イタリアのネオ・プログレッシヴ・ロック・グループ「H2O」。 ミラノ出身。 2001 年新譜発表で通算作品二枚。 KALIPHORNIA レーベル。
Claudio Andreotti | bass |
Rocco Malaguzzi | guitar, vocals |
Luca Prandi | keyboards, vocals |
guest: | |
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Lino Prencipe | drums |
Annalisa Fumagalli | vocals |
97 年発表のデビュー盤「Unopuntosei」。
芳醇な音色のキーボードとスティーヴ・ハケットを思わせる神秘的なギター、線は細いが正統的なカンツォーネ・ヴォーカルによる、叙情的なシンフォニック・ロック。
ニューエイジ調の透明感あふれるキーボードとギターによるポリフォニックなアンサンブルと変拍子リズム・セクションが生むサウンドは、典型的プログレ風であると同時に、きわめてコンテンポラリーな技巧を持つロックである。
オープニング数分のめまぐるしい演奏を乗り越えると、後はゆったりとした曲調が主となり、湧き上がる旋律をギター、シンセサイザー、ヴォーカルが次々とすくいあげては、そっと耳へと注ぎ込んでゆく。
キーボードの深みのある音色を軸にした透き通るような音作りが、この心地よさの主たる理由だろう。
歌うようなフレットレス・ベースとストリングス系の豊麗なシンセサイザー、そしてギターのアルペジオが鳴り響くとき、満ちあふれる思いが時を越えて、どこまでも飛翔してゆくようなイメージが浮かんでくる。
一方、エネルギッシュなハモンド・オルガンとヴォーカル、ドラムスが力強く絡み、突き進むシーンには高度な技巧に裏付けられた余裕と安定感がある。
それでいてジャズ・フュージョンやメタル的なクリシェとも異なる。
手癖ではなく、あくまで練られた曲想が生み出す演奏なのだ。
そしてフレッシュな音色にもかかわらず、音楽的な底辺には 70 年代のプログレッシヴ・ロックの余韻もある。
もちろん郷愁だけで決して終らない、リアルな音の存在感もある。
これは、現代カルチャーに浸っていてもしっかりと保ち続けられるヨーロッパの伝統に根ざす「歌」なのだろう。
その歌に込められた思いは、距離を越えて永久不変のものとしていつまでもわれわれの心の内に共鳴し続けるのだ。
GENESIS の影響を見せつつも、FINISTERRE や ERIS PLUVIA、EZRA WINSTON らと同じく「音響」にこだわった新世代のシンフォニック・ロック。
静謐な演奏の中で、ピアノやチェンバロ(シンセサイザーと思われる)が、時おり目をみはるような鮮やかなプレイを見せます。
ヴォーカルはイタリア語。
1 曲目「H2O」(10:56)変拍子を刻むピアノ/シンセサイザーのパターンにメロディアスなギターが重なる、テクニカルかつスリリングなオープニングが鮮烈。
ハモンド・オルガンが加わる辺りで、完全にプログレ的な世界ができあがる。
ここまで 2 分あまり。
みごとな導入だ。
ギターと管絃調のシンセサイザー、ピアノが重なり合い呼応しあう緻密な演奏と、フレーズの流れからの必然性がある変拍子は、ネオ・プログレというよりは、GENTLE GIANT や BANCO を思わせる。
アコースティックなヴォーカル・パートへと落とし込む流れもみごと。
ここでも、シンセサイザーがオーボエやチェロの音を美しく聴かせる。
メローでソフトなヴォーカルは、70 年代とは異なり、フォーク風ではなくどちらかといえばフュージョン風。
アンプリファイされたアコースティック・ギターの音が、いかにもモダンである。
一方、エレキギターは、ハケット風のヴァイオリン奏法でしっかりと雰囲気をつくっている。
最終パートは、ハモンド・オルガンの挑戦的なプレイにあおられるようにヴォーカルも加熱する。
