イタリアのネオ・プログレッシヴ・ロック・グループ「FINISTERRE」。 92 年結成。 作品はライヴ・アーカイヴ盤含め六枚。 2002 年発展的解散、と思っていたら 2004 年新作「La Meccanica Naturale」発表。 フルートとギターをフィーチュアしたオールド GENESIS 調の演奏に独特の音響感覚を加えたモダンなサウンド。 ポンプを越えた奇天烈な個性あり。
Stefano Marelli | guitars, noises, lead vocals | Marco Cavani | drums, percussions, noises, lead vocals on 7, choirs |
Fabio Zuffaniti | bass, bass pedals, noises, choirs | Boris Valle | piano, electric piano, keyboards, noises |
Agostino Macor | mellotron, organ, analogic keyboards, accordion, noises | ||
guest: | |||
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Franz Di Cioccio | drums on 5 | Fausto Sidri | percussions on 1, 8 |
Luca Guercio | flugelhorn on 6 | Carlo Carnevali | recitative |
2004 年発表のアルバム「La Meccanica Naturale」。
再結成なのか再始動なのか、とにもかくにもオリジナル四作目。
叙情的なオールド・ウェイヴ・プログレ(初期 KING CRIMSON、GENESIS というか P.F.M の「幻の映像」)と、すでに「プログレ」と同じくらい古臭いニュアンスの「ネオっぽさ」のミックスを基本に、悠然たるポップ・テイストとすっ飛んだアレンジを施した佳作である。
オルタナ風、ハードロック風、フォーク風とさまざまなスタイルを器用に決めた上に、サイケなイコライザ、ジャズ、ノイズなど予想外の方角へ突っ走ってしまうセンスはまったく変わらない。
年経た分、大人の貫禄は出てきている。
アコースティックな弾き語り風のパートにおだやかながらも重みのある説得力を感じさせるところが、さすがイタリアン・ロックである。
個人的には、ベーシストの率いる分派プロジェクトの出来が今一つに感じられただけに、この新作はとてもうれしい。
メロトロン鳴りっ放しの王道ノスタルジーよりも、ハチャメチャな振幅の大きさからにじみ出るリリシズムや不安定さに魅力を感じてしまうのである。
それに、よく考えたら特にプログレなる呼称を使わずとも、本作品は現代的なロックとして十分な魅力を発揮している。
ヴォーカルはイタリア語。
プロデュースは「あの」フランツ・デ・チョッチョ。
アダルトでポップな語り口には、確かに最近の P.F.M との共通性があるかもしれない。
「La Prefzione」
「La Mia Identita'」
「Il Volo」
「La Maleducazione」
「Ode Al Mare」
「Rifrazioni」
「Lo Specchio」
「La Ricostruzione Del Futuro」
「La Fine」
「Incipit」
(QQ 1002 CD)
Sergio Grazia | flute, guitar, vocals |
Marco Cavani | drums, percussions |
Stefano Marelli | classic & acoustic & 12 string guitar, lead vocals |
Boris Valle | piano, keyboards, moog |
Fabio Zuffaniti | bass, lead vocals |
guest | |
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Edmondo Romado | recorder, flute, saxophone |
Osvaldo Loi | viola, violin |
94 年発表の第一作「Finisterre」。
GENESIS など 70 年代プログレッシヴ・ロックのエッセンスを用いながらも、モダンなアート感覚やラウドでストレートなロックの音もうまく取り入れた好作品。
パワフルにして丹念にメロディを紡ぐギターと冷ややかなキーボードを軸に、フルートなどアコースティックな音が陰翳をつけ、叙情的でエレガントな演奏を繰り広げる。
