イタリアのネオ・プログレッシヴ・ロック・グループ「GERMINALE」。
91 年結成。
2005 年現在作品は四枚。
グループ名は「胚」の意。
フルートやキーボードをフィーチュアしたメランコリックな 70 年代プログレ風のサウンド。
ピアノなどアコースティックな音を巧みに用いており、透明感あり。
Alessandro Toniolo | flute, vocals | Salvo Lazzara | guitars, e-bow |
Andrea Moretti | piano, keyboards | Mario Cuffaro | drums |
Sebastiano Sacchetti | bass | Marco Masoni | bass, vocals |
David Vecchioni | drums | Gabriele Guidi | keyboards |
Alessio Mosti | guitars | Ernesto Fontanella | drums, percussion |
Matteo Amoroso | drums, percussion | Elisa Azzara | flute |
Saverio Barsali | electric & classical guitar |
2005 年発表の第四作「Scogli Di Sabbia」。
このアルバムは、新作 4 曲に GENESIS、JETHRO TULL、KING CRIMSON らのカヴァー(「フランク・ザッパ」も交えた傑作なアレンジあり)と 2002 年のライヴ録音から構成されている。
フルートやピアノを生かしたジャジーなシンフォニック・ロック、やや GENESIS 寄りという基本スタイルには大きな変化はない。
特にすばらしいのは、新曲の出来だ。
グルーヴもズッシリくる重みも瑞々しい情感も現代的なクールネスもほぼ完全だろう。
ジャジーな安定感があり、透明感のあるフュージョン・テイストを折り込んだメロディアスなロックとしては、これまでの作品の中で最も優れているといっていい。
ただ、この新作にリーダー格だったマルコ・マソーニがクレジットされていない。(Myspace によればソロ活動をしているようだ)
この辺にグループ存続に微妙な感じがあるのではないだろうか。
ただし、大御所のカヴァーの後にオリジナル曲のライヴという配置は、カヴァーでお腹いっぱいになって先に進めないという危険があると思う。
アルマ・タデマによる超ノーマン・ロックウェル風パックス・ロマーナのジャケットが強烈だが、本作品にはこの絵に負けないだけのエネルギーと芸術センスが確かにある。
乞う新譜。
ヴォーカルはイタリア語。
Il Mai Sentito (新曲)
「Un Mondo Chiama Un Mondo」(6:03)インストゥルメンタル。
「Di Nuovo A Casa」(7:06)ジャジーで都会的な歌もの。
「Oltremare」(6:14)オシャレなピアノを巡るジャジーな変拍子インストゥルメンタル。
「Gatto Rosso」(6:19)フレンチ・ロック調のヒネクレを利かせたパンチのある歌もの。民俗音楽のテイストも。
Il Gia Sentito, forse (既発曲-カヴァー)
「The Knife - Tribute To GENESIS」(7:25)フランク・ザッパのパロディらしき MC や「Firth Of Fifth」のフレーズが入る。
「Wond'ring Aloud - Tribute To JETHRO TULL」(3:12)ヴォーカリストの声色がおみごと。
「Dr.Diamond - Tribute To KING CRIMSON」(5:37)本家もライヴ録音のみのレア曲。乱調美。
「La Battaglia Per Il Sampo - KALEVARA」(7:19)
...ed Altro Ancora (Live 2002)
「Malcreanza」(5:37)第二作より。
「Germinale」(1:16)第一作より。
「Dioniso Inquieto」(4:06)第二作より。
「Eleonora」(3:50)第二作より。
「Il Lento Risveglio」(5:28)第三作より。
「Lucciole Per Lanterne(Si Vendono)」(6:35)第三作より。
「Il Mago」(0:31)第一作より。
「L'Ultimo Sguardo」(1:42)