オルガンとピアノががっちりとタッグを組み、ホィッスル系のシンセサイザーとギターがしっかりとオブリガートする。
BANCO を思わせる曲調だ。
リズミカルにしてヘヴィそして透明感もある、いかにもコンテンポラリーなプログレである。
「a) l'eco dell'universo(宇宙のこだま)」
「b) la nascita dell'acqua(水の誕生)」
「c) suono e idea(音と思考)」
2 曲目「Lo Specchio(鏡)」(8:14)アコースティック・ギター、エレクトリック・ナイロン・ギター、ストリングス系シンセサイザーそしてベースによる典雅なアンサンブル。
ほぼドラムレスである。
ヴォーカルに女性のゲストを迎え、男女ツイン・ヴォーカル。
メロディはロマンティックだ。
GENESIS の「Time Table」を思わせる。
中盤の間奏部、竪琴のような二つのギターとピアノによるアンサンブルや、ドラマチックな展開とともに泣き叫ぶリード・ギターは、完全に GENESIS。
イタリア語のおかげでラヴ・ロック風に聴こえてしまう甘めの歌と GENESIS 調の典雅なアンサンブルという組み合わせが、新鮮だ。
3 曲目「Metareus」(9:55)一転、再び 1 曲目のようなハモンド・オルガンが唸り、ピアノとギターが駆け巡る演奏だ。
伸びやかなヴォーカルをピアノ、ギター、オルガンが緻密に敏捷に取り巻いている。
ミステリアスな調子から、ギター、ヴォーカルのリードで、演奏は力強く復活する。
シンセサイザーによるコール・レスポンス風のアンサンブルはきわめてクラシカル。
不安に揺らぐような曲調があるだけに、アコースティック・ギターとシンセサイザーがさざめき、ヴォーカルとギターが朗々と歌う場面が、一層美しい。
ギター・ソロは、なかなかの見せ場だ。
泣き叫ぶギターとともに高らかに歌うヴォーカルと器楽のオブリガートのやりとりは、息を呑むカッコよさである。
中盤は、再びアコースティック・ギター、ストリングスによる緩やかな曲調で、フォーク風のヴォーカルがささやく。
しかし、またもヴァイブやエレキギターとともに曲調に翳が生まれ、ヴォーカルもミステリアスな調子へ変化する。
ベースも加わると、すっかり攻撃的で不気味な表情になっている。
攻め立てるようなギター、オルガンそして高らかに叫ぶヴォーカル。
オーケストラを思わせるシンセサイザー、そして勇ましく歩むアンサンブル。
しかし、最後は、メロディアスなギターのソロへと流れ込む。
ストリングスが湧きあがる。
むせび泣くギター。
ロマンを湛えながらも、表情を目まぐるしく変えてゆく、イタリアン・ロックらしい作品。
流れるような展開が聴きもの。
4 曲目「Il Cimitero Degli Elefanti(象の墓場)」(19:25)憂鬱なオルガンの響きで始まる大作。
アタックのないレガートなキーボードとエレキギター、明確なアタックをもち音の粒立つアコースティック・ギターとピアノ、この二種類の音のコントラストがしみわたる。
ていねいな音の組み立てに、改めて感嘆する。
この、音に対する細やかな配慮が、変化に富む曲想の基調となっている。
どちらかといえば、ロック的なスリル・ヘヴィさよりも手に汗握るクラシックといった趣だが、流れるような展開に乗って、最後までのめり込むことができる。
叙情的かつ劇的なシンフォニック・ロックの名作として、長く残るのではないだろうか。
GENESIS 流も、工夫があれば、すごく新鮮であることを再発見しました。
過剰でない音というのは、モダンなプログレでは非常に珍しい。
それにしてもエレキギターはハケットさんです。
「a) la ricerca(探索)」
「b) il cimitero(墓場)」
「c) la fuga(遁走)」
「d) la consapevolezza(自意識)」
(KRC 016)
Claudio Andreotti | bass |
Rocco Malaguzzi | guitars |