それだけではなく、 GENESIS 流のメロディアス・シンフォニックや JETHRO TULL 風のリズミカルなハードロックの間を揺れながら、クラシックやジャズ、ハードロック、ラテンを大胆に散りばめて、発散気味の展開を見せるところが個性的だ。
全体にインストゥルメンタル中心。
あまりに詰め込みすぎで消化し切れていないところや、ややスノッブな感じもありますが、ユニークなイタリアン・ロック・リヴァイヴァルとしては出色。
ERIS PLUVIA の管楽器奏者がゲスト参加。
「Aqua」(2:58)。
ギター、ピアノによる透明感あふれる小品。
タイトル通り水をイメージしたと思われるファンタジックな内容だ。
泡が弾けるようにリズムを刻むピアノの音と、アタックを失い、高く低くポタメントするギターの音。
水中から水面に向かって光が踊るのを眺めているような気持ちになる序章。
ニュー・エイジ・ミュージックというよりは、YES の「Close To The Edge」の静寂パート、もしくは GENESIS の「Dancing With The Moonlit Knight」のエンディングなどに通じる。
「Asia」(5:04)。
たたみかけるように変転する込み入った演奏が、いかにもプログレらしいインストゥルメンタル。
フルートやギターによるエキゾチックなテーマ、バンクス風のオスティナート、せわしないコール・レスポンス、ヘヴィにしてシンフォニックな調子など熱い演奏でいっぱいだ。
前半の JETHRO TULL のようにリズミカルな演奏から、後半はハードロック的な泣きのギターのリードするミドル・テンポの演奏へと変化する。
終盤キーボードが高まると、すっかり GENESIS 化。
インストゥルメンタル。
「Macinaaqua, Macinaluna」(8:55)。
サイケなサウンド・センスと、イタリアン・ロック伝統の不可逆型アヴァンギャルドのスタイルが合体した、奇ッ怪にして愛らしい迷作。
エレクトリックでサイケなオープニングから、ブルージーなハードロックと純正クラシック(「トルコ行進曲」と「ラプソディ・イン・ブルー」)がこんがらがった展開を経て、お芝居ヴォーカルが盛り上がるオペレッタへ。
インチキ臭い展開の中で、本格的なアコースティック・ピアノのプレイが一際光る。
オペレッタのクライマックスは、アコーディオンによるワルツのテーマである。
そして最後は、ブルーズ・ロックとオペレッタのワルツのテーマをギターが奏でつつ、強引にシンフォニックに高めてゆく。
分厚いキーボードとギターによる悠然たるエンディングは、やはり GENESIS だろうか。
流れを断ち切るような展開は、やややり過ぎの感あるも、コラージュされる演奏一つ一つがそれらしくまとまっているために、うらぶれたサーカスのようなペーソスと「いかがわしさ」がしっかり出ている。
クラシカルなピアノやオペレッタ調のデフォルメされたヴォーカルが本格的な辺りが、いかにもヨーロッパのグループである。
「...Dal Caaos...」(4:00)。
頼りなげな複合拍子アンサンブルがジャジーなインプロと交じりあい、どこへも行きつけなくなってしまう小品。
ギターによる 8 分の 11 拍子と 7 拍子が交錯する傾いでしまったようなアンサンブルと、サックスによる思い切ったジャズ演奏が交互に現れ、やがて合体する。
IL BALLETTO DI BROZNO や HENRY COW にも通じる展開でありながら、緊張感がなく、どこか子供っぽい。
ドラムスはさほどテクニシャンではないが、即興のネタにつまったときの思い切ったスネア打ちが不良っぽくてよろしい。
「ΣYN」(15:00)。
オムニバス風のクラシック・ロック大作。
緩急揃ったクラシカルなアンサンブル、きわめて叙情的なギターによるメロディアスな全体演奏、突然のラテン・ジャズ化から空ろなポスト・ロック調、フォーク・ダンス調まで数々の場面を、フルートとギターを中心に管弦楽器も用いて、のり切ってゆく。
小品の連続というべき内容であり、パノラマのようにさまざまな音・演奏が楽しめる。
数小節単位で流れがコロコロ変り、忙しすぎる印象もあるが、オモチャ箱をひっくり返したような豊かで奔放な作風ともいえる。
オープニングのような、おだやかなクラシック・アンサンブルがもう少しゆったりと長めにあると、印象が変わったかもしれない。
中盤のハケット・ギターは有無をいわせぬ説得力を持ち、サックス、ピアノも美しい。
確かにフルートとギターは、随所で魅力的なメロディを歌い上げている。
ダイナミック・レンジと緩急の幅はそれなりにあるが、演奏の焦点が広がりすぎてしまいメリハリを失ったようだ。
また、ドラムスは、場面毎に叩き方を工夫しているものの、肝心の 8 ビートがやや心もとない。
しかしながら、未消化なまま強引に推し進めてしまう力が演奏にある。
エンディングのアコーディオンのワルツなんて、みごとなヒネリではないか!
