SAGRADO CORAÇÃO DA TERRA

  ブラジルのプログレッシヴ・ロック・グループ「SAGRADO CORAÇÃO DA TERRA」。 79 年結成。 2000 年 12 月現在、作品は五枚。 グループ名は「聖なる大地の心」の意。 ヴァイオリンを中心とする流麗で生命力に溢れたサウンドは万人に感動を呼び起こしてやまない。

 Sagrado Coração Da Terra
 
Marcus Viana vocals, electric & acoustic violin, keyboards
Vanessa Falabella vocals Alexandre Lopes acoustic guitar
Marquinhos Gaughin bass Gilberto Diniz bass
Ines Brando piano Nenen drums, percussion
Giacomo Lombardi synthesizer Fernando Campos ARP synth, guitar
Sebastiano Vianna flute Andersen Vianna flute
Miriam Rugani Vianna harp Lincoln Cheib cymbals
Paulinho Santos percussion chorus

  85 年発表のの第一作「Sagrado Coração Da Terra(捧げ物)」。 内容は、ヴァイオリンを中心としたスリリングなアンサンブルと男女混声のエモーショナルなヴォーカルをフィーチュアした慈愛と官能のロック・シンフォニー。 イージー・リスニングからニューエイジまで、さまざまな形で商業ポップスに取り入れられたラテン音楽の特性を活かした、ユニークなシンフォニック・ロックである。 その音楽は、滴るような瑞々しさ、清涼感、熱っぽいエキゾチズム、そして厳かな神秘にあふれている。 楽曲は、ハートフルなメロディ、和声とスリリングな器楽が豊かな広がりと深みを生み出し、どこまでもドラマティック。 プログレッシヴ・ロック的な演奏語法は英米の影響なのだろうが、それを自らのルーツにとけ込ませ、オリジナリティのあるサウンドを生み出している。
   クラシックは、さまざまな音楽と交差して、思いもよらなかった新鮮な感覚を生み出してきた。 ヴィラ・ロボス、ヒナステラらが南米ラテン音楽とクラシックの情熱的かつ神秘的な出会いだったとするならば、このグループの音は、そういう南米クラシック風のシンフォニック・ロックということができる。 あらゆる音を軽やかに包み込む力という意味で、パット・メセニーにも近い感性では。 流行したニューエイジ・ミュージックらしい安易な紛い物っぽさがないのは、生演奏のレベルが高いことと、徹底したオプティミズムのたくましさを感じられるからだろう。 また、そもそもここで最初に紡がれた音楽の廉価版コピーを聴かされていて初めて本物を聴いたからということもあるだろう。

  「Asas(大いなる翼)」(2:54) 南国の柔らかな風のようなシンセサイザーによるラテン・フュージョン・タッチのオープニング。 リードするのは、エレクトリック・ヴァイオリンとピアノ。 そして、ラテンの風が運び入れるのは、ペドロ・アズナールを思わせる優美な男性ヴォーカル。 素朴なメロディを甘いヴォイスで歌い上げ、切れのいいアンサンブルが応える。 間奏では安定したリズム・セクションの上でヴァイオリン、ストリングス系のシンセサイザー、そしてたおやかなピアノ、チェンバロがせせらぎのように流れてゆく。 転調、そして繰り返しからは、少年のような女性ヴォーカルも加わる。 混声のリード・ヴォーカル、華やかなヴァイオリンが一際歌い上げる。
  優美にして爽快感あるシンフォニック小品。 新たな夜明けを迎えるようなイメージの名曲だ。 たおやかな演奏は、いつしかせめぎあうような官能の迸りとなり、目まぐるしいプレイの応酬となる。 しかし底流は、やはり優しさに満ち溢れ、どこまでもオプティミスティック。 イージー・リスニング/フュージョン・タッチの音色に隠された演奏力は、流れるように展開する間奏に明らかだ。

