イギリスの作曲家「Mike Westbrook」。36 年英国バッキンガムシャー出身。 ジョン・サーマンとの交流を通してジャズシーンとかかわり実験的な作品を手がける。
Mike Westbrook | piano | Mike Osborne | alto sax |
John Surman | baritone & soprano sax, bass clarinet | Malcolm Griffiths | trombone |
Alan Jackson | drums | Harry Miller | bass |
Tom Bennellick | french horn | Dave Holdsworth | trumpet, flugel horn |
Dave Perrottet | valve trombone | George Smith | tuba |
Dave Chambers | tenor sax, clarinet | Bernie Living | alto sax, flute |
67 年発表のアルバム「Celebration」。
THE MIKE WESTBROOK CONCERT BAND 名義の作品。
内容は、キャッチーで俗っぽいがリリカルでデリカシーもあるビッグ・バンド・ジャズ。
管楽器とピアノにベース、ドラムスのリズム・セクションという典型的なジャズのビッグバンド編成による。
エレキギターやエレクトリック・キーボードがないためにジャズロックとはいい辛いが、意外なほどモダン・ジャズのブルーズ色は希薄であり、ファンタジックでメローな表現が中心である。
管楽器音が重層的に連なってもどこかしなやかで小粋なタッチがある。
含みがなく開けっぴろげといってもいいかもしれない。
アートと卑俗のアンバランスに揺らいでいるところに唐突にナイーヴ過ぎるほどのソロが現れる、その不意打ちに心揺さぶられる。(単にソリストの技量に差があるだけかもしれないが)
この時代に最盛期を経ていたフリージャズによくある難解さもなく、アドリヴ・ソロも渦巻く熱気よりもストレートなグルーヴを送り出すことに力を注いでいるようだ。
その耳ざわりのよさからラウンジ・ミュージックとしてすら機能しそうな点、つまりポップスのリスナーにまでアピールできるという点で、なかなかプログレッシヴなジャズといえそうだ。
7 曲目ではさらに境界線を越えてプログレそのものといえる幻想的な世界を描く。
十数年後には「踊れるジャズ」を標榜してアシッド・ジャズを隆盛させた英国らしいジャズの変革の一つである。
ウエストブルックのピアノは要所で的確な演出をしている。(4 曲目冒頭など。ただしあまり音質に深みがないと思う)
本アルバムは「Celebration」という組曲を構成する楽曲からなるようだ。
収録された 8 パートの他にも 7 つのパートがあり、全体では二時間を越す内容になるとのこと。
おそらくライヴではそのフルサイズで演奏されたのだろう。
作曲は、ウエストブルックとサーマン。どちらかといえばサーマンの曲がいい。ウエストブルックの曲はかなり実験的。
プロデュースはエディ・クレイマー。
「Pastral」ウエストブルック作。
「Awakening」サーマン作。TV 番組のテーマ風のオプティミスティックなテーマ、ジョン・サーマンの奔放なソプラノ、そしてマイク・オズボーンのアルトへと渡る。
「Parade」ウエストブルック作。大胆な調子の変化とつぎはぎな展開、頭悪そうなテーマがプログレらしい。
「Echoes And Heroics」ウエストブルック作。幻想的なソロ・ピアノが導く。静かに湧き上がり喧しい対話へと発展する管楽器群がいい感じだ。
「A Greeting」ウエストブルック作。わざと下手に演奏しているのか?と勘ぐってしまうオープニング。
「Image」サーマン作。マイク・オズボーンのアルトが冴える。
「Dirge」サーマン作。マルコム・グリフィスのトロンボーンはまさに夜更けのやるせなさのイメージ。ピアノもいい。
「Portrait」ウエストブルック作。
スタン・ケントンばりの歌もの風ナイト・ミュージックからサーマンの胸を揺さぶるバリトン・ソロへ。
最後は正調モダン・ジャズで決めにきたか。
(DML 1013 / 844 852-2)
Mike Westbrook | piano | John Surman | baritone sax |
Mike Osborne | alto sax | Bernie Living | alto sax |
"George" Nisar Ahmed Khan | tenor sax | Dave Holdsworth | trumpet, flugel horn |
Malcolm Griffiths | trombone | Paul Rutherford | trombone |
Harry Miller | bass | Alan Jackson | drums |
69 年発表のアルバム「Release」。
THE MIKE WESTBROOK CONCERT BAND 名義の作品。
内容は、スウィング・ジャズとフリー・ジャズを自由にゆきかうファンキーかつリリカルなビッグバンド・ジャズ。
