FANTASY

  イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「FANTASY」。 70 年結成。 74 年解散。 76 年再結成。 夢見るようにリリカルなフォーク・ロックにシンフォニックな余韻を与えた純英国風のサウンド。

 Paint A Picture
 
Paul Lawrence 12 string guitar, vocals
David Read bass, vocals
David Metcalfe keyboards, vocals
Peter James lead guitar, vocals
Jon Webster percussion, vocals

  73 年発表のアルバム「Paint A Picture」。 内容は、ソフトで優しげな音を基本にシンフォニックなアレンジを施したフォーク・ロック。 オルガン、メロトロンに彩られた、適度にセンチメンタルで、適度にほのぼの、そして適度にドラマチックな楽曲が並ぶ。 全体にしっとりとした聴き心地が特徴だろう。 派手めのプレイも見せるギターやオルガン、ビート・ロック風のメロディ・ラインなど、BARCLAY JAMES HARVEST に近い世界だと思う。 ギターもオルガンもかなり明確なソロを取るし、ベースも機敏に動いてアンサンブルをリードするが、和やかな歌メロと 60 年代風のコーラスがすべてをオブラートに包んだように優しく、はかなく見せているようだ。 間断なくかき鳴らされるアコースティック・ギターも眠気を誘う原因の一つかもしれない。 よく聴くとギターもオルガンも場面毎、曲毎に巧みに音色を変化させて単調にならないように配慮している。 やや平板な録音のせいだけともいえない、このボンヤリとした雰囲気をもたらしている一番の理由は、明快なフレーズや運動性の高いアンサンブルはあるものの曲のストーリー展開に大仰な振幅がないため。 本作の味わいは、やさしさに見え隠れする、はかなくもの悲しげな風情なのだろう。 メロトロンの魅力で生き残った作品ともいえる。
  メロディアスなヴォーカル・ハーモニーにオルガンとメロトロンで厚みをつけ、ギターをアクセントとして配したポップス調のロック。 夢の国へと誘う小鳥の羽根のように柔らかい優しさと、美しい花の香りのようなあまやかな刺激に満ちた世界である。 ブリティッシュ・ロックの懐の広さを感じさせる。 プロデュースは、ピーター・セイムス。 2001 年リリースのポリドールの紙ジャケット・シリーズでは従来の CD とはずいぶんとイメージの異なる明快な音になっている。

  「Paint A Picture 」(5:24)幻想的な雰囲気の中にもメランコリックなメロディが映える佳作。 美しく熱っぽいコーラス、メロトロンで盛り上がる幽玄なサビ、ジョン・リーズ風のサイケデリックなギターなど。 中盤のオルガン・ソロも厳かさとポップなノリがバランスしていい感じだ。

  「Circus」(6:18) 白霧にけぶるように夢見がちな歌ものビートポップがにぎにぎしいフォークロックへと展開する。 メロディアスなヴォーカル・ハーモニーとオルガンのバッキングと小気味のいいギター・オブリガート。 間奏部が大きく取られて、メロトロンやオルガン、ギターがたっぷりとインタープレイを披露する。 オルガンがスタッカートで短いリフを刻むと、それをきっかけに満を持して拍手、歓声とともにギターが力強いパワーコード・リフで応じ、ヴォーカル・ハーモニーも力を得て一気にラウドな展開になる。 冒頭のぼんやりとしたムードがうそのような、みごとな展開だ。 重量感あるオルガン、ワイルドなギターをリードに THE MOODY BLUES をややヘヴィにしたような演奏が繰り広げられる。 最終部のギターによるトラッドっぽいリズミカルなテーマもおもしろい。 60 年代から 70 年代へと一気に駆け抜けるような内容である。

  「The Award」(4:52) メランコリックなギターが導く、幻想的かつひねりの効いたフォーク・ソング。 憂鬱な歌メロを意外なまでにタイトな演奏で支えており、優しげな基調にメリハリがついている。 粘っこいファズ・ギター、ベースのオブリガートが巧みにリード・ヴォーカルを彩る。 コーラスはやるせなさの漂うヴォカリーズのみ。 ギターが音色やフレージング、コード・ワークをさまざまに工夫して、演奏に変化をつけている。 ヴォーカルをなぞるファズ・ギターの荒々しさも、ハーモニウムのようなオルガンとソフトなヴォーカルでたくみに和らげている。 事故死した初期メンバーのボブ・ヴァンに捧げた作品。

