ドイツのシンフォニック・ロック・グループ「NOVALIS」。 ハイノ・シュンゼルとユルゲン・ヴェンツェルを中心に 71 年結成。 85 年解散。 作品は十一枚。 物憂い雰囲気と洗練され切らないぎこちなさ、初々しさが特徴のシンフォニック・ロック。。 BRAIN レーベル。グループ名は、独自の理想主義的世界観を唱えた夭折の 18 世紀ドイツ・ロマン主義詩人。
Heino Schünzel | bass |
Jürgen Wenzel | vocals, acoustic guitar |
Lutz Rahn | organ, piano, mellotron, synthesizer |
Hartwig Biereichel | drums, percussion |
73 年の第一作「Banished Bridge」。
内容は、サイケデリック・ロック的センスのあるハードでメロディアスなシンフォニック・ロック。
キーボードの重厚なサウンドとアコースティックで初々しい牧歌調、逞しい太鼓系のドラミングが特徴。
ギターはヴォーカリストによるアコースティック・ギターのみであり、シンフォニックなサウンドの要はキーボードが一手に引き受けている。
この時期の作品にしてはヘヴィに盛り上がる場面でも演奏に直接的なブルーズやジャズの影響が感じられず、クラシックとフォークに徹しているところも特徴的だ。
ごく自然に古典的でロマンティックな味わいを醸し出せるあたりは大陸音楽独自の伝統なのだろう。
トムトム風のドラムス、パーカッションや素朴極まるアコースティック・ギター、訛りのある英語のヴォーカルは、ジャーマン・ロックならではの持ち味だろう。
SE など PINK FLOYD の影響を感じさせるところもある。
それでも、クラシカルな味わいと素朴なフォーク感覚、効き過ぎエコーなどのサイケデリック感覚などをブレンドし尽くした物憂く謎めいた雰囲気はきわめて独特である。
本作の味わいはこの朴訥にして神秘的な空気感にある。
まさにドイツならではのシンフォニック・ロックというべき作風である。
プロデュースは、ヨヒェン・ペーターセン。
「Banished Bridge」(17:08)牧歌調ののどかさとともに、スペイシーな浮遊感と雄大な包容力をもつシンフォニック大作。
テンポよく突き進むシーンの勇壮な迫力と、オルガン、シンバル、SE、コーラスが生み出す幻想性のブレンドが魅力。
クライマックス直前/直後が延々と続き、やや冗長な気がしなくもないが、聴き込むと独特の酩酊感が味わえる。
オルガンとシンセサイザーは、積み重なるように鳴りっ放し。
ほのかなサイケデリック・テイストは、彼岸の音楽への接近を思わせる。
酩酊は安らかな死への憧れなのかもしれない。
「High Evolution」(4:28)
熱いインストゥルメンタルと上ずったヴォーカル・コーラスによるメロディアスなシンフォニック・ロック。
FRUUPP のような遠慮なしの深いエコーのかかったヴォーカルやオルガンの音などの垢抜けなさがなんともいい。
演奏を引っ張るのは元気なドラミングと活発なベースのプレイであり、派手めのアグレッシヴなオルガンが暴れるフロントの演出をしっかりと支えている。
初期の DEEP PURPLE を思わせるクラシカルな勢いのよさがあり、後半はかなり快調に突き進む。
「Laughing」(9:10)
甘美なロマンチシズムにあふれる幻想的なシンフォニック・チューン。
序盤は二つのアコースティック・ギターのストロークと控えめなパーカッションのささやきに彩られるフォーク・ソング。
ドラムスが乱れ打たれるスペイシーなブレイクを経て、オルガンの刻む和音とともに、スリリングなインストゥルメンタルがスタートする。
クラシカルなオルガン・ソロは ZOMBIES というか DOORS というか、 60 年代テイスト、やや GS 歌謡風である。
再びドラムスがブレーキをかけてブレイク、遠くから長いクレシェンドでギターのストロークが帰ってくる。
ここからのメランコリックにして 8 ビートのグルーヴある演奏は、CRESSIDA などブリティッシュ・ロックの伝統芸を引き継いでいるイメージだ。
終盤の締めにふさわしい劇的な演奏である。
オルガンの轟きが若い血を焚きつけてやまない。
「Inside Of Me(Inside Of You)」(6:39)
高揚感のあるクラシカルな PROCOL HARUM 風シンフォニック・ロック。
