フィンランドのプログレッシヴ・ロック・グループ「FANTASIA」。73 年結成。作品は一枚のみ。ST.MARCUS.BLUESBAND の変名バンド。
Roul Helantie | Fader piano, Moog synthesizer, Jen superstring, Hammond organ, violin |
Hannu Lindblom | guitar, vocals |
Harri Piha | bass |
Karl-Erik Ronngard | drums |
guest: | |
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Pekka Poyry | sax |
Mikael Wiik | guitar |
75 年発表のアルバム「Fantasia」。
内容は、民謡風味のあるジャジーなシンフォニック・ロック。
郷愁と知性と脳天気さがブレンドした、70 年代北欧ロックらしさにあふれる作品だ。
名前の通り、ギターのアルペジオがメロディアスなシンセサイザーのテーマを支える、夢想的でひなびた叙情的な調子が主である。
そして、ひなびたラウンジ・ミュージック調に男っぽいハードロックの表情がちらちらと見え隠れするところが特徴だろう。
ヴォーカルも入るが、どちらかといえばインストゥルメンタルが主。
ブルーズ・バンド出身だけあってリズムは逞しく、ギターやキーボードのサウンドもプレイも骨太、クラシカルなテーマ演奏でももう一歩勢いづいたらハードロック化しそうな旺盛な演奏である。
アナログ・シンセサイザーの気高くも生々しい音や位相系エフェクトで加工されたギター・アルペジオにも、根底にあるそのパワーがしみ出している感じだ。
全体に力強い音を活かしたマスタリングである。
猛るような荒々しい印象が先立つが、実際はかなり緻密な演奏になっていると思う。
曲展開には明快な緩急や陰影があり、上記の通りの演奏力で押し切る感じと起伏のあるストーリー性がいい感じでバランスしている。
特に、メイン・ヴォーカル・パートではメロディ中心にストレートに迫るが、序奏や長大な間奏ではキーボード中心のアンサンブルで工夫を凝らした演奏を見せる。
ダークにへヴィに迫るときの表情もカッコいい。
ギターは、力の入ったテーマ演奏から、位相系やサイケなワウでエフェクトされた音のアルペジオと小気味いいコード・カッティングによるバッキング、ブルーズ・フィーリングのあるソロなど全体をリードする役割を負っている。
アコースティック・ギターによるジャジーなアドリヴにも腕前を見せている。
キーボードはエレピ、ハモンド・オルガン、シンセサイザーらを使用するが、特徴的なのは、ストリングス系のシンセサイザー。
なかなか他では聴けない、太く存在感のある「濃い」音だ。
また、一部でキーボーディストがエレクトリック・ヴァイオリンを奏で、サックスのサポートも得ている。
ブルーズ・テイストとクロスオーヴァーの優れたハイブリッド具合(そして、ハイハットを細かく揺らすにぎやかなドラミングも)から、やはり CAMEL を引き合いに出すべきなんだろう。
ただ、こちらの方がペーソスがあるし、暑苦しい焦燥感がある。
歌のフィン語の響きのせいもあるだろうが、歌ものでは TASAVALLAN PRESIDENTTI を大幅にシンフォニックにした感じ、WIGWAM をブルージーにした感じもあり。
ギターとシンセサイザー中心のインスト・パートは、FINNFOREST 的。
結論、ジャジーなシンフォニック・プログレにアヴァンギャルドな感性が息づく佳作。
ヴォーカルはフィン語。素朴な響きがいい。
プロデュースは、ミカエル・ウィクとロニー・オステルベルグ。
「Pilvien Takaa」(4:30)フォーキーかつブルージーな歌ものロックと思わせておいて中盤に謎めいた展開を折り込む野心作。
サイケデリックな感覚のあるプログレ・チューンである。
「Unikuva」(3:38)変拍子パターンのアルペジオが導き、シンセサイザーの一閃とサックスで激しく脈動するジャズロック。
サックス・ソロは鮮烈。ワイルドなワウ・ギターが生むグルーヴもいい。インストゥルメンタル。
「Huutokauppa」(2:54)ギターと切迫したリズムが緊張感をあおるも、シンセサイザーがとうとうと歌うシンフォニック・チューン。
ブルーズ・ロックのままジャジーに決めようとするギターがカッコいい。
インストゥルメンタル。
「Suhkuliidolla」(3:49)へヴィなファンク、R&B 調、フォークロックなど目まぐるしく変化する作品。ここでもシンセサイザーのテーマに強い存在感あり。後半はエレクトリック・ヴァイオリンがリードする叙情的な展開に。インストゥルメンタル。
ブルーズ感覚とは世知辛い世の中と我が道の相克を憂う心地だと思うが、このグループの作風にはそういったやるせない憂いよりも、純粋に夢見るようなロマンチシズム(ドイツ風といってもいい)を強く感じる。
だから、ブルーズ・ロックよりもプログレ向きである、と思う。
「Hautausmaani Rannoilla」(3:12)冒頭はヴァンゲリスのようだが、ジャジーで快調な歌もの。ストリングス・シンセサイザーがド派手にバッキングする。70 年代の日本のバンドを思い出す。
「Tulen Pisara」(5:50)切ない過去を振り返るような、メランコリックなバラード。ブルージーなエレピのバッキングがいい。ここでもストリングス・シンセサイザーが響き渡るが、他のパートはその夢想感をかき消すような哀愁ある現実味を示す。
「Agressio」(2:41)スリリングだがどこかネジのゆるんだ、ユーモラスな小品。インストゥルメンタル。
「Harma Jazz」(1:29)北欧ロックらしい GS 調の哀愁アッケラカン・サーフロック。ギターが冴える。インストゥルメンタル。
「Depressio」(6:54)悠然とした展開の力作。叙情的なテーマやジャズロック風の挑戦的なテーマを並べて、KING CRIMSON のようにディミニッシュ系の音でアクセントする。
ここまで三曲はギターが主役の一つの組曲かもしれない。インストゥルメンタル。
(HILP 107 / ROK 046)