FAR CORNER

  アメリカのプログレッシヴ・ロック・グループ「FAR CORNER」。 2003 年結成。 ライヴ、編集盤含め作品は四枚。暗黒系チェンバー・ロック。 2018 年ひさびさの新譜「Risk」を発表。

 Risk
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William Kopecky bass
Dan Maske keyboars, addtional percussion
Angela Schmidt cello
Craig Walker percussion
guest:
Gerry Loughney violin on 1,4,13

  2018 年発表の第三作「Risk」。 内容は、怪奇かつ暴力的で強圧的、ハイテンションのヘヴィ・チェンバー・ロック。 UNIVERS ZEROPRESENT 直系の怖すぎる作風である。 パワフルなドラムス・ビートとゴリゴリの弦楽器、叫喚や怒号のようなオルガンらが、最果ての地で深夜も稼働する前世期の兵器工場の機械から外れた巨大な歯車が血飛沫を上げながら何もかもを削り取って暴走するような演奏を繰り広げる。 この血圧高めのヘヴィすぎるサウンドに古色蒼然たるメロトロン・ストリングスの響きがマッチしている。 箍の外れた躊躇いのない突進に一種の美感はある。カタルシスもあるかもしれない。 最終曲の最後の5分間はもうそのまま鼻血出して倒れそうなほどのハイテンション。 怪奇な映画や小説を好む方、責められ好きの弩 M さんには向き。
   全曲インストゥルメンタル。プロデュースは、ダン・マスク。

  
(CUNEIFORM RUNE 449)

 Far Corner
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William Kopecky bass
Dan Maske piano, organ, synthesizr, percussion
Angela Schmidt acoustic & electric cello
Craig Walker percussion
guest:
Frederick Schmidt clarinet
Heather Schmidt flute

  2004 年発表の第一作「Far Corner」。 内容はチェロ、ピアノ/オルガンをフィーチュアする邪悪系チェンバー/シンフォニック・ロック。 ギターレスの編成である。 個性的な器楽の全パートがほぼ互角で取っ組み合うアンサンブル主体の演奏であり、その中でディストーション・チェロがテーマをリードし、ハモンド・オルガンと打楽器的なピアノによる強烈なプレイでアクセントをつけてゆく。 各楽器が追いつ追われつフレーズを繰り出してヴィヴィッドに反応しあう演奏である。
   オルガンとチェロのコンビネーション(ピアノが加わることも多い)によるクラシカルな味わいは特徴の一つだ。 チェロは、あたかも古木をひき切る大鋸のように豪快で無慈悲なプレイで演奏をリードし、エレキギターのリフに相当する部分を担っている。 手に汗握るような切迫した感じの源はこのチェロのプレイにある。 ベースは、フレットレスによるポルタメントや強烈なヴィブラートを多用して、対位的にチェロやキーボードに絡んでゆく。 この曲調だとパーシー・ジョーンズというよりは、ヤニック・トップというべきだろう。 リズム・セクションは細かな打撃技を駆使して間隙を埋めてゆくスタイル。 大きなノリを仕切るというよりは、音の連なりを明確にして旋律楽器的な(ピアノの左手に近い)プレイを目指しているようだ。
   曲調は凶暴で不気味(4 曲目はなかなか強烈)、しかし、全編を通じて、6 曲目に象徴されるようなダンサブルなノリのよさがある。 これは、一つには、常にドラムス、チェロのリフなどによる前のめり気味のリズムを意識した演奏スタイル(リズムレスの表現がほとんどない)なためだろう。 そして、もう一つはチェリスト、キーボーディストの素養であろうクラシックに由来するメロディアスなテーマの存在である。 凶悪な反復を多用するも緊張感や圧迫感がさほどではないのは、突っ込み気味のリズムで走り続けるからだろう。 逆に、変拍子パターンの反復とリズムレスの怪奇テイストの演出が効いてくると一気にチェンバー・ロック的になってくる。 この、間隙の目立つ音空間に組み上げられるアンサンブルの生む一風変わった「軽快なグルーヴ」(ReR 系に特有のチンドン屋テイストともまた違う)は、特徴といっていいだろう。 また、3 曲目の組曲のようにインプロにもスペースが割かれている。 そして、こういう作風でハモンド・オルガンを多用するのも珍しいと思う。1 曲目や 4 曲目は新鮮だ。 オルガン中心で演奏が走り出すと往年のプログレを思い出さずにいられない、というこちらの弱みを巧みに突いている。
   ギターのない PRESENT、またはチェンバー・ロック寄りの PAR LINDH PROJECT、または派手さのない AFTER CRYING というのが近いイメージだろう。 ベーシストのウィリアム・コペッキーは KOPECKY のメンバー。 全曲インストゥルメンタル。プロデュースは、ダン・マスクとダン・ネイダー。 もう少し楽曲を刈り込むと魅力が際立つような気がする。

  「Silly Whim」(4:54)
  「Going Somewhere?」(5:01)
  「Something out There」(17:17)三部作。
    「I」(6:46)雰囲気のある傑作。
    「II」(7:02)何か「間違った」躍動感のある傑作。
    「III」(3:27)
  「With One Swipe Of Its Mighty Paw」(7:40)HM とピアノ・ソナタが合体した怪作。EL&P 路線の新解釈。Par Lindh と話が合いそう。そういえばウィリアム・コペッキーは PAR LINDH PROJECT に参加してるじゃん。終盤の変拍子オスティナートが不気味。
  「Outside」(5:25)
  「Tracking」(6:33)
  「The Turning」(7:39)キース・エマーソンを連想させる(というかかなり意識していると思う)クラシカルかつジャジーなピアノ・ソロをフィーチュア。
  「Fiction」(16:24)
  
(CUNEIFORM RUNE 194)

 Endangered
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William Kopecky bass, spring drums
Dan Maske keyboards, trumpet, melodica, additional percussion
Angela Schmidt acoustic & electric cello, violin, bamboo flute
Craig Walker drum set

  2007 年発表の第二作「Endangered」。 内容は、ひたすらエネルギッシュなチェンバー・ロック。 チェンバー・ロックという呼称には当然「暗い」とか「怪奇な」といったニュアンスが含まれている。 キーボード、チェロ、ベース、ドラムスが横一線になってそれぞれの道を凶暴な音で自信たっぷりに邁進する演奏である。 特に、オルガンとテクニカルなベースが縦横無尽に活躍する。 管楽器はないが、音色のニュアンスの変化という点ではキーボードがその代わりをつとめている。 音こそおどろおどろしく暴虐的だが、動きが敏捷なため、スカッとした痛快感がある。 いわば、「無窮動アレグロの速弾きアンサンブル」である。 この運動性と痛快さ、カタルシスは、EL&P にダイレクトに通じるし、ロックらしさだと思う。
   全曲インストゥルメンタル。プロデュースは、ダン・マスクとダン・ネイダー。

  「Inhuman」(3:47)
  「Do You Think I'm Spooky ?」(6:41)
  「Creature Council」(10:17)普通なら途中で息切れするであろうペースですっ飛ばし続ける怪作。若さにまかせた UNIVER ZERO
  「Claws」(5:14)
  「Not From Around Here」(8:57)
  「Endangered」(19:50)
  
(CUNEIFORM RUNE 246)


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