序盤のリフの調子の良さ、攻め立てるジョン・ロード風のオルガン、クラシカルで野蛮な感じは初期 DEEP PURPLE とも似るが、メイン・パートは怒られそうなほど PROCOLS そのもの。(こういうのは何でも「バッハの影響」といえば著作権的にも許される傾向にある)
やはり、オルガンとドラマチックなドラムスがおり成す、力強いアンサンブルが魅力。
ダイナミクスの落差も大きい(ヴォリュームは大きめで聴こう)。
バロック・トランペット系のシンセサイザーに守り立てられるヴォーカルも熱い。
最初から最後まで、クライマックスの連続である。
エンディングは、さらにもう一盛り上りあるかと思った。
(BRAIN 1029 / PMS 7050-WP)
Hartwig Biereichel | drums |
Detlef Job | guitar, vocals |
Carlo Karges | guitar, keyboards |
Lutz Rahn | synthesizer, keyboards |
Heino Schünzel | bass, vocals |
75 年の第二作「Novalis」。
ヴォーカリスト、ユルゲン・ヴェンツェルが脱退、またギタリストのデトレフ・ヨブとギタリスト、鍵盤奏者のカルロス・カルゲを迎えてインストゥルメンタル・パートを充実させた。
ハードロック調のややブルージーなギターやシンセサイザー・サウンドの拡充はこの新メンバーによるものだろう。
クラシカルなオルガン・ロックを基調にさまざまな工夫が盛り込まれている。
それは、詩人ノヴァリスの作品を歌詞として採用する、ブルックナーのシンフォニーの主題を展開する、ジャズ風の演奏を試みるなどである。
さまざまなアイデアによって音楽の幅を広げ、新しい段階へ進もうとする気概が感じられる。
そういった工夫、アイデアは「独特の剽軽さ」となって結実している。
びっくりするほど垢抜けない演奏や素っ頓狂な展開は、若干の勇み足か、消化され切らないためか、サイケデリック・ロックのセンスの名残のせいだろう。
それでも暖かみあるクラシカル・サウンドとナイーヴといっていいほどストレートな展開は十分魅力的である。
シンプルなモチーフをうまく組み合わせて大作を盛り上げていく技もなかなかだ。
英国ものとの違いは、土着の原始性といっていいほどの極端な素朴さと呪術めいた怪しいイメージである。
ロマンティックなロックやクラシカルなロックのファンにお薦め。
あえていえば、クラシカルな CAMEL。
ヴォーカルはドイツ語。
「Sonnengeflecht」(4:08)
アナログ・シンセサイザーとエレクトリック・ギターをフィーチュアしたインストゥルメンタル作品。
野暮ったいシンセサイザーのリフによる幕開けでがっくりくるが、ギターの出現辺りからなんとか慣れてくる。
つやのある音のオスティナートはややヨれたトニー・バンクスといえなくもない。
つま弾かれるギターに救われるも、いったん気合いが入るとリズムもギターも荒々しく武骨なドイツ・ハードロック調となる。
ピアノが雰囲気を穏やかに変えた後のギターやピアノ・ソロにはジャジーな雰囲気もある。
それでもこの作品の主役は、華麗にしてノイジーなシンセサイザーだろう。
クラヴィネットのリズミカルなリフをバックにギターが快調なソロに突入するものの奇妙なテンポ崩壊とともに冒頭のシンセサイザー主導のリズミカルなアンサンブルへと戻る。
改めて気を落ちつけて聴けば、フレーズはそれなりにクラシカルであることが分かる。
垢抜けなさはエレクトリック・ピアノやシンセサイザーを用いた新たなサウンドを売りにしようとしているが未だ模索中という状況を仄めかす。
エレクトリックにして武骨、そして巧まずしてこっけいなるシンフォニック・インストゥルメンタル。
ジャケットのファンタジックなイメージとはかけ離れていると思う。
「Wer Schmetterlinge lachen hört」(9:16)
教会風のオルガンと CAMEL 風のエモーショナルなギターがフィーチュアされた、クラシカル・ロック大作。
歌メロとオルガンは PROCOL HARUM を思わせるメロディアスで厳かなる正調クラシック路線。
ドイツ語のヴォーカル表現は歌曲風ですらある。
フォーク・タッチのギター伴奏の響きは竪琴を思わせ、リズムも多彩だ。
間奏部では、オルガンとギターによるドラマチックな演奏からシンセサイザーとギターのヴァイオリン奏法を経て、ファルセットのヴォカリーズによるファンタジックな演奏へと進む。
ここの雰囲気はかなりいい。
前半の混沌はアナログ・シンセサイザーの変調音がたたみかるところでピークに達し、緊迫感は増すばかりだ。
