イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「MATCHING MOLE」。 SOFT MACHINE を飛び出したロバート・ワイアットが結成。 最初期 SOFT MACHINE を思わせるフリー・ジャズ影響下のユニークなポップ・センスのあるスペイシーなサウンドはカンタベリー・シーンで異彩を放つ。 73 年 6 月のワイアットの転落事故でバンドが解散してしまったのが残念。
Robert Wyatt | drums, mellotron, piano, vocals |
Phil Miller | guitars |
Dave Sinclair | piano, organ |
Bill MacCormick | bass |
guest: | |
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Dave McRae | electric piano |
72 年発表の第一作「Matching Mole」。
メンバーは CARAVAN を脱退したデイヴ・シンクレア、HATFIELD AND THE NORTH 加入前のフィル・ミラーなど、カンタベリー・シーンの著名人ばかり。
ベースのマコーミックも QUIET SUN で SOFT MACHINE に憧れたサウンドを演じていたのでカンタベリーの住人といえるだろう。
ここで目指したサウンドは、ワイアットが SOFT MACHINE 在籍末期にはタイム・キーパーに徹せざるをえなかった恨みから、元来 SOFT MACHINE がもっていたユーモラスでアバンギャルドなポップ・ミュージックをやる、ということだったらしい。
その結果は、ヒネリのあるユーモア・センス、鋭い音響感覚、たくましい即興性を兼ね備えた音楽となって実った。
カンタベリーといったときの「ちょっと洒落たジャズ感覚」というイメージよりははるかにサイケデリック・ロック的ではあるが、原色のギトギト感を過剰にしない、その匙加減に抜群のセンスが現れている。
メロトロンはどばどば。
プロデュースはグループ。
アルバムは、古びたメロトロン・フルート、おだやかなピアノの伴奏によるヴォーカル曲「O Caroline」(5:04)から始まる。
ピアノ、エフェクトで波打つオルガン、そして切々とした歌による甘くてかすかに苦い不思議なサウンド。
第二コーラスではメロトロン・ストリングスがゆるやかに歌を支える。
ワイアットの切ない歌は、やがてメロトロン・ストリングスに吸い込まれていく。
ドラムスは子供のカスタネットのようなリムショット。
インストゥルメンタル・パートも SOFT MACHINE のように緊張感が高まることはなくて、おーら好き勝手演ってくれーい的な自由で無邪気な空気に満ちている。
おセンチなラヴ・ソングに THE BEATLES なみの普遍性を感じさせる辺り、この人はやはり只者ではない。
歌詞通りなら、シンクレアがピアノでワイアットがドラムス。
そして、メロトロン、コーラスなどもワイアットによる多重録音だろう。
ビート、サイケデリック・エラの芳しい残り香あるデイヴ・シンクレアによる名曲である。
メロトロンの響きを奇妙なテープ効果が受け止めると「Instant Pussy」(3:01)へ。
柔らかなベースのリフレインに支えられて、ワイアットお得意のスキャットが宙を舞う。
おだやかなベースと気まぐれに打ち鳴らされるシンバル、テープ効果を使ったノイズ、爪弾かれるギター・アドリヴ、エレクトリック・ピアノのきらめき、やがてスキャットは泡沫のようにおり重なってゆく。
深くゆっくり広がるエコー、ディレイ。
大地の鼓動を聴きながら夜の海の底に座っているような、静かなるスペース・サウンドである。
ワイアット作。
ベースのリフレインが寂しげなピアノに変わると、スキャットもそのままに 3 曲目「Signed Curtain」(3:35)へ。