  「Politely Insane」(3:27) ブラス・アンサンブルのサポートを得た西部劇のサウンド・トラックのように勇ましい作品。 馬を駆るようにアコースティック・ギターのストロークとワウ・ギターのカッティングが煽る。 ヴォーカルは勇壮で気高く若々しい。 ドラマチックなテーマとサビの繰り返しのみというストレートな構成ながら、音の迫力と力強い説得力がある。 フェード・アウトが少し残念。 CRESSIDA にもこういう作品がありましたね。

  「Widow」(2:12) チェロ、ピアノが美しい哀愁の室内楽風フォーク・ソング。 アコースティック・ギターの密やかなアルペジオが波打ち、物憂げなチェロが寄り添い、ピアノのさざめきが受け止める。 ヴォーカルは「穏やかなロビン・ウィリアムソン」とでもいうべきか。 憂鬱な気分に、時おり儚い喜びがきらめく。 心に残る小品。

  「Icy River」(5:53) ギターとオルガンが高らかに放たれるにぎにぎしいオープニング。 オルガンの余韻のままに、曲調は勢いを鎮め、ゆっくりと憂鬱さの澱みへ沈み込んでゆく。 遠くでたなびくオルガン。 リード・ヴォーカルと寄り沿うハーモニーは物憂げながらも夢から醒めない表情で慈愛のバラードを歌う。 哀愁にふけるはかないハーモニーを支えるのは、アコースティック・ギターの丹念なアルペジオ、そして巧みに流れを浮き沈みさせるベース・ラインである。 ギターのヴァイオリン奏法もまろやかな音で守り立てる。 前半はドラムレスで流れるが、テンポができてゆくとともにドラムスも加わって、それに応じてリード・ヴォーカルも高まりを見せ、曲調は高揚してゆく。 一旦演奏がフェード・アウトするも、オルガンは流れ続け、ドラムスとベースが堅実に時を刻むうちに、演奏は勢いを取り戻す。 なかなか凝ったアレンジだ。 終盤は、支えとなるクラシカルなオルガンの響きにメランコリックなギターのソロが重なり、悠然としたアンサンブルとなる。 変化をつけながら、たっぷりとタメをつくってエンディングに流れ込む。 1 曲目、3 曲目と同じく、日差しで鈍く光る朝霧のように茫洋とした音ながらも、展開はドラマティックだ。 ぼんやりと澱む夢から溌剌とした目覚めへと変化するような期待感と暖かみのある作品だ。

  「Thank Christ」(4:06) 吹きすさぶ風、そしてアコースティック・ギターのストロークとオルガン、メロトロン、ヴォカリーズがゆっくりとフェードインしてくるオープニング。 霧が晴れるとともに目の前に美しい景色が広がってゆくような感じだ。 心拍のようなベースの連打に支えられ、透明感のある幻想的なヴォカリーズが高まる。 そしてメイン・ヴォーカルは、気高く、孤高である。 ナチュラル。トーンのギターによるさりげなく素朴なオブリガートがぴったりと歌に寄り添って歩んでゆく。 イタリアン・ロックを思わせる牧歌調である。 決然とした表情に寂しさが交差するように曲調が微妙に変化を繰りかえす。 重々しい音によるアクセントも効いている。 マイナーの歌メロのまま盛り上がるところなど、ブルーズロックの名残をほのかに残しており、全体としては B.J.H 風のシンフォニック・チューンといえる。 タイトルからしてクリスチャン・ミュージックというくくりでいいのでしょうか。

  「Young Man's Fortune」(3:41) ビート・グループの面影を伝える哀愁のヘヴィ・チューン。 ギターとオルガンによる泣きのイントロダクションは、強いベースのビートとファズ・ギターのリフとともに一気に力強い演奏となる。 ダビングされたギターによるリフやオブリガート、分厚く迫るオルガン、強めのドラムス・ビート、フィルインなど、ここまでとは表情が違う。 攻めたてるようなリズムで堂々と進む演奏に対し、ファルセットのヴォーカル・コーラスが凛と美しく対峙する。 終盤のブルージーなギター・ソロは新鮮。 2 曲目でも感じられたように、60 年代ビート、ブルーズ・ロックから 70 年代ハードロックまでの様式をうまくとらえてまとめている。