後半は、しなやかなアンディ・ラティマ―調のギターのリードで堅実で勇ましい歩みを見せ、シャフル・ビートののロカビリーなノリにまで発展する。
オルガンが三連符でワイルドに追い立てる場面は、DEEP PURPLE に似る。
終章ではチャーチ・オルガンの荘厳な響きにマーチング・スネアがオーヴァーラップして劇的に幕を引く。
全体に正攻法であり、落ちつきと熱気を丹念なタッチで描いてゆく格調あるシンフォニック・ロック。
泣きのメロディと重いサウンドがよくマッチしている。
ミドル・テンポのため、たまにリズムが甘くなること、シンセサイザー・サウンドに意図しているはずのデリカシーが感じられないところが難点。
「Dronsz」(4:53)
前作に通じるサイケデリックなセンスを生かしたジャーマン・ロックらしいインストゥルメンタル。
オルガンのロングトーンが位相を変えつつ揺らぎながら流れてゆくミステリアスなイントロダクション。
テープの速度を落としたようなヴォイスによるモノローグ。
ゆっくりとベースがビートを刻み始めると、オルガンとともに電子音が切れ切れに漂う。
可聴域を大きく上下しポルタメントするシンセサイザー・サウンド、そしてオルガンは位相を揺るがせながら単調なリズムとともに背景を彩る。
つぶやくようなギター。
ノイズ。
演奏全体のテンションが次第に上がってくる。次の展開の予感がする。
ドラムスをきっかけにノイジーなシンセサイザーが茫洋としたテーマを提示する。
ノイズによる音の毛羽をまろやかにするようにオルガンのオスティナートが鳴り続ける。
シンセサイザーとベースのユニゾンは淡々とテーマを繰り返し、さらに歪んだ音のエレクトリック・ピアノが重なる。
オルガンは、いつの間にか 6 連のクラシカルなリフレインに変化している。
反復の果てのエンディングは唐突だ。
POPOL VUH の後期や CAN を思わせる、シンプルな反復ビートによるインストゥルメンタル。
エレクトリックなノイズがささくれ立つも全体に甘め。
酩酊するにはリズムが丸っこすぎる。
「Impressionen」(8:57)ブルックナーのシンフォニーのテーマを盛り込んだ勇壮で力強いインストゥルメンタル。
短調シンフォニーのマーチのテーマの直線性とハードロックの直線性をシンクロさせるという常套手段をフルに生かしている。
多声のオルガンの薄暗い響きが湧き上がり、ハイハットとの連打と力強いベース・リフがボレロを思わせるビートを提示する。
原始的なイメージが強い重厚で悲劇的なオープニングだ。
この世界を一転させるのは、飛び込んでくるギター。そのしなやかな音がスリリングなフレーズを歌う。
アンサンブルはこのギターとともに生き生きと走りだす。
ここも CAMEL を思わせるみごとな展開だ。
一瞬のクライマックスを経てテンポは落ちつき、クラシカルなアンサンブルがまっすぐに歩き出す。
オルガンのリフレインとともに、ストリング・アンサンブルの低音が重厚なテーマ(ブルックナーらしい)が、静々と盛り上る。
そして、受け止めるのはブルージーなフレーズを奏でるギター。
三連符が基本のオルガンと二拍系の 8 ビートの重なりも独特のスイング感を生んでいる。
再びブルックナーのテーマからややテンポを上げ、シンセサイザーはノイジーな音で左右のチャネルを駆け巡る。
オルガンのオスティナート。
小刻みにシンバルを用いる手数の多いドラムスは僕の好みです。
ドラムスがボレロ風に戻ると、三度オルガンのバッキングが支えるストリングス・アンサンブルによるシンフォニックなテーマへ。
テンポ・チェンジとともに加わってくるギターは、うっすらとワウを用いてその歌に広がりをつける。
ブルックナーのテーマ再現。
そして、6 拍子系に変化してなめらかなオルガンの演奏。
8 ビートに戻ってクラシカルなオルガンが受け継ぐ。
追いかけるのは三度現れたブルージーなギター。
ドラムスのブレイクとともに厳かなチャーチ・オルガンによるブリッジで変化をつけ、再びエネルギッシュなアンサンブルへ。
ドラムブレイクからチャーチ・オルガン・ソロ、そしてタイトなアンサンブルへの変転を繰り返しつつ、最後には重厚なボレロへとまとまり、勇壮なエンディングを迎える。
クラシック然とした和音のピッチがぐっと上がり、吸い込まれるように消えてゆく。
この辺りはもはや様式美の世界。
淡々としながらも圧力をもって迫る演奏が心地よい、シンフォニック・ロック・インストゥルメンタル。
二拍三連のリズム、緩急の変化などがシンプルな演奏に変化をつけて効果的。
特に、すっと走り出す瞬間の呼吸と雰囲気がいい。