再びワイアットの切ないしゃがれ声が綴る歌。
ピアノ伴奏の穏やかな響き。
胸キュンである。
「メタ」歌詞はすごい、というかくだらない。
(♪これは 1 番、ここはーブリッジ、そして転調、ここから 2 番...云々)
やさしく暖かく懐かしいバラードだ。
エンディングは、ギターが爪弾かれ、エレクトリック・ピアノが鈴のようにさざめき、オルガンがささやく。
SOFT MACHINE の第一作の雰囲気である。
本曲もワイアットの一人多録音かもしれない。
ワイアット作。
ドラムスのピックアップから一気にハードな 4 曲目「Part Of The Dance」(8:40)へ。
ここはかなり無理やりな編集でつないである。
ミラーのギターがようやく前面に出てきた。
彼の朴訥としたファズ・ギターが好きな僕にはうれしい作品だ。
強いエフェクトで音をゆがませながらも、勢いのある演奏になっている。
ドラムス、オルガンがリードする力強いキメがカッコいい。
ファズ・ギター、オルガンが凶暴に高まる。
ジャジーなアドリヴ合戦だ。
破裂しそうでしない、やや様子見風ではある。
好き勝手やってくれいといわれて最初少し戸惑ったのだろうか。
それでも次第に本領を発揮、どんどんテンションは上がってくる。
オルガンが投げ出したフレーズあたりから凄いことになってくる。
リズムは走りだし、オルガンは吠え、エレクトリック・ピアノが転がり、ギターが唸る。
ドーパミンとアドレナリンが一遍に出てしまうような血沸き肉踊る展開になってゆく。
ユニゾンの決めは SOFT MACHINE のようにお見事。
最後はシンクレアのセクシーなオルガンとともに宇宙へ連れ立ってゆく。
ユーモアも色気もある完璧なサイケデリック・ジャズロック。インストゥルメンタル。
ミラー作。
5 曲目「Instant Kitten」(4:57)では、テープ逆回転操作とお得意の多重スキャットによるフワフワな曲調へと回帰。
このまま再び混沌とするのかと思わせて、ドラムス、オルガンのリードで力強い演奏が立ち上がる。
CARAVAN そのもののようなシングル・トーンのオルガンとギターが呼応しつつせめぎあうソリッドな演奏だ。
オルガンはメロディアスながらもファズを効かせた凶暴な音色でぐいぐいと突き進む。
絡みつくギターのオブリガートもいい感じだ。
小気味いいキメでアクセントしながら、オルガン、ギター、ベース、ドラムスの四つ巴の演奏が続く。
毛羽立った荒々しい演奏を破断するのは、二声のメロトロン・フルートの調べ。
色褪せた呪文のように怪しいが、語り部としての抜群の存在感。
クラシカルなプレイが次第に自由奔放な動きを見せてゆく。
オルガンのリードするハード・チューン。
スキャット以外はインストゥルメンタル。
ワイアット作。
6 曲目「Dedicated To Hugh, But You Weren't Listen」(5:03)
電子音の反響とノイズ、ギターの断片的な音と何かが駆け抜けるような音。
電子音のうねりをバックにエレクトリック・ピアノが転がり、ギターが和音を響かせる。
音響実験を突き破るドラムス・ロール、そしてギターとベースのリフが轟いて緊張とともに動きが始まる。
鋭く切り込むギターのフレーズをオルガンのロングトーンが受け止めてリードするタイトなアンサンブルだ。
やや暗く厳しい面持ちの演奏だ。
ギターのリードによる即興風の演奏は緩みそうになりながらもなんとか持ちこたえていく。
これは、ギターに敏感に反応するベースのセンスの賜物だろう。
終盤は再び混沌、そして抗うドラムスロールとヘヴィなノイズの応酬。
タイトルは SOFT MACHINE の作品のパロディ。
即興らしきインストゥルメンタル。
ワイアット作。
7 曲目「Beer As In Braindeer」(4:38)
前曲から切れ目なくエレクトリック・ピアノとオルガンらによる混沌としたノイズの嵐、そしてドラムだけが明確な意識で運動するイメージだ。