(VM 108)
Alessandro Toniolo | flute, sax, vocals |
David Vecchioni | drums, percussion |
Gabriele Guidi | keyboards |
Marco Masoni | bass, acoustic & classical guitar (6 & 12 string), vocals |
Saverio Barsali | electric & classical guitar |
94 年発表の第一作「Germinale」。
ハモンド・オルガンやストリングス・シンセサイザーに明らかなように、70 年代のプログレッシヴ・ロックの影響を強く受けている。
現代音楽風の凝った和声と破天荒な展開、ていねいに音を重ねたアンサンブルによる演奏には、単に叙情的というだけではない知的で実験的な意気込みが感じられる。
それでいて、声やプレイには暖かい色あいと素朴な響きがあり、そこで差別化してポンプ・ロックのステレオ・タイプからの脱却を目指す姿勢が感じられる。
変拍子のリフやリズム、テンポの変化も、地味ながらもテーマとなるメロディがしっかりリードしているために自然である。
また、アコースティックな音をふんだんに使うのも特徴といえるだろう。
リリカルなフルート、サックスに加えて、伴奏にもソロにもクラシック・ギターが大活躍する。
さらに特筆すべきは、きらきらした音色とロマンチックなプレイで魅了するアコースティック・ピアノだろう。
メロディ・ラインにさほど華のないアンサンブルに活を入れ、目を醒まさせてくれるのは、このクラシック・ギターとピアノのプレイである。
3 曲目のソロ・ピアノは、クラシカルななかにおだやかな暖かみのある名品だ。
全体に BANCO など往年のイタリアン・ロックのアコースティックな部分を取り出したような音ともいえるだろう。
またシンバル・ワークからジャズ系のプレイヤーと思われるドラムスもなかなかの腕前だ。
ソフト・タッチで、なおかつ正確なプレイを見せており、このドラムスの存在で演奏がぐっと引き締まっている。
オルガン、シンセサイザーによるシンフォニックな広がりの中に、ピアノとギターと野暮ったいヴォーカルがきっちりと音の輪郭を浮かび上がらせて進み、フルートやサックスが控えめながらも華やいだ彩りをつける。
全体にはそんなサウンドである。
オーソドックスなプログレで迫るだけあって、実力はかなりのものだ。
緩急ていねいなアンサンブルや演奏の端々には GENESIS の影響が感じられ、ややヘヴィにしてスペイシーなシーンは PINK FLOYD に通じるものも見出すことができる。
変化に富む 4 曲目、インプロ風のパートをもつ 5 曲目が力作。
6 曲目のサックスはジャズというよりもイアン・マクドナルドを思い出す。
7 曲目はアコースティックな歌もの。
フルートとアコースティック・ギターの伴奏でヴォーカルが静かに歌いだすシーンには、ヨーロッパ風の素朴で情熱的な歌心が感じられる。
ハードに攻めたてる演奏も叙情的な場面を引き立てているというイメージであり、やはりメランコリックでクラシカルな演奏が基調になっているといえるだろう。
どちらかといえばメロディ・ラインよりも和声に工夫のある演奏なので、第一印象が地味になるのは仕方がない。
メランコリックな表情がいい牧歌調シンフォニック・ロックの秀作。
朴訥としつつも変拍子をしっかり決めるあたりにプログレ魂を感じます。
ただし、ヴォーカルは味はあるが、もう少し練習した方がいいような。
ヴォーカルはイタリア語。
「Intro」(00:18)
「La Strega」(10:23)
「Bruma(Quietesmo)」(4:33)
「Lo Sguardo Nello Specchio」(7:10)
「Soffi Sonori」(7:30)
「Il Mago」(7:53)
「Guardiano Dei Cieli」(4:29)
「Germinale」(2:16)
(MMP 214)
Salvo Lazzara | guitars, devices, voice |
Marco Masoni | voice, bass, classical guitar (6 & 12 string), mellotron |
Andrea Moretti | acoustic piano, hammond organ, moog prodigy, synths |
