イタリアのネオ・プログレッシヴ・ロック・グループ「STRANAFONIA」。 90 年結成。 作品は四枚(ただし四作目は三作目の再発盤)。 玉石混交の黄金期における B 級バンドの正当後継者。
Roberto Alessi | drums, percussion |
Andrea Bondi | bass, vocals |
Manuel Bedetti | keyboards, lead vocals |
2014 年発表の第四作「Il Nuovo Rinascimento」。
2008 年に発表した三作目の自主制作盤の再発/再編集盤。
ギタリストが脱退してトリオ編成になっている。
内容は、ピアノ、チェンバロ、ハモンド・オルガン、メロトロンらプログレに欠かせないキーボード群を駆使したコンテンポラリーでジャジーなプログレッシヴ・ロックである。
存在感抜群の情熱あふれる歌語りを、クラシカルな鍵盤捌きを見せるキーボーディストとタイトなリズム・セクションが支えている。
ジャズロックというにはイタリア語ヴォーカルによるアヴァンギャルドな歌ものという印象が強く、またスタイルを模倣しただけのプログレ・フォロワーでも決してない。
やはり、ジャズを基本にさまざまな音楽に自由闊達に手を伸ばした現代のプログレッシヴ・ロックというべきだろう。
ヴォーカルは徹底して熱っぽく、メロディをたどりつつも常に語りかけるような調子で、濃密な情感を湛えて訴えかけてくる。
そのヴォーカルをオブリガートで追いかけ伴奏で取り巻くキーボードも、ピアノとメロトロンを始めとしてとにかく筆致が濃く、ロマンティック過ぎるほどロマンティックである。
多彩な打撃技をさりげなく出してくるドラムスにも注目したい。
ジャズのピアノ・トリオに近いニュアンスの演奏にやおらオルガンやメロトロンが噴出し、それに呼応してリズム・セクションも一気にアグレッシヴに変貌するなど、強引ながらも惹きつけられてしまう場面も多い。
往年のプログレとの違いは、大仰なしかけによるのではなくオーソドックスなジャズ・タッチの歌もののままギアをあげて一気にキーボード・ロックへと変貌してゆくところである。
十数年前のキーボード・ジャム・バンド(SOULIVE や MEDESKI MARTIN & WOOD など)のブームに影響を受けている可能性はある。
現代キーボード・プログレのメルクマール。
情熱的でありながらどこまでもスタイリッシュ、カッコいいです。
1 曲目「Micidiale」(5:54)ピアノの爪弾きが語り調のヴォーカルを取り巻くスタイリッシュな歌もの。
オブリガート、2 コーラス目からのバッキングのメロトロンが強烈。
ヴォーカルには英語も混じる。ガレージかストリートか街場のやんちゃなドラムスもいい。エンディングはハモンドでがっちり決め、走馬灯のような回想を・ストリングスの断片とピアノのざわめきで締める。
2 曲目「Tre」(5:32)トーン・ジェネレータ風のオルガンとメロトロンによる可聴域ぎりぎりの刺激で迫るサイケデリックなバッキングによるバラード、そして本編はクリアながらも無機質なオルガンのリフとピアノの打撃によるリズミカルなヒップポップ調の歌もの。
バッキングだけが妙にロマンティックなミスマッチ。
フランス映画風のモノローグ、アッパーに煽るドラミング、天高く唸りを上げるムーグ・シンセサイザー。
終盤はこのシンセサイザーのリードでグイグイと進む。
ガラスを弾くようなハモンドもいい感じだ。
3 曲目「Indio」(5:24)ピアノ伴奏による熱い歌ものロック。
間奏のチェンバロが好アクセント。
不器用で生硬ながらも奔放な感じが第一作の芸風に近い。
4 曲目「Effetto Domino」(8:52)メローな歌ものからスタート。
曲調はラヴ・ソングっぽいがタイトルと合わない。
中間部は感電しそうなハモンド・オルガンとベース、ドラムスによるフリー・フォームからピアノも加わったインプロへ。
キース・エマーソンもリック・ウェイクマンもやらなかったインプロヴィゼーションへのアプローチがいい。