切り刻むようなファズ・ギターのフレーズ、地鳴りのようなドラムスと泡沫たる雑音の塊のようなオルガン。
オルガンとギターは狂気の発信音と化し、ファズ・ベースとパーカッションが進行を導いていく。
泡立つ邪悪なノイズ。
即興らしき音響作品。
ワイアット作。
8 曲目「Immediate Curtain」(4:54)
ここも前曲から切れ目はなく、メロトロン・ストリングス古式ゆかしいの響きが次第に広がっていき、やがて幽玄な空気が不穏で不気味な空気に塗り替わってゆく。
ざわめくノイズ。
エフェクトされたエレクトリック・ピアノの和音。
メロトロンの神秘的なメロディは宇宙へといざなう。
ヴォリュームが上がったメロトロンが幾重にも織り込まれてすべてを圧して響き渡る。
TANGERINE DREAM を思わせるメロトロン一色のエレクトリックでミステリアスなインストゥルメンタル。
6、7、8 曲目はつながってしまって混沌とした電気のスープのようになっている。
エンディング、物悲しく広がり消えてゆくメロトロンはまるでワイアットの声のように哀しく心に残る。
ワイアット作。
ロマンチックでキュートな歌もので幕を開け、スキャットを活かしたセンチメンタル・チューンからサイケデリックなジャズロックを見せつけ、最後はほとんどジャンキーな即興演奏を繰り広げる、ジャズ・サイケ・プログレッシヴ・ロック。
ワイアットの嬉々とした表情が目に浮かぶ、やりたい邦題のアルバムである。
そして、確かに彼にはこういう自由気ままでハッピーな音楽がよく似合う。
エモーショナルでも私小説的、内省的にはなり過ぎず、スリリングなエンタテインメントとしてリスナーを弄び、やがて喜ばせるスキルと度量を持っている。
そういう希有のミュージシャンなのだ。
ただし、個人的には、もうちょっと弄りまわす前の状態でシンクレアのオルガンが聴きたいなあ、とも思う。
(ESCA 5425)
Dave McRae | grahnd piahno, electric piano, hammond organ, synthesizer(on flora fidgit) |
Robert Wyatt | drums, mouth |
Phil Miller | guitars |
Bill MacCormick | bass |
guest: | |
---|---|
ENO | V.C.S.3(on gloria gloom) |
72 年発表の第二作「Matching Mole's little red record」。
もっとオルガンが聴きたいなあといっていたが、なんと、本作前にデイヴ・シンクレアは脱退。
新キーボーディストは、前作でゲスト扱いだったキーボード奏者のデイヴ・マックレイである。
ブライアン・イーノもゲストとしてシンセサイザーを演奏している。
内容は、自由奔放でサイケデリックなジャズロックだが、前作よりも楽曲は整理され、メリハリもある。
ジャジーな演奏の説得力は、デイヴ・マクレエの力も大きいだろう。
一方、得意の音響的即興については、専用の場所を用意して思い切りやっている。
コンクレート・ミュージック風の録音や変調などは凝っているが、普通の演奏部分は、あまりスタジオ盤らしい製作が成されていないようにも思える。
プロデュースはロバート・フリップであり、ギターを中心に絶大なる影響を随所に与えている。
ちなみに、フリップ & イーノのコラボレーションは、ここでの出会いから始まったらしい。
1 曲目「Staring In The Middle Of The Day We Can Drink Our Politics Away」(2:31)
エチュードのような奇妙なピアノ伴奏と、冗談だか真面目なのか見当のつかない讃美歌コーラスで始まる。
オルガンが次第に音量を上げてゆくとともに、次第に、すべてがふわーと夢心地になってゆく。
2 曲目「Marchides」(8:25)
