アメリカのプログレッシヴ・ロック・グループ「MARS VOLTA」。2002 年結成。作品はライヴ盤や EP も含め八枚。ハードコア出身の危うい魅力を放つ現代プログレ。 2013 年解散。
Omar A Rodriguez-Lopez | |
Cedric Bixler Zavala | |
Jon Theodre | |
Juan Alderte De La Pena | |
Isaiah Ikey Owens | |
Marcel Rodriguez-Lopez |
2005 年発表のアルバム「Frances The Mute」。
内容は LED ZEPPELIN や RUSH のようなアイデアとヴァーサティリティにあふれるへヴィ・ロックの現代版。
サイケデリック、ハードロック、プログレ、パンク、ジャズ、フォーク、エレクトロニカに加えて、中近東、ヒスパニック、ラテン、マンボなど、あまり馴染みのない要素を高速かつ音密度の高いアンサンブルで切り刻んで坩堝に放り込んだようなアルバムである。
何を考えて制作したのかはさっぱり分からないが、出てくる音にはあふれんばかりの豊かな歌心がある。
ギター、ドラムスらの超絶テクニックに支えられたアンサンブルはしなやかにして過激、そして色気もあり一触即発のテンションで迫ってくる。
そして、屈折してはいるものの濃密な情念が渦巻いている。
アコースティックな弾き語りだけではなく、機材が壊れたようなサウンド・コラージュにも独特の哀感が浮き出る。
煮えたぎるカオスから悲痛な絶叫や怒声が切れ切れに舞い上がってくるのだ。
と同時に、これだけエモーショナルであるにもかかわらず、無機的で非情、殺伐としたところもある。
これは、ジェネレーションだかカルチャーだかのギャップのせいもあるのだろうが、まずは、ヴォーカリストの個性的な声質(デリカシーや切なさと酷薄で残忍な感じが同居する個性派である)と神経逆なでノイズ系のサウンドが終始吹き荒れるせいだろう。
ハードボイルドというか、一種のストイシズムというのもあるかもしれない。
現代的な危うさがいっぱいなところは、けっこうマトモに「ロック」なのだ。
また、へヴィで凶暴だが、HM やプログレ・メタルとは異なり音楽であることに安住せずその枠組みを引っ掴んで思い切り揺さぶっている。
こうした音楽を揺さぶるアプローチは今やさまざまにあるが、ここではかつてのフリージャズや無調音楽と同じくらいのコミットメントとともに類まれな演奏力によってそれが行われている。
アイデア一発やフェイク、無手勝アヴァンギャルド(それにもおもしろいものはあるし、それもロックの良さではある)とはまったく異なる、なんというか「サムライ」なアプローチである。(そういうところがプログレそのものなんですな)
さらに特徴的なのは、音楽にシリアスなトータリティを持ち込みながらもグランジ、ガレージ系の危なさやナンセンスな感覚を持ち続けてるところである。
これは、ロックの基本ができているといい換えてもいい。
また、巷でプログレといわれるだけあってオルガンやメロトロンのようなストリング系の音も入っているが、最初はあまりの衝撃でクラクラするために気づきにくいかもしれない。
しかし、生の管弦楽の活かし方はすばらしい。
デジタル化の果て、スタジオ・アルバムでは普通の意味での演奏というのがあまり行われなくなっている昨今、アナログ感覚たっぷりの思い切りの演奏にオーヴァーダビングをガンガン重ねた作風がじつに潔い。
ECHOLYN や SPOCK'S BEARD を生んだアメリカン・ロックに、また一つ新しいノヴァが興った。
カヴァーアートは、元 HIPNOSIS のストーム・トーガソンら。
「プログレなるレッテルは不要である」旨コメントされているようだが、やることはやってんじゃん。
尖った音のプログレということで、KING CRIMSON、 YES のファンにはお薦め。
また、「カッコいい何でもあり感覚」という意味では 70 年代のブリティッシュ・ロックのファンにも受けると思う。
個人的には大作の第一章の管弦にやられました。
ふだんはそんなに「Starless」を好きなわけではないのに。
最終曲のダイナミックな展開もいい。ヴォーカルは英語とスペイン語。RED HOT CHILI PEPPERS のジョン・フルシアンテがゲスト参加。
「Cygnus ..... Vismund Cygnus」(13:02)弾き語りから三倍速暴虐 GENTLE GIANT へ。
このドラムス。1 曲目でダメかどうかが分かるので効率的。
「The Widow」(5:51)バラード。ジョン・ウェットンの作風に近い。
「L'Via L'Viaquez」(12:22)
「Miranda That Ghost Just Isn't Holy Anymore」(27:32)
「Cassandra Geminni」(18:10)
(UNIVERSAL RECORDS B0004129-02)
Omar A Rodriguez-Lopez | |
Cedric Bixler Zavala | |
Juan Alderte De La Pena | |
Jon Theodre | |
Isaiah Ikey Owens | |