  「Lições Da História(史実)」(4:36) 遠雷と迫る驟雨を思わせるオープニング。 垂れ込める空に遠く稲光のようにきらめくのは、ストリングスとヴァイオリンのヴィブラートである。 神秘的だ。 水平線から昇る太陽が、雲間にその輝きを見せるように、ヴァイオリンとストリングス・シンセサイザーが豊かな響きが満ちわたる。 一転、シンセサイザーとドラム・ロールをきっかけに、たたみかけるようなアンサンブルが一閃する。 目もくらむようなユニゾンだ。 再び沈み込む演奏、そしてさざ波のようなピアノと低くうねるストリングスに伴われ、ヴォーカルが熱っぽく伝説を語り始める。 次第に加速、過熱するヴォーカル。 応ずる低音。 湧き立つピアノ。 迫るドラムス、そして、高らかなヴォーカルに応ずるブラス風のシンセサイザー。 演奏は一気にクライマックス、ティンパニが轟く。 再び目まぐるしいユニゾンが決まる。 そして静寂。 愛らしいエレクトリック・ピアノ(ライル・メイズ風です)に導かれて、ヴィーナスの如き女性ヴォーカルが悩ましげな表情で現れる。 優美に波打つヴァイオリン。 そのまま次曲へ。
  遥かにのびる海岸線の水平線の近くに、灰色の雲が広がり嵐の予兆を見せる、しかしスコールが過ぎると、きらめくような陽光が雲を貫き再びまぶしい夏の空が現れる、そんなイメージが思い浮かぶ作品だ。 シンセサイザーによるオーケストラ風の重厚な演奏と、ラテン・フュージョン風のソフトなサウンド、そして P.F.M を思わせるスリリングなインストゥルメンタルが次々と現れる。 迫真の演奏と重量感あるリズムによる「動・急」のパートと、ロマンティックな「静・緩」を鮮烈にコントラストさせた、ドラマティックな力作。

  「Arte Do Sol(太陽の芸術)」(3:57) そして男性ヴォーカルがおだやかに応え、ピアノがきらめくとすでに 3 曲目。 演奏は静かにモーメントを取り戻し、ヴォーカルとともにゆったりと進み始める。 甘いヴォイスにもかかわらず、メッセージを感じさせる力強い歌い込みである。 ここで示されるピアノのテーマは健やかで溌剌とした美しさにあふれる名品である。 ヴァイオリンがしたがうと、女性ヴォーカルが返答をしたためる。 コーラスとつややかなヴァイオリンに支えられて、美しいファルセット・ヴォイスで歌い上げる。 応える男性ヴォーカル。 やがて二人のヴォーカルは一つに。 終章では、ピアノは軽快にテーマを繰り返し、ヴァイオリンがピアノのテーマへ軽やかにオブリガートする。 祈りの言葉のようなコーラスが波うち、華やかにして希望に満ちた演奏が繰り返される。
  スウィートなヴォーカルがリードするロマンティックな賛歌。 メロディアスに流れ続けるヴォーカル・パートに、キャッチーなピアノのテーマが光り輝くアクセントとなっている。 結婚式の BGM にお薦め。 2 曲目、3 曲目は一つの組曲のようだ。

  「A Glória Das Manhãs(偽りの栄光)」(7:14) オープニングは、神秘の森をイメージさせるインディオ風の笛の音と鳥のさえずり。 そして始まるは、優しさと包容力にあふれるピアノの演奏と、なめらかなエレクトリック・ヴァイオリンの調べ。 フルートが静かにさえずり、アコースティック・ギターが追いかける。 ヴァイオリンが密やかに歌い、ピアノの調べはゆったりと、しかし力強く響く。 水晶を打ち鳴らすような音とともに、ストリングスが静かに湧きあがる。 エレクトリック・ピアノとストリングス、ヴァイオリンによるファンタジックなアンサンブルが始まる。
  さきほどのピアノのフレーズを、今度は水の滴るようなエレクトリック・ピアノが軽やかに繰り返す。 悩ましげに歌うヴァイオリン、そしてアコースティック・ギターのメランコリックな調べが重なる。 やがて、エレクトリック・ピアノとギターが美しくも躍動感のあるテーマを提示する。 フルートとベースが柔らかく密やかに追いかける。 華麗なフュージョン・タッチの演奏だ。 そして、ヴァイオリンが加わってアンサンブルが優雅に舞う。 ドラムスとともにギターも現れテーマを繰り返す。 ヴァイオリンとギター、エレクトリック・ピアノによるせめぎあうようなアンサンブル。 ロマンチックな演奏は、螺旋を描くように最高潮へと達し、再び波が引くように去ってゆく。
  ロマンティックにして優美なニューエイジ・ミュージック。 映像的なサウンドとたおやかにして逞しい生命感を感じさせるアンサンブルの妙がある。 終盤のテーマまでは、ドラムレスでエキゾチックな幻想美をもつ、ヒーリング系の演奏が続く。 美しい旋律が次々と綴られてゆく様子は、即興風のようで緻密であり、あたかも、森に生きる幾多の生命の織り成す調和を描いているようだ。 エンディングのテーマ演奏など、ここでもパット・メセニーやペッカの作風を思い出す。 インストゥルメンタル。

