アメリカのギタリスト「Scott McGill」。ニュー・ジャージー出身。FINNEUS GAUGE、HAND'S FARM などのプロジェクトで活動。アラン・ホールズワースによく似た技巧派ギタリスト。
Scott McGill | electric & acoustic guitars |
Vic Stevens | drums |
Chico Huff | bass |
Demetrios Pappas | keyboards on 5,9 |
98 年発表のアルバム「Ripe」。
Scott McGill's HANDS FARM 名義の第一作。
内容は、アラン・ホールズワース直系のギターがリードするテクニカル・ジャズロック。
アブストラクトで硬質、かつへヴィなサウンドであり、北米フュージョンながらもファンキーさはかけらもない。
バックがひたすらリズムをキープし、フロントでは三倍速で練習曲を弾き倒す、また、楽曲の作りがやや破綻してもギター演奏だけは続いてゆく、そういう場面も多い。
マッギルのギター・プレイは、エレクトリック、アコースティックともに、超絶な速弾きと現代的な和音進行をメインにしている。
ロック・ギターを早送りにしてモダン/フリー・ジャズや現代音楽などのフィルターで変容させたようなタイプといえばいいだろう。
ギタリストではないが、ヤンス・ヨハンソンの作風との共通性も感じる。
左手中心のプレイ、跳躍アウト・スケールとストレッチ・コードのヴォリューム奏法などはホールズワースそのもの。
ただし、アームをあまり用いず、HR/HM 的なメロディック・マイナー進行に近い動きも見せる。
和音を駆使した展開もキーボード風でおもしろい。
爆発的な演奏力ながらも、内向的で閉塞感が強く、やや陰鬱なところが特徴だ。
一方、きわめてツボを心得た打撃を見せるドラムスは、フランク・カッツと同じくジャズとロック、双方のストリート感覚を身につけた達人である。
シンプルなセットらしきプレイだがガレージっぽいノリが曲に合っている。
ベーシストは堅実派、数少ないアドリヴ・パートでパーシー・ジョーンズそのもののようなフレットレスのプレイを見せる。
個人的には、演奏がホールズワースのソロ作品をイメージさせるためにやや古めかしく感じてしまうが、この手の音の経年変化がさほどではない(常に新しいリスナーを獲得できる、数はともかく)こともまた確かである。
通常のポップ・ミュージックに欠かせないメロディや和声の感覚はあまり重視されていないので、本アルバムを通して楽しく聴けるという人は、演奏家や研究者以外には少ないだろう。
ガレージ録音的なプロダクションも音にライヴな迫力を付け加えていていい。
プロローグとエピローグは本家への敬意でしょうか。
ごく個人的な意見ですが、近年の技巧的なハード・フュージョンは、飽きるとまったく聴く気がしなくなるという点で昔のハードロックとほとんど機能性が変わらない気がします。
また、TRIBAL TECH など「比較的」メイン・ストリーム・フュージョンに近いグループと異なり、自然なファンキーさやグルーヴをほとんど希求していない。
つまり、「フュージョンなのにバカっぽくない」という自己否定に近い音楽である。
プログレ・ファンにはお薦め。
全編インストゥルメンタル。
プロデュースは、マッギルとヴィク・スティーヴンス。
「7 - 24」(1:35)
「Ripe One」(8:22)
「Fred - O - Cal」(8:03)
「Monde de Incertitudes」(1:43)不協和音を駆使したアコースティックな現代音楽。ラリー・コリエルあたりと比べると格段にコンテンポラリー。
「Skwerbie」(7:45)華麗なシンセサイザーもフィーチュアした、珍しく派手めのジャズロック。ホールズワースの参加したヤンス・ヨハンソンの作品の作風に似る。
「DDR」(7:12)サスペンスフルなアルペジオをバックに、デメオラばりのナイロン弦速弾きを見せる。
「Industrial Blowout」(7:00)ヘヴィ・ディストーション・サウンドによるハード・ジャズロック。
驚異的なエンドレス・レガート・フレーズ。中盤はドラムス・ソロ。
「Marcella」(2:30)バッハのチェロ組曲四番のサラバンドをモチーフとする。
「Cause for an Effect」(7:35)中盤はまたも超絶レガート・ギター。ファンタジックなシンセサイザー・ソロもあり。
「Ong's Hat」(6:39)豪快なハードロック・インスト。しかし、ミニマルでポリリズミックなアンサンブル。
「24 - 7」(2:50)
(LE 1031)
Scott McGill | electric & acoustic guitars |
Michael Manring | fretless bass, e-bow |
Vic Stevens | drums, percussion |
Neil Kernon | loop technology |
guest: | |
---|---|
Jordan Rudess | keyboards |
2001 年発表の作品「Addition By Subtraction」。
ベーシストに技巧とともに豊かな音楽性も誇るマイケル・マンリングを迎えた新ユニットによる作品である。
