ブラジルのネオ・プログレッシヴ・ロック・グループ「DOGMA」。 91 年結成。97 年解散。2005 再結成。 2000 年現在作品は二枚。 作風は、優美にして爽やかなメロディアス・シンフォニック・ロック。 夢幻の美世界をさまよいつつも生の高まりをナチュラルに歌い上げる、ラテン/南米らしい感覚の音である。 ライトなフュージョン・テイストもあり。
Renato Coutinho | keyboards |
Daniel Mello | drums |
Fernando Campos | acoustic & electric guitar |
Barao | bass |
guest: | |
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Marcus Viana | violin (SAGRADO) |
92 年発表の第一作「Album」。内容は、熟練のギターが生み出すメロディとシンセサイザーによる透明で涼感あるサウンドが優雅にストーリーを描くシンフォニック・ロック・インストゥルメンタル。
ギターはナチュラル・ディストーションで伸びやかなプレイを決めるオーソドックスなスタイル、キーボードもクリアーな音色でフュージョン・タッチのリズミカルなプレイを主とする。
興味深いのは、スタイリッシュなフュージョン系の音に典型的なネオ・プログレッシヴ・ロックのクリシェが顔をのぞかせるところだろう。
パット・メセニー風のゆったりしたアンサンブルに突如トニー・バンクスが飛び込んでくる。
残念なのは、リズムにやや躍動感を欠くところ。
サウンドが垢抜けているだけにそこはもったいない。
マーカス・ヴィアナのゲスト参加がうれしい。
1 曲目「Beginnings」(6:23)作風をよく示した代表曲。
クリアーなキーボードと深くリヴァーヴするギターのコンビネーションが生み出すサウンドは、まずファンタジックであり、なおかつフュージョン風の現世的な「くつろぎ」と健やかな躍動感にもあふれている。
上品なクールネスのある叙景的な内容といえるだろう。
演奏は、あたかも翼を一杯に広げて勇躍飛翔しては舞い降りるような、悠然とした動きを見せてゆく。
キーボードのテーマは、どこまでもドラマティック。
前半、うっすらとした色合いながら自由自在のコード・ワークとオブリガートを見せるギターは、後半でソプラノの歌唱のような息を呑む第二テーマを提示し、華やいだソロを繰り広げてゆく。
躍動感あふれる佳曲だ。
2 曲目「Clouds」(6:27)マーカス・ヴィアナのエレクトリック・ヴァイオリンをフィーチュアしたメランコリックなバラード調のインストゥルメンタル。
華麗な音色に耳を奪われるが、基本的にはゆったりと歌心あるテーマを提示しており、突出することなくアンサンブルの一員として全体のムードを大事にした演奏をしている。
悩ましげな表情もいい。
シンセサイザーは、ヴァイブからフルートまで多彩な音色で抜群のアクセントになっている。
ギターは、前半はアルペジオによる伴奏に徹し、後半で誠実なメロディを丹念に紡いでゆくエモーショナルなソロをフィーチュアする。
ヘヴィ過ぎず泣き過ぎない、ロックらしいクールさを持ち続けるところがいい。
ヴァイオリンとのやり取りが鮮烈だ。
フュージョン期の CAMEL に、南米らしいたおやかさを加えた感じといえるかもしれない。
3 曲目「Nigth Wind」(6:26)うっすらとした幻想味に重厚なアクセントを加えたメロディアス・ロック。
前半と後半で二部に分かれているような演奏である。
オープニングは「Watcher Of The Skies」に酷似した天界の行軍の如き勇壮なリフレイン。
メロディアスなギターとキーボードのアンサンブルがその力強いオープニングを受け止め、おだやかでほのかにメランコリックな色合いへと変化させていく。
リズムレスのパートではニューエイジ・ミュージック風の癒しの音作りも見せてゆくが、語り口はまっすぐで明確であり和みだけではないシンフォニックな重みがある。
史劇の重厚なサウンド・トラックを思わせるところもある。