  「Feliz(幸福)」(0:55) アコースティック・ギターのアルペジオに支えられたピアノによるロマンティックなテーマ。 ほんの一瞬悲劇的な面持ちを見せるも、すぐに柔らかく表情をもどして、ストリングスが透き通るようなオブリガートする。 テーマを引き継ぐヴァイオリン。 ピアノとギターは、さざめくように流れを支える。 テーマを変奏するはたおやかなフルート。 ヴァイオリンが、メランコリックながらも、品のある表情で重なる。 優美に歌い上げるヴァイオリン、そしてストリングスが静かに幕を引く。
  1 分に満たない時間にロマンと夢をつめこんだ美しき小品。 前曲の余韻のようだ。 インストゥルメンタル。

  「Deus Dançarino(神の踊り子)」(2:13) 雷鳴のようなバス・ドラムスのロールとヴァイオリンのトレモロがフェード・イン、スリリングなオープニングだ。 メタリックなシンセサイザーの雄叫びが重なるかと思うまもなく、荒々しいユニゾンでアンサンブルが駆け抜ける。 シンセサイザーとヴァイオリンによる、華やかでいて攻め込むようなユニゾンは、MAHAVISHNU ORCHESTRA のよう。 超絶ユニゾンをオブリガートし、機敏に追いかけるシンセサイザー、ヴァイオリン。 続くテーマでは、シンセサイザーが力強く迫る。 ヴァイオリンのトレモロと壮絶なドラムス。 シンセサイザーが華麗なプレイで挑発し、ヴァイオリンも躍起になって応える。 めまぐるしくも痛快な演奏だ。 たたみかけるような調子で駆け下りる演奏は、鮮やかにメロディアスなアンサンブルへと流れ込み、ヴァイオリンが豊かな音でテーマを歌い上げる。
  再び、一瞬のうちにすべてが白熱するテクニカルでスリリングなインストゥルメンタル。 P.F.MMAHAVISHNU ORCHESTRA を思わせる華やいだ疾走。 激しさよりもつややかな音色による胸躍る昂揚がうれしい。 勇ましい飛翔から豊かなメロディへと軟着陸する解決部もすばらしい。 ヴァイオリンの特性を生かした名小品。

  「A Memória Das Selvas(密林の想い出)」(2:08) 息つくまもなくシンセサイザーによるエキゾチックな響きが湧き起こる。 舞い踊るヴァイオリン、そしてそして異教の祈祷を思わせる混声コーラス。 パーカッションが民族音楽調のビートを叩き出し、ヴァイオリンは金切り声を上げて飛び回る。 シンセサイザーは、オーケストラを思わせる雄雄しい広がりを見せ、力強く律動するビート、エキゾチックなコーラスとともに神秘的な世界のイメージを描く。 ヴァイオリンの旋律は、鋭く張り詰めた糸が空を切り裂くかのようにピンと高鳴りこだまする。 響きわたるストリンングス、ブラス、ドラム・ビートが尾を引きつつ消えてゆく。
  雄大なシンセサイザー・オーケストラが響き渡るなかを呪文のようなコーラスが漂いパーカッションが湧き立つ神秘的な作品。 祈りと神の顕現を、それぞれヴォーカル、シンセサイザーで表現しているようだ。 前曲と合わせて、二曲で一つなのかもしれない。

  「Corpo Veleiro(セイリング・ボディ)」(5:05) エレクトリック・ピアノが寄り添い、切ないメロディが歌い上げられる。 ホィッスルの風のシンセサイザーのオブリガートがか細く響いて哀愁をなぞる。 今度は力強いピアノの和音が追いかけるが、ヴォーカルの表情はまだ切なく哀しげだ。 うつむいたままざわめくピアノ、奥深く響き渡るストリングス、ホィッスルもわびしげに響く。 切々と美しい旋律を紡ぐヴォーカル、そして伴奏もヴォーカルにしっかりと付き従い、支える。 こらえ切れないようなストリングスの高まりとピアノのざわめき。 沈み込む演奏、そして幼児の無垢な笑い声が。 さざ波のようなピアノ。
  美しく切ないバラード。 AOR というにはメロディに気品があり、宗教音楽や古典悲劇のような崇高なムードである。 ストリングス、ピアノによる演奏はどこまでも安らかだ。

