イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「PANDORA」。2005 年結成。作品は四枚。ヘヴィでエネルギッシュ、そして濃厚なるイタリアン・ロック。最新作は 2016 年発表の結成十周年記念盤「Ten Years Like In A Magic Dream」。
Beppe Colombo | synthesizer, organ, chorus |
Claudio Colombo | drums, percussion, bass, acoustic guitars, synthesizer |
Corrado Grappeggia | vocals, synthesizer, organ, piano |
Christian Dimasi | guitar, chorus |
2008 年発表の第一作「Dramma Di Un Poeta Ubriaco」。
内容は、プログレ・メタル流のハードなサウンドによるへヴィ・シンフォニック・ロック。
80 年代以降の HM/HR のようにクラシカル、シンフォニックな表現が基本にあり、キーボード中心のアンサンブルの遠景には中後期 EL&P の姿が認められる。
こってり濃厚(しかしどこかぶっきら棒)なイタリア語ヴォーカルと哀愁を漂わすクラシカルなメロディ・ラインもあるが、全体としては、垂直的なビートやバスドラ連打に象徴されるとおり、直線的で無機質、乾いたイメージが先行する。
ロックらしい明快な破天荒さがある、といえばいいだろうか。
特に、せわしないフレージングでキリキリ舞するようなプレイやゴワゴワしたパワーコードなど、ギターの表現は完全に HM/HR の世界のものだろう。
その上で、多彩なサウンドとたたみ込むような勢い満点のテクニカルなキーボードが、快速交響楽ともいうべきスリルとスケールを打ち出している。
レゾナンスの効いたアナログ風シンセサイザーによるファンファーレ的なテーマ(そして独特のポルタメント)、スピーディかつ屈折したハモンド・オルガンの火を噴くようなフレージング、重厚な悲劇性とジャジーでノスタルジックな表情も巧みなアコースティック・ピアノ、記憶の袋小路を一歩一歩たどるようなメロトロンなど、キーボードによる表現は溺れそうなまでに多様であり、プログレらしさに溜飲が下がるところはたっぷりある。
ギターとは異なる質感のけたたましさで異形のオーケストラを奏でるキーボード群、伸びやかな巻き舌ベルカントと牙を剥くようなギター・サウンドの情熱二段重ね、ひたすら突き進むリズムらによって、無闇な運動性とそれと矛盾しかねない濃密な音の係り結びを一つの音楽として提示し得ている。
そしてもちろん、アコースティック・ギターがさざめきフルートのようなシンセサイザーが風に舞うイタリアン・ロックらしい牧歌調もある。
そういう場面では、脂っぽいヴォーカルにも初心な情感が満ちあふれ、手風琴のような響きとともに涙が湧き出てくる。
深い叙情性の谷間が現れることで引き続く重く荒々しい攻撃性に無常観が浮かび上がり、哲学的な響きとともに MUSEO ROSENBACH が眼前をかすめるといって過言でない。
かみつくようなギターも時としてイタリアン・ロックらしくムニエラ風のノリを見せたりするところがニクい。
アメリカに MASTERMIND というグループがいたが、共通するものを感じる。
幻想的なドラムンベースや冒頭のようなサイケデリックな迷妄風のコラージュ、現代音楽風のドローンなど音響的なこだわりもあり、挑戦を辞さない姿勢がある。
勇ましく男性的な調子にそういった変化があることでより彫が深くなっていると思う。
ハードロック・マインドを誇示してためらわない聴き応えある作品。
往年のキーボード・プログレ・ファンにはお薦め。
ヴォーカルはイタリア語。
プロデュースは、グループとマティアス・シェーラー。
「Il Giudizio Universale」(7:37)「裁きの日」
「March To Hell」(5:59)「地獄への行進」
「Cosi Come Sei」(8:21)「汝が望みしままに」懊悩を描き出したような重苦しさとそれをふりほどこうとする力強さが印象的なハードロック・バラード。
「Pandora」(11:43)「パンドラ」イタリアン・ロック王道らしく芸術としての「幅(やりたい放題ともいう)」を感じさせる大傑作。インストゥルメンタル。
「Breve Storia Di San George」(6:39)「聖ジョルジュの英雄譚」荒野を彷徨う戦士の魂を慰めるようなアコースティック・チューン。イタリアン・ロックを特徴付ける田園幻想調、牧歌調である。ライフルを肩にかけてレモンをかじりながら羊を追うような世界です。