現代の変奏曲と考えて、気楽に聴き流すのが正しい楽しみ方だろう。
インストゥルメンタル。
70 年代イタリアの作品といって十分通る音である。
「Isis」(7:42)。
静から動へそして幻想世界を巡って叙情的なエンディングを迎える佳作。
ディープなサイケ調のエレクトリック・サウンドをひきずったまま、TULL 風の強引でハードな演奏が貫く前半。
舞踊るフルート、巻き舌のイタリアン・ヴォイスが力強く、英国ギター・ロック調のラウドな音がカッコいい。
中盤からはピアノの即興とフルートが綾なす耽美な演奏が、情熱的なエレピとともにクロスオーヴァーへと変貌する。
エンディング、アコースティック・ギター弾き語りにフルートが重なる辺りは、みごとなまでに正調イタリアン・ロックである。
テンポ、調子の大胆な変転はあるものの、叙情的な面がよく出た好作品だ。
「Cantoantico」(12:15)。
叙情一本槍で押し切ったイタリアン GENESIS 風の大作。
インスト・パートでは、ハードな音使いながらも、徹底してメロディアスなギターがぐいぐいと引っ張ってゆく。
きらめくようなキーボードを配しながらも、主役はやはり軽やかなフルートとギターである。
一方最初のヴォーカル・パートでは、アコースティック・ギターとフルートがたおやかなヴォイスを取り巻き、インスト・パートとの対比がくっきりと浮かび上がる。
エキゾチックなメロディのアクセントも効果的だ。
中盤からはフルート、ギター、キーボードがソロを見せつつも、一つにまとまっては分厚くヴォーカルを支えて轟々と高まってゆく。
7 分付近のメロトロンをバックにしたムーグのソロは GENESIS 、P.F.M 直系だろう。
再び、アコースティック・アンサンブルによるクラシカルなパートを経て、厳かなコラール調のハーモニーそして重厚なエンディングへと向う。
アコースティックなパートはイタリアン・ロックらしい。
しかし、シンフォニックな演奏はまさしく「Foxtrot」 GENESIS 的。
珍しく突拍子ないところがほとんどない作品である。
「Phaedra」(7:03)。
ハードロックと GENESIS が合体したような、またもパッチワーク風の作品。
目の醒めるようなギターのコード・ストロークから一気に盛り上がるオープニング。
角張ったオルガンのオスティナートをヘヴィな演奏が吸い上げ、小気味よく疾走する。
そして、やはり決めは、ストリングスとハケット・ギターによる切々たる歌である。
続くピアノ・ソロはサティ風、しかし一気にハード・シンフォニック調の盛り上がりを見せてゆく。
ここで、何曲か前の曲をリプライズするかのように、エレガントなワルツのテーマが示される。
切ない演出だ。
チャーチ・オルガンとともにギターは朗々と歌う。
終盤ノイズとともに疾走するハードロックは、やがて、クラシカルなエンディングへと突っ込んでゆく。
メジャー和音の響きがいい。
モダンなアート感覚とロマンティックなヴィンテージ・プログレ志向の合体が新鮮な、シンフォニック・ロック・リヴァイヴァルの傑作。
サウンドは、古めかしい音を自然に聴かせるギターと、プログレらしいキーボード、そしてフルートが大いに活躍する。
特に、ギタリストはいかにもプログレ好きらしく、ハードロックから変態フレーズまで広い芸域を見せつつ、結局ハケットに落ちついている。
一方キーボードは、オルガン、シンセサイザーなどで多彩な音色を操るのもうまいが、なんといってもクラシカルなピアノを主とするところがうれしい。
クラシックからジャズ、果てはクロスオーヴァーまで大胆に散りばめて強引に進めてゆくスタイルは、イタリアン・ロックの伝統たるアヴァンギャルドなセンスの賜物だろう。
過激にしてバタバタとした演奏も、欠点というよりも、その伝統に則る個性なのだと思えてしまう。
ややドラムスの弱さが気になるが、それに気づくよりも、まず演奏のおもしろさに目(耳)を奪われてしまう。
ハードロック調とアコースティック・アンサンブルのコントラストも分かりやすくていい。
そして、決定的にユニークなのは、コラージュにせよ何にせよはっきりした曲想が見えるにもかかわらず、さらにそこから、意識的にか無意識なのか、タガが緩んでしまい軌道を外れていってしまうところである。
脱構築というほど積極性は感じられないし、脱力/力量不足とかたづけるには、あまりに一途で一生懸命な気もする。
おそらく、ユーモアのセンスが個性的なのでしょう。
かなりの変り種です。
曲を聴き終わったときに、初めがどんな風であったかを全然思い出せないタイプです。
(MMP 254)
Francesca Biagini | flute, choir director | Stefano Marelli | guitar, classic & acoustic & 12 string guitar, lead vocals |
