イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「MARSUPILAMI」。 68 年結成。71 年解散。鍵盤奏者は CMU に合流。 作品は二枚。TRANSATLANTIC レーベル。
Fred Hasson | lead vocals, harmonica, bongos |
Dave Laverock | electric & acoustic & bowed guitars, vocals |
Leary Hasson | organ |
Richard Hicks | bass |
Mike Fouracre | percussion |
Jessica Stanley-Clarke | flute, vocals |
70 年発表の第一作「Marsupilami」。
内容は、フルート、オルガンをフィーチュアしたサイケデックでおどろおどろしいプログレッシヴ・ロック。
悪夢幻想的にして軸を失ったように茫洋とした心象を描くにあたって、ファズのようなざらざらとしたワイルドな音を使うのがかの時代の特徴の一つであり、このグループも若気の生臭い妄想を荒々しいタッチでキャンバスに叩きつけている。
怪しげなスキャットや呪文めいた歌唱、喚声など、ややコケオドシ風ではあるが、ヴォーカルの演出にもかなり力が入っている。
もっとも、息もつけぬほど忙しない演奏で観客を引きずり回した挙句、ほっぽり出すという典型的な素人劇団風の展開ではあるのだが。
それだけなら「なんだこりゃ」と眉を顰めればすむが、ずるいのは、オルガンやギターが暴れつくした後のフルートやピアノの調べに、意識的なのかどうか知らないが、あまりに素で切ない感傷がまんま込められていることだ。
こんなものを聴かされれば、気恥ずかしくなるのを通り越してその場にへたり込みそうになる。
というか、自暴自棄な荒々しさの中に傷つきやすい魂を封じ込めたのがロックなのだ。
50 年も前からみんなハリネズミだったのだ。(完全脱線)
狂おしいパッションを吐き出しては、後悔の淵に沈んでうつろな目になるという青春期特有の不安定な心情がよく音になっていると思う。
さて、リズム・セクションは荒々しくも安定感があり、オルガン・プレイヤーはかなりの腕前である。
クラシカルかつジャジーなハモンド・オルガンは、本作品の主役といっていいだろう。
荒削りではあるが全体に演奏力は申し分ない。
そして、ジャジーな展開で盛り上がったときのフルートによるマジカルなクールダウンがよく効いている。
爆発力が売りのギタリストのプレイに若干不安はよぎるものの、ファズの魔法で許せてしまうし、ジャジーな文脈では落ちついたプレイも見せている。
しかし特徴といったら、無闇にけたたましいことだろう。
呪術めいたヴォーカルやラテン語表記の曲名など、思い入れ過剰系ではあるが、演奏もアレンジも決してまずくない。
アルバムを通したときのどことなく中途半端な感じは、尖がろうと思った方向とは別の方向により魅力が出てしまったためだろう。
けだるいクールネスにうっすらと哀愁が浮かび上がる 2 曲目のようなごく素直な作風が主の方がよかったのではないだろうか。
CRESSIDA や GRACIOUS、BEGGARS OPERA 、といった VERTIGO クラシカル・ロックや MIDDLE EARTH レーベルの作品と共通するテイストあり。
プロデュースはマーク・エドワーズ。
「Dorian Deep」(7:21)
粗野で屈折したリード・ヴォーカル、アフロなドラミング、フルート乱れ吹き、ギトギトしたギターらが暴れ、乱調気味に大胆に展開するへヴィ・チューン。
テンポや調子を大きく変化させつつひたすら狂乱する。
アングラ臭は強いがたくましい演奏力を見せつける力作。
「Born To Be Free」(5:33)
ジャジーなリズムによるフォークロック。
胸を吹き抜ける木枯らしのようなヴォーカルをフルート、アコースティック・ギターらが達者に支える。
ギターで口火を切るワイルドな間奏からの展開はイタリアン・ロック風の無鉄砲さ。
そこではオルガンだけが大人のジャズ・フィーリングで迫る。
「And The Eagle Chased The Dove To Its Run」(6:36)
メロディアスなハーモニーによる 60 年代風のやや古めかしい味わいとニューロック的なシャープな疾走感で構成したビート・ロック。
興奮気味の THE MOODY BLUES か。
リズム、テンポ、雰囲気を変化させつつ、呪文風のハーモニーで空しさを嘆く。
ギターのアドリヴはよく分からない方向に暴走しているが、プレイヤー本人もそう思っていそうだ。
暴走と破断、弛緩と激情の噴出を繰り返す。
傑作。
「Ab Initio Ad Finem (The Opera)」(10:32)
10 分にわたる巨大なパッチワーク風インストゥルメンタル。
オルガン・ロックらしいクラシカルなオルガンのテーマ、フルートとの幻惑的なアンサンブル、けたたましいギターがリードするニューロック的な展開、奔放なチャーチ・オルガン・ソロなど、さまざまな演奏がクラシカルなイメージでまとめられている。
ミュージック・コンクレート風の効果音も随所に現れる。
哀愁にあふれ、クラシカルな味わいがあるが、本当の魅力はそういうものをひっくるめた「やんちゃな愛らしさ」だと思う。
「Facilis Descencus Averni」(9:19)