ひずんだ音のエレクトリック・ピアノが、あたかも階段を上り下りするような幾何学的な反復をスタート、妙な笑い声の SE を経て一気にハイ・テンションの演奏がスタート。
強圧的なオープニングは、KING CRIMSON 風といえなくもない。
いつになくミラーのギターが凶暴なのも、プロデューサーの指示だろうか。
ベースもファズを使って攻撃的なプレイを放ち、ドラムスも緊張感を高め、扇動してゆく。
抽象的なイメージのまま攻め立てる調子は、マコーミックの出身グループ QUIET SUN に酷似。
スケールを上り下りする反復パターンが再現、演奏全体が、揺れ動きながらも、そのパターンへと収束してゆく。
リズムが一瞬で消え、演奏は、エレクトリック・ピアノがリードするフリーなものに解体してゆく。
ギター、ベース、パーカッションがアドホックに音を立て、その音を感電しそうな電気処理でギトギトにしてゆく。
音の芯よりも、反響やノイズがクローズ・アップされている。
一人秩序を確保するのはベースである。
やがて、ドラムスも静かに復活、ベースのリフに支えられて、エフェクトで毛羽立ったギターとエレクトリック・ピアノによるジャジーなインタープレイが続く。
ギターとエレクトリック・ピアノは即興だろう。
丹念に刻むベース・リフと音数多い攻めのドラムスがボトムをきっちり固め、強烈に電気処理されたエレクトリック・ピアノのヒステリックなアドリヴが続く。
ベースも微妙にリフを変化させて反応する。
ギターはコード・カッティングが主だ。
SOFT MACHINE に近いが、緩急や音質の変化など、よりサイケデリックな印象の強い不思議の国のジャズロック・インストゥルメンタル。
なかなかの即興大作である。
エフェクトされてとろけそうな音色のエレクトリック・ピアノは、オルガンに近いニュアンスをもっている。
ひょっとするとライヴ音源なのかもしれない。
縦横無尽に走るドラムスにも注目。
ワイアットのヴォーカルの導きとともに 3 曲目「Nan True's Hole」(3:37)ヘ。
HATFIELD AND THE NORTH でも演奏されるサスペンスフルなテーマは、ヴォーカルからファズ・ベース、ギターへと引き継がれ、女声のモノローグが追いかける。
怪しい展開だ。
軽やかに細かな打撃を見せるドラムス、また、コンプレスされ歪みきったギターのロングトーンはロバート・フリップ風といえなくもない。
女声(ファルセットか?)によるモノローグから、再びワイアットのスキャット・パフォーマンスへ。
演奏はひたすらテーマの反復。
息苦しくなる作品だ。
4 曲目「Rightious Rhumba」(2:50)へ。
多声による言葉遊びのようなダイアローグ。
得意のディレイを用いたヴォイス・パフォーマンスも入っている。
演奏はギターがリード。
ミラーらしいロングトーンによる朴訥なジャズ・ギターである。
エフェクトでにじんでドロドロな演奏になってゆく。
ベースの動きも奔放だ。
終盤、かなりカッコいい動きを見せるジャズロック小品。
ギターのリードが続き、そのまま 5 曲目「Brandy As In Benj」(4:24)へ。
小気味いいハモンド・オルガンと、ひそひそ声のヴォーカルのかけあいが始まる。
鋭くリズミカルな演奏は、やがてキーボードがリードし始める。
テンポもアップし、オルガンが敏捷な動きを見せる。
続いて、ギターのコード・カッティングを伴奏にベース・ソロ。
ハイハットの刻むビートがいい感じだ。
次は、軽やかに転がるエレクトリック・ピアノの早弾きソロ。
歯切れいいギターの伴奏で、エレクトリック・ピアノが華麗に舞う。
次第に高まる緊張感、そして、目にも止まらぬ鮮やかなユニゾンは、ほとんど NATIONAL HEALTH である。
短いドラム・ソロを呼び水に、再び、スピーディなエレクトリック・ピアノとドラムスが抜群の呼吸を見せる。
デリケートな音色とスピーディな演奏が、いかにもカンタベリーらしい作品だ。
6 曲目「Glolia Gloom」(8:05)
スチールドラムスのような電気ノイズが静かに漂い始める。