5 曲目「Soltanto Se Insisti」(5:12)歌ものジャズロック。
フェンダー・ローズ系のエレクトリック・ピアノが飛び出し、豪腕ベースとバネの効いた腰の据わったインタープレイを見せる。
6 曲目「Anche Whitman E'Con Me」(5:05)ピアノがリードする現代音楽調の作品。
クランプス・レーベル風のインパクト。
素っ気なくも豊かな音色のピアノ。そして怪しげなヴォーカル・パフォーマンス。
7 曲目「Dottor Stramonio」(3:58)アコースティック・ギターの弾き語り風の作品。
あいかわらず歌があっちこっちに跳ね回る。
何かアジテートするような、煽り立てるような性急な調子である。ギターは凄腕であり、奔放にして妖艶なプレイを見せる。
8 曲目「Il NUovo Rinascimento」(9:04)情熱的でオシャレなジャズ・ヴォーカルものを熱すぎるハモンド・オルガンがプログレ化している。
ブレイク後はメロトロン・ストリングスが渦巻き、謎めいたモノローグやスキャットがざわめき、ピアノが波打つに至って完全にイタリアン・プログレの迷宮へ。
(RM00SPR)
Roberto Alessi | drums, percussion |
Ruben Maria Soriquez | guitar, vocals |
Andrea Bondi | bass, vocals |
Manuel Bedetti | keyboards, lead vocals |
guest: | |
---|---|
Francesca Durussel | oboe |
96 年発表の第一作「Per Un Vecchio Pazzo(老いた狂人のために)」。
内容は、往年のハードロック風味やジャジーなフュージョン風歌ものをオペラ調のイタリアン・ヴォイスで束ねたシンフォニック・ロック。
お約束の 7 拍子や目まぐるしい展開などプログレッシヴ・ロックの常套句を使いながらも、ネオプログレ特有のひ弱さが感じられないのは、シンプルだが筋の通ったアレンジに加えて、そういったポピュラー・ミュージックのテンプレートをしっかりと備えた上でアヴァンギャルドな芸術性を発揮しているためだろう。
ハイテンションの脂っこい歌唱でぐいぐいと前に出るヴォーカリストを彩るのは、難しいことはしないが派手な音で粘っこくフレーズと和音を紡ぐギター、多彩なアナログ・シンセサイザーとオルガン、徹底して暴れ続けるドラミング、そして弾力あるプレイで堅実に重心を支えるベースである。
楽曲はとっ散らかったといっていいほどに大きい振れ幅を持つが、それぞれの曲想にマッチしたバンド・アンサンブル(特にキーボードとドラムス)が巧みであり、ヴォーカリストが少し力を入れて引きずり回せばいかようにも音楽の幅は広がるようだ。
演奏に安定感があってなおかつしっかりと色があるとなれば、洗練されすぎていないところもかえって魅力となる。
特に、三拍子系のフォーキーでダンサブルなノリの演奏は、イタリア語とよく合っている上に素朴さと熱気がいい感じで訴えてくる。
また、オーボエとストリングスをフィーチュアするなどクラシカルなアレンジはきわめて正統的であり、センチメンタルなまでに繊細なロマンチシズムを湛えるバラード風の演奏から、テンポ・アップして暴力的なリズムとともにクラシカルな旋律を迸らせる HM/HR 風の展開でも、常に説得力がある。
轟々となるバンドの音をなだめ、神秘と哀愁を漂わせながら静かに音を巻き取ってゆくようなピアノもいい。
最終曲はロック・シンフォニーの傑作であり、かなり唐突で奇天烈なことに真顔で平然と、むしろ熱中して取り組んでいるような正しくプログレらしい演奏が勇躍繰り広げられ、往年のイタリアン・ロックが豁然と甦る。
ヴォーカル、ハーモニーはイタリア語。
1 曲目「Per Un Vecchio Pazzo」(6:30)
勢いと粘り、酸味の利きも濃厚なイタリアン・シンフォニック・ロック。
けたたましいギター、吹きすさぶ北風か溶鉱炉から吹き上がる熱風のようなオルガン、ひそひそ声から朗唱まで、テンション高い独りよがりヴォーカル。