スタンダードを散りばめてノスタルジックな響きやブルージーなたくましさなどジャズの典型的な語法を生かしながらも、破格にモダンでポップス寄りのロマンティックすぎる作風である。
ソロではモダン・ジャズらしいリリシズムやブルーズ・フィーリングを打ち出すも、メロディアスでどこかユーモラスなテーマのイメージが全体の印象を独特のものにする。
勝手な想像だが、普通のジャズ・ファンには素人っぽく生硬に聴こえるのではないだろうか。
長らく型にはまったものをその型から取り出すときの手つきこそやや心もとないが、その大胆さに免じてもらおう。
ジョン・サーマンはギラギラとした貪欲なソロを放ち存在感で突出する。
プログレ・ファンにはアルバム構成の妙を味わっていただきたい。
スタンダード以外の作曲はウエストブルック。
プロデュースはピーター・イーデン。
「The Few (I)」
「Lover Man」スタンダード。
「Forever And A Day」
「We Salute You」
「The Few (II)」ここまではテーマでアドリヴをはさんだ一つの組曲。
「Folk Song (I)」
「Flying Home (Bridge 'Opus One')」スタンダード。
「Sugar」スタンダード。
「A Life Of It's Own」
「Take Me Back (I)」
「Rosie」
「Who's Who」
「Gee Baby, Ain't I Good To You」スタンダード。
「Can't Get It Out Of My Mind」
「The Girl From Ipanema」ボサノヴァのスタンダード。
「Folk Song (II)」
「Take Me Back (II)」
(SML 1031 / 844 851-2)
Mike Westbrook | piano, tuba | Mike Osborne | alto sax |
John Warren | baritone sax | Harry Miller | bass |
Alan Jackson | drums | Chris Spedding | guitar |
George Khan | tenor sax | Malcolm Griffiths | trombone |
Paul Rutherford | trombone | Dave Holdsworth | trumpet, flugelhorn |
Norma Winstone | vocals |
70 年発表のアルバム「Love Songs」。
THE MIKE WESTBROOK CONCERT BAND 名義の作品。
内容は、メロディアスなテーマを巡って 8 ビートとブラス・セクションが共闘するイージー・リスニング調ジャズロック。
ジャズロックというよりもモンド・ミュージックといった方がしっくりくる可能性があるが、ロマンチシズムに収まり切らない「空虚さ」や「酩酊感」があり、それと脳天気なまでのグルーヴがシームレスにつながる辺りに独特の雑食性を強く感じてしまう。
テーマは、バート・バカラックかバーバンクかというほどに甘酸っぱく暖かくメローであり、何かスタンダードな作品からの引用かとすら思ってしまう完成度である。
各管楽器のソロも、このテーマに絡むにあたって楽器の特性を活かしており、緩やかなソロの果てにメロディ・ラインがさらに際立ってくる。
しかし、幻想性が叙情性を超える瞬間があり、そのときの音全体の感触と先ほど述べた雑食性が、デューク・エリントンを越えてまさに「プログレ」していると思う。
ノスタルジックな心地よさをフリージャズを経たインテリジェンスでピリッと引き締めた好盤だ。
格好のクラブ・ミュージックになると思います。
LP A 面最後の曲と B 面は、ウィンストンのヴォーカル入りである。独特の無表情さがマッチしている。
「Metropolis」もそうだが、徹夜明けの朝方のラジオから流れてきそうな音です。
プロデュースはピーター・イーデン。
「Love Song No 1」
「Love Song No 2」
「Autumn King」
「Love Song No 3」
「Love Song No 4」
「Original Peter」
(SML 1069 / POCJ-2834)
Mike Westbrook | piano | Nigel Carter | trumpet | Ken Wheeler | trumpet, flugelhorn, mellophone |
Harold Beckett | trumpet, flugelhorn | Henry Lowther | trumpet, flugelhorn | Dave Holdsworth | trumpet, flugelhorn |
Malcolm Griffiths | trombone | Paul Rutherford | trombone, euphonium | Paul Nieman | trombone |
Derek Wadsworth | trombone | Geoff Parkins | bass trombone | Mike Osborne | alto sax, clarinet |
Ray Warleigh | alto sax, flute | Alan Skidmore | tenor & soprano sax | George Khan | tenor sax |