キーボード中心のクラシカルな曲調のブルージーなギターでアクセントをつけるというアイデアは誰が考えたのか知らないが、的を射た発明だと思う。
「Es färbte sich die Wiese grün」(8:18)
サイケデリックな逸脱感覚にあふれ、ドイツ・ロックの「軽妙さ」を体現したクラシカル・ロック作品。
オルガンによるリコーダー風の愛らしいリフレインが導くフォーク調の歌唱。
アコースティック・ギターのアルペジオとメロトロンが静かに寄り添う。
荒っぽい手ざわりながらロマンティックなイメージのある演奏だ。
間奏ではギターが現れ、感傷の極みから漏れ出るような重いブルーズ調を持ち込む。
フォークロック調のアンサンブルを繰り返し、繰り返しのたびに間奏部が重みを増す。
ブルーズ・ギターに加えてシンセサイザーによるひきずるような重低音のバッキングが重さを倍増する。
四度冒頭のアンサンブルを再現するも、サイケ風のギターが気まぐれに飛び込んで妙な呼吸のインタープレイを開始する。
軽妙さ、不真面目さが付け加わってファンタジーから現実に引き戻される。
饒舌にしてあか抜けないソロ・ギターのプレイをリズミカルな鍵盤ストローク主導のアンサンブルが切り返す。
「世の中すべて空しいのさ」と薄ら笑いで開き直るギターを「しかたがないだろ、まじめに生きよう」と諫めるようなアンサンブルだ。
ワウ・エレクトリック・ピアノまでもがギターを模して軽妙なソロで応じてくる。
クラヴィネット系の鍵盤ストロークのアンサンブルが巻き返すと、エレクトリック・ギターがしなやかな歌を歌いあげて天高く飛翔するように新展開を導いてゆく。
エンディングのような、思わせぶりなブレイク。
かすかに流れるメロトロンの調べが冒頭のフォーク風の歌唱を回想する。
捻じれるシンセサイザーの低音とオルガンによるオブリガートが淡々と世界を彩る。
またも自由なギターが飛び込んで今一つあか抜けないながらも奔放なソロで歌い上げる。
収斂するアンサンブル、主人公だと信じ切っているギターがポルタメントで幕引き役を買って出て、エンディングへ。
アコースティックなフォーク・ソングとヘヴィなクラシカル・ロックと軽妙なサイケデリック・ロックを重ねたシンフォニック・ロック。
長い旅路の果てに故郷に戻る「行きて帰りし」物語である。
さまざまなアンサンブルに変化しつつも、しっかり曲想や構成力があり、流れは自然だ。
リズミカルにしてひょうきんなキーボードのリフは 1 曲目にも通じる。
歌詞は、詩人ノヴァリスの詩に基づくらしい。
眠気を誘うが佳曲。
(BRAIN 1070 / PMS 7063-WP)
Detlef Job | guitar, vocals |
Lutz Rahn | keyboards |
Heino Schünzel | bass, vocals |
Hartwig Biereichel | drums |
76 年の第三作「Sommerabend」。
ギター/キーボード担当のカルゲが脱退し、四人構成に戻る。
内容は、三つの大作から構成される、濃厚なロマンチシズムあふれる素朴なシンフォニック・ロック。
不器用ながらも、眠りを誘うようにおだやかでメランコリックな幻想作であり、サウンドとメロディが絶妙の均衡を見せる。
クラシカルなオルガンとヘヴィなギターのコンビネーションが、力強い流れを(やや強引ながらも)作り、ストリングス・シンセサイザー、メロトロンの神秘の響きと丹念なビートが、すべてを薄暮の宇宙へと浮かび上がらせる。
技術的には、実直としか誉めようがないが、クラシカルなフレーズを丹念にまとめており、素直なリリシズムが宗教的な高揚にまで高まってゆく。
さらに、リズム・パターンの変化による展開の係り結びが実に明快であり、納得がゆく。
いい曲であることとテクニカルであること必ずしも一致せず、の典型だ。
そして、2 曲目の冒頭に現れるアコースティックなヴォーカル・アンサンブルこそが、このグループのサウンドの本質ではないだろうか。
また、この時代のグループ、特にドイツのシンフォニック系のグループとして、当然ながら、ハードロック的なニュアンスも強い。
全編、降り注ぐようなストリングス・シンセサイザー、メロトロンが印象的です。
反復の多い演奏だが、きめこまかく音を散りばめつつもためらいなく突き進む姿勢が好結果を生んでいると思う。
ヴォーカルはドイツ語。
プロデュースは、プロデュースは、アヒム・ライヒェル。
「Aufbruch」(9:37)
オルガンとギターによるハードかつメロディアスな演奏に、シンセサイザー、電子音による浮遊感を大胆に加味したシンフォニックなインストゥルメンタル。