  「Gnome Song」(4:19) アコースティック・ギターとピアノのアンサンブルが中心の感傷的なフォーク・ロック。 メランコリックで幻想的な雰囲気が復活した。 12 弦ギターのアルペジオとクラシカルなピアノによるアンサンブルは、フォーキーにして典雅。 アンサンブルの質感は、初期の GENESIS と共通する。 こうなると歌メロが無難なポップス調なところが惜しい。 もっと心に刺さるメロディがほしかった。 ギター・デュオに導かれてリズム・セクションが加わると、おなじみのゆったりとメロディアスなフォークロック調になる。 歌メロの口当たりのよさは、やはり B.J.H を思わせる。 軽快な演奏やクラシカルなアンサンブルを交えて展開し、しなやかなギター・ソロにコーラスがからみついて情熱的なエンディングを迎える。 前半はフォークで後半はアップ・テンポのフォーク・ロック、そしてクライマックスはシンフォニックに盛り上がる。

  「Silent Mine」(4:39) PROCOL HARUM ばりのチャーチ・オルガンとストリングスが響き渡る荘厳なムードの歌もの。 ティンパニが遠く轟きマーチング・スネアが応える。 あたかも 1 曲目のリプライズの如き、霧に霞んだような雰囲気の曲だ。 厳かなムードに包まれるも歌メロはマイナー・ポップス調。 オルガンの彼方にメロトロンが茫漠と響き、ヴォーカル・ハーモニーは静かに表情を輝かせてゆく。 たなびくようなオルガンとともにコーラスが進み、メロトロンが応える。 ストリングスが静かに湧き上がり、神々しいヴォカリーズとともに消えてゆく。 祝福された昇天の光景が目に浮かぶ。 ギターはなし。


  やさしげで幻想的なフォーク・タッチのシンフォニック・ロック。 ビートポップ出身らしい甘くシンプルなサウンドと、キーボード、ギターによるシンフォニックなアレンジのコンビネーションの妙である。 ジャズ、ブルーズ色もソフトなポップさの中にとけ込んでおり、表面に現われるのは、ひたすら穏やかなメロディとハーモニーである。 ギターはかなり多彩なプレイを見せるし、キーボードもしっかりと音を満たしているが、全体の印象は不思議なくらいエレクトリックでなくアコースティックだ。 余韻としてこだまする幻想性は、落ちついたテンポとハーモニー、そして物憂げで優美なメロディなどすべてが総合した産物だろう。 一聴全く印象に残らない可能性もあるが、少し耳をそばだたせれば、すべてのパーツが純英国性であることに気づき、味わいも格別となるだろう。

(POLYDOR 2383 246 / UICY-9050

 Beyond The Beyond plus...
 
Paul Lawrence 12 string guitar, lead vocals
David Read bass, double bass, vocals
David Metcalfe keyboards, clarinet, vocals
Peter James lead guitar, vocals
Jon Webster drums, vocals
Geoff Whitehorn lead guitar on 10-13
Paul Petley lead vocals on 10-13
Brian Chattam drums on 10-13

  99 年発表のアルバム「Beyond The Beyond plus...」。 74 年に録音された未発表作品。 92 年に一旦 CD 化されるが、99 年トラックを追加して再発された。 本作品では、半分眠っていたような第一作とは異なり、すべてにメリハリがつき、エネルギッシュでタイトなロックへと変貌した。 DEEP PURPLEPROCOL HARUM のように大仰なオルガンが高鳴ってクラシカルな味わいを増したかと思わせるも、アコースティック・ギターの和音の響きとともにか細いハーモニーが聴こえてくると、第一作と同じ繊細なロマンチシズムが浮かび上がってくる。
   ギターのリードとオルガンが全篇をしっかりと支えて演奏全体が明快であり、甘めの歌とメロトロンも活かしつつ、より表現の幅を広げている。 YESGENESIS 風のシンフォニックな盛り上がりやドライヴ感がぐっと増し、メリハリが出たのがうれしい。 素朴な歌メロにはややアメリカ風の土臭さやポップさも現れているが、全体として元の味わいは損なわれていない。 そして、ビートの効いたサウンドが充実したおかげで、アコースティックなバラードもより繊細で美しく聴こえる。 まさにドラマチックなできばえである。 これをおクラ入りする心境はちょっと理解できない。 GENESIS フォロワーぶりも決して嫌味には聴こえない。
   ボーナス・トラックの 70 年録音の作品は、時代を反映したサイケデリックでブルージーなハードロック路線である。 「Afterthought」も、ヴォーカリストのスタイルが違うためにびっくりするほど印象が違う。 ギタリストのジェフ・ホワイトホーンは、この後 IF に参加し、セッション活動を続けて現在は再編 PROCOL HARUM に参加している。