Fabio Zuffaniti | bass, tambourine, lead vocals | Boris Valle | piano, hammond, moog, mellotron, synthesizer |
Marcello Mazzocchi | drums, acoustic & electric percussions | ||
guest | |||
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Stefano Cabrera | cello | Claudio Castellini | lead vocals |
Roberto Mazzola | violin | Alessandro Orlando | trumpet |
Massimo Pisano | clarinet | Edmondo Romano | soprano sax, recorder |
96 年発表の第二作「In Limine」。
フルート奏者とドラマーの交代というメンバー・チェンジが行われている。
内容は、管絃、混声合唱などゲストの力をフルに用いたクラシカル・シンフォニック・ロックである、といいたいがそこはイタリアン・ロック。
一筋縄ではいかない場面も多い。
それでも、フルートを中心としたアコースティック・アンサンブルが、バロック室内楽風の透明な優美さと説得力を見せており、破天荒な場面展開のショックを和らげている。
GENESIS そのもののようなギターとシンセサイザーが、ファンタジックなムードを強めるかと思えば、JETHRO TULL 風のトラッド調が、リズミカルなアクセントとしてうまく機能している。
これは、リズムの切れがよくなったおかげもあるのだろう。
大胆なジャズ、ラテンの挿入や音響派風の試みも、今回は曲の流れとして自然に配置されており、未消化な感じはなくなっている。
前作のような飛び道具なしの本格的な演奏で、GENESIS と JETHRO TULL の合せ技から一段飛躍を見せている、といってもいいだろう。
「Intro」(0:12)ハモンド・オルガンが轟き、ギター、フルートが一瞬にしてスピーディな演奏を叩きつける凶暴なオープニング。
激烈だが、音そのものはクリアーであり、ソフトなタッチである。
「In Limine」(7:16)フルートとピアノによるリズミカルなテーマがたたみかけ、あまりにハケットさんなギターが受けとめる、目の醒めるオープニング。
一転してヘヴィなギター、オルガンが粘りつくようなリズムで切り返す。
再び、リズミカルなフルートのアプローチ、今度は、重苦しいギターとともにストリングス・シンセサイザーが、静かにざわめき次第にスピードが上がってゆく。
三度フルート、ピアノによるリズミカルなテーマ。
スタカートするギターとともに小気味よくドラムスが打ち鳴らされると、ややモダンな音色のシンセサイザーが現れる。
なめらかなオスティナートも一瞬であり、再び謎めいた、やや即興風のアンサンブルへと拡散する。
フルートやピアノ、サックス、ドラムスらによるアドホックな演奏である。
ピアノがなめらかに歌うも、不気味なノイズが蠢く。
そして、終章を予感させるピアノ、フルートによるテンポをぐっと落としたテーマの再現。
むせび泣くハケット・ギター、緩やかに刻まれるリズム、高まるメロトロン風のキーボード。
ピアノとギターの余韻を味わうまもなく消えてゆく。
リズミカルなフルートによるトラッド調のテーマを巡って繰り広げられる幻想曲。
目まぐるしい展開のなかで、このテーマがアクセントになっており、聴きやすい。
前半はイタリアン・ロック伝統の快速変転を見せ、大胆な即興パートをはさみ終盤はクラシカルに盛り上がる。
この終盤は「静寂の嵐」辺りの GENESIS を思わせる内容です。
インストゥルメンタル。
今回はドラムスもみごと。
「XXV」(4:38)
フルートとアコースティック・ギターのデュオ。
ピアノの伴奏で静かな歌が始まる。
ロマンチックな旋律がすばらしい。
ヴォーカル・ハーモニーも美しく繊細だ。
シンバルが響き、ドラムスが打ち鳴らされる。
ピアノのビートが強く刻まれると、サックスが柔らかくソロを取る。
ドラムスが様々に打ち鳴らす。
そしてピアノの伴奏でヴォーカル・デュオ。
ギターがシンフォニックに響くと、ストリングス・シンセサイザーとスキャットも加わる。
ピアノの演奏は続き、ギターが再びシンフォニックにメロディを奏でる。
一旦沈んでフルートが静かに響く。
アコースティック・ギターの伴奏。
静かなデュオが木霊する。
フルートが切々と歌う。
フェード・アウト。
美声でささやく男性ヴォーカルをフィーチュアした、神秘的なアコースティック・ロック。
長調と短調をゆきかうような歌メロの妙。
神話の美男神が憂鬱に身をまかせ悩ましげに水辺にたたずむ、といった風情である。