内容は、前作よりも HR/HM がかったハード・フュージョン。
暗く、ねじれた作風ながら、まんまなホールズワース・ヘッドよりは独自性が出ていて潔く、パンチも効いている。
これはこれでいいと思う。
ギターの荒々しさ、ヘヴィネスのおかげで、変拍子ポリリズムによるアブストラクトなアンサンブルにも表情が生まれ、より立体的でしなやかに感じられる。
ギターに匹敵する技巧を誇るベースがいいポジションを占めていて、インタープレイが充実し、アンサンブルが格段におもしろくなっている。
また、ゲスト参加のルーデスによるピアノやシンセサイザー、オルガンも新鮮なアクセントになっている。
現代音楽風のアコースティック・ギター・ソロもあり。
変拍子アンサンブルでミステリアスにスリリングに突き進むタイトル・チューンはかなりの傑作。
続く 8 曲目「Vicodin Shuffle」はおそらく即興であり、BRAND X 風の怪しさで迫る。
10 曲目「Conflict Resolution」は、前作のようにギターが制御不能に陥って暴走するが、ジョーダン・ルーデスのキーボードが敢然と立ち向かい、マンリングのベースも応戦するため、遥かにスリリングな作品になっている。ルーデスのハモンド・オルガンがカッコいい!
「矛盾の解決」は力尽くで!という感じでしょうか。
奇妙なサウンドが強烈な 11 曲目「Purging Mendel's Beasts」では、ギター・シンセサイザーを使っている模様。マンリングの技巧にも開いた口がふさがらない。即興風ではあるが、独特のトーンの統一感がある。
ふざけたタイトルの 12 曲目「In A Gadda Davinci」は、21 世紀の DIXIE DREGS か。ハードロックなリフが新鮮。
13 曲目の「Four Fields」ではニューエイジ・ミュージックもよくするマンリングのセンスが発揮されている。
前作同様盛り上がる曲ほどフェード・アウトすることが多いのが気になる(曲として仕上げる前に演奏で力尽きている)が、それでもいいのかもしれない。
ここの音楽はシーケンスとしての「ドラマ」を提示するのではなく快楽中枢への定常的な刺激として示されているのでは、と思うからだ。
(昔、エンドレスになった LP があったが、そういう「かけ方」が正しいのかもしれない)
変則リズムを超速でぶっ飛ばしたり、抽象的でモノトーンの響きの連続、沸騰としかいいようのないインタープレイなど、普通のフュージョンのリスナーにはかなり「新鮮な」体験になると思う。
この手のテクニカル・フュージョンはあまり得意ではないわたくしでも、この作品にはかなり引っかかるものを感じました。
TUNNELS に迫るプログレッシヴなフュージョンの佳作だ。
全編インストゥルメンタル。
プロデュースはニール・カーノン。
「Zimparty」(5:22)
「We Are Not Amused」(7:02)
「KVB Liar」(5:14)
「The Execution Of Veit」(0:32)
「The Voyage Of St Brendan - Abbott Of Clonfert」(3:46)
「Sile」(5:46)
「Addition By Subtraction」(7:27)
「Vicodin Shuffle」(4:45)
「Euzkadi」(3:42)
「Conflict Resolution」(5:04)
「Purging Mendel's Beasts」(9:27)
「In-A-Gadda DaVinci」(5:07)
「Four Fields」(6:28)
「Post Hocto-Proct」(0:32)
(FES 4001)
Scott McGill | electric & acoustic guitars |
Michael Manring | fretless bass |
Vic Stevens | drums, percussion |
2006 年発表の作品「What We Do」。
完全ジャム作品「Controlled By Radar」に続くマッギル・マンリング・スティーブンス・トリオの三作目。
最初の版は CD 二枚組であり、一枚目がジャズの名曲のカヴァー集、二枚目が 2001 年のライヴ録音。
明らかにメインはこの二枚目である。曲は「Addition By Subtraction」からのものが中心。
安定したリズム・セクションに支えられたマッギルのプレイはわがままそのもの。
スタジオ盤を大きく越えるタガの外れ方を堪能できる。
即興パートもあり。
これだけ爆発しながらもバンド全体としてのバランスは悪くない、というか緊張感ある優れた演奏になっている。
CD#1 の曲クレジット。
「Cherokee」(4:21)
「Footprints」(3:42)
「Blue In Green」(6:13)
「Solar」(2:03)
「Gloria's Step」(3:40)
「Icarus」(2:55)
「Naima」(6:50)
「Invitation」(4:03)
「Nefertiti」(3:32)
「Bessie's Blues」(1:41)
「Maiden Voyage」(7:08)