リズムの再開とともにギターの見せ場がスタート。
メロディには PENDRAGON を思わせる「泣き」があるが、ウェットな情感を押しつけ過ぎないロックらしい骨っぽさもある。
苦悩しつつも、どこまでもポジティヴな姿勢を失わないところがいい。
4 曲目「Seven Angels In Hell」(8:13)パット・メセニー風のエレクトリックなオーガニック・サウンドによるネオ・プログレッシヴ・ロック。
オープニングは驟雨の滴りを思わせるデジタル・シンセサイザーの 7 拍子リフレイン。
このビート感は 80 年代ポンプ・ロックの常套句だ。それでも巧みに変化をつけて単調さを回避している。
ピアノとシンセサイザーが 8 ビートのリフレインでムードを切り替えると、ブルーなギターがゆったりと歌い出す。
いったんギターの調べが悠々と奏でられると、演奏全体に重みのある説得力が生まれてくる。
とはいえギターのフレージングは決して凝ったものではなくごくナチュラルだ。
やはり自然な歌が一番ということか。
沈み込むような中盤はギターやシンセサイザーのささやきが交錯する。
後半はムーグ・シンセサイザーがギターに代わってリード。
フルートを思わせる表現だ。
再びのリズムレス・パートは格段にオプティミスティックなトーンとなり、呼び覚まされるようにして件の変拍子リフレインがフェードイン。
華やかにしてスリリングな演奏が幕を引く。
5 曲目「Movements」(8:09)
木管楽器を思わせるソフトなシンセサイザーとアコースティック・ギターによる、穏やかなアンサンブルから始まる。
田園風景を思わせる演奏だ。
クラシカルなピアノがきっぱりとした表情を見せ、ベースが静かに歌い始めると、物語が始まり、やがてギターが切なく高鳴る。
PENDORAGON のニック・バレットを思わせるプレイだ。
ギターを受け止めるのは、重厚なストリングス演奏。
ブルージーな表情も見せて、ストリングス、ドラムスと対峙するギター。
朗々と歌い上げ、力強く進んでゆく。
柔らかなピアノが緊張を解きほぐすも、ギターはじっくりと歌ってゆく。
シンセサイザーのせわしないリフレインをアクセントに、ギターは悠々と演奏を続けてゆく。
テンポもゆったりと変化し、全体が着実な歩みを見せ始める。
キーボードが刻む和音、そしてしなやかに歌い続けるギター。
クラシカルなピアノのリフレインを経て、シンセサイザーが高鳴り、ロマンティックなストリングスが湧き上がる。
ゆるやかなギターの調べとストリングス、シンセサイザーのリフレインがシャフル・ビートにのせて、テンポよく走ってゆく。
最後は高らかなギターの一声。
TEMPUS FUGIT の第ニ作 1 曲目とよく似たナチュラル・テイストのシンフォニック・チューン。
ギターを大きくフィーチュアし、ダイナミックにストーリーを綴ってゆく。
アコースティックかつ長閑なオープニングからは想像できない昂揚感がある。
力作。
6 曲目「A Season For Unions」(22:08)20 分あまりのシンフォニック・ロック・インストゥルメンタル大作。
集大成のように充実した傑作であり、この一曲のために本作はあるといってもいい。
ロマンティックで華やかなプレイを次々と紡ぎ、短い楽章を積み重ねたような展開を見せる。
あまりにカッチリと築き上げた感じはなく、奇想曲風の自由な発展が特徴だろう。
場面ごとの曲想は明快であり、ピュアでデリケートなイメージが自然と浮かんでくる。
ギター、キーボードともに広々とした空間で自在に振舞うが、特にキーボードは、GENESIS 風のメロディアスなテーマや波打つようなソロで場面をリードしている。
ギターとのやりとりも心地いい。
中盤に流れを失いそうになるが、終盤へ向けてきちんとドラマがあった。
前曲までのジャジーなタッチを抑えて、よりロマンティックで詩的に迫った内容といえるだろう。
透明感あるジャジーなネオ・プログレッシヴ・ロック・インストゥルメンタル・アルバム。
製作方法に起因するのか、全体にダイナミクスが小さめで第一印象は地味。
それでも繰り返し耳になじませると、デリケートな音使いやアンサンブルの機微が分ってくる。