John Warren | baritone sax | John Taylor | electric piano | Gary Boyle | guitar |
Harry Miller | bass, cello | Chris Laurence | bass | Alan Jackson | drums |
John Marshall | drums | Norma Winstone | vocals |
71 年発表のアルバム「Metropolis」。
MIKE WESTBROOK ORCHESTRA 名義の作品。
内容は、ロマンティックかつシリアスなビッグ・バンド・ジャズ。
作品は、集団即興パートとソロをフィーチュアしたパートを分かった組曲である。
本作品の魅力は、奔放にして繊細な即興による都会幻想の点描と力の入ったテーマ、創造的で俊敏に運動するソロである。
個人的には、切ない嘆きのようなロウザー、ベケットのソロが好みである。
ゲイリー・ボイルのエレクトリック・ギターも目立つ。
集団即興については、その分厚い迫力や高いテンションもさることながら、折り重なる音の波による干渉縞のような点描の淡い色彩感が印象的。
即興のせめぎあいがグルーヴィなジャズロック調のテーマに収束するという展開もカッコいい。
ノリはいいのだがファンクっぽくはならず、ブルージーなモダンジャズに立脚する。
力強さは、ドラムスの刻む 8 ビートで管楽器群がリフをぶち上げ、ソロがそのリフに挑んでゆく場面にある。
また、ウィンストンのヴォイスとフルートの乱舞のように、近現代クラシックに通じるものを感じるところもある。
あふれんばかりに感傷的ながらも昨夜の一時をかみ締めて目覚めのあとの空しさをこらえる表情が見え隠れする、徹夜明けの早朝の高速道路のイメージによく合った内容だと思います。
Keith Tippett のビッグ・バンド や Mike Gibbs のビッグ・バンドと比べると、こちらははるかにモダン・ジャズ寄りである。
ただし、インテリジェントな明晰さがあり、そこが個性になっている。
一枚ものの LP だが収録時間は 55 分に近い。
写真はオリジナル LP のもの。
BGO の再発 CD には、最終曲のピッチが狂っているものがあるので、ご注意を。
「Part I」(9:30)集団即興。8 分の 9 拍子のリフが腰にくる。
「Part II」(2:10)
「Part III」(9:50)集団即興。フルート、ウィンストンのスキャットあり。後半現れるテーマと終盤のトランペット・ソロがカッコいい。
「Part IV」(3:34)アルト・サックスからロウザーのリリカルなソロへ。スインギーで美しい。
「Part V」(0:41)集団即興。オーケストラのようにロマンティックで分厚い流れ。
「Part VI」(0:53)
「Part VII」(1:10)テイラーのエレクトリック・ピアノ、オズボーンのアルト、ローレンスのベース。
「Part VIII」(18:01)集団即興。8 分の 6 拍子によるソウルフルなジャズロックへと展開。リリカルなピアノ・ソロ。ギター・ソロからアルトへ。悠然たるテーマから再び煮えたぎる集団即興へ。
「Part IX」(8:03)ピアノ伴奏のフリューゲルホーン・ソロ。ギターもからむ。気だるくもアブストラクトなテーマ。ベースのアルコ。物憂い夜明けであり、アルバム冒頭への回帰でもある。傑作。
(NE 10 / BGOCD454)
Mike Westbrook | electric piano, harmonica |
George Khan | electric sax |
Alan Jackson | drums, alto sax |
Butch Potter | bass, pongo stick, flute |
Gary Boyle | guitars |
72 年発表のアルバム「Live」。
内容は、ブルーズ・ロックやニューロック、フリー・ジャズに大きく振れるジャズロック。
小編成ながら、ノイジーでサイケデリックなサウンドで大胆かつライヴらしい野放図な演奏を繰り広げている。
ソウルフルなテーマと機械油でギトギトの原動機を思わせる気だるくも熱いソロ。
全体即興はインダストリアルで硬質なタッチであるにもかかわらず奇妙な厳かさ、叙情味があり、それは KING CRIMSON や SOFT MACHINE と共通する。
オルガンのようなエレクトリック・サックスを始め、エレクトリックなギミックも躊躇なく取り入れられている。
本アルバムは、当初 RCA NEON レーベルから出されるはずであったが、音質に難ありというクレームによって、CADELLAC レコードから発表されたそうだ。
「Travellin'」(6:15)ブルーズの解釈。
「Compassion」(13:29)完全即興。
「Down On The Farm」(13:03)エネルギッシュで攻撃的な演奏に詩情が浮かび上がる英国ロックらしい作品。
「Pleasure City」(13:02)ワウ・ギターが主役のハコバン風ジャズロック。 「Satisfaction」も飛び出す。