印象派風のファンタジックなピアノ、ジャジーなサックスが印象的だ。
ギターが入ると、とたんに全体のイメージが GENESIS となってしまうが、雅と幻想性にほんのりジャジーなまろやかさを加味した演奏は、本家の「Trespass」をも凌駕するかもしれない。
ヴォーカル以外芯となるプレイがないのが残念だが、全体の雰囲気はいい。
珠玉の一作だろう。
ただし、フェード・アウトは残念。
「Preludio」(4:22)
重なりあういくつもの呟きが、光の泡のようにふつふつと湧き上がる。
うっすらと柔らかい光のようなシンセサイザーがオーロラのように漂い、エレクトリック・ピアノがささやく。
サックスの暖かな調べが横切ってゆく。
荘厳な幻想世界を切り裂くのは、ギターのロングトーン。
ギターは荒々しい音ながらも、切ない響きをもつ。
サウンド・スケープやテリエ・リプダルを思い浮かべてください。
ギターとは対照的に、熱い息吹を感じさせるサックス。
浮かんでは沈むエレクトリック・ピアノ。
ギターは悲痛なまでに泣き叫ぶも、サックスのおだやかな調べが受け止め、シンセサイザーと人々の呟きが高まると、何もかもが眩い光に吸い込まれてゆく。
ニューエイジもしくは音響派風の美しく神秘的なインストゥルメンタル。
エレクトリックな音を用いて、アコースティックな効果を生む叙景作品である。
デリケートな音を散りばめ、たおやかな美を演出している。
また、ギターを用いたシリアス・ミュージックとしても、なかなかの力作だ。
本作は、このアルバムにあることによって一層存在感が強まる。
「Ideekleid Leibnitz Frei」(6:04)
フルートのビジーなワンノート・リフレイン。
ピアノがユニゾンしベースが裏でうねる。
ギターとピアノが絡まる様に交錯する。
サックスも加わる。
オルガンとドラムス。
再びピアノの伴奏でフルートが多重録音で重なり合い絡み合いつつリフレインする。
ピアノとサックスのアヴァンギャルドなかけ合い。
フルートのワンノート・リフが突き刺さる。
ベースのうねり。
サックスは吠えつづける。
次第にフェード・アウト。
クロスフェードでジャズ風のアンサンブルが始まる。
ベースのリフからギターがぼんやりと響く。
ランニング・ベース。
オルガンやギターが断片的に響き通り過ぎる。
リバーヴとサステインで曖昧模糊とする演奏。
ドラムスとベースのみが明確だ。
遠くスキャットも聞え始める。
突如幾人もの騒ぎ立てる声と烈しい演奏の断片、ノイズ、打撃音が轟き混沌のまま終わる。
強いクセのあるフリーキーな作品。
変拍子によるワン・ノート風のテーマ、フリー・ジャズを思わせる破天荒な演奏、二重人格的な展開など、アヴァンギャルドな内容である。
メロディアスな演奏も散りばめてあるが、脈絡なく発展するために、最初を忘れてしまうほどである。
イタリアン・ロック伝統の一方通行不可逆型である。
後半のエレクトリック・ジャズ演奏が、なかなか堂に入っている。
ややポスト・ロック的なニュアンスもあるような気がする。
「Hispanica」(5:37)
オープニングは、チェロ、ピアノ、フルートによる物憂げな室内楽アンサンブル。
フルートの悩ましげな歌声と沈み込むようなチェロのささやき。
一転、ドラムスが加わってピアノ、フルートらによるジャジーでリズミカルな演奏へ。
舞うようなフルートのテーマは、何気なくも 8 分の 5 拍子。
ごく自然ながらも、目のさめるように鮮やかな展開である。
8 分の 6 拍子に移ってフルートを受け継ぐのは、か細いソプラノ・サックス・ソロ。
サックスに導かれるヴォーカルは、イタリアン・ロックらしい土臭いフォーク・タッチ。
ざわめくピアノ伴奏、巧みな多声の追いかけコーラス。
アコースティック・ギターのストロークが心地よい。
突如切り込むのは、リズムレスのシリアスなアンサンブル。
ヴァイオリン、コーラス、フルートが交錯する。
再びリズムが復活するも、今度はスパニッシュ・テイストあふれる演奏に変化している。
アコースティック・ギターによるフラメンコ調のソロが続いてゆく。
他の演奏は同じでも、ギター一つで雰囲気がまるで変わる。
しかし、いつのまにか、フルートのテーマが復活し、愛らしい全体演奏が続いてゆく。
クロス・フェードで立ち上がるのは、ややテンポを落としたギターのストローク。
落ちつきのある演奏だ。
そしてフルートによる哀愁の調べ。
低音ながらもポップス調のメランコリックなヴォーカル・ハーモニー。
再び深いエコーのなかをアコースティック・ギターによるクラシカルなソロが流れてゆく。
ふくよかなメロディと和音の響き。
リズミカルなフォーク・ソングと室内楽をブレンドしたスペイン風のたおやかな作品。
フルートと、タイトル通りスペイン風のアコースティック・ギターがフィーチュアされる。
多声のマドリガルやパッチ・ワーク風の編集、クロス・フェードの使い方など、GENTLE GIANT を意識したようなところもある。
