イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「LIFESIGNS」。2008 年開始。2018 年現在作品は五枚。最新作は 2021 年発表の「Altitude」。プログレ・ファンによるプログレ復古作品。現ドラマーは元 THE FLOWER KINGS のソルタン・ショーズ。
John Young | keyboards, vocals |
Martin 'Frosty' Beedle | drums, percussion |
Nick Beggs | bass, stick, vocals |
Steve Rispin | recording, production |
guest: | |
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Steve Hackett | guitars |
Robin Boult | guitars |
Jakko Jakszyk | guitars |
Thijs Van Leer | flute |
2013 年発表のアルバム「Lifesigns」。
内容は、JADIS のメイン楽器がキーボードになったような、YES や中期以降の GENESIS の世界を希求する、時に AOR 調でもあるメロディアス・シンフォニック・ロック。
美しく気品あるサウンド・テクスチャと溌剌としたリズムに支えられて、大人の苦味も若さの甘みもあるヴォーカル・ハーモニーがなめらかに歌い上げる、新時代のクリアーさと往年のパッションを併せ持ったリリカルで風格ある作風である。
ミドル・テンポで精緻に丹念に歌いこむパフォーマンスであり、大人向けといっていいだろう。
メランコリックな表情にもデジタルな暗さだけではない奥深さとがあり、虚ろなはずの胸も打てば幾星霜を重ねた豊かな反響が今や心地よくこだまする。
クラシック調の表現や、ほんのりとケルティックな響きも自然な流れの中にある。
これまでにもいくつかあったプログレ・ファン気質の果ての作品だが、聴いていて妙な違和感がないという点では珍しい作品である。
これは、英国の血と感性が隅々にまでいきわたっていること、およびジョン・ヤングが一線のバンドで積んできたキャリアのおかげだろう。
ロイネ・ストルトや MAGENTA のロブ・リードと同じく、ファンである前に音楽のプロなのだ。
過剰にならず、それでいて嫌味なストイシズムも感じさせないキーボードのプレイがいい。
何ごとにつけデータ量が稠密すぎないことが現代においては難しいが、ここのパフォーマンスにおいてはあくまでロマンを伝える音楽が主導であり、メッセージ媒体のヴォリュームもいいバランスが保たれている。
キーボードの淡いながらも豊かで深みのある色彩美に象徴されるように、リスナーに「優しい音」だと思う。
悠然としたバラード調が主な中で、最終曲はタイトなバンド・アンサンブルが冴える傑作。
そも「lifesigns」という言葉はどういう意味なのでしょう?
サンクス・クレジットには、ニック・カーショウ、ロジャー・キングに加えてアンディ・ラティマーの名前も。
ひさびさに現れたネオ・プログレッシヴ・ロックの秀作である。ぜひ継続的に作品を発表してほしい。
「Lighthouse」(12:51)
「Telephone」(9:16)
「Fridge Full of Stars」(11:18)傑作。「冷蔵庫いっぱいの星空」って「帽子いっぱいの空ろさ」みたいでいいですね。
「At the End of the World」(8:23)
「Carousel」(11:46)ティッジス・ファン・レールがフルートを奏でる。エンディングに向けて躍動する演奏がみごと。
(EANTCD 1011)
John Young | keyboards, vocals |
Frosty Beedle | drums, percussion, backing vocals |
Jon Poole | bass, bass pedal, backing vocals |
Steve Rispin | sound engineering |
guest: | |
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Dave Bainbridge | guitars |
Nico Tsonev | guitars |
Robin Boult | guitars |
Meno Gootjes | guitars |
2017 年発表のアルバム「Cardington」。
ライヴ・アルバムに続くスタジオ二作目。
内容は、AOR 調ながらもさりげなくテクニカルなネオ・プログレッシヴ・ロック。
隆盛時のプログレの正統後継者筆頭たる THE FLOWER KINGS あたりを意識したような、豊麗にして繊細なサウンドであり、余裕の感じられる作風である。
その豊かさは、YES や GENESIS といったブリティッシュ・ロックと同質であり、クロスオーヴァー/フュージョンやニューエイジも消化して、HR/HM にちょっと浮気はしたが、ポスト・ロッカーのスキルに驚きながらも微笑み、70 〜 80 年代のポップス含めもう一度自分の好きなものを見直して到達した境地にあるものだ。
ジョン・ヤングはライル・メイズばりのテクスチャからエディ・ジョブソンばりのキツキツのフレーズまでを惜しみなく入れ込んで、微にいり細にうがってプログレ心をくすぐる。
イタリアの MANGALA VALIS の作品を初めて耳にしたときと似た興奮があった。
ただしこちらの強みは、メロディ・ラインがあくまで英国流であること。
イメージは、驟雨を撒いた雲が途切れると思いのほか強い日差しがさしこむ、そのときの空気の適度な湿り気とゆらぐ光と影。
まさに礼賛すべき陰影なのだ。
FISH バンドや現 FOCUS のメンバーなどゲスト・ギタリストが充実。
それぞれ個性を発揮しつつも、スティーヴ・ハウやハケットのイディオムもしっかりと決めてくるあたりがニクい。
歌ものとしての出来と器楽の「らしさ」が高い純度で結びついた傑作。
飛行船へのノスタルジアの手ざわりもこの音とよく合っていると思う。
プロデュースは、スティーヴ・リスピン、ジョン・ヤング、フロスティ・ビードル。
「N」(10:57)
「Voice In My Head」(5:35)
「Chasing Rainbows」(3:40)
「Different」(9:19)名曲。
「Impossible」(5:25)
「Touch」(4:00)
「Cardington」(10:40)
(LML003)