Marcel Rodriguez-Lopez | |
Adrian Terrazas Gonzales | |
Pablo Hinojos Gonzalez | |
John Frusiante | |
guest: | |
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Sara Christina Gross | saxes |
2006 年発表のアルバム「Amputechture」。
内容は、前作と同様にテクニカルなギターと切れのいいリズムと中性なハイトーン・ヴォイスによるへヴィなテクニカル・ガレージ・ロック、ややサルサ寄り。
轟音降りしきる混沌としたサウンドによるインプロヴィゼーション主体の演奏で意外なまでにエモーショナルなヴォーカルがメロディを支える。
無機的で硬質なタッチで抽象的幾何学文様を描き続けるギター・フレーズ、空間を削り取るような音響、ヒステリックな曲調から浮上する独特の「こぶし」が特徴である。
焼けつくようなセンチメンタリズムに苛まれるうちにアンサンブルは狂気すれすれの叫びをあげる。
言葉の真の意味で痛い音だ。
また、サックスとギターが重なるとどうしても初期の KING CRIMSON を連想してしまうし、アルペジオをバックに虚空に響き渡るギターが PINK FLOYD をイメージさせるところもある。
不気味な非人間性を感じさせるところは前作と同じだが、本作品では若干ながら人間的な表情が前面に出ていると思う。
それは、KING CRIMSON が「Fallen Angel」や「Starless」で見せた切羽詰った叙情性と共通するものだ。
やはり本作品も、個人的には、「LED ZEPPELIN meets KING CRIMSON」というイメージが強い。
威圧感と切迫感に加えてユーモアまで感じさせる「Day Of The Baphomets」は大傑作。祝祭的狂騒。
この曲に続く最終曲「El Ciervo Vulnerado」では前曲で精力を使い果たしたかのような虚脱状態のインプロヴィゼーションが続くが、それがまた謎めいていて意識をゆったりと広げてゆくことができる。
一種のトリップ・ミュージックである。
絶望の果ての虚無感と捻じ曲がった殺伐たる現実認識を核にした現代的なプログレッシヴ・ロック。
造語と思われるアルバム・タイトルや曲名がリスナーによる音以外の解釈を拒絶しているようで興味深い。
前作に続き、ジョン・フルシアンテが参加。ヴォーカルは英語とスペイン語。
(UNIVERSAL RECORDS B0007214-02)
Marcel Rodriguez-Lopez | |
Thomas Pridgen | |
Adrian Terrazas Gonzales | |
Pablo Hinojos Gonzalez | |
John Frusiante | |
Isaiah Ikey Owens | |
Juan Alderte De La Pena | |
Cedric Bixler Zavala | |
Omar A Rodriguez-Lopez |
2008 年発表のアルバム「Bedlam In Goliath」。
内容は、ハイトーンの中性的なヴォーカルが特徴的なサイケデリックでヒステリックでケイオティックでパンクな轟音ロック。
70 年代 KING CRIMSON と 80 年代 KING CRIMSON が一緒に演奏したような、超へヴィ・マスロックともいえる。
ぐしゃぐしゃの音塊を機械仕掛けが全力で飛び散らしているような演奏に奇妙な感傷が浮かび上がる作風は、このグループの作品を一貫している。
これだけノイジーでラウドなのに、ハイトーン・ヴォイスや精緻なビート感や低音を強調しない録音などから、妙にダンサブルで軽やかな感じがあるところもおもしろい。
音が砕け散って空間をその名残が漂うようなエフェクト/ノイズの効果が面白い。
ラテン風味もかすかに漂っている。
フリージャズとメタリックなハードロックの邂逅というか、RED HOT CHILI PEPPERS からマッチョさを除いてオタク化したというか。
いずれにせよ、こちらがどれくらい慣れられるかにかかっている音である。
まったくダメという人も多そうだ。
個人的にはすっかり慣れたので心地よくこの音に浸ることができる。(造語のような曲名と不気味なジャケット画にはいつまでも慣れられないが)
「Goliath」は意図的にプログレっぽさ、または LED ZEPPELIN のようなオールドロックっぽさを演出しているような、悔しいが、カッコいい曲。
「Cavalettas」では英国ロック的なセンチメンタリズムがさらに強まるも、基本的には同じ。リフの説得力をあらためて感じる。
前作のジャケットでは数人の男が巨大な首のようなものを運んでいた。また、本作のジャケットではパースが狂っているような巨人の女性が水を入れたと思しき鉢を運んでいる。
「ゴリアテ」とはこの巨人を表すのか?
KING CRIMSON、DEUS EX MACHINA のファンにはお薦め。
ジョン・フルシアンテが参加。ヴォーカルは英語。
(UNIVERSAL RECORDS B00010616-02)