冒頭、ポリリズム気味の演奏はややぎこちないが、1:50 付近のギターによるテーマ辺りから、なめらかに動き出す。
5 分付近では思い切ったハモンド・オルガン・ソロも。
重たい CAMEL。
「Wunderschätze」(10:41)
アコースティック・ギターの minor アルペジオがさざめく「泣き」のヴォーカル・パートにメロトロンが湧き上がる、感動のロック・シンフォニー。
間奏におけるクラシカルでアタックの強いオルガンと、メロディアスなギターによるエモーショナルなアンサンブルがいい。
ノってくると、ドラムスのせわしなさからお里が知れるというか、DEEP PURPLE が透けて見える瞬間も多い。
終盤の演奏には鋭さがあり、盛り上がる。
歌詞は詩人ノヴァリスの作品に基づく。
ギターのアルペジオとメロトロン、哀愁のヴォーカルの三位一体には、KING CRIMSON の「Epitaph」のイメージもある。
繰り返しが多いが、シーケンスごとに微妙な変化があるために、飽きるということはない。
「Sommerabend」(18:19)
シンセサイザーとメロトロンのハーモニーが朗々と響き渡る、優美なシンフォニー。
第一章は、湧き上がるストリングスをバックに、ムーグ・シンセサイザー(トーン調節したオルガンかもしれない)のテーマが切々と流れる、哀しげな物語の幕開けである。
第二章「Am Strand」にて、アコースティック・ギターがアルペジオを奏で、ヴォーカルが入ってくるところは、またも、おセンチな「Epitaph」といった趣である。
その後のアンサンブルでも、重厚/荘厳なムードは初期 KING CRIMSON と共通する。
第五章「Ein neuer Tag」は、一転してシンセサイザーが迸り、ギターとオルガンが走るロックンロール。
そして、最終章「Ins Licht」は、再び厳かなヴォーカル・パート。
オルガンが高らかに鳴り響き、ドラムスはドラマチックな打撃で盛り上げる。
シンセサイザーの奏でるテーマはアコースティック・ギターに吸い込まれ、再びオープニングと同じメロトロンとシンセサイザーによるスペイシーなアンサンブルへと旅立つ。
朝日に映える山々を眺望するかのような、感動的な終章である。
初期英国プログレの荘厳な神秘性や叙情性を、ドイツらしい素朴さで包んだシンフォニック・ロックの大傑作。
曲の成り立ちがシンプルで展開が明快であり、そのために感情移入しやすく、なおかつ、長く楽しむことができる。
器楽のバランスとしては、キーボードが中心であり、メロトロン、ムーグ・シンセサイザー、オルガンらによる「雰囲気」作りが、作品のイメージを決めているといえるだろう。
そして、シンフォニックで悠然とした調子が主であるにもかかわらず、メロディは、意外なまでに純朴である。
思い切ってフォーク風といってもいいだろう。
思いの丈を誠実に切々と訴えてゆくところに本作最大の魅力があり、これを臭過ぎといってしまっては何も始まらない。
もっとも、巷の名盤としての評価は、主としてメロトロンの多用に帰せられるようにも思うが。
(BRAIN 1087 / PMS 7079-WP)
Detlef Job | guitar, vocals |
Heino Schünzel | bass, vocals |
Lutz Rahn | hammond organ, PPG-synthesizer, clavinet, mellotron, flugel, electric piano, string ensemble |
Fred Mühlböck | vocals, acoustic guitar, flute |
Hartwig Biereichel | drums, percussion |
77 年の第五作「Brandung」。
ヴォーカル専任のフレッド・ミルボックをメンバーに迎える。
そして作風は、ラジオ放送向けを目指してよりメロディアスでキャッチーな面を強調したものに変化した。
根っこにはこれまで通り哀愁漂う甘美な浪漫的心情があるのだが、時代とともに武骨なオルガン・ロックからシンセサイザーを使ったより洗練された軽快な音楽へと変化を遂げた。
これはポピュラー音楽の宿命でありそれに携わるものへの要請だが、このグループは優れたミュージシャン・シップを発揮してそれにしっかりと応えている。
たとえば快調きわまる 1 曲目のオープニングにもその変化は明らかである。