一つ一つ破裂して余韻を残してゆく。
やがて、深いうねりに緩やかなサイレンが重なるような悪夢的な音響世界が広がり、ギターをかき鳴らすようなけたたましい音が現れる。
ヴォコーダーで変調した謎の声が流れる。
突如、世界は深さを失い、四方八方脈絡なく男女の言葉が重なりあう。
やがて、ラジオから流れ出るように演奏がフェード・イン(PINK FLOYD 的な効果である)、エレクトリック・ピアノの和音に導かれて、ワイアットのファルセット・ヴォイスが歌いだす。
奇妙な語りも、演奏にオーヴァーラップして流れ続ける。
渦を巻くようなワイアットの歌唱と演奏。
奇妙な男女の語りが復活するも、すぐに消え、そのまま、世界はオープニングとおなじ電子音が漂うスープに戻ってゆく。
サイケデリックな音響作品。
スキャットなどユーモラスな部分やシャープな演奏もあるが、序盤のノイズ・ミュージックのせいで、全体にやや神経症的な印象が強い。
中盤、一瞬だがなかなか演奏らしい演奏があり、ワイアットのヴォーカルを堪能できる。
7 曲目「God Song」(2:59)
アコースティック・ギター、フレットレス・ベース、ヴォーカルによる弾き語り風の作品。
独特の歌唱に魅せられる小品であり、ワイアットのソロ・アルバムにありそうな作風だ。
伴奏のアコースティック・ギターは、スタイルや和声がロバート・フリップによく似ている。
プロデューサーの薫陶は間違いない。
フィル・ミラーは相当たいへんだったろう。
ベースは、おそらくフレットレスのピック弾き(リチャード・シンクレアのスタイルである)。
THE BEATLES を思わせる瞬間も。
8 曲目「Flora Fidgit」(3:27)
アップテンポのユニゾンが印象的なジャズロック・インストゥルメンタル。
テーマは、オルガン、ギター、ベースによるパーカッシヴな変拍子ユニゾン。
カンタベリーらしい、リズムに凝った過剰にうねうねとしたメロディである。
最初のソロは、ドリーミーなエレクトリック・ピアノ。
ドラムスは、ワイアットらしいユル目の音だが、敏捷で丹念なシンバル・ワークが印象的。
テーマを経て、今度はスピーディでアグレッシヴな(マックレエらしい)エレクトリック・ピアノ・ソロ、そしてフェード・アウト。
クロス・フェードで 9 曲目「Smoke Signal」(6:38)へ。
きらめくようなエレクトリック・ピアノとベース、自由闊達なプレイを見せるドラムらによる、幻惑的即興演奏だ。
ベースのリフとライド・シンバルのビートが、かろうじて進行をもたらす。
浮かび上がるギターのテーマは、カンタベリーらしくデリケートで甘やかな夢心地あるもの。
ようやく形が整ったと思うまもなく、2:00 過ぎ辺りから再び混沌へ。
エレクトリック・ピアノがささやき電子音が舞う。
吹き上がる低音。
ざわめくスネア・ドラム。
一瞬演奏が立ち上がるも、再び、エレクトリック・ピアノの音を残してすべてが消える。
前作よりも構築された演奏パートが増え、幻想的なミュージック・コンクレートとのバランスが取れて、全体として聴きやすい作品になった。
緊張感あるジャズロック・インストゥルメンタルと、浮遊感あるトリップ・パートが互いに他を引き立て合い、全体が一つの音楽になって聴こえてくる。
高まる緊張と沈み込むメランコリーを、すっと外してオチャらけてしまうところが、たまらなくいとおしい。
決して超絶な演奏ではないが、まろやかななかに、小粋でピリっとしたところがある。
これだけ発散した音なのに、冗漫と思わせることはほとんどないのだ。
キーボード・ファンには特にお薦め。
HATFIELDS のファンも、どちらかといえば、こちらでしょう。
(COL 471488-2)
Dave McRae | electric piano |
Robert Wyatt | drums, vocals |
Phil Miller | guitars |
Bill MacCormick | bass |