歌やギター、フルートらアコースティック楽器を用いた演奏から連想されるのは、やはり 70 年代イタリアン・ロックであり、それを現代風にソフィスティケートしたようなイメージである。
リズミカルな場面もいいが、それ以上にメランコリックなパートの演奏が美しい。
アコースティック・ギターが刻む和音の手ざわりと、さえずるようなフルートもいい。
「Interludio」(3:43)
哀愁あるアコースティック・ギターのテーマ。
二つ目のギターが追いかける。
またも、カノニカルなギター・デュオである。
ハープのように遠くざわめくピアノ。
続いて、フルートが静かに加わり、優雅に舞う。
続いて、リコーダー、そしてクラリネット、そしてサックス。
すべての楽器が同じテーマで重なり追いかけあう。
ややガチャガチャしてしまうのが残念。
鮮やかに飛び込むのは、南米アンデスの民俗音楽を思わせるリコーダーの調べ。
クラシカルなアコースティック・アンサンブルによるカノン間奏曲。
内容はカノンというアイデア一発のようであり、一つ一つの楽器は繊細さなタッチをもつもののアンサンブルそのものは、ややうるさくなってしまっている。
最後にアンデス調のリコーダーが、大空を舞うようにアンサンブルを鳥瞰して響き渡るアイデアはすばらしい。
「Algos」(13:27)
即興風のピアノ・ソロによるオープニング。
約二分半にわたってクラシカルにしてジャジーな演奏を繰り広げる。
みずみずしい音色と、とまどうような風情が魅力的な演奏だ。
リズムが入って、一気に熱い全体演奏へ。
タイトル・ナンバーのフルートの主題が、エネルギッシュに変奏される。
続いてリズムレスによる、クラリネットとサックスのチェンバー風デュオ。
シリアスにして謎めいたムードが高まる。
クロス・フェードで湧き上がるのは、GONG、OZRIC TENTACLES 直系のテクノ・シーケンス。
キーボードによる 7 拍子のシーケンスと人力ビートによるサイケデリックな演奏である。
すさまじい落差だ。
しなやかなドラム・ビートと、悪酔いしそうなまでによじれるシンセサイザー。
驚くべきは、ここへバロック風の混声コラールがオーヴァー・ラップするのだ。
厳粛な古典世界に電子の雲がたなびくのだ。
なんともすさまじい取り合わせである。
クロス・フェードで、今度はきわめて厳かな弦楽奏が始まる。
弦楽アンサンブルをバックに、サックスの朗々たる調べが流れてゆく。
バロック調の厳かな弦楽とジャジーで官能的なサックスの取り合わせも新鮮だ。
そして最後は、現代音楽調の即興ピアノが、ぎこちなく舞踊りながら幕を引く。
唐突なエンディングに唖然。
クラシック、JETHRO TULL、即興ジャズ、サイケ/テクノ、ニューエイジとなんでもありのオムニバス風大作。
映画のサウンド・トラックのような作品である。
冒頭の雰囲気は 3 曲目にも近く、2 曲目の主題も変奏される。
中盤、GONG か OZRICS かというサイケデリックな疾走に、混声コラールが重なってゆくところが、もっともスリリングである。
とりとめないが迫力はある。
「Orizzonte Degli Eventi」(16:12)
フルート・ソロからアコースティック・ギターが弦を掻き鳴らす。
チェロの憂鬱な響きに乗って男性ヴォーカルは静かに歌い出す。
微かな不協和音の響きが不安をかきたてる。
アコースティック・ギターも伴奏に加わる。
再びフルートそしてアコースティック・ギターのストロークとベースに乗ってヴォーカルが歌う。
フルート、アコースティック・ギター、ベースのリズミカルなアンサンブル。
マラカスが鳴る。
弦楽が加わってフォーク風からさらに雅な演奏になる。
フルートのリードするリフレイン。
クロスフェードでハードなギターが刻む 5 拍子のリフが湧き上りヴォーカルが表情豊かに歌いあげる。
ドラムス、シンセサイザーが入ってギターのリードでトゥッティ。
再びギター・リフの伴奏でヴォーカル。
たたみかけ不安を煽るようなアンサンブル。
ギターのオブリガートが繰返されるとムーグのソロ。
メロトロンが響く。
今度は 9 拍子のギター・リフそしてシンセサイザーが重なる。
再び 5 拍子のギター・リフに乗ってヴォーカル。
シアトリカルな表情だ。
ギターのオブリガートから一瞬にしてリズムが消え湧き上る泉のようにきらめくピアノのアルペジオの伴奏でフルートが美しく舞い踊る。
そして密やかなヴォーカル。
チェロがミステリアスに響く。
リズムが戻ってチェロが優美に歌う。
アコースティック・ギターがコードを刻みブラスがリフレインする。
リズムが止み背景にシンセサイザーやピアノが散りばめられヴォーカルはその神秘的な空間を静かにわたってゆく。
洞窟のようなエコー。
エフェクトされたベースのきっかけからリズムが戻ってギターの 7 拍子リフのリードでアンサンブルが走り出す。