「Hyde Park Song」(10:55)ああ前曲もマイルスなんだ、と納得させるマイルス(ザビヌル風?)風のモーダルなジャズロック。エレクトリック・ピアノの登場で雰囲気が大きく変わる。
(SGC 1001 / BIRD-2004)
Mike Westbrook | electric piano on 2,4,5 | Mike Page | alto sax, flute, bass clarinet |
John Warren | baritone sax, flute | John Surman | baritone sax, soprano sax, bass clarinet |
Alf Reece | bass trombone on 1,4,6,8-11 | Geoff Perkins | bass trombone on 2,3,7 |
Chris Laurence | bass | Alan Jackson | drums |
Brian Godding | guitars | John Mitchell | percussion |
Dave MacRae | piano, electric piano | John Holbrooke | tenor sax, flute |
Alan Wakeman | tenor sax, soprano sax, clarinet | Malcolm Griffiths | trombone |
Paul Rutherford | trombone, euphonium | Derek Healey | trumpet, flugelhorn |
Henry Lowther | trumpet, flugelhorn | Kenny Wheeler | trumpet, flugelhorn |
Nigel Carter | trumpet, flugelhorn |
75 年発表のアルバム「Citadel/Room 315」。
MIKE WESTBROOK ORCHESTRA 名義の作品。
内容は、ロマンティックなコンテンポラリー・ビッグバンド・ジャズ、ジャズロック。
ジョン・サーマン、デイヴ・マックレエ、ブライアン・ゴディングらを中心にリリカルなソロやサイケデリックにしてタイトなアドリヴをフィーチュアした作品である。
(ゴディングのプレイはホールズワース、マクラフリンばりにテクニカル)
フリージャズ風のアグレッシヴなプレイとメロディアスでムーディなプレイがトータル・イメージの元に自然に並べられている。
フランク・ザッパのビッグ・バンド・ジャズのように温かみと安定感、クラシカルな整合感もあり、聴きやすいアルバムだ。
寛ぎながらもインテリジェントなイメージのあるイージー・リスニングとして機能する作品でもある。
エレクトリックな効果は、ニール・アードレイの作風にも通じる。
75 年にしていまだ 70 年くらいの音を貫く垢抜けきらないイメージも英国流の頑固さなのだろう。
プログレ・ファンには絶対受け入れてもらえる内容です。
「Overture」()
「Construction」()ゴディングのテクニカルなギター・ソロに続いて、ディレイも駆使するサーマンのソプラノ・ソロ。
「Pistache」()マックレエのロマンティックなアコースティック・ピアノ・ソロ。
ノスタルジックな(歌謡曲っぽい)テーマもいい。パーキンスによるバス・トロンボーンのソロが珍しい。
「View From The Drawbridge」()序盤ピアノをしたがえたバス・クラリネットはサーマン。フリューゲル・ホーンはホィーラー。朝焼けの海ようなトランペットはロウザー。最後は、ソニー・ロリンズのようなサーマンのバリトン。美しく幻想的なバラードである。
「Love And Understanding」()序盤はサーマンのバリトン、次のソロはトロンボーンでグリフィス。
パーカッションのソロを経て、いい感じで突き抜けるウェイクマンのソプラノ・ソロ。
そして、流麗すぎるロウザーのトランペット・ソロ。
まろやかなテーマをスクエアなビートが支えるグルーヴィなジャズロック。
「Tender Love」()マックレエのピアノとサーマンのソプラノをフィーチュア。ブルージーな深みと東洋的な様式美。
「Bebop De Rigueur」()アッパーなビッグバンドが導く、サーマンのバスクラ、ジャクソンのドラムス、ローレンスのベースのトリオによる即興演奏。終盤のスインギーな展開もいい。
「Pastorale」()位相系エフェクトを使ったエレクトリック・ピアノ、柔らかなロウザーのフリューゲル・ホーン、。
タイトル通り、牧歌調の美しい前半、そしてエフェクトされた変拍子バッキングでウェイクマンのテナーが歌うブリッジからおだやかなロウザーのソロへと回帰。。
「Sleepwalker Awaking In Sunlight」()ビッグバンドのアゲアゲなテーマがつなぐ集団即興。冒頭、ウェイクマンによるクラリネット・ソロ。牧神の午後風。サーマン、ペイジのバスクラが絡む。熱気ムンムンのエレクトリック・ピアノ・ソロはマックレエ。閉めは、サーマンのフラジオなバリトン。
「Outgoing Song」()サーマンによるファンタジックなバリトン・ソロ。
「Finale」()フィナーレも挑発的。
(SF 8433 / BGOCD 713)