「Oleo」(3:58)
以下、CD#2 の曲クレジット。
「Conflict Resolution」(4:00)
「The Ripe One」(11:03)
「Pools」(9:00)
「Improv 1」(13:57)
「The Voyage Of St. Brendan」(3:53)
「Improv 2 / Drum solo / In-A-Gadda-DaVinci」(15:38)
「Bad Hair Day」(3:52)
「Addition By Subtraction」(8:47)
(FES 4005)
Scott McGill | guitars, iGuitar synthesizer, Roland GR33, fretless guitar on 4 |
Ritchie DeCarlo | drums, Battery 2 Softsynth percussion, theremin, gongs, vibes, Moog voyager |
Kjell Benner | bass, EHX Bi-filter, Midi moog voyager on 6 |
Dave Kloss | stick, Midi moog voyager |
guest: | |
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Percy Jones | fretless bass on 3 |
2007 年発表の作品「Freak Zoid」。
内容は、ノイジーでアブストラクトな前衛系テクニカル・ヘヴィ・ジャズロック。
ギターのプレイを中心にいわゆるジャズロックよりもはるかにへヴィなプログレッシヴ・ロックに依拠した作風である。
時折現れるブルーズ・ロックやハードロックとのダイレクトな連結もおもしろい。
普通の意味でのメロディや和声がほぼ現れず、起承転結も明確ではないパートもかなりある。
そういうところでは、ドラムスのパターン以外はのたくるように奇怪なノイズが不規則な「パルス」を成して折り重なる。
ギターはゴリゴリのヘヴィなリフから漂流するコード・プレイ、ロバート・フリップが壊れたようなぶっ飛んだフレージングのによるノンストップ・ソロまで、「音の超速スプロール現象」のごとく演奏のフロント・エンドを務める。
ホールズワース色はヴォリューム奏法による浮遊感ある和音展開に残る。
シンセサイザーも駆使して不可思議な色合いのサウンドを積み重ねる。
ヴァイヴが入ると TUNNELS と近い雰囲気になる。
ジャジーな 4 ビート上で粘性ギターが高速で渦を巻くという、何を目指しているのかいまひとつ分からないが凄まじい離れ業も多い。
アグレッシヴな演奏だが内向的であり、あたかも自重で縮退しブラックホール化しつつある惑星が断末魔に放つ電磁波のように激烈である。
念のためだが、グルーヴィなフュージョン色は皆無。何度もいうが、それよりはハードロックやライトなファンク感覚がある。
パーシー・ジョーンズが 1 曲ゲスト参加。
分かりやす過ぎる超絶プレイを惜しげもなく決めまくる。
4 曲目、6 曲目、7 曲目はかなりの聴きもの。
「Beneath」(0:54)
「Candy Store Politics」(5:05)変拍子 CREAM なギター・ロック。
ギター・ソロは「捻れた音の迸り」。フリージャズのサックスのアドリヴのようだ。
「Anvil Purse」(7:42)ハーモニクスからパーシー・ジョーンズ弾炸裂。なんだこのギターのテーマは。あえていえば「奇形の虫の羽音」。
そのギターに平然と絡むベース。傑作。
「Seven Zoid」(4:16)快速変拍子エレクトリック・フリー・ジャズ。ベースはランニング。手数の多いドラムスがカッコいい。
ギターはノイズの塊。
「Encounter」(6:20)MARS VOLTA ばりのヘヴィ・チューン。前曲からのつながりがカッコいい。
キチガイながらも悠然。他に喩えると、ZEPPLIN の「Presence」。
「Ginger Canyon」(5:34)ズンドコなドラムスとリリカルなギターによるギター・ロック。最近の KING CRIMSON に通じる作風。フランスの PHILHARMONIE にも。
「Destruction」(6:03)ナレーション入りのライトなファンク感覚あるギター・ジャズロック。やはり PHILHARMONIE のレペ氏と似た感性か。
「Mojo Tronic」(11:03)アコースティック・ギターをフィーチュアしたギター多重録音によるほんのりエスニックなテクニカル・チューン。
80' KING CRIMSON 的人力シーケンサ。
「Fadz」(2:20)ホールズワース的浮遊和音。序章か。
「Fadz Enlightenment」(12:55)こちらが本章。ドラムンベース的。ギターはホールズワース節を鬱屈させたもの。終盤は突き抜けてカッコいい。
「Quarter After Eight」(6:46)「太陽と戦慄」。ドラムスもチャレンジング。
「Freak Zoid」(8:43)豪快なガレージ・パンク・ジャズロック。
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