イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「RED」。作品は一枚。 唯一作は技巧的なジャズロックにヘヴィ・シンフォニックのスパイスを効かすという特異な作風。
Jerry Soffe | bass |
Francis Hockney | drums |
Dennis Fitzgibbons | guitar |
Mark Ambler | keyboards |
David Holmes | percussion |
83 年発表のアルバム「Red」。
内容は、へヴィ・プログレ風味のある、ギター主導の技巧的なジャズロック。
全体に、酸味の効いた音によるアグレッシヴでけたたましく、屈曲した芸風であり、その味わいの起点は、ギタリストのプレイにある。
フュージョンはすでに時代の音としてポジションを確保していたが、この作品はそのポジションの一番端の方にいるというか、そのポションに興味があまりないというか、何にせよかなり個性が強い。
その個性は、時代錯誤的なプログレッシヴ・ロック、あるいはジェフ・ベックが最初に目指し、U.K. や BRUFORD が極めたテクニカル・ロックの地平への飽くなき憧憬だと思う。
70 年代フュージョンのお約束であるリラックス感もちらつかせるが、同じ時代を過ごした EARTHWORKS と比べるとはるかに性急で余裕がない。
また、チック・コリアの ELEKTORIC BAND を先取るようにテクニカルだが、享楽と安寧の 80 年代に向かうにあたっては、ここでのまじめだが頭の堅さが分かってしまうピュア求道者志向よりも、エンタテイメント志向を打ち出すべきだったのかもしれない。
何にせよ、雰囲気よりも音のフォルムやテンションを重視した音楽ゆえに苦戦を強いられたであろうことは想像に難くない。
思いつきではあるが、散見されるファンタジックな演出はたいへんいい感じなので、もう少しだけ路線をシンフォニックなプログレに素直に寄せればよかったのではと、個人的には思う。
演奏をリードするギターは、スティーヴ・ハウがアラン・ホールズワースやジェフ・ベックの真似をしているような、テクニカルで饒舌なスタイル。
しなやかにしてギクシャクとした硬派っぽいフレージングもレガートに悠然と波打つプレイも「らしい」。
ロバート・フリップを意識しているであろうクロマティックで変則的なフレージングも散見される。
また、コードの叩きつけ方にパンクというかガレージというか、ジャズ・ギタリストにありえないロケンローな素朴さがあるのも特徴か。
豪快なようでいて結構神経質なタイプである。
そして、器用にいろいろなスタイルにまたがり過ぎていて、リスナーにとって重要な「わかりやすいリスニング・ポイント」が絞りきれない恐れがある。
(これってハードロックなの?フュージョンなの?と悩み始めると意外に音が「入ってこない」)
リズム・セクションは躍動感以上に激情にまかせた打撃技が目立つ。こちらもガレージ系である。
エレクトリック・キーボードのデジタル・サウンドはまさにこの時代のものらしく大仰でケバケバしいが、このけたたましい演奏にはあっていると思うし、シーンのリード役としてもうってつけである。
(濃い目の化粧がバツグンに映えるライティングもあるのヨ)
意外なのは、オルガンが活躍する場面も多いこと。
ギター・リフのバックでのストリングス・シンセサイザーや、過剰に込み入って忙しないギターとベースのやりとりなど、プログレ志向はわりとあからさまである。
全体に、変拍子のアンサンブルでたたみかけながら、各パートが自分だけ抜きん出ようとひたすら躍起になっているような、サディスティックな演奏である。
何かが少し変わっていたら、テクニカル・フュージョンの草分けとして歴史に名が残ったと思うが、それが何かわからないままに無名に埋もれたようだ。
80 年代英国に散在した無銘ジャズロックの一枚。
全編インストゥルメンタル。
作曲は全曲ギタリストのデニス・フィッツギボン。プロデュースはデイヴ・ウィリアムス。
「Stiff Collar」(5.37)へヴィなギターがリードするハードなジャズロック。
「Self-Indulgent Noise」(4.24)けたたましいギター・リフによるアナーキーな「動」と神秘的なアルペジオによる「静」が交錯する乱調気味のジャズロック。
「Cool And Unapproachable」(9.01)エレクトリック・キーボードを巧みに使ったスペイシーでファンタジックな作品。
自由に緩やかに展開する。
「Daft Tench Swims Backwards」(4.27)"Wired" ベックを思わせる攻撃的でカッコいい作品。オルガンも盛り上がる。
「Turbo-Tortoise」(5.01)KING CRIMSON 風の圧迫感ある変拍子リフが印象的。(もっともほかの部分はまったく CRIMSON ぽくない)
「Kravat」(6.50)忙しないリズム・チェンジによって捻じれてゆくイメージの技巧的作品。リズム・セクションの腕の見せ所。後半のレガートなギター・ソロで溜飲を下げる。佳作。
「Lost For Words」(4.59)変則アクセントのトゥッティとジャジーでメロディアスなアンサンブルを巡る奇天烈な怪作。
「Tonight's The Note」(6.21)中期 GONG、BRUFORD 系のテクニカル・チューン。傑作。
(SAW 2)