカリスト(アルト)が参加。
そして、驚いたことに、このヴォーカルをフィーチュアした歌ものロックと化す。
かなりポップなファンク調ロックから、ややシリアスなリート風の歌曲、ニューウェーヴ調までさまざまなスタイルがある。
大胆な即興やノイズを入れ込んだ器楽演奏そのものは大きく変化していないが、サックスに象徴されるこのグループの器楽の独特のひょうきんさとふんぞり返った感じが、マニッシュで融通の利かなそうな女性ヴォーカルと奇妙な緊張関係を作っているところが新しい。
両者に共通するのは独特の気だるさである。
また、チェロの響きが伴奏に入ると一味変わって非常にクラシカルで厳かな歌曲風になる。
このスタイル、ジョージ・カートライトが気に入った詩人の詩を歌詞にしたいと思ったところから始まったらしい。
ヴォーカルの歌唱には不気味なほどの落ち着きと強烈なデフォルメを表現し切る力量があるので、ART BEARS や THINKING PLAGUE のファンは試してみてください。
異色作という位置づけになりそうだが、いいアルバムだと思う。
(RUNE 50)
Ann Rupel | bass, piano on 7 |
Chris Cochrane | guitars, rhythm toy on 4 |
George Cartwright | alto & tenor saxes |
Davey Williams | guitars, musical toy on 4 |
Kenny Wolleson | drums |
98 年発表の第七作「Fabulous Drop」。
内容は、凶暴なギターとチンドン屋風のサックスが金切り声を上げ続けるエネルギッシュなジャズロック。
金切り声といったが、人間というよりは動物のそれであり、悲鳴ではなく絶叫と上ずった怒号である。
金属音で蠢くベース、ストリート・ファイト的なドラムス、フレッド・フリスが自棄になったようなギター(前作から加入のクリス・コックレーンの存在感強し)、そしていななきのように逞しいサックスらによる演奏は、ひたすらに荒々しく尖り、いきり立っている。
サックスがスコーンと開放的に突き抜けたブローを放てば、二つのギターのガシャガシャな絡みが拍車をかける。
攻撃性だけではなく、下品なテーマが象徴するようなバカっぽさやイナカ臭さ丸出しのユーモアもある。
南部風ロックンロールとガレージ・パンク、フリージャズの一つの出会いであり、ノイジーだがダンサブルなアヴァンギャルドだ。
ユーモア、品のなさ、それなりの体力を駆使して、いわばオッサンの冷や水のような、壮絶な「ガレージ・ジャズ」、「ジャズロック・バカ」をやり続ける。
日本のアンダーグラウンド・シーンにも通じる作風であり、卑俗さを開き直ったようなパワーにあふれている。
しかし意外や楽曲はヴァリエーションに富んでおり、7 曲目のようなアクセントも効いている。
ところで、スリーヴを見ると、本作品は「目玉焼き」が主題となっているらしいことが分かる。だから何!
(RUNE 105)
George Cartwright | alto & tenor & soprano saxes |
Davey Williams | 6 & 12 string guitars |
Bruce Golden | drums |
Fred Chalenor | bass |
Chris Parker | piano, Wurlitzer electric piano |
2002 年発表の第八作「Meet The Curlews!」。
一部メンバー交代に伴い(特にツインギターの一角を成したギタリストの脱退とキーボーディストの加入)、サウンドはジャジーな方向に回帰する。
フロントの開放的で軽やかなサックスはそのままながら、ピアノをフィーチュアしたリリカルで幻想的なスタイルなど落ちついた作風が特徴的である。
とはいえ、毎度よく分からない脱力系ノリも健在、さらには KING CRIMSON 的なケイオティックな展開、唐突な現代音楽調もあり。
ピアノの威力は大きく、シリアスで重厚な風合いは主にピアノの音に負う。
フレッド・シャルノーもヒュー・ホッパーばりのディストーションで決めてくる。
泥臭い南部田舎のノリとヒップなニューヨーカーのノリはここでも巧みにブレンドされて、ノスタルジーとクールネスが均衡する孤高のダサウマの境地を保っている。
総合すると、アクセスしやすさとともにジャジーなプログレ度合いもアップしていると思います。
「ジャケ買わず」で後悔するパターンの好作品。
「Space Flight Cat」(3:18)
「Late December」(7:02)
「Meet The Curlews」(6:47)ジャズの変容。傑作。
「Cold Ride」(5:42)
「ARM (For Ann Rupel) 」(4:44)
「HATED」(4:15)美しく哀しい余韻のある小品。点描風のベース。
「Sensible Shoes / Proper Fir」(4:28)
「Barn Door」(5:48)
「Lemon Bitter」(6:48)
「Late December (Reprise)」(5:05)
「Middle And Fall」(5:40)
(RUNE 157)