若気の至り丸出しの二拍三連の嵐が強引なドラマを引きずり回す。
多才で突っ込み気味のドラムスも好み。ライドシンバル、いい音です。
ライヴな熱気満載。
2 曲目「Viola E'il Tramonto(菫と夕暮)」(4:38)
テクニカルかつひん曲がった器楽が特徴のイタリアン・ロック。
間奏部ではアヴァンギャルドな和声と変拍子を交えたジャズロック調でたたみかけるも、骨格はメロディアスでエモーショナルな歌ものである。
ムーグ・シンセサイザーが印象的。時々ズッコケるリズムも味わいあり。終盤は、ワウ・ギターとオルガンでぐいぐい引っ張る。
3 曲目「Io Sono Lo Zar(我は帝王)」(4:09)
性急過ぎるヴォーカルとリズム・セクションが追いかけっこするようなハイ・テンションの歌ものシンフォニック・ロック。
ギターによるテーマは力強くしなやかだが、イタリア版 ANGE のようなヴォーカルが火を点けて演奏にも引火する。
緩急自在。
つぶやきと奇声がオーヴァーラップするオープニングが怪しい。
4 曲目「Che Non Sia Prigionia(囚われでなくとも)」(6:07)
エレクトリック・ピアノ、オシャレにチューンしたパーカッション系オルガンが彩るシャンソン風の歌ものロック。
管弦楽系シンセサイザーは花吹雪を舞い上げる。ワルツに揺れるギターも初めはジャジー。
次第にヘヴィなサウンドが入り交じってくるが、そのミスマッチが昔のハードロック・バンドのようで楽しい。
大陸プログレらしい佳作。
5 曲目「Sulla Baia(湾を見下ろして)」(2:17)
メロトロン・ストリングス風の弦楽奏が支える雲の垂れ込めた陰鬱な海原を寒風とともに渡るのはオーボエの典雅な調べである。
クラシカルなインストゥルメンタル・チューン。「かもめの歌」を思い出すなというほうが無理。
6 曲目「In Oceano(大洋にて)」(3:35)
オルガンとクリーン・トーンのギター・アルペジオが密やかに睦みあう序奏を経て、緩急を大きく変化させつつ粘っこく迫るシンフォニック・インストゥルメンタル。
ANGLAGARD 風の重厚な演奏である。
ピッチを上げるときの思い切りいい「火」の点き方がイタリアらしい。
ムーグ・シンセサイザーがアクセントとして鮮やかに機能。
前曲は序曲のようだ。
7 曲目「Nel Buio Balla La Brace(暗い炭袋の中で)」(5:26)
スカッと吹っ切れた、しかし怪しげなハードロック。
ぐにゃぐにゃのムーグ・シンセサイザーがここでも存在感を放つ。
魔法のマントのように一閃で雰囲気を変えるアコースティック・ピアノによるブリッジ、そしてさらにマジカルなメロトロン、ストリングスのざわめき。
ミステリアスな場面で大見得を切る巻き舌ベルカント/ハーモニーと大胆な舞台転換はイタリアン・ロックの醍醐味である。
取ってつけたエンディングも潔し。
8 曲目「Il Viaggio Verso Oriente(東方への旅)」(3:59)
驟雨のように降り注ぐメロトロン・ストリングスに包まれた哀愁のメロディック・ロック・バラード。
MARILLION 風の、つまりネオプログレ然とした作品である。
センチメンタリズムとダンディズムの調合を誤ったような奇妙な作風ではあるが、すでに 20 年を越え、立派にジャンルとして確立されている。
9 曲目「La Storia Si Ripete In Spirali Infinite(無限の物語)」()
70 年代プログレ再興を掲げたシンフォニック・ロックの力作。
攻めるギターとオルガンと勇壮なリズム・セクションによるパワフルな器楽、幻想的なメイン・テーマ、ハードロックとの区別困難なヘヴィな粘りとキレ。
モノローグと SE は CORTE DEI MIRACOLI そのものな一方で、ジャジーなキーボード・アンサンブルよるブリッジにはモダーンな響きがある。
唐突に GENESIS な幕引き、BANCO の名作を思い出させるエピローグの SE など、プログレ好きは間違いなさそう。
(LIZARD 5490062)