そして、これだけキャッチーになっても、おっとり優しげでほのかに感傷的なメロディやヴォーカル・パフォーマンスの格調ある陰翳は失われていない。
そこがすごいというべきなのだ。
旧 B 面を占めるのは、AOR 調も交えたロマンティックな大作組曲。
キャッチーな表現よりも、ドイツのグループらしくオルガン、フルート、ピアノ、歌メロにあふれかえる詩的なムードがいい。
おそらく何度か耳にするうちに、素朴で暖かいサウンドが以前と同じ具合で染みてくることに気がつくはずだ。
自然な流れと明快な展開が特徴の好作品。
作戦は当たって、かなり売れたそうです。
ヴォーカルはドイツ語。プロデュースは、アヒム・ライヒェル。
タイトルは「砕ける波」という意味らしい。美しいジャケットは英国の装飾画家ウォルター・クレインの「Horses Of Neptune」。
「Irgendwo, Irgendwann」(4:38)毎度一曲目で驚かされる。前々作とはほぼ別人状態。
シンセサイザーとギターのリードで宇宙を突っ切って走る軽快なロックンロール。
ヴォーカルの拭えぬメランコリーの翳とメイン・パートの「泣き」で「ああ、やはり NOVALIS か」とようやく一呼吸できる。
80 年代先取りのようにシンプルなドラム・パターンとギターに吃驚。
「Wenn Nicht Mehr Zahlen Und Figuren」(3:05)
アコースティック・ギターのアルペジオとエレクトリック・ピアノのひそやかなさざめきが支えるクラシカル・バラード。
ヴォーカル・ハーモニーは涙を絞るようでどこまでも切ない。
ドラムレス。
「Astralis」(8:54)
しなやかなギターのオブリガートが魅力の CAMEL、BARCLAY JAMES HARVEST 風のメロディアス・ロック。
R&,B 調のオープニングを経て、スペイシーなストリングス系キーボードと朗々たるアカペラをフィーチュアした悠然とした曲調をひとたび広げて、シンフォニックでキャッチーなメイン・パートへと展開する。
リードするのは思い切りのいいヴォーカリストの歌唱、そして支えるギター・プレイ。
クラヴィネットとベースの粘っこいアンサンブルをブリッジにクランチなギター(調子に乗ったときのジョン・リーズ風の名演)がひた走り、オルガンのオブリガートが追いすがる。
熱気に高揚し切った独走から、一転して波打つようなピアノが支えるバラードへと鎮める呼吸もみごと。
エンディングもソウルっぽいアレンジ。
「Sonnenwende」組曲「夏至」
「Brandung」(3:41)エレポップ調の縦揺れビートながら、メロトロンとフルートがひらひらと舞い踊るクラシカルなインストゥルメンタル小品。エコーの深いナチュラルトーン・ギターは THE BEACH BOYS 風。クラヴィネット再び。ピアノ、ストリングス、オルガンも参戦し、交響楽的な広がりを見せて結末へ向かう。このバンドのブレインチャイルド、ルッツ・ラーン氏のセンスが分かる。「砕ける波」
「Feuer Bricht In Die Zeit」(3:49)シティ・ポップス風のエレクトリック・ピアノのリズミカルなコード・ストローク、ヴォーカルも粘っこさはそのままにやや AOR に寄せるか。
しかし、バッキングは軽めにいきたいようだが、メロディ・ラインや和声進行が屈折している。
「時の中で燃える炎」
「Sonnenfinsternis」(3:01)ピアノ、オルガン、シンセサイザー、フルートをフィーチュアした、深いエコーにたゆとうクラシカルなバラード。厳かで敬虔な祈りを思わせる。
オルガン・ソロは PROCOL HARUM 風。
「日蝕」
「Dammerung」(5:42)未来を見据えて苦悩を振り払おうとするような幻想的バラード。
長調と短調の間を縫うようなテーマが独特。
微妙な転調とともに表情を変えつつ、坦々と歌いこむ。無常感ある余韻を残す。
細やかなキーボードの使い方がいい。
「黄昏」
(BRAIN 0060.094 / PMS 7069-WP)
Detlef Job | electric & acoustic guitars, vocals |
Fred Mühlböck | vocals, electric & acoustic & 12 string guitars, flute |
Lutz Rahn | Hammond H-100, electric & acoustic piano, stringensemble, Mellotron, PPG synthesizer, D 6 clavinet |
Hartwig Biereichel | drums, percussion |
