フィンランドのチェンバー・ロック・グループ「HÖYRY-KONE」。 91 年ユシ・カルカイネンとティーム・ハンニネンらを中心に結成。99 年解散。 作品は二枚。 サウンドは、管弦楽器とオペラチックなヴォーカルをフィーチュアした気持悪系チェンバー・ロック。 HÖYRY-KONE は "Steam Engine" の意。
Jukka Hannukainen | vocals on 2, 10, synthesizer |
Teemu Hanninen | drums |
Tuomas Hanninen | guitars |
Jussi Karkkainen | guitars, pump organ |
Nina Lehos | oboe |
Topi Lehtipuu | vocals, violin |
Marko Manninen | cello |
Jarno Sarkula | basses, pump organ |
95 年発表の第一作「Hyönteisiä Voi Rakastaa(昆虫偏愛)」。
室内楽と通常のバンド編成が合体した大所帯によるヘヴィ・チェンバー・ロック・アンサンブル。
KING CRIMSON 系のヘヴィ・テクニカル・ロックに素っ頓狂なヴォイスを放り込み、北欧調のノスタルジーでまとめた作風といえばいいのだろうか。
音的にはかなりとっ散らかっているが、緊迫感とブラック・ユーモアという面で統一感はある。
若者に人気の運動性に優れた爆走ミクスチャー・ロックではなく、HM、パンク、80'CRIMSON、クラシック、インダストリアル、トラッド・フォークなどが一応の計画性をもって配された、いわば構築型変態音楽である。
どえらく変でありどこまでいっても正体不明だが、そのときやりたいことをやるという姿勢は潔い。
CRIMSON や HENRY COW のようなシリアス・ロックを軸に、陰陽、明暗、アカデミック/チンドンなどさまざまな方向へ揺れ動いている。
イメージの固まらない前半に比べ、後半は色調に統一感が生まれてくる(というか CRIMSON 色が強まる)。
凶暴なギターと管弦楽器の巧みな組み合わせとクラシカルで存在感抜群のヴォーカルが特徴だろう。
1 曲目「orn」(3:59)
変態パンク・ロカビリー・ナンバー。
やけに軽いリズムでかっ飛ばすオペラチックなヴォーカルのテーマを中心に、アジテーション風のモノローグやディストーション・ギターの凶暴なプレイをコラージュしている。
コラージュというよりは落とし穴に近い。
ヘヴィさな不気味さと終始生暖かい息を吹きかけられているような不快感に鳥肌が立つ。
2 曲目「raskaana」(3:11)
ニュウェーヴ系低音巻き舌ヴォイスをフィーチュアした不気味な歌もの。
たるんだ弦の響きによる弛緩した曲調。
エイドリアン・ブリュー風の狂乱モノローグのおかげで 80'CRIMSON テイストもあり。
テープの回転数が落ちたような演奏である。
というか本当にテープ操作による作品なのかもしれない。
3 曲目「hamaran joutomaa」(7:09)
ギター・アンサンブルをフィーチュアした民謡風の作品。
80'CRIMSON か PHILHARMONIE かという螺旋を描くようなギター・デュオから、奇妙なワルツ、そして伸びやかな歌唱。
昭和歌謡と北欧民謡の風味が交じりあう。
ヴォーカルはフィンランド版デメトリオ・ストラトス、というか正規の音楽教育を受けた歌手なのだろう。
つやのある歌声である。
朴訥にして底意地の悪そうなギター・ソロから、突然の小爆発、そしてアジテートするような調子へ変化。
再びギター・デュオがぐるぐると渦を巻く。
眠くなりそうで眠れない。
4 曲目「pannuhuoneesta」(2:08)
切羽詰った衝動に突き動かされているようなサイケでテクノな小品。
イコライジングした SE と衝動的なギター、軽薄なビートによるつんのめるような曲調である。
強いアクセントと気まぐれなブレイクをもつリズムに、終始落ちつかない。
ストレスに満ち、悪意が感じられる。
こういう曲に対するアクセプタンスで、80 年代のすごし方がばれる。
踊れるが聴けない。
5 曲目「luottamus(信頼)」(4:31)
空ろな歌声に哀愁の漂う、北欧トラッド・フォーク風の作品。
リズミカルなギター伴奏とあまりにメロディアスなクラリネット、ヴァイオリン。
ヴォーカルはイタリアン・ロックにありそうなテイストである。
流れを断つ奇妙な SE に導かれる間奏では、KEBNEKAISE か RAGNAROK かというスナック歌謡調ジャズ・ギターがフィーチュアされる。
オクターヴ奏法が渋過ぎる。
終盤は一転して幻想的で緩やかなアンサンブル(初期 CRIMSON か)が続いてゆく。
ヴァイオリン、アコースティック・ギター、管楽器が深いエコーの中にたゆとう。
初期ブリティッシュ・ロックに北欧ジャズのセンスを交えたような、深い無常感のある独特の味わいである。
6 曲目「kaivoonkatsoja」(4:02)
緊迫した美感あふれるヘヴィ・インストゥルメンタル。
いわば「Red」プラス弦楽。
フリップばりのロングトーン・ギターと弦楽器によるテーマを凶暴なリフが支え、ときおり激しいバトルとなって噴出する。
その荒々しい空気に切り込んでくるのがあまりに美しい弦楽アンサンブルなのだ。
凶暴なギターと弦楽の交差から、ダークな重みとともに耽美な味わいも生まれてくる。