2001 年発表の作品「Smoke Signals」。
第二作のメンバーによる 72 年フランスでのライヴ録音。
CUNEIFORM レーベルによる貴重な発掘作である。
録音状態は上質の海賊盤レベルだが、94 年 に出た WINDMILL の CD が 30 分に満たなかったことを考えれば、やはりありがたい発掘である。
ノイズとともに乱れまくるやや緩めの演奏から、やがて湧き上がる巨大なセンチメンタリズム。
こういう演奏では、デイヴ・マックレエに大きな存在感がある。
「Intro」(0:44)フランス語も交えるワイアットによる MC。
「March Ides I」(4:22)第二作より。3 連符による奇妙な下降上昇音形のリフ、フレッド・フリスばりのシリアスなギターらによる性急で息詰まるアンサンブルを経て、後半はワイアットらしいジャジーなドラムス・ソロ。
マックレエ作。
「Smoke Rings」(7:51)
初期 WEATHER REPORT を思わせる幻想クロスオーヴァー・チューン。
即興風の展開であり、ホッパーばりのファズ・ベース・ソロがフィーチュアされる。マックレエ作。
「Nan True's Hole」(6:00)第二作より。凶暴なテーマが特徴の、カンタベリーを代表する作品の一つ。ミラー作。
「Brandy As In Benj」(4:22)エレクトリック・ピアノ、ギターがリードするきわめてジャジーな作品。HATFIELDS 直系といってもいい。ワイアットのドラミングもいい。第二作より。マックレエ作。
「Electric Piano Solo」(1:11)
タイトル通り。マイルス・グループのチック・コリアやキース・ジャレット、はたまたゴードン・ベックあたりのイメージ。
マックレエ作。
「March Ides II」(4:56)マックレエ作。
「Instant Pussy」(2:51)第一作より。ワイアット作。
「Smoke Signal」(6:55)第二作より。
再び WEATHER REPORT や RETURN TO FOREVER を思わせる幻想クロスオーヴァー。
マックレエ作。
「Lything & Gracing」(11:48)
個性的なギターをフィーチュアした HATFIELDS と SOFT MACHINE の融合のような作品。
ミラー作。
(CUNEIFORM RUNE 150)
Phil Miller | guitars |
Dave McRae | electric piano |
Robert Wyatt | drums, vocals |
Bill MacCormick | bass |
2002 年発表の作品「March」。
ソースははっきりしないが前作同様 CUNEIFORM からの発掘ものである。
スリリングな「Part Of The Dance」がいい。
ほとんどの曲にワイアットのヴォイス・パフォーマンスがある。
轟音ノイズや変拍子パターンなどアヴァンギャルドなセンスを駆使した内容である。
「March」(4:49)ワイアット/マックレエ作。
「Instant Pussy」(4:53)ワイアットのひとり言ヴォーカル・パフォーマンス。早野凡平か佐藤二朗か。第一作より。ワイアット作。
「Smoke Signal」(6:24)第二作より。マックレエ作。
「Part Of The Dance」(9:50)変拍子のリフとギター・アドリヴで盛り上がるジャズロック。キメがカッコいい。第一作より。ミラー作。
「No 'alf Measures」(5:40)中盤にマックレエのエレクトリック・ピアノ・ソロ。ケヴィン・エヤーズ作。
「Lything And Gracing」(11:39)ノイジーでアブストラクトなギター・ジャズロック。中盤からはファズベースが凶悪に膨れ上がる。ミラー作。
「Waterloo Lilly」(4:20)CARAVAN のレパートリー。シンクレア作。
(CUNEIFORM RUNE 172)