  「Sagrado(捧げもの)」(6:55) 嵐の前触れのようなシンセサイザーの神秘的なざわめきから次第にベース、パーカッションによるビートが強まってゆくオープニング。 ブラス・セクションの如きシンセサイザーが力強く高鳴り、ギターが呼応する。 三度高なるブラスを受けるとテンポは一気にアップ、華麗なヴァイオリンを中心とした演奏が始まる。 ヴァイオリンによる華麗なるカデンツァ風ソロで最高潮に達する。 「大いなる西部」や「スターウォーズ」を思わせるテーマだ。 たたみかけるドラムスから力強い決めを経て、つややかなヴァイオリンがあたかも吸い込まれるように消えてゆく。 息を呑む展開だ。
  ピアノ伴奏で女性ヴォーカルがおだやかな表情で歌いだす。 間奏は、ギターとチェンバロによるバロック風。 繰り返しでは、伴奏にコロコロとしたシンセサイザーも現れる。 抑えているが表情からは情熱がほとばしるヴォーカル。 再び、シンセサイザーによる雄大な旋律が湧きあがる。 クリスタルのようなソプラノ・ヴォイスは、美しき祈りの言葉。 転がるようなシンセサイザー、そして厳かなピアノが歌にしたがう。
  ヴァイオリンが復活し、そのリードでオルガンやギターとともに華やかにスピーディに演奏が走る。 ピアノが演奏をとらえ、ヴォイスとともにリタルダンド。 ストリングスとヴァイオリンが美しい調べで舞い降りる。
   ここからはエンディングに向けて一気に加速。 激しいヴァイオリンのカデンツァである。 たとえるならば、前世紀的ヴィルトゥオーゾ、アルテール・グリュミオのソロを思わせる暖かくも饒舌なプレイだ。 そしてヴァイオリンのリードによる躍動するアンサンブルが軽やかに動き出す。 はち切れんばかりにみるみる高みへと登ってゆく演奏。 再びクライマックスでは、ヴァイオリンのトリルによるテーマが弾ける。 激しいキメとヴァイオリンの応酬。 やがて潮が引くように、余韻を残してすべては消えてゆく。
   映像的でつややかなシンフォニック・ロック。 ヴァイオリンをフル回転させた一大スペクタクルである。 力強くもメロディアスなテーマとカデンツァを軸に、疾走するアンサンブルと幻想美をたたえるヴォーカル・パートをそれぞれ鮮烈なタッチで描き、息もつかせぬ勢いでコントラストさせる。 緩急自在にアンサンブルを操って、一気に駆けぬけるという表現がふさわしい傑作だ。 スピード、スリル、そして官能的な旋律美と暖かなハート、すべてが盛り込まれたアルバムを代表する大作である。

  「A Vida É Terna(永遠)」(2:30) うっすらと湧きあがるストリングスとともに、慈愛に満ちたヴォーカルが歌いだし、ハープが爪弾かれる。 オブリガートは、オーボエを思わせる、か細くもさえずるようなシンセサイザー、そして気まぐれなハープ。 伸びやかな歌唱と優美な伴奏。 ドビュッシーの最上のシーンを思わせるアンサンブルだ。 消え入りそうなヴァイオリンの調べ、そしてヴォーカルは、おだやかながらも、最後まで暖かく自信と希望にあふれている。
  慈しみとともに宗教的な厳かさを感じさせるバラードによるエピローグ。 前曲の高揚を沈め、おだやかな気持ちで暮らしへと帰ってゆく。 ラテンの人達は、情熱の振幅が僕らよりも遥かに大きいようだ。


  ヴァイオリンがリードとするスリリングなアンサンブルと、たおやかにして情熱あふれるヴォーカルによって繰り広げられるシンフォニック・スペクタクル。 それは、ラテン・ミュージックとクラシック/ジャズの妙なるブレンドであり、厳かにして慎ましやかな祈りの迸りである。 生を謳歌する瑞々しくも荒ぶる官能と、神を称え世界のすべてに感謝する精神が、矛盾なくとけあう世界に響きわたる音楽なのだ。 そういうラテン的感受性とでもいうべきものが生んだ音が、遥か太平洋を隔てた我が国に、全く違和感なく真正面から響いてくるのだからすごい。 この浸透力、おそらく本作は、すべての人間の根っこの部分を音に置き換えたものなのだろう。 全編フィーチュアされるヴァイオリンは、色鮮やかな人間性の象徴である。 雄大にして緊迫感ある世界を演出するシンセサイザー・オーケストレーションも特筆すべきだろう。 南米シンフォニック・ロックの傑作。