色合いこそ淡いがオプティミスティックな優しさにあふれている。
ギターの歌い方の良さはもちろん、こまやかに音色に配慮したシンセサイザーもいい。
穏やかな表情に肯定的な力強さを蓄えた新時代のシンフォニック・ロックの佳作。
ネオ・プログレにフュージョン色を加えただけではないセンスのよさが感じられる。
(PRW006)
Barao | 5 string bass | Fernando Campos | acoustic & electric 6 & 12 string guitar, weird laughter |
Daniel Mello | drums, percussion | Renato Coutinho | keyboards, sequencers |
guest: | |||
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Renato Coutinho | weird voice | Titi Walter | vocals, Mermaid vocal on HYMN |
Guilheme Bizzotto | vocals | Ligia Jacques | vocals |
Strings | Choirs |
95 年発表の第二作「Twin Sunrise」。
情感あふれるメロディアスなパフォーマンスを得意とするところへさらに女性ヴォーカル、コラール、ストリングスまで盛り込み、スケール・アップした快作。
芳醇なメロディにはちきれんばかりの想いを包みこみ、爽やかな歌声をどこまでも響かせている。
演奏は明快さとキレ味を増し、溌剌たる躍動感が全体を通して鼓動のように脈打ち続ける。
さらに決めどころでのメロディ・ラインやフレーズには小気味のいいフックがあってしっかり耳に刻まれる。
CAMEL の好きなリスナーには絶対のお薦めだと思う。
優美なメロディ・ラインと美麗なハーモニー、繊細な感性を活かした丹念な音の積み重ねによるサウンド・メイク、肩の力の抜けたイージー・リスニング的な聴きやすさ、そしてロックやジャズの俊敏な運動性、英米クラシック・ロックの語法、これらすべてを現代らしい情報処理で再配分して結びつけることでオリジナリティを打ち出している。
このバランス感覚は、かつての英国ロックが反骨精神を総動員して各自が個性の元に尖りまくったのとはいかにも対照的だ。
往年のブリティッシュ・プログレッシヴ・ロックとの違いは、力み返ったメッセージを訴えかける自分自身を笑うような余裕のあるシニシズムの不在であろう。
ここの音が誠実さの名のもとの予定調和的なものに感じられてしまうことがあるのはそのためだ。
もちろん民族性の違い含め、この音で癒されたい、安寧に浸りたいという指向と、ロックの向こうにさらに何が見えるか探し続けたいという指向の違いといってしまえば、それまでなのだが。
SAGRADO と非常に似たサウンドながら、彼岸的でヒューマニスティックな慈愛の響きというよりは、現世的なロマンティシズム、センチメンタリズムへの誘いというイメージが強い。
シンセサイザーがリードする雄大かつ明朗なシンフォニーである 1 曲目と、ドライヴ感ある演奏でプログレ・イディオム満載の場面を繰り広げるタイトル曲、そして明快にして上品な味わいのある 4 曲目の三つが代表作だろう。
また、2 曲目のアコースティック・ギター・プレイや 3 曲目のフルートに代表されるような、「泣き」のリリシズムも前作に続いてたっぷりと味わうことができる。
最後から 2 曲目は効果音を交えたワールド・ミュージック風のファンタジックな大作。
おだやかな音のなかにドラマがある。
JADIS や近年の PENDRAGON にも通じる情感豊かに切々と訴えかける演奏と、パット・メセニーの作風に通じる垢ぬけた繊細なサウンド、PINK FLOYD を意識したような SE など小気味よくもダイナミックなプレイが結びついた音楽は、正に現代のシンフォニック・ロックといえるだろう。
ネオ・プログレ・クリシェ的な面を差し引いても、自然なアクセスしやすさがあり、90 年代南米プログレを代表する一枚といえる。