「Dramma Di Un Poeta Ubriaco」(9:05)「酔いどれ詩人の物語」冒頭の荘厳なピアノの調べが乱調美を予感させるタイトル・チューン。
チープなシャフル・ビートや AOR への「ぶれ」がたまらないハード・シンフォニック・ロックの逸品。QUELLA VECCHIA LOCANDA を思わせる泣きのピアノが絶品。傑作。
「Salto Nel Buio」(13:45)「暗黒への跳躍」VAN DER GRAAF GENERATOR か JETHRO TULL かというべきドラマティックな歌もの。 弾き語りをスケール・アップした作風であり、終盤には逸脱感も半端ない総力戦が待っている。
(AMS143CD)
Beppe Colombo | keyboards, voice |
Claudio Colombo | drums, percussion, bass, guitars, flute, keyboards. voice |
Corrado Grappeggia | vocals, keyboards |
Christian Dimasi | guitars, bass |
2011 年発表のアルバム「Sempre E Ovunque Oltre Il Sogno」。
内容は、THE ENID ばりの濃密華麗なキーボード・オーケストレーションとパワフルなリズム・セクションが特徴的な王道ヘヴィ・クラシカル・シンフォニック・ロック。
全体にインストゥルメンタルの比重が高い。
肥え太り脂ぎった悪魔の怒号のようなハモンド・オルガンと糸を引くようなメロトロン系ストリングスだけでもおなか一杯だが、一歩一歩を思い切り踏み鳴らしながら走るように力みかえったリズム・セクションが野火を放つかと思えば裸の枝にまといつく木枯らしのようなアコースティック・ギターの響きが涙を絞るという強引な起伏にあふれるアレンジで、もはや胸焼け状態である。
そのイメージは、濃い絵の具を盛り上げて群像を描いたテンペラ画である。
全体として、攻めも引きも堂々とした管弦楽調であり、雄渾かつ精緻な筆致で豊かなイメージを描き出しており、新世紀シンフォニック・ロックの代名詞の一つたらんとする意気込みが感じられる。
もちろんヴィンテージ・キーボード・ロックの覇道を歩むものとしてふさわしいモダン・ジャズへの傾倒(脱線?)もある。
つまり、EL&P や GENESIS といった基本は当然おさえているということだ。
個人的には、昔の手塚プロのアニメ映画のサントラ(ローマ史劇映画のサントラをちょっと軽めにした感じといえばいいのか)を思い出した。
ひょっとして巨匠 ISAO TOMITA の薫陶を受けているのかもしれない。
ロマンティックで熱く大胆だが、演奏の安定したシンフォニック・ロック作品を求める方には、近年の作品うちではお薦め。
ヘヴィな音もあるが単調なメタルっぽさはない。
ヴォーカルはイタリア語。
「Il Re Degli Scemi」(5:08)重厚荘厳なるシンフォニー。クレジットによれば、クラウディオ・コロンボ氏の独演らしい。インストゥルメンタル。
「L'Altare Del Sacrificio」(2:09)EL&P 的な攻撃性を剥き出すインストゥルメンタル小品。ハモンド・オルガン、アナログ・シンセサイザーが山盛り。独特の「悪っぽさ」も再現している。
「L'Incantesimo Del Druido」(8:17)ローマ史劇映画サントラ風快速ハードロック。
ノイジーなキーボードのアドリヴやけたたましくロールするドラムスなど、ここでも EL&P 的なけれん味が強く出ている。
中盤、トライバルなドラム・ビートにのったオルガン・ソロがカッコいい。
「Discesa Attraverso Lo Stige」(4:13)アコースティック・ギターとメロトロン・ストリングスのデュオが導く
「Ade, Sensazione Di Paura」(7:41)アコースティック・ギターとアナログ・シンセサイザーが反応しあうプログレらしい展開に、HR/HM 系のヘヴィな音が交じり込む。それでも、そのヘヴィさは Trilogy 辺りからくるものであり、厳かな神秘性は常に高く掲げられている。
多彩な展開で押し捲った果てにメロトロン・ストリングスとムーグ・シンセサイザーが迸るエンディングに感動。
「03.02.1974」(7:31)フラワーマンのイラストが思わせぶりな GENESIS トリビュート。タイトルはライヴの日付か。「The Knife」なんて言葉も飛び出し、あのリフレインやフレーズも。奇天烈な展開もよし。イタリア語の歌ものとしての魅力もあり。
「La Formula Finale Di Chad-Bat」(3:56)FLOWER KINGS 風彼岸的オプティミズム。ギターがいいせいか。