  「Introduction」(2:08)
  「Beyond The Beyond」(5:57)シャフル・ビートにもかかわらず抑制されたアンサンブルで知的に、はかなげに聴かせる名曲。GENESIS 風のオルガン、メロトロンがすばらしい。
  「Reality」(2:58)
  「Alanderie」(9:01)サイケデリック・エラの残り香豊かなシンフォニック・チューン。叙情派プログレの典型的な作品です。
  「Afterthought」(5:51)
  「Worried Man」(2:56)
  「Just A Dream」(3:32)
  「Winter Rose」(3:28)
  「Church Clock」(3:47)

  「Fire-Fire」(6:47)ボーナス・トラック。70 年録音。
  「Vacuum」(4:09)ボーナス・トラック。70 年録音。
  「Alone」(4:38)ボーナス・トラック。70 年録音。
  「Afterthought」(7:33)ボーナス・トラック。オリジナル・ヴァージョン。70 年録音。
  「Church Clock」(3:39)ボーナス・トラック。オリジナル・ヴァージョン。

(Audio Archive AACD 034)

 Vivariatum
 
David Read bassNick Page piano on 3,4,5,7,8,9
Paul Lawrence vocals, guitarMalcom Page drums on 3,4,5,7,8,9
Geoff Whitehorn guitar except 6David Metcalfe keyboards on 1,2,6,10,11
Jon Webster drums on 6Bob Vann guitar on 6
Paul Petley vocals on 1,2,10,11Brian Chattam drums on 1,2,10,11

  94 年発表のアルバム「Vivariatum」。 76 年一時再結成時に録音された楽曲に、70 年と 73 年録音の楽曲を追加した未発表曲集。 (70 年録音の 4 曲は「Beyond The Beyond plus...」(Audio Archive AACD 034)にボーナス・トラックとして収録済)
  鍵盤奏者デヴィッド・メトカルフ脱退後の 76 年録音の作品は米ウエストコースト風のパストラルなフォークロックであり、「Paint A Picture」の面影を保ちつつも、ギター、ピアノを中心にした演奏による AOR テイスト(マイナーセブンスのメランコリックな響きがいい「Stardrifting」、「Fantasy Moods」に顕著)が加味されている。音質はプロダクション完了前の上質のデモレベル。 中でも胸に迫る思いをジェントルなハーモニーとていねいなギターのオブリガートで描いた「Could It Be Forever」は名曲。 全体に漂う独特のクールネスがいい。
  唯一の 73 年録音の作品「I Was Once Aware」は、繊細なヴォーカル表現とうっすらとしたオルガン・サウンドが生む儚い幻想味がいい佳曲。 マジカルだがしなやかな作風であり「Paint A Picture」に入っていてもまったくおかしくない。 唯一の EP 盤で「Politely Insane」の B 面となった作品であり、事故で没したギタリスト、ボブ・ヴァンを含んだラインナップで録音されている。
  70 年録音の作品の作風は、饒舌なギターとけたたましいオルガンとルーズでワイルドなヴォーカルを主役にしたサイケデリックなハードロック路線。 激しさにしても抒情性にしても一種のだらしなさを伴う過剰さ、枠に収まらない感じがいい。 その一つ、「Afterthought」は「Beyond The Beyond」にも収録されたオリジナル・ヴァージョン。 オルガンがむせび泣く VERTIGO レーベルばりのクラシカル・ロックの秀作。
  
  「Fire-Fire」(6:41)70 年録音。
  「Vacuum」(4:03)70 年録音。
  「In My Life」(3:56)76 年録音。
  「Low Love」(4:26)76 年録音。
  「Stardrifting」(4:32)76 年録音。
  「I Was Once Aware」(3:30)73 年録音。
  「Could It Be Forever」(3:55)76 年録音。
  「Fantasy Moods」(4:11)76 年録音。
  「Angel」(3:24)76 年録音。
  「Alone」(4:31)70 年録音。
  「Afterthought (Original Version)」(7:26)70 年録音。

(Audio Archive AACD 004)


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