Heino Schünzel | bass, vocals |
guest: | |
---|---|
Tommy Goldschmidt | percussion on 1,2 |
Walter Quintus | violin on 1 |
78 年の第六作「Vielleicht Bist Du Ein Clown ?」。
70 年代終盤風のシティ・ポップス風味とこのグループらしいハードでロマンティックなスタイルが非常にうまく均衡した傑作アルバムである。
楽曲、器楽、ヴォーカルは充実し、YES のようなポジティヴで変化に富む歌ものシンフォニック・チューンに加えて、2 曲のインストゥルメンタルも含んでいる。
ロマンチシズムがそのまま甘めのサウンドとつながってしまうと、その場の味わいは格別でも後で胸焼けがするのだが(前作はややそういう感あり)、本作では、武骨な叙情性が同時代的な垢抜けたサウンドでうまく薄められている。
洗練された、というべきだろう。
意図したものかどうかは分からないが、耳への馴染みやすさ、聴きやすさという点で、とても効果的だと思う。
ギターを中心にキーボードが彩りをつける演奏の安定感やエレクトリックなサウンド・メイキングも一流のポップロック・グループのようだ。
また、タイトル曲含め、同時代の CAMEL の作風を取り入れることで流行との折り合いをうまく付けているように感じられるが、こちらの根っこには、ブルージーな泣きのハードロック・スタイルに加えて、より思いつめた生真面目さや真剣さがある。
洒脱でおどけた感じなど、合い通じるものはあっても、ロマンチシズムの根底にあるものの質は英国ロックとは異なるようだ。
ヴォーカルは英語とドイツ語。
プロデュースは、アヒム・ライヒェル。
遅れてきたプログレッシヴ・ロックの佳作というイメージです。
「Der Geigenspieler」(8:14)
リリカルでダイナミック、ポジティヴでノリもいい YES 風シンフォニック・ロックの佳曲。
前半はアコースティック・ギター弾き語りをメロトロンやオルガンがバックアップするフォーク風の展開を見せ、後半はテンポ・アップとともに一気に盛り上がる。「ヴァイオリン弾き」
「Zingaresca」(5:12)
サラサーテ? ギター・ハーモニーのリードするインストゥルメンタル。
ポコポコしたパーカッションはドイツ・ロックならでは。ハードさとまろやかな甘さの絶妙の配合。
「Manchmal Fällt Der Regen」(3:50)
キーボードのなめらかな 3 連符リフレインと西海岸風のギターが支える歌ものポップ・ロック。
「たまに雨降り」
「Vielleicht Bin Ich Ein Clown ?」(6:22)
ジャジーでロマンティックな歌ものロック。
「Rain Dances」時の CAMEL を彷彿させるエレクトリック・ピアノのコード・ストロークが現れる。
ヴァースから一転、展開部のまったりとしたロマンチックさ(ブルーズ・テイストを強調したというべきか)はこのグループならでは。
意外やトーキング・フルートが参戦。
「たぶん僕は道化師」 アルバム・タイトル「たぶん君は道化師」と呼応しているようだ。
「City-Nord」(6:07)
無表情なビートとシンセサイザーのエレクトリック・サウンドによるインダストリアルな演出でクールに迫るインストゥルメンタル。
ギターは要所でブルージーに歌って引き締める。
「北の街」
「Die Welt Wird Alt Und Wieder Jung」(4:30)
ピアノ伴奏によるクラシカルでひそやかなバラード。
沈んだ表情にほのかに希望のきらめきがまたたく。
後半の弦楽の音はチェロとメロトロンを併用か。
「世界は年老いてまた若返る」
(BRAIN 0060.164 / SPV 49842 CD)
Lutz Rahn | keyboards |
Heino Schünzel | bass, vocals |
Fred Mühlböck | guitars, vocals |
Detlef Job | guitars, vocals |
Hartwig Biereichel | drums, percussion |
79 年の第七作「Flossenengel」。
BRAIN レーベルから離れ、TELDEC 系の AHORN レーベルから発表された作品。
内容は、シャチの天使アトラントの旅を描いた、ファンタジックなコンセプト・アルバムである。