「Sempre E Ovunque」(23:00)剛球一直線の勇ましいシンフォニック大作。
終盤の EL&P 的展開に惚れました。
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Beppe Colombo | keyboards, chorus |
Claudio Colombo | drums, percussion, bass, guitars, keyboards |
Corrado Grappeggia | vocals, chorus, keyboards |
guest: | |
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David Jackson | sax, flute |
Arjen A.Lucassen | guitar, Moog |
Dino Fiore | bass |
Emoni Viruet | vocals, chorus |
Leonardo Gallizio | bass |
2013 年発表のアルバム「Alibi Filosofico」。
内容は、HM/HR なサウンドを使ってクラシカルで濃密なロマンチシズムをしたたらせるへヴィ・シンフォニック・ロック。
ピアノ、フルート、ストリングスなど純クラシック的展開からイタリアン・ロックらしい田園フォーク色、モダン・ジャズから現代音楽、宮廷円舞会から収穫祭まで、時間も空間もまたいだ絵巻物のような音楽であり、イタリアン・プログレッシヴ・ロックの伝統を正しく継承している。
ムーグ・シンセサイザーとオルガンは軍楽のように勇ましく唸りを上げ、ピアノやチェンバロは中世風のイメージのままに華やかにメランコリックに舞い、メロトロン・ストリングスが朽ち果てた古城のように寂寞と鳴り響く。
テクニックを披露するタイプではなく、70 年代の音楽に憧れつつ入念にアレンジを施した演奏をするタイプである。
無闇に機敏に動けるアンサンブルは、テクニカルな HR/HM から来ているような気がする。
語り口(アレンジ)も巧みであり、特に、アルバムの第一印象決定する重要なファクターである導入部では、(お約束のヘビメタなギター・リフを除けば)訴求力にあふれるスリル満点の展開を見せている。
現代テクノロジーを総動員して分厚く塗りこめるのではなく、けっこうスカスカの音で重厚さや厳粛さを演出できるところがすごい。
基調はマジメで重々しい。
それだけに往年の BANCO や P.F.M と同じく、VdGG や GENTLE GIANT を思わせる逸脱調の、アヴァンギャルドな変転が非常にうまくはまっている。
シリアスなゴシック調では決してないし、必ずしも重苦しい展開が多いわけではない(クラシカルで愛らしい展開もある)が、全体としてはダークであり、突き抜けないままグネグネと蠢くようなイメージが主である。
これは陽性のロマンチシズムがあふれ出るイタリアン・ロックには珍しいことであり、プログレの暗黒面と現代らしい「重苦しさ」を拡大した、いってしまうと雑過ぎるか。
イタリアン・ロックの特徴の一つである「華やぎ」を、ブリティッシュ・ハードロック出身の「邪悪さ」が上回っているというべきかもしれない。
一人 HM シンフォニックのアルイエン・ルカッセン先生、VdGG のデヴィッド・ジャクソン、 IL CASTELLO DI ATLANTE のディノ・フィオーレらゲストも豪華。
HM/HR な轟音ギターの導く攻撃性やクラシカルかつジャジーで奔放なピアノ、パーカッシヴなオルガン、管楽器風のアナログ・シンセサイザーなどの器楽面や、さまざまな音楽をごった煮風にしてまとめるセンスなど、EL&P に通じるものを感じる。
一方、HM ギターとともにストリングス・シンセサイザーが高鳴って分かりやすいメロディを歌い上げると、アメプロハード的な世界も広がる。
おそらく「禿山の一夜」や「展覧会の絵」あたりは、簡単にバンドで再現できると見た。
ジャケットほどには濃くないが、HR/HM 世代にも問題なしの(というか HM 苦手のイタリアン・ロック・ファンでも適応可能な)へヴィ・シンフォニック・ロックの佳作。
「Il Necromante, Khurastos E La Prossima Vittima」(10:10)
「Né Titolo Né Parole」(7:38)
「La Risalita」(4:18)
「Apollo」(11:16)
「Tony Il Matto」(6:04)
「Sempre Con Me」(9:18)
「Alibi Filosofico」(11:05)
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