Alessandro Toniolo | flute, alto sax, voice |
David Vecchioni | drums, percussion |
96 年発表の第二作「...E Il Suo Respiro Ancora Agita Le Onde...」。
ギタリスト、キーボーディストがメンバー交代。
メロトロンも導入し、変拍子やブレイクの多用とともに 70 年代プログレ・テイストはさらに強まるも、前作よりもメロディアスで聴きやすくなっている。
得意のアコースティックなサウンドを活かしつつ、オルガンやギターによる動きのあるハードな演奏も充実しており、アルバムを通したメリハリは前作を越えた。
メロディアスな印象は、ジャジーでリラックスした音が多く現れているせいでもあるだろう。
7 曲目の中盤では本格的な 4 ビートのプレイもある。
フルートも、前作同様軽やかなプレイで演奏をリードする場面が多い。
また、キーボーディストは、前作ではピアノを中心にプレイしていたのに対し、ここでは、クラシカルなピアノを筆頭にオルガン、ムーグ・シンセサイザーなどヴァリエーションが豊富になっている。
一部では、チェンバロのような音も聴こえてくる。
そして、キース・エマーソン(7 曲目 6 分付近)や GENESIS そのもののようなプレイも、さりげなく散りばめられている。
ドラムスは、今回もジャジーで音数の多いプレイを見せており、ロックっぽいビート感との切り替えも巧みだ。
また、SE やモノローグを巧みに用いたヘヴィで暗い曲調に、PORCUPINE TREE のようなネオ・サイケにも通じるような内省的で文学的な性格が見える。
全体としては、多彩な音楽性を 70 年代プログレ的表現でまとめ、素直な思いも織り込んだ傑作といえるだろう。
英国ネオ・プログレと違って、ヴォーカルの表情や泣きのメロディで感傷的な気分を強引に押しつけず、あくまで音楽としてのしっかりとした語り口でストーリーを綴っている。
ジャズを大幅に取り入れ、ヴィンテージ・キーボードを用いて幻想的な音も交えたサウンドは、いかにもリヴァイヴァルで喧しいモダンなものといえる。
プログレ界隈ではあまり類似したグループは見当たらないが、強いていえば、イタリア語のソフトなヴォーカルが共通する H2O、頓狂なところは FINISTERRE だろうか。
ともかく、モダン抒情派プログレ最右翼であり、テクニックよりも曲のおもしろさで楽しめる貴重な存在だ。
ボーナス・トラックは VAN DER GRAAF GENERATOR のカヴァー。
暗めの表情にぴったりの選曲である。
今回は複数のメンバーがヴォーカルを取り合うが、前作でもリード・ヴォーカルをとっていた方、声質は確かにジアコモさんなのですが旋律をたどる感じはタイトロープ以外の何物でもないです。
ヴォーカルはイタリア語。
「Il "gia sentito" E Il "Non Ancora"」(1:35)
「1 Maggio」(9:29)
「D'ombra, Vapori E Sabbia」(6:41)クラシカルなアンサンブルからジャズ、サイケっぽいニュアンスをも見せるなどなかなか密度の濃いインストゥルメンタル。
「Eleonora」(4:20)エレアコ・ギターによるインストゥルメンタル。
「Le Onde, Respiro Del Mare」(8:46)
「Dioniso Inquieto」(4:22)
「Malcreanza」(6:59)
「D'io」(3:44)
「Avant - Grado」(9:20)
「In Aeternum Veritas」(0:58)
「Meurglys III」(7:42)ボーナス・トラック。ハミルがギターを携えて迫った VdGG 後期の名作。
(MMP 285)
Salvo Lazzara | guitars, voice on 9 | Marco Masoni | bass, acoustic & classical guitar, voice on 4,6,8,12, escamotages |
Matteo Amoroso | drums, assorted percussion | Alessandro Toniolo | acoustic & processed flute, voice on 2,6 |
Andrea Moretti | piano, organ, strings, mellotron, mini-moog, synths | ||