(992054-1 / K32Y 2179)

 Flecha
 
Marcus Viana vocals, electric & acoustic violin, keyboards

  87 年発表の第二作「Flecha」。 A 面に「A CANÇÕES」、B 面に「AS SINFONIAS」と名づけられた通り、前半はリズムセクションとヴァイオリン、キーボードに支えられた優美な歌もの、後半は、ギターも加わって慎ましやかながらもファンタジックな器楽中心の曲が並ぶ。 はちきれんばかりの高揚感は前作よりも抑えられて、楽曲は明快なシナリオの下、丹念ではあるが軽やかなタッチでコンパクトにまとめられている。 マニアックな構築性から明快さに重心を移したといってもいいだろう。 高尚にして華やかであり、親しみやすい語り口も巧みである。 リズミカルな曲では AOR/ポップス(80 年代らしいハードポップ路線、つまり ASIA です)的な調子を強めて耳触りをよくし、スローなバラードはメロディアスな中に気品を漂わせ、ポジティヴかつヒューマンな表情で心揺さぶるのだ。 前半はまさに珠玉のメロディ集、そして後半は、シンフォニック・ロックというイメージにすっぽり収まる純度の高い演奏が続く。 この時期ながら、英国ネオプログレとは音的なつながりはなく、どちらかというと 70 年代の残り香のある 80 年代前半の CAMEL の作品に通じるニュアンスがある。 官能的なヴォーカルと虹を描くようなヴァイオリンは健在、今作でも心のひだに寄り添い、胸を熱くするロマンにあふれる演奏を全編で見せる。 完成度という点では前作を凌ぐ作品。 キャッチーなハードポップながらも細かな音使いと起伏のある 1 曲目、5 曲目のテーマ、後半の導入部たる 6 曲目はかなり感動的。 万人に訴える佳作でしょう。

  「Flecha」(4:41)飛翔感のあるハードポップ風の作品。 悪しき 80 年代風のシンプルなドラム・ビートによる平板な調子にもかかわらず、ヴォカリーズやヴァイオリンでうまくふくらみをもたせて優美でロマンティックな味わいを保ち、安っぽくさせない。 神秘的なプロローグで一気に惹き込むのはうまい作戦だ。 シンプルなだけに、ヴァイオリンの鋭利なバッキングや竪琴風のシンセサイザーの鮮烈なオブリガートなど演奏のキレが際立つ。

  「Manhá Dos 33」(4:26)繊細で誠実な歌唱が活かされたバラード。甘めだがヴァイオリンのオブリガートとヴォーカリストのおかげでグレードが上がる。 デニス・デ・ヤング風のエレクトリック・ピアノ。管楽器風のシンセサイザーのアクセントもいい。

  「Paz」(1:11)シンセサイザーとエレクトリック・ヴァイオリンのスペイシーなデュオ。

  「Seres Humanos」(4:39)繊細かつドラマティックな歌ものメロディアス・ロック。賛美歌とハードポップ系のバラードの合体である。 安定感あり。
  「Carinhos Quentes」(3:59)混声ヴォーカルによるロマンティックで官能的なバラード。 みごとなメロディ・ラインとアレンジ。 14 BIS、ヴェンチュリーニ直系の名曲。


  「Tocatta」(2:26)華麗なるチャーチ・オルガン独奏。プログレ心満載。

  「Cosmos x Caos」(10:12)ややフュージョン寄りのシンフォニック・ロック。
80 年代らしいシンプルでキャッチーなロックだが、オブリガートやアクセントではぜいたくな音を配置してる。 前半間奏部でのハイテンションな演奏や終盤のマーチ風のアレンジなどはさすが。 スローなバラード調のパートのほうが説得力がある。

  「O Futuro Da Terra」(6:06)クラシカルで生命感あふれるメロディアス・シンフォニック・チューン。 エレクトリック・ヴァイオリンは陰に陽につややかな響きでアンサンブルをリードする。 デジタル・エレクトリック・ピアノ、フルートをフィーチュア。 南米の GANDALF。 アコースティックな印象の作品である。 プログレと称してこの路線にとどまるバンドは多そうだ。

(992605 1 / SSCD003)

