DEN ZA DEN

  ユーゴスラヴィアのプログレッシヴ・ロック・グループ「DEN ZA DEN」。78 年結成。80 年解散。作品は一枚。

 Den Za Den
 no image
Jankulovski Vladimir bass
Arian Dema guitar, acoustic guitar, percussion
Soldatovic Dragisa electric & acoustic piano, synthesizer
Cocorovski Dimitar drums, percussion

  80 年発表のアルバム「Den Za Den」。 内容は、ラテン、サラセン、バルカンなど地中海風味のある、ハイテンションの硬派テクニカル・ジャズロック。 各パートの音が競うようにせめぎ合い、変拍子や変則アクセントも多用して、エネルギッシュに性急に展開する演奏である。 ドラムスとギターが特にうるさく、ドラムスは病的なロール・フィルと蹴っつまづくような独特のアクセント、ギターはスケールと和声を追い求めて忙しく指板を上下左右する、無茶な速弾きスタイル(「余裕のないアル・デメオラ」という表現が近い)で攻め立てる。 テーマやその延長部分はこの二人が思いの丈をぶちまけている感じである。 キーボードはアコースティック、エレクトリック・ピアノやストリングス系シンセサイザーでバッキングを務め、ムーグ・シンセサイザーで管楽器的なニュアンスのあるリードを取ったり、ギターをオブリガートするなど、典型的なスタイルである。 当然、いったん操縦桿を握るとギターに負けないスピーディで流麗なフレージングで駆け回る。 宝石をパラパラっと撒くようなエレクトリック・ピアノのオブリガートが印象的。 ベーシストも平然とギターやキーボードのフレーズとユニゾンしつつ、オブリガートも決めるかなりの腕達者かつ目立ちたがり屋だ。 突如ランニング・ベースと化してピアノとともにモダン・ジャズ・コンボに変貌することもある。 かように技巧派の猛者がしのぎを削るわけだが、他をおさえて主役を張るのは、自信満々でフレーズを刻み込む、節操のあまり感じられないギターだろう。 A 面は、印象的なテーマを奏でながらも、技巧をぎゅうぎゅうに押し込んだ挙句の突っ走りに無理やり感が強く(スリリングではあるのだが)、B 面のほうが曲に人間らしい自然な表情が現れている。 それでも、基本的には「あおりまくる、押しまくる」スタイルである。 アコースティックな質感の音も巧みにおりまぜていて、全体に、ギタリストの活躍した中期の RETURN TO FOREVER のフォロワー的なイメージである。
   全編インストゥルメンタル。 プロデュースは、グループとイヴォ・ウメック。 欧米シーンからは五年遅れと見るか、五年前のメインストリーム・フュージョンを支えた東欧出身のミュージシャンが凱旋帰国して、さらに道を究めたというべきか、ともあれ内容は濃いのでこっち系が好きな人にはたまらないはず。ICEBERG が地中海西側代表なら、こちらは地中海東側代表といえる。

  「Svadba」(4:08)スペインからギリシャまで東西地中海エキゾチズムを効かせたテーマで押しまくるテクニカル・チューン。 中期 RETURN TO FOREVERBRAND X のイメージ。

  「Galeb」(3:56)ギターがよく歌うエモーショナルでややメローな作品。アコースティック・ピアノのエレガントなソロもフィーチュア。

  「Ciganka」(3:03)ラテンな陽気さ、たくましさあふれる、開放的でスピーディなジャズロック。 ほとばしるギターに加えてエレクトリック・ピアノもフロントをリードし、シンセサイザーがびょんびょんバッキングする。

  「Zed」(3:30)テーマでは悩ましげな風情も見せるが、やはり情熱に身を任してしまう、そんなジャズロック。 シンセサイザーの流麗なソロ、オブリガートが光る。ドラムスが特にうるさい。

  「Fatamorgana」(4:02)MAHAVISHNU ORCHESTRA 風のミステリアスかつアッパーでハイテクなジャズロック。リズム・チェンジしてのキメ、強引過ぎるピック・ポルタメント、駆け巡りまくるギターなどひたすら破天荒です。

  「Cocor Ritam」(0:59)ドラムス・ソロ。


  「A Bila Je Tako Draga」(4:08)うってかわって叙景的でメロディアスな作品。

  「Letnja Ljubav」(3:25)ストレートなテーマに開放感のあるフュージョン。ドラムスが「普通」だと「普通」に聴こえる。

  「Vodopad」(2:41)奇妙な電子ノイズや変拍子パターンに眩暈がしそうな圧迫感ある作品。テーマ部はごく普通のフュージョンだが、さまざまな調味料のせいで味がおかしくなっている。

  「Jutro I Noc」(3:55)エレクトリック・ピアノとギターが丁々発止とからむ RTF 直系のジャズロック。ローズ・ピアノがいい音です。ドラムスもアンサンブルにきっちり寄り添っており、曲想を理解している様子。
  「Tako Treba」(5:50)小刻みなパッセージを折り重ね変拍子も交えたハイパーテクニカル・チューン。 耽美的なトーンでたゆとうなど押し一辺倒ではなく余裕もあり、表情豊かで、総決算にふさわしい内容である。
  
(LD 0587)


  close