ギターの音色といいリズムといいややポンプ風のアンサンブルだ。
シンセサイザーも重なる。
決めを繰返してシンバルが響き再び執拗に決めを繰返す。
シンバルの響きとギターのリフレイン。
8 ビートのアクセントの強い演奏へと変ってヘヴィなギターが唸る。
テンポが落ちるとメロトロンの響く中ギターがリフレインしピアノ、ストリングス・シンセサイザーの伴奏でヴォーカルが静かに回想する。
ギターをきっかけにヴォーカルは高く謳いあげる。
烈しく叩くドラムス。
高低を烈しく往復するヴォーカル。
メロトロンが響きギターがしなやかに流れる。
古典的でシンフォニックな盛り上がりだ。
最後もハケット風のなめらかなギターが歌い豊かな和音が響き渡って終り。
アコースティックからエレクトリックへそして再びアコースティックなから最後は烈しい演奏が繰り広げられる大作。
フルート、弦楽をフィーチュアしたエキゾチックなアコースティック・アンサンブルは非常に美しいが一番肝心のエンディング数分にわたるエレクトリックなアンサンブルが今一つ切れ味が無く大団円への盛り上がりも不発気味。
シンフォニック・ロックとしては繊細さが印象的な力作だが動の部分の迫力がもう少し欲しい。
せっかくのリズムやテンポの変化もあまり活きていない。
またメロディは、モチーフはいいのだが単純に繰り返し過ぎ。
また唐突に切り替わって不自然さもある。
もう少し細かくヴァリエーションをつけスパイラルに進行した方がテーマが活きると思う。
繰り返すが力作ではある。
アコースティック・アンサンブルの美しさにジャズやアヴァンギャルドな音楽要素を取り入れた野心的な作品。
前半は、アンサンブルや音響の実験のような曲が並び、最後に大曲 2 曲で成果を発揮するというアルバム構成である。
最後の大作は今一つだが、最後から 2 番目のネオ・サイケと室内楽、そしてジャズのミックスのような作品はとてもユニークだと思う。
そしてやはり一番の強みは、アコースティック・アンサンブルのたおやかな美しさだろう。
ジャジーなグルーヴも取り込めているので、これらの強みを活かしてなんとかもう一越えあれば、さらにすばらしい音になりそうです。
(MMP 291)
Stefano Marelli | guitars, vocals |
Boris Valle | keyboards |
Fabio Zuffaniti | bass, vocals |
Andrea Orlando | drums |
guest | |
---|---|
Sergio Grazia | flute on 1,2,3,4 |
Marco Moro | flute on 5,6,7,8 |
98 年発表のライヴ・アルバム「Live - ...ai margini della terra fertile...」。
97 年のフランス、イタリア・ツアーからの録音。
専属フルーティストは脱退し、ゲストを招いている。
ドラムスも再びメンバー交代。
ギター(ハケット流)、キーボード(特にピアノ)を中心にした敏捷なアンサンブルは、ライヴでもみごとに再現されている。
唯一、ヴォーカル、ハーモニーが弱いのが残念。
「In Limine」
JETHRO TULL にハケット氏が参加したような緩急自在の佳作。
フルートによるトラッド風のテーマを狂言回し役に、ギター、ピアノ、ベースらが時代と流行をまたがった自由な演奏を繰り広げる。
フリー・ジャズ風のブリッジがプログレには珍しい。
第二作より。
一言で言うと、ジャジーで GENESIS。
「Algos」
美しいジャズ・ピアノ・ソロのイントロダクション(「Firth Of Fifth」や「That's All」などのくすぐりあり)から、前曲のテーマ変奏を経て、奔放なピアノとノイジーなギターのリードする現代音楽調の即興へ。
明らかに PINK FLOYD な展開であり、コンテンポラリーな過激さを放っている。
第二作より。
「Hispanica」
南欧風味のメロディアスな作品。轟音ギターとフルートの舞にはタイトル通り、スパニッシュ/サラセンの香りが。
ここでもフルートによるクラシカルで愛らしいテーマが使われる。
脈絡が断絶する寸前の展開もおもしろい。
ヴォーカルが素人臭いのが唯一難点。
第二作より。
「Orizzonte Degli Eventi」
ドビュッシーの「牧神」を思わせるクラシカルなフルートのテーマに、柔らかなギターの響きが重なる幻想的なオープニングから、変拍子テーマによるスリリングなアンサンブル、素朴な歌ものなど変転を繰り返してゆく大作。
全体に気まぐれオムニバス風であり、終盤のギターが無理やりまとめる。
第二作より。
「Medley(Preludio - Asia - ΣYN)」
幻想的な雰囲気を保ち続けるインストゥルメンタル・メドレー。
メドレーにもかかわらず自然な流れがある。