 Farol Da Liberdade
 
Marcus Viana vocals, electric & acoustic violin, keyboards
Ivan Correia bass
Lincoln Cheib drums
Andersen Viana flute
Sebastião Viana flute
Augusto Rennó guitars
Ronaldo Pellicano keyboards
Paula Santoro vocals

  91 年発表の第三作「Farol Da Liberdade(自由の灯)」。 内容は、情熱的にしてヒューマンなモダン・シンフォニック・ロック。 目玉はインストゥルメンタルの充実であり、確たるバンド編成を取ったことで、演奏にダイナミックな勢いができた。 ギターも積極的に取り入れられている。 もちろん、クラシカルなヴァイオリンの美しさは本作でも際立っている。 このつややかなヴァイオリンを活かした、ハイテンションの技巧がほとばしる演奏は、DIXI EDREGSP.F.M と並べて語るべきものだろう。 楽想も、前作以上にプログレらしい彫の深いドラマにあふれ、デリケートな旋律美とスリリングな演奏のバランスもいい。 悠然と広がるサウンド・スケープとエレキギターのなめらかな調べが、YES を呼び覚ます瞬間すらある。 瑞々しい生命力にあふれるサウンドには、クラシックをベースにジャズ、ニュー・エイジ、ポップスまでにわたる、幅広い音楽性が感じられる。 エレクトリック・キーボードによる厳かで美しいサウンド・スケープを活かした壮麗で奥深いシンフォニック・チューンもさることながら、BACAMARTE と同じく、管弦楽器やアコースティック・ギターらのアコースティックなサウンドによる素朴なクラシカル・テイストとフォーキーなタッチもいい。 ラテンの情熱をインテリジェントな音楽観でまとめあげ、慈愛の魔法をふりかけた、いわば音楽の法悦といえるだろう。 はり裂けんばかりのロマンティシズムと痛快な疾走感に興奮させられる、理想的な内容だ。 胸を打つメッセージから切れ味鋭い演奏の醍醐味、そしてポップ・テイストまで、プログレ本来の多面的な魅力を詰めこんで聴きやすさも守られている最高傑作だ。 前作、前々作から一歩づつ深化しているところがすばらしい。 この内容なら、80 年代に巷にあふれた薄味のニューエイジ然としたサウンドに辟易した方の耳目すら惹きつけるでしょう。 前作で期せずして近づいてしまったハードポップ路線を、90 年代プログレ復権のチャンスを活かして、うまく修正できたといういいかたもできそうだ。 パット・メセニー・ファンもぜひ。

  「Danç Das Fadas(妖精のダンス)」(5:00) ヴァイオリンをフィーチュアした P.F.M ばりのクラシカルでスリリングな傑作。みずみずしいサウンドとともにアッパーなまま駆け抜ける。 ジプシー・ヴァイオリンによるムニエラ風のテーマなどイタリアン・ロック的な面がある。

  「Solidariedade(連帯)」(4:56)フルート、ハープ、アコースティック・ギターをフィーチュアしたメロディアスかつスリルもあるインストゥルメンタル作品。 クラシカルなアコースティック・ロックの傑作。

  「Amor Selvagem(野生の愛)」(3:39)重厚なストリングスが取り巻く、スケールの大きい朗唱。

  「Pantanal(湿地帯)」(4:39)躍動感あふれるパット・メセニー・グループ風の作品。(パイプ風のシンセサイザーの音がライル・メイズに似ているだけかも)野生の息吹を讃え、勇ましく情熱的で甘美。

  「Olívia(オリヴィア)」(1:37)慈愛の小品。管弦風のシンセサイザーと赤ん坊の笑い声。ちょっと狙いすぎな感もありますが、単なるお誕生祝いと思えば、ほほえましい。

  「Farol Da Liberdade(自由の灯)」(4:29)ワンクッションおいて、再び躍動するヴァイオリン・シンフォニック・ロック。ハードポップ路線に堕ちる寸前でヴァイオリンの翼が鮮やかに翻る。2 曲目の回想? バンドの生きがいい。

  「Paio E Trovão(大ばか者とかみなり)」(3:43)フォーク・タッチの歌もの。ヴァイオリンは春風のように、手馴れた飼い鳥のようにヴォーカルを取り巻いて華やかに舞う。バッキングのギターやキーボードもいいプレイを放つ。

  「The Central Sun Of The Universe(すべての星は太陽を回る)」(11:36)

(SSLP-004 / KICP 2726)