メルヘンチックなタイトル、コンセプトにもかかわらず、サウンドは安きに流れず、飛躍的に安定した演奏と巧みなアレンジによる完成度の高いものになっている。
CAMEL 的なリリシズムとポップ・センスに PINK FLOYD 的な音の奥行きをあわせもっており、語り口が非常にいい。
そして、ブルージーなハードロック的なマインドがいまだ旺盛なところが、おもしろい。
70 年代終盤のシンフォニック・ロック作品としては、屈指の出来映えだろう。
まろやかなシンセサイザーの歌声が耳に残る。
邦題は「凍てついた天使」。
「Atlanto」(4:38)
「Im Brunnen Der Erde」(4:29)
「Brennende Freiheit」(2:22)
「Im Netz」(8:08)
「Flossenengel」(3:27)
「Walzer Fur Einen Verlorenen Traum」(3:28)
「Sklavenzoo」(5:06)
「Alle Wollen Leben」(5:07)
「Ruckkehr」(5:22)
「Ob Tier, Ob Mensch, Ob Baum」(3:01)
(6.23980, AHORN 1.007 / K22P-157)
Detlef Job | guitars, vocals |
Fred Mühlböck | guitars, vocals, flute, vibraphone |
Heino Schünzel | bass |
Lutz Rahn | keyboards, computer |
Hartwig Biereichel | drums, percussion |
80 年の第八作「Augenblicke」。
CAMEL 風のしなやかでほのかに哀しいポップス調を極めた佳作。
ギターのキレはよく、キーボードもカラフル。
素朴な優美さを失わないまま、サウンド・メイキングや製作が成熟してきている。
バラード調の作品もアップテンポの作品も本家 CAMEL 真っ青の充実度合いだ。
特に、リズミカルな作品でも上すべりせず品がよく、熱いエモーションをしっかりと伝えてくるところがいい。
何はともあれ、洋の東西を問わず 70 年代末にポップスやロックを聴いていた方にはかなり懐かしい音のはず。
最終曲からは、第一作から一貫する美意識が感じられる。
「Danmark」(3:32)キーボード主導のインストゥルメンタル。
「Ich Hab' Noch Nicht Gelernt Zu Lieben」(3:31)かなりポップなタッチの作品だが、厚みのある音作りでバンドらしいグルーヴを生んでいる。
「Cassandra」(3:27)ギターが活躍するインストゥルメンタル。元気なフルートも現れる。3 連の調子のよさが活きている。
「Herbstwind」(4:48)哀愁のバラード。
70 年代初期と変わらぬ作風である。哀愁を湛えながらもオプティミスティックな響きがあり、詩人ノヴァリスの描く世界「Blaue Blumen」に近いイメージ。
「Mit Den Zugvögeln」(3:16)水晶のきらめきのようにきらびやかな幻想世界の BGM。インストゥルメンタル。
スペイシーな演出を効かせているが、ピアノ、アコースティック・ギターなどアコースティックな音を主役にしている。
「Sphinx」(3:26)アンディ・ラティマーばりのエレクトリック・ギターがしなやかに歌う。
幻想的なイメージなのだが底辺にはブルーズ・フィーリングがある。そこがいい。シンセサイザーは、控えめながらもギターと渡り合っている。
インストゥルメンタル。
「Als Kleiner Junge」(5:17)ロマンティックなバラード。いいしれぬ無常感と諦念、それらとは裏腹な切迫感。
少年時代を振り返っているせいか、ややアダルトな味わいも。伴奏はピアノ、フルートの間奏も哀しい。中盤にはお約束の泣きのギターが。名作。
「Magie Einer Nacht」(3:56)80 年代の到来を告げるアップ・テンポのポップ・チューン。
ギターとオルガンの音に 70 年代を経てきたプライドを感じる。「I Can See Your House From Here」に入っていても違和感なし。
「Begegnungen」(4:47)やさしくノスタルジックなバラード。夕暮れの一時のように、ふと涙がこぼれそうになる作品である。
ギターの緩やかなアルペジオと透き通るストリングスの響き、そして、ヴォーカルをなぞる手回しオルガン風のキーボードがすてきだ。
(6.24529, 1.015 / MIG 00662 CD)