7 曲目「kosto(復讐)」(5:57)
MAGMA と UNIVERS ZERO が合体したようなチェンバー・ロック。
厳かで不気味、重苦しくおどろおどろしいゴシック・チューンである。
聖歌のようなヴォイスが、やがてミステリアスな粘り気をまとい、静々と怖気が高まってゆく。
この手法は、ホラー映画のサントラ風といっていいだろう。
さ迷う幽鬼の如き弦楽器、牙をむくベース、狂乱するヴォイス。
管楽器のリードによる変拍子アンサンブルが崩れ去り、急激に異様なテンションが高まる。
この緩急の変化がみごと。
雰囲気のあるなかなかの名曲ではないだろうか。
8 曲目「hata」(3:42)
ハード・エッジなギターと硬質なリズムで攻め捲くる、後期 CRIMSON 風のヘヴィ・チューン。
狂おしく身もだえするフィードバック・ギターはロバート・フリップ直系だろう。
受けに回ったときの内向的なフレージングもなかなかカッコいい。
緩衝域を設けて再び凶暴に高まってゆく様子は「One More Red Nightmare」のよう。
凶暴だが気品のあるインストゥルメンタルである。
9 曲目「myrskynmusiikkia」(6:48)
ヘヴィ・メタリックなギターを中心にみごとなドライヴ感を見せるパンキッシュな演奏と正統声楽調ヴォーカルの落差がすさまじいナンバー。
インスト部は前作と同じ音構成ながらもはるかに暴力的で運動神経よし。
ヴァイオリンもカッコいい。
ハードコア民俗音楽とも考えられる。
10 曲目「hyonteiset」(4:24)
モリコーネのサントラ調のメロディに、歪んだギターと弦楽器、さまざまな SE など不気味な音を次々放り込んだ変態ナンバー。
ポップです。
11 曲目無音の 30 秒の後、全楽器がフルヴォリュームで轟音を吐き出すオマケつき。
(APM 9510 AT)
Topi Lehtipuu | vocals, violin | |
Jarno Sarkula | basses, flute, backing vocals | |
Jussi Karkkainen | guitars | |
Tuomas Hanninen | guitars | |
Teemu Hanninen | drums | |
Marko Manninen | cello | |
guest: | ||
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Peter Nordins | additional drums on 4, 8 | |
Pasi Kiiski, Patrik Latvala, Robert Loflund | brass in 5 |
97 年発表の第二作「Huono Parturi」。
ダークなユーモアと狂気たっぷりの怪作。
モンテヴェルディ風の中世音楽が風に舞うかと思えば、UNIVERS ZERO と CRIMSON が合体したような HM チェンバーロックが飛び出し、はたまた、チンドン屋オペラ、超速ハードコアが平然と同居する。
ストラト特有の音色を活かしたリフやアーミング、フィードバックなど、多彩なプレイを見せるギターと、凶暴ながらもしなやかな旋律で独特の美感を生む弦楽器の存在感が強い。
タイトルは「偽理髪師」。
1 曲目「Beata Viscera」(6.53)中世音楽風のアカペラ。
2 曲目「Terva-Antti Ku Haeihin Laehti (Terva-Antti Left For Wedding)」(4.02) カッコいいチェンバー・ロック。ヘヴィな音で押し捲りながらも、なかなかメロディアスである。
クラシカルなアンサンブルとヘヴィ・ロックの融合という点では、かなりの完成度。
3 曲目「Karhunkaato(Bear Slaughter)」(4:21)三文オペラ風の歌ものヘヴィ・チェンバーロック。
ヘヴィなギターとチェロの組み合わせは往年の CRIMSON であり、管絃主体で走り出すと UNIVERS ZERO である。
変拍子も駆使。
弦特有の緊張感と風を切る疾走感。
エンディング、VENTURES 風のノスタルジックなギターもいい。
4 曲目「Lumisaha(Snow Saw)」(4.39)ディストーション・ベースが吼えるインダストリアルな爆裂チューン。
凶暴邪悪です。轟音の嵐の中、1 曲目が回想される。後半、ミドルテンポのところでは中後期 CRIMSON のニュアンスが。
5 曲目「Baksteri」(1.57) ユーモラスなブラス・アンサンブル。
STORMY SIX などに通じるレコメン的ユーモア。
ワーナーかハンナバーベラのアニメーションの音楽のようです。
6 曲目「Huono Parturi(Bad Barber)」(4.52)
CRIMSON によるヴォードヴィル・ショウ。
7 曲目「Ullakon Lelut(Toys In The Attic)」(2:19)
ハーモニウムのような音とコントラバスらによるホーンティッド・マンション風のアンサンブル。
8 曲目「Tottele(Obey)」(2:39)
9 曲目「Kala(Fish)」(5:11)
10 曲目「Laahustaja(Shambler)」(6.21)
11 曲目「Laina-ajalla(On Borrowed Time)」(5:27)
(APM 9720 AT)