 Grande Espírito
 
Augusto Rennó guitarsMarcus Viana electric violin, keyboards, bambo flute, vocals
Lincoln Cheib drumsIvan Correia bass
Fernando Campos guitarsBauxita vocals
João Guimarães drumsMilton Nascimento vocals
Firmino Cavazza celloInês Brando piano
Helder Araújo sitarPaulo Santos tabla, pakawaj, percussion
Nenem drumsDécio Ramos percussion, vibraphone

  94 年発表の第四作「Grande Espírito」。 内容は、前作からハードでメロディアスな歌ものを目指して舵を切った感あるシンフォニック・ロック。 デジタル機材の進化とともにサウンドの重厚感や真正性を増したイージー・リスニング系クラシックとエレクトリック・ビート、ギター・リフによるロックっぽさを、元来の第三世界的なファンタジックでスピリチュアルなムードを軸にして、一つにまとめている。 アリーナ・ロックに近づくもそこまで能天気なエンタテインメント一辺倒ではなく、アーティスティックな感性と知性を十二分に感じさせる。 これは、同時期のパット・メセニーとも通じる趣向だ。 歌唱表現は情熱にあふれ、宗教的な厳粛さと現世的な性愛の開放感を矛盾なく両立させる力がある。 ヴィアナのエモーショナルな"泣き"のヴァイオリンのプレイは HR/HM 系のエレクトリック・ギターとも相性がいい。 シンプルなビートを強調したキャッチーな作品でも色彩豊かなサウンドとスリリングなアンサンブルのおかげで安っぽくなっていない。 交響楽的高揚感とニューエイジ・ミュージック風味、つまりスピリチュアルな癒しのニュアンスは最終曲で頂点に達する。 ミルトン・ナシメントをはじめ、オリジナル楽器によるインストゥルメンタル・グループ UAKTI のメンバーやシンガーの Bauxita らがゲストに迎えられている。 唯一のインストゥルメンタル・チューンである 7 曲目はアジアン・エキゾティックな響きもある異色作かつ力演。 DOGMA を結成するフェルナンド・カンポは本作品から参加。 海外での高評価に応じた英語詞の作品が二つある。

  「Kian」(5:30)
  「Libertas」(4:00)
  「Human Beans」(4:39)こういう曲がたくさんありましたよね。
  「Eldorado」(1:50)
  「Grande Espírito」(8:47)
  「Sweet Water」(6:28)
  「Rapsódia Cigana」(6:20)
  「Pais Do Sonhos Verdes」(13:54)

(SSCD007)

 A Leste Do Sol, Oeste Da Lua
 
Marcus Viana electric violin, keyboards, vocals, cello, bandolim
August Renno guitars on 1,2,4,9,10,12,13,15, acoustic guitars on 2,3,4,7,8,9,12,13,15
Carla Villar vocals on 1,9 Mario Castelo drums on 1
Jose Audisio acoustic guitar on 2 Giacomo Lombardi synthesizer on 2, piano solo on 10
Lincoln Cherib drums on 2,7,15 Alda Rezende vocals on 3
Eduarde Campos drums on 4 Ivan Correia bass on 4,7,9,15
Ligia Jacques vocals on 4 Lincoln Meirelles solo piano on 5
Hely Drummond keyboards on 6 Vanessa Falabella vocals on 7,10
Fernando Campos guitar on 7 Andre Queiroz drums on 8
Glaucia Quites vocals on 8 Firmino Cavazza cello on 9
Nenem drums on 10,13 Andre Matos vocals on 13,15
Paulinho Carvalho bass on 13 Edson Pla bass on 1,2,10

