イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「FYREWORKS」。 95 年、CYAN のキーボーディストを中心にウェールズにて結成。 唯一作の内容はヴィンテージ・キーボードによる 70 年代サウンドの復刻。 フルートや管弦もあり。
Danny Chang | guitar, percussion, backing vocals | Rob Reed | keyboards, slide guitar, backing vocals |
Doug Sinclair | bass, backing vocals, guitar, sound F/X | Tim Robinson | drums |
Andy Edwards | lead vocals, guitar | ||
guest: | |||
---|---|---|---|
Lee Goodall | sax, flute | Tim Short | percussion |
Billy Thompson | violin | Sara Greenwood | cello |
Vori Bolemsav | oboe |
97 年発表の作品「The Fyreworks」。
布陣は、YES 構成の五人組に管弦楽器のゲスト。
ハイトーンのヴォーカルの節回しは、ポンプ・ロック・スタイルとジョン・アンダーソンの中間くらいだろう。
楽曲は、ハードさと叙情性をバランスよく持ち、凝った演奏であくまでドラマチックに展開する。
冗長なソロや手癖のプレイを必要としない練られた内容である。
まさしく 70 年代プログレッシブ・ロックの再来だ。
演奏面では、アナログ・シンセサイザーやメロトロン、16 分の 5 拍子のたたみかけるフレーズなどファンを泣かせる小道具をしっかり配置している。
そして現代的なメロディ感覚にも優れている。
フルートを活かしたリズミカルなトゥッティが印象的な GENESIS、JETHRO TULL の再来といえるだろう。
1 曲目「Master Humphries Clock」(9:56)。
フルートをフィーチュアしたスピーディで濃厚なトゥッティとメロディアスなヴォーカルを主に、めまぐるしくも華やかな場面展開を誇る大作。
バラード調のパートなどヴォーカル・パートが比較的モダン(もしくは 80' 産業ロック風というべきか)なのに対して、演奏はきわめて時代がかったものだ。
もっとも、サビのハーモニーは、どこかで聴いたことがあるような気もしますが。
クラシカルなキーボード(アコースティック・ピアノ、各種オルガン、アナログ・シンセサイザーそしてメロトロンなど)、サスティンの効いたナチュラル・ディストーション・ギター、音数の多いベース、ドラムス、そしてこれらを動員してせわしなく変転するアンサンブル。8 ビートと 8 分の 6 拍子の切り替えや性急なテンポの変化など、基本的なお作法はしっかりとおさえている。
攻めの「動」と引きの「静」の変転に至っては、もはやあまりにあざやかにお約束を守っている。
5:30 くらいからのベース・ワンノート連打、アナログ・シンセサイザーのオブリガート、ひたひたと歩み寄るメロトロン・ストリングスといった展開は、もろ GENESIS という思いはともかく、すべてのプログレ・ファンの胸に響くのでは。
ギターは音のわりには目立つところがないと思っていると、終盤になかなかカッコいいソロ(ANGE のプレゾヴァル風)を見せる。
フルート以外の管楽器もオープニングの印象的なオーボエから始まり、さまざまな場所でアンサンブルに彩りをつけている。
ポンプっぽさがないのもいいところ。
大きくフィーチュアされるフルートは JETHRO TULL よりは、その TULL の影響を受けたイタリアものに近いです。
逞しい演奏力を見せると同時に劇的な語り口も冴えており、振り回されるのが楽しくなる傑作でしょう。
9 分あまりの大作。
2 曲目は、第二次大戦中の哀しい記憶が甦る「The War Years」(3:47)。
SE を散りばめたアコースティックなバラードの小品である。
ピアノ、アコースティック・ギターを伴奏にヴォーカルが切々と訴える。
中盤からはキーボードが主役になり、波打つようなピアノ、サイレンの呼び声を想像させる震えるようなシンセサイザーの調べ(GENESIS の「Wind and Wurthering」の「'Unquiet Slumbers...」的)が印象的。
この歌詞で描かれているロンドン爆撃はドイツの V1 ロケットによるものだろう。
以前どこかで読んだのだが、V1 の恐ろしいところは、降下音が途中からしばらく聴こえなくなり、落下場所が分からなくなるところだそうだ。
最後の SE では、それが不気味に再現されている。
3 曲目「Stowaway」(6:10)。
リズミカルなフォークソング・タッチを中心に、クラシカルなハードロックのニュアンスもある JETHRO TULL 風の作品。
1 曲目と同じく、フルート主導のリフを中心にしたアクセントの強いアンサンブルが特徴的。
テーマとなるフルートの旋律は 1 曲目の変奏といっていい。