ジャジーな 8 分の 6 拍子のテーマが狂言回しをするアヴァンギャルドなクラシカル・ロック。
強烈なビートとリズムレスを交互に繰り返し、予測不能に展開する。
フルートが微妙に「ボレロ」風。
ギターのボウイングも強烈。
(Transatlantic TRA-213 / TACD 9.00737 O)
Fred Hasson | lead vocals, percussion, harmonica |
Dave Laverock | electric & acoustic & bowed guitars, percussion, vocals |
Leary Hasson | organ, piano, electric piano, mellotron, tubular bells, fire extinguisher |
Mike Fouracre | drums, timpani, percussion |
Ricky Hicks | bass |
Jessica Stanley-Clarke | flute, vocals |
Mandy Riedelbanch | tenor & alto sax, flute on 5, percussion |
Bob West | lyrics, voice, large mouth-piece |
Peter Bardens | production, percussion, a lovely guy |
71 年発表の第二作「Arena」。
内容は、フルート、オルガンをフィーチュアした情熱的でアーティスティックなへヴィ・ロック。
キーボード・サウンドが拡充され、前作よりもプログレらしい密度の高い演奏になった。
ローマの拳闘士と闘技場を描いたコンセプト・アルバムであり、モノローグも交えたきわめて叙景的な作品になっている。
前作同様 70 年代初頭らしい荒っぽさと感傷的な表現が突き混ぜ合わされており、唐突な展開やアヴァンギャルドなしかけが盛り込まれている。
サウンド的には緩めのサイケ・タッチは卒業したようだが、根っこにあるビート/ R&B 風味をそのままにフリー・ジャズ的な演奏を取り入れた結果、混沌はむしろ深まっている。
そして、脈絡をぶった切るような過激な展開が多いにもかかわらず、不思議なことに前作よりも流れは自然に感じられる。
全体に、KING CRIMSON や JETHRO TULL に影響されたイタリアン・ロックを逆輸入したような作風である。
エネルギッシュなアンサンブルを支えるのは、オルガン、ピアノ、フルート、そしてドラムスである。
割れ鐘のようにパーカッシヴなオルガンとメロトロン、ピアノは、存在感ある音で各場面をリードしている。
ワイルドな印象もシンフォニックで悠然とした印象も、キーボードに負うところが大きい。
一方、フルートはテーマをリードする場面よりもフリー・ジャズ的な乱れ吹きが印象的だ。
そして、ドラムスは手数を抑えないタイプであり、せわしなさと重厚さはひとえにこのドラムスの音量と音数にかかっている。
ヴォーカルは、オペラチックな歌唱を見せ、ハーモニーも交えているが、さほど個性は感じられない。
ただし、歌詞そのものは選任メンバーによるものらしく、きちんと聴き取れれば、それなりの効果はあるのだろう。
また、一部で加わるサックスはフリー・ジャズ的なプレイをしており、初期の KING CRIMSON との共通性を感じる。
大きく掲げたコンセプトのわりに、荒っぽさが先立つごった煮感覚は、GRACIOUS 辺りに近い。
緩急の「緩」の部分が行き過ぎてしまった感あり。
プロデュースはピート・バーデンス。
「Prelude To The Arena」(5:23)ワイルドかつスピーディな演奏と厳かな演奏が交錯する重厚なる序章。
トーキング・スタイルのフルートやメロトロン、オルガン、性急なビートなど、OSANNA を思い出す。
エレクトリック・ピアノによるブルージーなアドリヴもあり。素っ頓狂な感じはまさにイタリアン・ロック。
「Peace For Rome」(7:01)
執拗な反復、緩急の激変、軽快かつ乱調、係り結び不明なコード進行など、GNIDROLOG 風の悪夢世界である。
観客の嬌声を背景にギターやオルガン、フルートのアドリヴが次々放り込まれ、リード・ヴォーカルが空ろな表情で歌う。
「The Arena」(12:55)冒頭、呪術めいたファルセット・ヴォイスとオルガンが妖しく交錯し、フルートの乱れ吹きが重なると、一気にエキゾティックな異教の雰囲気が高まる。
オルガンは完全にアラビア調であり、民族調のドラミングとともに古の異教の世界が広がってゆく。
中盤のメロトロン・フルートとピアノによるリリカルなデュオをブリッジに、後半はエネルギッシュなアンサンブルでひた走る。
かなり自由な形式で発展する作品であり、まとまりは感じられない。
「Time Shadows」(11:16)フリー・ミュージック風に始まるが、クライマックスでは、オルガン、フルート、サックス、ギターが四つ巴で走り抜ける、KING CRIMSON ばりのアグレッシヴな演奏がある。
「Spring」(9:17)破壊的な序盤を経て始まるオムニバス風の終曲。
時おり現れる奇妙な擦過音は、ギターをボウイングしているのだろう。ツイン・フルート(フルートとメロトロン?)がリードする場面もある。
最後は AMON DUUL II のような呪術的なムードも。
(Transatlantic TRA-230 / TACD 9.00741 O)