SCARLET THREAD

  フィンランドのプログレッシヴ・ロック・グループ「SCARLET THREAD」。95 年結成。作品は四枚。トラッド・バンドが初期 YES の作品を演奏しているようなユニークな作風。 2014 年新作「Dreamcatcher」では HM/HR 化したという噂。「赤い糸」という伝承にはその起源含めいろいろな面があるようです。

 Psykedeelisiä Joutsenlauluja
 No Image
Jani Timoniemi guitars, bassSami Hiltunen guitars
Eini Pesala violinAnni Pesala flute
Penu Koskela drums
guest:
Jukka Tokikokko bass on 2,5Timo Kuukasjaxvi hammond organ
Mika Pohjola moog

  2002 年発表の第一作「Psykedeelisiä Joutsenlauluja」。 内容は、ツイン・ギターをフィーチュアし、アコースティックなトラッド感覚を取り込んだアンサンブル志向のサイケデリック・ロック。 サイケデリックなギター・ロックにジプシー系ヴァイオリンやフルートによるフォーク・ソングの祝祭的なノリやペーソスを付け加えたスタイルである。 ややがちゃがちゃした印象はあるが、変拍子もこなす演奏に安定感はあるし、スリリングな場面展開もある。 ギターのコード・カッティングやアルペジオと弦楽器のレガートな旋律との取り合わせには、互いの音への反応のよさによる立体的な構成と有機的な連動のおもしろさがある。 ただし、ハードロックのエネルギッシュさはいいとしても、トラッド風の音の側が普通のロック/ポップス調に寄ってしまったり、逆に全体がトラッド一辺倒になってしまうことがあり、そうなるとそれぞれの音質から自然ににじみ出るはずのパンチや哀愁が失われて、単調になる。 せっかく、異なる音質の組み合わせに妙があるのに、似たような味わいの旋律や和声ではその差異が十分に活かされない。 もっと音がスカスカならば、サイケ・タッチとフォーク・タッチが分かりやすくコントラストして、いい味のペーソスがにじみ出たかもしれない。 逆に、脈絡をぶっ飛ばしてもっとヘヴィな音をぶち込んでもよかったかもしれないし、同じ目的のためにヴォーカルを入れてもよかったかもしれない。 ただ、サイケデリックな音を使いながらも、元々が KEBNEKAJSE のようなトラッド・ロックではなく、YES のような複雑なアンサンブルによるクラシカルなプログレ路線や、あるいはニューエイジ・ミュージック寄りのジャズロック路線を追求している可能性もある。 であれば、反復による段階的な発展や忙しなさに渦巻く迷宮感の演出よりも、より係り結びの分かりやすい劇的な展開がもっと要りそうだ。 ゴリゴリのファズ・ギターのリフとツィゴイネル・ワイゼン路線のヴァイオリンと無伴奏フルート・パルティータを矛盾なく一つにするくらいの強引さの先にこそ、面白いものがあると思う。 結論、たくましい演奏力を活かした作風であり、独特の毛羽立った荒っぽい音質と一直線過ぎるけたたましさに抵抗がなければ楽しめる。 主役のギターと比べるとキーボードは控えめだが、4 曲目ではオルガンが長閑さを演出し、最終曲ではシンセサイザーが前面に出て音に酔っ払いそうなプレイをぶちかましてくる。 全曲インストゥルメンタル。タイトルは「サイケな辞世の句」の意味だそうで。

  「Viisauden Alku」(4:29)
  「Joutsenten Kaihoisa Laulu」(6:27)
  「Siipirikon Lento」(3:50)
  「Vapahtaja」(5:06)
  「Pimeästä Pohjolasta」(5:04)
  「Johdatus...」(1:50)
  「...Ajasta Ikuisuuteen」(8:03)
  
(MMP448)

 Valheista Kaunein
 No Image
Jani Timoniemi guitarsSami Hiltunen guitars
Erja Lahtinen violinJanne Tuovinen bass
Jere Nivukoski drums
guest:
Juha Sutela fluteEssi Suikkanen flute on 6, 7

  2006 年発表の第二作「Valheista Kaunein」。 内容は、古風なハードロックとトラッド・フォークの合体という個性のままに初期 YES 化をさらに推し進めたものとなる。 前作と比べると、出るところと引くところの起伏がしっかりしていて、けたたましい中にもストーリーがあることが分かりやすくなった。 トラディショナルなプレイを得意とするヴァイオリン奏者をフィーチュアするが、アルペジオをバックにギター・リフが刻まれリズム・セクションががんばってアンサンブルが沸騰し始めると、なんと往年のハードロックに近い一直線なインパクトとグラインドするスピード感が出てくる。 そこへフルートが入ればほとんど JETHRO TULL だし、メジャーなフレーズのギターのリードで全体がガチャガチャしながらも走り出すと、初期の YES に激似になる。 緩くやかましいドラムスとワウ・ギターのソロなど、まったく臆面なく半世紀近く前の音をぶつけてくる。 ギターのプレイには、ナチュラル・トーンを活かした独特の、トラッド・ミュージックとはまた違った、場末感とペーソスがある。 それにしても、北欧では、何故に RAGNAROK の昔からこのような六十年代風のスタイルが好まれるのだろうか。 一方、ヴァイオリンは、主としてヘヴィなトゥッティでたたみかけた後の「切り返し」として、純トラッド、ジプシー系のアコースティックでリリカルなおかつダンサブルなプレイで演奏に起伏を付けている。 YES ばりのワイルドな演奏では、スティーヴ・ハウ風のワイルドなギターを受け止めてアンサンブルをなだらかなラインで引き締めるオルガンの役割をこのヴァイオリンが負っている。 何にせよ、クラシック・ロック・ファンには馴染みやすい音といえるだろう。
   全編インストゥルメンタル。 タイトルは「偽の野原」という意味らしい。

  「Tahtojen Taistelu」(4:09)
  「Valheista Kaunein」(4:55)
  「Vaeltava」(5:04)
  「Jumalanpilkkakirves」(4:37)
  「Valon Lähettiläs」(5:02)
  「Aatoksia Kivusta」(4:09)メロディアスかつやんちゃなグルーヴもあるフォーク・ロックの佳作。
  「Haarasilta」(2:30)
  「Levoton Sielu」(6:12)
  「Kunnes Kuolema Meidät Erottaa」(6:18)
  
(MUSEA / FGBG 4670.AR)


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