PENTWATER

  アメリカのプログレッシヴ・ロック・グループ「PENTWATER」。71 年結成。78 年解散。オリジナル作一枚と未発表曲集一枚。 2007 年には復活作も。

 Pentwater
 
Ron Fox guitars, oboe
Ken Kappel keyboards, vocals, viola on 7
Mike Konopka guitars, flute, violin, vocals
Ron LeSaar basses, vocals
Thomas Orsi percussions, vocals
Phil Goldman additional guitars, vocals

  77 年発表のアルバム「Pentwater」。 未発表曲集が先に CD 化されていたが、2003 年にようやく第一作が CD 化された。 内容は、エキセントリックな表情を駆使して大胆に飛んだり跳ねたりしながらも、時に怪しく時にキャッチーなメロディやハーモニーで穏当にまとめるシンフォニック・ロック。 キーボード中心のアンサンブルには、EL&PYESQUEEN といった大御所のストレートな影響が感じられる。 プログレらしいというべきか、思い切りクラシカルなプレイは随所に出てくる。 あまり音を詰め込みすぎずに、細身のアンサンブルで場面ごとの主役をはっきりさせる演奏だ。 ポップなロックの基本をおさえつつも、瞬時に込み入った展開(大胆なリズム・チェンジはおろか多声マドリガルもあり)へと突っ込むなど、GENTLE GIANT 近いアプローチもある。 躊躇なくイージー・ゴーイングなロケンローをぶつけてくるところは当然あるし、妙に沈潜した、謎めいた表情も見せる。 したがって、全体のイメージは、英国風のメランコリックな色調と陽気でオッタキーなアメリカン・テイストが微妙にブレンドしているといえばいいだろう。 そして、8 曲目「War」の存在が、本作をプログレとして位置付ける要因の一つとなっているのは間違いない。 (「Tarkus」ばりのオープニングはかなりのインパクト)
   演奏をリードするのは、文字通りのリード・ヴォーカルとコーラス。 演技過剰で粘っこく若干しつこいが、甘い声質を独特の切ない表情で生かしている。 そして、ぶわっと湧き上がるストリングス系のキーボード(メロトロン含む)や荒々しいアナログ・シンセサイザー、ハモンド・オルガン。 ギターがオーソドックスな分だけ、シンフォニックな彩りはこのキーボードの任されているといえるだろう。 メンバーによる管絃の演奏をかなり大胆に突っ込んでいるところもある。 全体に、明快なメロディやノリをもちつつプログレするセンスは、KANSAS はともかく、STYX 辺りとなら互角といえる。 この味わいは、いわば、アヴァンギャルドなアート・センスによるアングラ臭とメインストリームのポップ・ロックの甘さの怪奇なブレンドである。 全体に作曲に力が入っていて、ひねり具合をたっぷり楽しめる。
  CD 化に際して、曲順がオリジナル LP から変更されている模様。(A 面 1 曲目と B 面 1 曲目を入れ換えて、B 面に未発表曲を挿入) また 4 曲の未発表曲(1 曲は「War」の前奏曲)付き。 プロデュースはグループ。スタジオ・ライヴっぽい録音です。
  
  「Frustration Mass」(3:37)B 面 1 曲目。エキセントリックなアングラ演劇風リード・ヴォーカルがひっぱる歌もの乱調プログレ。 リズム・チェンジを繰り返す発作のような演奏もすごい。

  「Living Room Displays」(4:58)A 面 2 曲目。オルガンによるクラシカル・タッチを強調したライトで快調なスペース・ロック。 ギターのブリッジからの展開はブライアン・ウィルソン並みのセンスあるファンタジー。

  「Memo」(4:07)A 面 3 曲目。位相系エフェクトが映える幻想バラード。感傷的でもあるが、驟雨にけぶって何も見えなくなるような幻想性が先立つ。哀愁あるギターやドラムスのプレイがカッコいい。

  「Orphan Girl」(8:28)A 面 4 曲目。きめ細かいアレンジ、凝った器楽で彩るも基本はリリカルなバラード。 フルートをフィーチュア。4 分 50 秒辺りからのインスト・パートではハイ・テンションのみごとなアンサンブルを決める。おもちゃ箱ひっくり返し系の佳作。

  「AM」(2:43)A 面 1 曲目。アルバム・イメージぎりぎりのロックンロール。配置換えは必然か。(もともとは 1 曲目でリスナーにドン引きされないように A 面冒頭に配したと邪推する)

  「Palendrode」(3:54)B 面 2 曲目。妖しい魅力のあるファンタジーの佳曲。演奏ではなく曲調だけでもプログレになるという稀有の例。

  「Prelude to War」(1:11)未発表曲。調子ッ外れの弦楽デュオ。ほのかな狂気がコワい。

  「War」(5:00)B 面 3 曲目。ハモンド・オルガンのヘヴィなリフで幕を開ける攻撃的でエキセントリックなインストゥルメンタルの力作。

  「Death」(2:48)未発表曲。テーマは引き継ぎながらも、タイトル通り葬送曲風の作品。

  「Gwen's Madrigal」(3:58)B 面 4 曲目。アメリカのアングラ・プログレらしすぎる作品。YES というよりは、BABYLON が思い浮かぶ。クリスマス・ソングのようなシアトリカル・シンフォニック・ロック。

  「Wave」(3:06)未発表曲。これまた YES から出発したらしき、いかにもアメリカン・プログレな陽性ねじれシンフォニック・ロックンロール。近年の DISCIPLINE あたりが引き継ぐ芸風。

  「Radioactive」(5:42)未発表曲。明るく歌っているが一種のブラック・ユーモアでしょう。頓狂なヴォーカルとテクニカルなリズム・セクションとふくらみのあるキーボード・サウンドという王道的な取り合わせである。
(Beef 001)


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