Luca Prandi | keyboards, voice |
guest: | |
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Lino Prencipe | drums |
2001 年発表の第二作「Due」。
グループ名通り、満々と水をたたえる湖水ように豊かにして瑞々しいサウンドのメロディアス・シンフォニック・ロック。
全曲 7 分以上という大作主義である。
かつての MARILLION や IQ と同じく、GENESIS 直系のネオ・プログレ(こういうくくりはもはや時代遅れな気もする。分析的にいうならば、極めてメロディアスな変拍子シンフォニック・ロック。それでも分からんってか)だが、ヒーリング・ミュージック風の涼感と透明感のある音が特徴だ。
特に、消え入るようなロングトーンが美しいギターと、ふくよかにして重厚なピアノの存在が、大きい。
シンセサイザーは、もはやバンクスというよりは、マーティン・オーフォード流というべきだろう。
エモーショナルに歌い上げるシーンのみならず、神秘的なテーマを軸にテクニカルなプレイが折り重なるスリリングなシーンもすばらしい。
これはリズムに安定感があるせいだろう。
うっすらと弦楽やオーボエのような音も流れており、クラシカルな芳しさもある。
ヴォーカルは、英語になったためやや個性を失った気もするが、歌唱表現そのものはすばらしい。
そして、イタリアン・ロックの伝統である劇的な緩急、硬軟の移り変わりがあるが、その変化がきわめて自然に感じられて、楽しみながら音楽についてゆくことができる。
(もっともふり落とされそうな激変に踊らされるのも、また別の楽しみではあるのだが)
センチメンタルな表情を交えつつも、包容力と凛としたたくましさでのり切ってゆくシンフォニック・ロックの傑作だ。
できれば、イタリア語にて歌っていただきたかったです。
LOCANDA DELLE FATE が好きなら、これもいけそうです。
1 曲目「Prometeus Breath」(7:11)緩急の変化が強烈なイタリアン・シンフォニック・ロック。
やや安易な感じがしなくもないテーマが強引に躍動感を生んでゆく。
2 曲目「L'Altra Aurora」(8:45)おだやかなバラードが次第にスケール大きく悠然と広がり、ダイナミックな調子へと変化してゆく。
ちょっとクサいですが、GENESIS、P.F.M を完全に継承し、ドラマティック。
名曲でしょう。
特に要所のシンセサイザーが、あまりにプレモリ流でびっくりする。
1 曲目とつながる序盤の美しさは、EZRA WINSTON、LOCANDA DELLE FATE、「Cinema Show」GENESIS にも通じる。
3 曲目「The Darkness For The Light」(10:07)
代表作といえるスリリングな作品。
中盤のインストゥルメンタルは目がさめるほどカッコいい。
近現代クラシック調のアヴァンギャルドで厳格な調子も見せる。
4 曲目「Stop」(7:07)
懐かしくも勇ましい行進曲風のアレンジが胸に迫る佳作。
細かく変化をつけて刻まれるリズムが特徴的だ。
後半、やや古めの普通のロックらしい演奏を見せてくれると、80 年代の CAMEL のイメージが湧いてくる。
5 曲目「Due」(16:32) PENDRAGON の哀愁、ハープシコードのささやきが生むクラシカル・テイスト、スティーヴ・ハケット的なプログレ風味などが詰った大傑作。
メイン・ヴォーカル・パートを始め、濃密な情念が渦巻く演奏は COLLAGE クラス。
冒頭の重厚な調べから歌のバックまで、アコースティック・ピアノが存在感を示す。
こういう作風の場合、短調から長調への切換えがすばらしい効果を生む。
冒頭、ささやきかけるヴォーカルは「Script For A Jester's Tear」そのもの。
エンディングには LOCANDA DELLE FATE の唯一作に匹敵する感動あり。
(KRC)