  2000 年発表の第五作「A Leste Do Sol, Oeste Da Lua」。 タイトルは「太陽の西、月の東」。 70 分の大作であり、ベスト盤などを除くと現時点の最新作だと思います。 内容は、優美なエレクトリック・ヴァイオリンとたおやかなヴォーカルをフィーチュアした、メロディアスで官能的、そして清々しく気高いシンフォニック・ロック。 スピリチュアルなニュアンスもあるようだが、どちらかといえば自然なオプティミズムにあふれ、現世の生を肯定しながら夢想にも遊ぶ、溌剌とした作風である。 現実逃避のファンタジーではなく、人生に彩りを付与するファンタジーなのだ。 楽曲は、歌ものを主に、インストゥルメンタル曲もちりばめている。 歌ものにおいても、インスト・パートでは多彩な器楽ソロ、アンサンブルがフィーチュアされている。 「ワールド・ミュージック調プログレ」というスタイルはあまり変わらず、個人的にはそちら方面以外でのもう少し破格な展開があるとうれしい。(もっとも、12 曲目のインスト小品で一瞬だけ出てくるへヴィな音の方面に進まれては困るかも) とはいえ、音楽的な包容力が図抜けているのも事実。 透明感のある繊細なサウンドで甘めのメロディを包んでも、安っぽい迎合趣味は微塵もなく、気高く、時に雄々しく、常に凛として、情熱に溢れ、清潔感がある。 BANCO と同じく時代の音に合わせてもきちんとその個性が現れている。 全体としては、あくまで SAGRADO 節の範囲内ではあるが、その幅を思い切り使った多彩な秀作アルバムだと思う。
   プッチーニ(3 曲目「蝶々夫人」)やドビュッシー(6 曲目「月の光」)などクラシック作品のアレンジものもあり。 5 曲目「Allegro」はヴィアナ自身によるクラシック作品からの抜粋のようだ。 7 曲目「Lagrimas Da Mae Do Mundo」は力作。この作品のギターは DOGMA のフェルナンド・カンポス。 9 曲目「Amigos」は、哀愁の傑作インストゥルメンタル。パット・メセニーのファンにも聴いていただきたい。 11 曲目「Maya」は、エキゾチズムに満ちた、タイトルから想像できるとおりの内容。 12 曲目「Planeta Minas」は、メタリックなギターも唐突な小品。ヴィアナが珍しくチェロを奏でる。 13 曲目「Bem - Aventurados」は、冒頭のクラシック・ギターがすばらしい。
  ヴォーカルはポルトガル語が主で 10 曲目「Firecircle」のみ英語。 英詞しか分からないのですが、ファンタジック、スピリチュアルな内容のようです。 また、収録参加メンバーの一部はイタリア系の方のようですが、やはりプログレにはイタリアの血が欠かせないのか、それとも、移民の国ブラジルでは当たり前?

  「A Leste Do Sol Oeste Da Lua」(5:16)
  「Ovniana」(4:58)
  「Madame Butterfly」(3:21)
  「Cancao Dos Viajantes」(3:49)
  「Allegro」(1:26)
  「Clair De Lune」(4:04)
  「Lagrimas Da Mae Do Mundo」(7:47)
  「Serras Azuis」(3:38)
  「Amigos」(4:27)
  「Firecircle」(5:07)
  「Maya」(6:57)
  「Planeta Minas」(1:42)
  「Bem - Aventurados」(5:42)
  「Anima Mundi」(3:08)
  「Terra」(8:16)

(SSCD031)

 Pantanal
 
Marcus Viana electric violin, digital piano, synthesizer
guest:
SAGRADO CORAÇÃO DA TERRA on 7,9
Marco Antonio Botelho drums on 2
Gal Amancio percussion on 2
Guda percussion on 2

  90 年発表の作品「Pantanal」。 内容は、ストリングス系キーボードとエレクトリック・ヴァイオリンを使用したクラシカルで叙景的なインストゥルメンタル。 オーケストラ調の深みと広がりのある表現であり、繊細さと雄々しさが一つになった神秘的で悠然とした調子が主である。 動物の鳴き声等も使って Pantanal = 沼地のイメージを巧みに盛り込んでいる。 全体に、デジタル・シンセサイザー特有の音色ながらも安易なニューエイジ然としたところはなく、力強さよりも女性的で優しげなタッチが主ではあるが、深いメッセージを感じさせる音になっている。 と同時に、いわゆる南米風の音も散りばめられていて、分かりやすくなっている。 クレジット通り、バンドのメンバーもアコースティック・ギターやフルート、ピアノなどで 2 曲に参加してる。 最終曲「Sinfonia」は、地上の「Pantanal」と遥か空高い宇宙とをつなぐような雄大なイメージを広げる傑作。 TV 番組(ブラジルの自然を背景にした大河メロドラマらしい)のサウンド・トラックの一部として製作された。

  「Pantanal (Abertura)」()
  「Pulsaçoes Da Vida」()
  「Espítito Da Terra」()
  「Onça Pintada」()
  「Noite」()
  「Reino Das Águas」()
  「Paz」()
  「Respiraçao Da Floresta」()
  「A Glória Das Manhãs」()
  「Sinfonia」()

(SSCD 005)


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