80 年発表のアルバム「Rahmann」。
77-78 年にかけて録音されるも、発表は二年後にずれこんだ悲運の作品。
内容は、MAGMA 直系の低音強調、スキャット、反復の多用が特徴的で、なおかつ中近東風の音階も取り入れたジャズロック。
主として、堅固なリフとアラビア風の暗く怪しいテーマがポリリズミックに絡み合う、挑戦的な曲調である。
また、笛や打楽器などのアコースティックな民族楽器がなかなか強力なアクセントとして散りばめられている。
MAGMA にダイレクトに通じるポイントは、ジェラルド・プレヴォの不気味に蠢くフレットレス・ベース、一つ一つの打撃にやたらとパワーのあるドラムス、呪術的スキャット、そして、エレクトリックな構成ながらも強力な生ピアノとリズム・セクションのおかげでモノクロでアコースティックなイメージを与えるところ、など。
演奏は、タイトなアンサンブルが主役であり、爆発力のあるユニゾンと重量感のある反復を特徴とする。
最初に耳を惹くのは個性的なベース音と音数多いドラムス、ピアノであり、そのピアノも和音で鋭くリズムを刻むため、リズム・セクションが主役といってもいいくらいである。
リーダーはギタリストだが、やたらと弾き倒すタイプではなく、サスティンの効いた音でパワフルなリズム隊と鋭いつばぜり合いを繰り広げているイメージである。
ジョン・マクラフリンを思わせるソロから、本作のアジア的な音への接近には MAHAVISHNU ORCHESTRA の影響があるとも想像できるが、リーダーが北アフリカ出身なのでドメスティックな音に回帰したという可能性もある。
なににせよ、中近東の民俗音楽とジャズロックの合体という言葉から浮かんでくるイメージそのままの音である。
この分かりやすさは、本作の強みの一つである。
各曲にゲストを迎えており、特筆すべきは、4 曲目で壮絶なヴァイオリンを披露する、デディエ・ロックウッド。
スリリングに疾走するナンバーが並ぶ中で、民族楽器を多用した室内楽風のリリカルな最終曲が映える。
2 曲目を除いて、ギターのマハマド・ハディの作品。
ボーナス・トラックは 1、2、4、6 曲目のオルタネート・テイク。
アコースティック・ピアノがエレクトリック・ピアノに代わっており、それだけで随分と印象が異なる。
(エレクトリック・ピアノを使った方がはるかにメイン・ストリームのフュージョン/ジャズロックっぽくなる)
10 分あまりに拡大した「Danse Sacree」がかなりカッコいい。
「Atlanta」(5:26) ZAO にも通じる、アルバムのイメージを決定付けるエキゾティックなテーマが秀逸。
腰にくるリズムもいい。
ナーイやブズーキといった管弦の民族楽器がフィーチュアされている。
「Nadiamina」(6:23)
打楽器が強調されたリズミカルなジャズロック。
パーカッションとヴォイスによるエキゾチズムの演出を経てへヴィなギターの攻撃性とピアノによる神秘性が拮抗し、どこまでもスリリングである。
ハディ/ルティグリャノ共作。
「Ab」(8:00)
変拍子、快速ポリリズム・アンサンブル、シンセサイザーやギターによる不気味なサウンド・スケープなど、MAGMA、KING CRIMSON ばりの圧迫調で走る傑作。
音が絡まりあったまま、圧倒的なドラミングとともに転げ落ちるように突き進む。
「Danse Sacree」(6:35)
再びエキゾチズム全開の作品。ロックウッドの "ジプシー風" ヴァイオリンが炸裂。
変則アクセントによる 8 分の 6 拍子、地中海風のモードで猛進する演奏の中で、印象派風のピアノがほのかなエレガンスのきらめきを放つ。
「Leila」(9:38)
ピアノを中心とした奔放な即興演奏と呪術的な抑制が交差する重厚なジャズロック作品。
サックス、ギターによるテーマはまたも西アジア風。
中盤からのギターの芸風はロバート・フリップに近い。
生音の弦楽器はブズーキか、ウードか。
イントロなどにはラベルやフォーレのイメージも。
「Marche Funebre」(5:00)コントラバスとピアノをフィーチュアしたクラシカルな作品。不思議な雰囲気の曲です。
(POLYDOR 2393 252 / FGBG 4261.AR)