リズミカルでややヘヴィなトゥッティと伸びやかなヴォーカルの取り合わせは、BANCO などのイタリアン・ロックをも思い出させる。
前半では、チェロを用いたバロック風の間奏がカッコいい。
おもしろいのは、垢抜けない田舎風味の雰囲気の演出に、意外にも新奇なシンセサイザー・サウンドを交えるところだ。
中間部は、アコースティックな音を主役に、ややエキゾチックなニューエイジ・テイストあり。
フルート、メロトロン・ストリングス、アコースティック・ギターによる演奏は、淡い色合いのメロディアスなものであり、緩やかながらも哀しげである。
後半は、イコライザを効かせたヴォイスとケバ立ったギター、ピアノによる、TULL そのもののようなヴォードヴィル調の小ブリッジから、メイン・パートへと復帰、フルートの乱れ吹きで締める。
ストーリー性よりは、演奏そのものの勢いで押し切った感のある秀作。
4 曲目「Balloon」(4:25)。
ギター、サックスによるヘヴィなユニゾン・リフで攻める GENTLE GIANT 風のナンバー。
メインのリフ以外にも、3 連の奇天烈なアンサンブルや壊れた CRIMSON のようなギターなど、GENTLE GIANT を思わせるプレイが多い。
フィドル風のヴァイオリンのオブリガートは KANSAS でしょう。
ヴォーカル・ハーモニーは、今更ながら、プログレというよりは QUEEN やアメリカン・ロック系。
そして、華やかなフルートのリードする間奏部分は、JETHRO TULL。
この間奏からのアップテンポの演奏は、完全に「JETHRO TULL 好きのアメリカのバンド」という感じである。
若干落ちつくところはあるものの、最後まで折れ曲がったまま突き進む怪作。
ブリティッシュ・ロックの何たるかを再認識させる内容だ。
5 曲目「The Consequences of Indecision」(2:00)。
ピアノ・ソロによる小曲。
印象派風の淡い色合いとロマン派のスケールの大きさがブレンドした。
呼応するドビュッシー風のリフレインが美しい。
大人はドキリとする意味深なタイトルです。
残響の使い方や狭い音程で刻むリフレイン、デリケートな表現などはトニー・バンクス直系。
6 曲目の組曲「Broken Skies」(15:24)。
濃密な音空間に雄大なストーリーを描く大作。
ミステリアスなオープニング、たくましくもリリカルなメイン・パート、サックス、ヴァイオリンらが渦巻く間奏部、クラシカルな緩徐楽章、シンフォニックな最初のクライマックス、哀愁のヴォーカルを経て破裂するように激しく熱い世界へと突っ込んでゆく。
リズミカルな演奏を、メロトロンが支え、気品あるピアノが彩るかと思えば、狂乱するインストがあり朗々たる歌とともに盛り上がってゆく場面もある。
そして、怪奇なコード進行で予想を覆す展開を繰り広げてゆく。
トラッド・テイストやジャジーな音も散りばめるが、基本的に、めまぐるしく動いてゆくことそのものが特長である。
ヴォーカルはシアトリカルな表情を操る。
最終章、アグレッシヴで破裂気味のロックンロール演奏も、リズムが単調なことを除けば、VAN DER GRAAF GENERATOR のような重厚な聴き応えがある。
メイン・パートヘの回帰も鮮やかだ。
不思議な歌詞は、ピーター・ハミルの自己発見ものに通じるのではないだろうか。
この曲が本アルバムのクライマックスでしょう。
メロトロン鳴りっ放し。
エンディング7 曲目は唯一のインスト・ナンバー「The Display」(7:26)。
トラッド風のリズミカルな 8 分の 6 拍子の上でオーボエ、アコースティック・ギター、粘っこいギターが歌い合うオールドフィールド調インストゥルメンタル。
ほのかな哀愁、そして優美なダンス。
昨今のケルト、トラッド系シンフォニック・ロックによく似たスタイル。
終了後、何分もしてからいきなり花火が上がり始める。
満天に咲く炎の華。
しかしこの音は何かに似ていないだろうか。
V1 ロケット....?
偶然なのか、意図的なのか。
アンサンブルの細かさは YES や GENSIS、アンサンブルの勢いは JETHRO TULL の影響大なプログレッシヴ・ロック。
バタバタしたアンサンブルは、イタリアン・ロック風の汗臭さを思い出させると同時に、GENESIS クローン特有のステレオタイプ化の回避法としてうまく機能している。
ヴォーカルの表情にはポンプ臭さがあるもののこの器楽のおかげで何とも個性的な味が出ているのだ。
このアルバムを作る際に、70 年代の雰囲気を大切にするために、ハモンド・オルガン、ムーグ、メロトロン、ピアノ以外のキーボードは使わないと決めたそうだ。
このスタンスは、ブリュッヒェンの 18 世紀オーケストラ並みだが、骨董品を使って味のよいサウンドを新たに生み出せるならそれもありなのかもしれない。
実際に結果はかなりの成功である。
さてお薦めは、パンチのあるリフがいい 1 曲目と GENTLE GIANT 風のギター・リフが印象的な 4 曲目、そして畢生の大作の 6 曲目。
歌詞も面白い。
リリカルにヘヴィにと暴れまわる演奏は、プログレッシヴ・ロック・ファンの感性に必ず訴えるでしょう。
自主制作・ディストリビュートのせいか CD 番号が記載されていない。
()