本作でもっとも感動的な瞬間はここではないだろうか。
「Preludio」は第二作、他は第一作より。
「Macinaaqua, Macinaluna」バーレスク調の奇ッ怪なハードロック。
ギター炸裂、フルート絶叫、果てはトルコ行進曲から世紀末のキャバレエを経て永遠の輪舞とともにシンフォニックな大団円へ。
第一作より。
「Clt」
初期 CRIMSON もしくはポスト・ロック風のリリカルでクールな無常感のあるシンフォニック・ロック作品。このグループにしてはストレートな演奏である。
ジャジーな音使いが特徴的だ。
未発表曲。
「Phaedra」
序盤のチープなシンセサイザーとハードなギターにびっくり。
これではアルバムが〆らないと思っていると、朗々たるギターとともにしっかりと落ちつきを見せ始め、ジャジーでクラシカルな雰囲気をもったままエレガントにまとまってゆく。ピアノとフルートが美しい。
終曲らしく、ドラムス・ソロ、メンバー紹介、「21世紀」のテーマや「Firth Of Fifth」の「あの」ギター・ソロなどを交えて楽しげに演奏は進み、大盛り上がりのうちに幕を引く。
第一作より。
(MMP 336)
Stefano Marelli | guitars |
Andrea Orlando | drums |
Boris Valle | keyboards |
Fabio Zuffaniti | bass |
guest: | |
---|---|
Francesca Lago | vocals |
Edomondo Romano | brass |
Sergio Caputo | strings |
99 年発表のアルバム「In Ogni Luogo」。
オリジナル三作目。
前作では、かなり八方破れな音楽を繰り広げたが、本作はその実験が実を結んだ、明解さのある傑作。
クラシカル・テイストはやや退くも、70 年代シンフォニック・ロックにポンプを越えた新風を吹き込んだような作風であり、ナチュラルにしてずっしりと手応えのある内容だ。
アンビエント/ヒーリング系のおだやかさとナチュラルな爽快感をもつサウンドが、パワフルな演奏と均衡を保ち、クラシック、ジャズ、サイケデリックといった要素は、突出することなく、丁寧にとけ込まされている。
いかにもヨーロピアンな洒落たタッチも新鮮だ。
ポンプから基本へと帰ったプレイは正統的であり、技巧的では決してない(リズムはかなり危なっかしい)が、心安らかに聴くことができる。
音響派、ポスト・ロックなどコンテンポラリーな音楽のチェックも怠りない。
演奏の中心となるのは、豊かな表現力をもつギター。
フレーズを紡ぎ方はストレートな朗々たるものであり、ロックらしいアタックとコブシが効いた、いわば古典的なプレイヤーである。
そして、ヴァイオリン、サックス、メロトロンが用いられて、音はもちろんよく、哀愁のアンサンブルを見せるかと思えば凝った SE がイメージ豊かに散りばめられるなど、気まぐれなコラージュ風の展開もカッコよく決まっている。
ジャズや現代音楽の一部を拝借というレベルではなく、エモーションと楽曲の流れからくる必然性が、音楽的な素養に基づいてさまざまな表層を自然と浮かび上がらせているといったほうが正しいだろう。
プログレと構えて聴かずとも、モダンなロックとしてなかなかカッコいいし、練れている。
さらに、元々音響に関しては、独特の鋭い感覚を持っていたが、そのセンスも曲作りにしっかり活かしている。
現代的なギター・ロックもきちんと消化しているようだ。
丹念さの中に、いわゆる構築的なものとは違った即興性や瞬発力も感じさせるところもうれしい。
一部ゲスト・ヴォーカルが入るが、ほぼ全編インストゥルメンタル。
アルバム毎に音楽が変化しており、問題作なのかもしれないが、力作である。
PORCUPINE TREE と同じく、ノスタルジックな音を基本に、幅広い音楽性を見せている。
もっとテクニカルなケレンのあるプレイが入ったらジャム・バンドと呼べるだろうし、センスのいい音感から、スマパンや RADIOHEAD のファンへも薦められるかも。
そして、当然のことながら、轟々と流れるメロトロンをバックにギターがむせび泣くシーンも忘れられていない。
プロデュースはグループとあのロベルト・コロンボ。
「Tempimoderni」(4:55)
「Snaporaz」(6:42)
「Ninive」(3:57)
「In Ogni Luogo」(3:22)
「Coro Elettrico」(7:11)
「Le Citta' Indicibili」(3:12)
「Agli Amici Sinestetici」(5:22)
「Continuita'dilaraneltempo」(8:29)
「Peter's House」(3:50)
「Wittgenstein Mon Amour 1.12」(2:58)
(THX 1138)