三作目はあるのだろうか。
「Midday」(5:53)雄大にしてメロディアスなインストゥルメンタルの名品。キャッチーにしてシンフォニックな広がりのあるテーマを軸に悠然と進む。
トニー・バンクス調のオルガン、シンセサイザー、ピアノも楽曲とのバランスがよい。
「The Search」(7:19)パット・メセニー・グループを思わせるアコースティックでゆったりとした序章から、ややフュージョン・タッチのタイトなアンサンブルへ。
鮮やかなベースのプレイも披露される。
粒の揃ったピアノが伴奏しメロディアスなシンセサイザー、ギターが朗々と歌う。
中盤からは、SAGRADO を思わせる女声ヴォーカルやファンタジー活劇調の SE を交えたスリリングな展開へ。
悠然たる調子のなかにしなやかな歌心を感じさせる大作だ。
「Burn The Witch」(5:37)密やかな弦楽と可憐なフルートが歌う叙情的なインストゥルメンタル。
イントロからエレアコ・ギターの響きが切なさをかきたて、豊かな音色のピアノがロマンの調べをささやく。
終盤コラール、弦楽による重厚なクライマックスを迎える。
ロマンティックなバラードだ。
「Hymn」(8:21)慎み深い喜びと慈愛に満ちた、文字通り賛美歌のようなヴォカリーズをオープニングに、親しみやすいギターのテーマと優雅なピアノがゆったりと舞うインストゥルメンタル。
どこかで聴いたような気がするのは、コード進行のせいだろうか。
リチャード・クレイダーマンのようなイージー・リスニングやサザン・オールスターズもイメージされる。
ストラトキャスターのナチュラル・トーンを用いたギターの表現はみごと。
優雅に揺れるような曲調に、ハーモニウム調のオルガンをリードにしためまぐるしい演奏を交えるなど、語り口はここでも巧みである。
「The Place(Where are You?)」(4:03)VAN HALEN や ASIA を思わせるきわめて 80' ポップス風のイントロダクションに驚かされるが、本編は非常にメロディアスな歌もの。
英語のヴォーカルはマッチョだがメロディラインが甘めなのでアンディ・ラティマーに聴こえてくる。
終盤のリック・ウェイクマンばりのシンセサイザーがカッコいい。
「The Landing」(10:00)走馬灯のように湧き出る思い出を綴ったファンタジックな大作。
タイトル通り、雷鳴のなか飛行機が着陸する SE から始まるドラマ仕立ての序章から、重厚なキーボード・オーケストラが轟くと哀愁のテーマが湧き出でる。
警報とクロスフェードするアコースティック・ギター・ソロの息を呑む音色、そして記憶の彼方に漂うような声明のような男性コラールの響き。
風の音とギターの生むブルーズ・フィーリングに身を任せていると、優し気な響きに変わったギターに導かれて柔らかく透明なストリングスの調べに抱かれる。
マーチング・スネアとともに高まる勇壮なテーマは悲劇の予兆か。
最終盤、沈む心を奮い立たせるように力強く歌い上げる演奏は CAMEL そのもの。
インストゥルメンタル。
ドラマがある。
「Twin Sunrise」(12:19)波打つキーボードのオスティナートを軸にリズムを変化させつつ進んでゆく、プログレらしい華やかな作品。
ピアノのオスティナートが支える 3 拍子と 2 拍子のポリリズミックなアンサンブルは、いかにもネオ・プログレ風。
前半は透明感あるシンセサイザーのアンサンブルが描くファンタジーを堪能できる。
ギターによるメイン・テーマは中盤にようやく現れる。
変拍子を交えるなどなかなかテクニカルだが、柔らかな音色と優美なメロディがそういった技巧をあまり意識させない。
終盤で堰を切ったようにピアノが弾け、その華やいだプレイは、シャフル・ビートで進む小気味のいいオルガン・ソロを呼び覚ます。
最後にはフィード・バックを活かしたアンディ・ラティマーばりのブルージーなギター・ソロが堪能できる。
この終盤の DEEP PURPLE ばりの演奏は意外だった。
インストゥルメンタル。快調でほのかにユーモラスなところは FINCH にも似る。
(PRW019)