guest: | |||
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Petra Magoni | host voice on 3,8,10 | Vesa Anttila | little host guitar on 6 |
Silvia Azzara | cello on 3,12 | Massimo Chimenti | reading |
Hanno Rinne Di Rosa | guitar solo & speaking on 4, 2nd classical guitar on 6, shakers on 3,12 |
2001 年発表の第三作「Cielo & Terra」。
弦楽奏とモノローグによるきわめて厳粛な序章を経てポンプ風味と現代的な音が交じり合い、やがて控え目で上品なメランコリーが浮かび上がってくる佳品。
アコースティック・ギターのアルペジオの物憂い響きが印象的な正統叙情派である。
70 年代風が持ち味といっていたところへ時代が合流、生っぽいギターやスネアの音のせいで、ポスト・ロック風にも聴こえてしまう。
したがって、コテコテの変拍子を用いながらも、いわゆるネオ・プログレよりは湿度が低目であり、若干オシャレですらある。
アコースティック・ギターとピアノによるうっすらと憂鬱なアンサンブルに、気だるげな女性ヴォーカルが重なると、トーレ・ヨハンソンから THE SEA AND CAKE 辺りにまで通じる景色が見えてくる。
ブラス・セクションやフルート、オルガンの使い方はあざといくらいだ。
そして、この路線だと、ヘタウマ風のリード・ヴォーカルも何となく雰囲気があって活きてくる。
後半現れる男女ツイン・ヴォーカルの軽妙なかけあいもいい。
また、新ドラマーのジャジーでプレイが隙間の多い演奏をしっかりと支えており、雰囲気だけに終わらないストレートな躍動感もある。
モノローグやオーケストラ、オペラのコラージュなども、いわゆるプログレ的演出というよりは、現代的なアレンジのセンスとして受けとめることができる。
ノルウェイの WHITE WILLOW の新作などと同様に、プログレを解釈した進行形の一つといえるだろう。
こういう形で進化するプログレは大歓迎です。
もちろん、フルートとアコースティック・ギターのアンサンブルに古式ゆかしいメロトロンが鳴り響く場面も、ちゃんと用意されている。
迫力こそ全く及ばないが、謎めいた空気は往年の名作 CERVELLO の唯一作とも通じる。
歌ものモダン・プログレの佳作。
6 曲目のタイトル・ナンバーは力作。
ヴォーカルはイタリア語。
アルバム・タイトルは「天と地」の意。
ローマの賢帝マルクス・アウレリウス・アントニウスの「省察録」からの引用の朗読が散りばめられている。
ヴォーカルはイタリア語。
「In Aeternum Veritas(Forever Truth)」(2:07)前作の最終曲。珍しい趣向です。
「A Mio Figlio(To My Child)」(4:46)
「Il Lento Risveglio(Slow Awakening)」(4:58)女性ヴォーカルではあるが、ピアノの調べとうっすらとしたストリングスが KING CRIMSON の「Islands」を思わせる美しい作品。
「Chi Vola Vale(Who Worth Flying)」(5:28)ブラス・セクション、イコライズされたヴォーカル、オルガンなどノスタルジックな音を使ったいかにも今風のポップ・チューン。
「Patetica(Pathetic)」(2:40)
「Cielo E Terra(Sky And Earth)」(7:45)イタリアン・プログレらしい、歪で叙情的な力作。
「N.A.N」(2:57)
「Atleta(Athlete)」(2:33)
「Lettera D'Amore(Letter Of Love)」(4:55)
「Trombe, Scale(Trumpet, Scale)」(4:33)
「Balera(Bistangata)」(4:33)
「La Danza Del Velo(The Dance Of The Veil)」(4:26)
「Lucciole Per Lanterne(Si Vendono)(Fireflies For Lanterns)」(8:58)しなやかなインストとともにメンバーが一人づつひとくさりセリフを語る、カッコいいフィナーレ。
(MMP 406)