SHADOWFAX

  アメリカのジャズロック・グループ「SHADOWFAX」。 72 年シカゴにて結成。 第一作はギター・オリエンテッド・ジャズロックだが、それ以降はニュー・エイジ路線に転身した模様。 グループ名は、指輪物語に登場する魔術師ガンダルフの愛馬「飛蔭」から。

 Watercourse Way
   
Chuck Greenberg flute, clarinet, lyre, oboe, recorder, sax
Greg Stinson guitar, vocals, sitar
Phil Maggini bass
Stuart Nevitt drums, percussion, tabla
Doug Maluchnik piano, harpsichord, Moog synthesizer

  76 年発表の第一作「Watercourse Way」。 内容は、ギターを中心としたけたたましいテクニカル・ジャズロックにアコースティックなスパイスを効かせたもの。 この時代の多くのグループと同じく、MAHAVISHNU ORCHESTRARETURN TO FOREVER の影響下にある技巧的でアグレッシヴな演奏スタイルである。 そしてさらに、MAHAVISHNU ORCHESTRA の影響をモロに受けた "RELAYER" YES からも触発されたようだ。 その影響は、変拍子リフ+爆発的なソロを基本とするサディスティックなスタイルから顕著である。 ワイルドで手数の多いリズム・セクションとギターが緊迫感あふれるバトルを繰り広げるかと思えば、リリカルなアコースティック・ピアノがハッシと切り込み、スリリングななかにもモノトーンの音の美しさをしっかりと刻み込んでいる。 ギターの戦闘的なリフ/フレージングからくるイメージは、ハードロック的な音色も合わせて、やや硬度と密度の落ちるジョン・マクラフリンかジェフ・ベック。 バッキングのアルペジオ(フェイズ・シフタ系のエフェクトもなつかしい)でも異様な緊張感と迫力があるところが面白い。 キーボードは、ピッチベンドを多用するシンセサイザー中心。 管楽器も電気処理をしているのか、ギターやシンセサイザーと区別のつかない、サスティンのあるスピーディなプレイを見せる。 そして、特徴的なのはドラムス。 録音のせいもあるのかもしれないが、巻き舌気味のスネア高速打撃を延々と繰り出す、コブハム/ムーザン流のかなりえげつないスタイルである。 走り気味のシャフル・ビートや強引なフィルが妙に個性的である。 全体に演奏は、超一級の精度を誇るというよりは、音数と速度が売りの噛みつくような力勝負といった感じであり、フュージョンというには少し荒々しすぎる。 そして、この激しくぶった切るようなテクニカルな演奏と好対照を成すのが、ピアノやフルート、リコーダー、アコースティック・ギターらによる透明感あるアンサンブルである。 ニュー・エイジという言葉ができる以前のこのスタイルは、バロック風の室内楽にクラシック・ギターを加えたものとでもいえば、ピンとくるかもしれない。
  いわゆるフュージョン/ジャズロック・グループと比べてユニークな点は、先にも述べたように、アコースティック・ギターが巧みに使われることと、シタールやタブラを使ったエキゾチックな演奏が突如放り込まれることである。 もっとも、エキゾチックとはいっても、ジャーマン系のジャズロックのようなトライバル・ビートを強調した悠然たるスタイルではなく、音をぎゅうぎゅうに詰め込んで、どこまでもテクニカルに突っ走るタイプである。 この、テクニックを力で捻じ込んで鼻息荒い感じが、いかにもアメリカのグループらしい。 また、ヴォーカルは演奏に比べると格段に素人臭く、無表情で不気味だが、先のエスニック・テイストとともにフュージョン風に軽く流れてしまわないための歯止めになっている。
  管楽器は、控えめながらも硬質な音のアンサンブルのなかで、いいアクセントになっている。 そして、忘れてならないのがメロトロン。 疾走型の演奏に深みとシンフォニックな余韻を与えている。
  最終曲は、メロトロン・ストリングス(もしくはストリングス・シンセサイザー)とピアノが神秘的に響くなか、ツイン・ギターのユニゾンが朗々と歌い上げるロマンティックなシンフォニック・ジャズロックの大傑作。 透明感をもつ「癒しの音楽」というニュアンスも、既に現われているようだ。
  CD はウィンダム・ヒルの再発盤なので、オリジナル LP(右側) とはジャケットが異なる。 オリジナル LP のプロデュースはラリー・SYNERGY・ファースト。

  「The Shapes Of A Word」(7:29) 緊迫感と叙情性を併せ持って疾走する傑作。 ドラムス、ギターのやかましさはアコースティック・ピアノが緩和しているようだ。 管楽器のような音はシンセサイザー?

  「Linear Dance」(5:51)容赦なく切り刻むような演奏とジャーマン・ロック風の間の抜けたヴォーカル(BIRTHCONTROLHOELDERLIN ですかね)の奇妙なコンビネーション。 そのおかげでフュージョンに聴こえず、怪しいプログレ風味が強まっている。 この壊れた機械のように動き続ける演奏スタイルはアメリカものならでは。

  「Petite Aubade」(5:59)アコースティック・ピアノ、フルート、アコースティック・ギターによるアンサンブル。 ほんのりエキゾチズムの隠し味もあり、ラルフ・タウナーの OREGON を少し軟派にした感じ。 ニューエイジ・ミュージックに転身する将来を予見させる。

  「Book Of Hours」(6:37)ギターが引っ張るブルージーなジャズロック。突如インドなアクセントが放り込まれる。冒頭もニューエイジ・ミュージック調。

  「Watercourse Way」(6:04)アコースティック・ギターとクラリネットによるエキゾティックなアンサンブル。 ベースもウッド。

  「Song For My Brother」(9:41)ミドル・テンポの幻想曲。 メロトロンもフィーチュア。

(WD-0085)


  close