チェコ・スロヴァキアのシンフォニック・ロック・グループ「SYNKOPY & Oldrich Vesely」。 61 年結成のグループを 80 年キーボーディスト、オルドリッチ・ヴェゼリをリーダーに再編。 作品は四枚。90 年解散。
Oldrich Vesely | Micromoog, ARP Omni, Clavinet, Fender piano,organ, piano, vocals |
Vratislav Lukas | Ovation acoustic guitar, Mircomoog, Clavinet, cello, vocals |
Pavel Pokorny | Micromoog, ARP Omni, organ, Fender piano, violin, vocals |
Emil Kopriva | guitar, vocals |
Petr Smeja | guitar |
Jiri Rybar | drums, percussion, Micromoog, vocals |
81 年発表の第一作「Slunecni Hodiny」。
アルバム・タイトルは「Clockwise」の意味。
内容は、70 年代プログレッシヴ・ロックのエッセンスを積め込んだ、ハードなシンフォニック・ロック大会。
ハードかつクラシカルな曲調を基本に、キーボードとヴォーカルがごり押しし、ほとんどテンションを落とすことなく、一直線に突き進む演奏である。
迸るキーボード、強いブルーズ・テイストのあるヴォーカル、テクニカルなギターらが、ひたすら叩きまくるドラムスとともに、繰り広げる一大スペクタクルである。
曲間にはほぼ切れ目がない、つまり無窮動であり、全体で一つの大きな作品になっているといってもいいだろう。
ムーグ、アープの両シンセサイザーにオルガン、エレピも用いて、これでもかといわんばかりに分厚く音を塗り込め、怒涛の勢いでひた走る。
ギターによるハードロックやブルーズ風味も交えるが、基本は、EL&P に迫るパワフルなハードネスと YES 流のファンタジックな演出の効いたプログレッシヴ・ロックの系統である。
まさしく、ジャケット通りの音の奔流だ。
この手の音楽は、古臭くセンスに欠けると見なすか、涙を流して聴き惚れるかどちらかしかない。
もちろん、男性的なヴォーカルを中心にした叙情と哀愁のシーンもたっぷりある。
昨今、たおやかなケルト風味を漂わすアコースティックでシンフォニック、やや女性的なサウンドが一つの流れとなっているが、個人的にこういった音はメロディアスで叙情的でありこそすれ、いわゆるプログレとはニュアンスが異なると思う。
そして、シンフォニック・ロックというのは、後期ロマン派からワーグナー、ストラヴィンスキー、バルトークのロック的解釈という面が強いと思っているので、本作のような男性的な音こそが正鵠を射たものに感じられる。
無論、これは雑談です。
5 曲目は、ファン同定のためのリトマス試験紙、いや試金石として最適の重厚な作品。
全体に YES や EL&P のインストゥルメンタル・パートを思わせ、ICONOCLASTA や SOLARIS とも共通する音である。
5 曲目から発揮され始める壮絶な昂揚は、そのまま長いクライマックスとなり、8 曲目の大団円を迎える。
「Introdukce」(2:54)
「Hul V Slunecnich Hodinach」(6:04)
「Jsi Nadherne Praveka」(8:21)
「Intermezzo」(2:14)
「Cerny Racek」(7:41)
「Klavesove Extempore」(4:03)
「Vodopad」(3:39)
「Toulka Je Obla」(7:28)
(493163 2)
Oldrich Vesely | piano, organ, Hohner clavinet, Micromoog, Korg polysix, vocals |
Milos Makovsky | electric & Ovation acoustic guitar, bass |
Pavel Pokorny | piano, organ, Hohner clavinet, Micromoog, Polysix, housle, violin, vocals |
Vratislav Lukas | cello, bass, Ovation acoustic guitar, vocals |
Jiri Rybar | percussion |
84 年発表の第二作「Kridleni」。
内容は、ツイン・キーボードを含む五人編成によるハード・タッチのシンフォニック・ロック。
楽曲は前作に比べるとやや小粒でありポップにこなれた面もあるが、ハイトーンながらも男臭いヴォーカルは変わらず、サウンドやメロディアスな表現にも「濃さ」がにじみ出ている。
前作のような攻めのプログレ・テイストからハードポップ、アリーナ・ロックへと若干の変化を遂げた印象だが、クラシカルなタッチがなくなったわけでは決してない。
シンセサイザーの咆哮やギターの攻撃的なリフが直線的なハードロックとしての面を強調し、また、ピアノの演奏が歌い込みバラードの伴奏という文脈で現われるために、敏感なプログレ・ファンの耳をとらえ難いだけだ。
メロトロンとともに不協和音や変拍子を用いた怪しい展開は健在であり、従来のようなシンフォニックに高まるときの盛り上がり方にも遠慮がない。
この辺に「素地のままプログレ」という辺境世界らしさがあふれている。
プラスティックで安っぽいサウンドのポリフォニック・シンセサイザーが幅を効かせているところや、ハードロック的な速弾きギターに 70 年代後半以降のやや様式化したものを感じてしまう可能性もある。
それでも、冷ややかなシンセサイザーのオスティナートで強引に押し切るような演奏や一見時代錯誤的なファンク、ロックンロール調が、英米とは異なる東欧ならではの個性と気づけば、84 年にして出来過ぎの内容である。
むしろ、EL&P がなぜこういう路線にいけなかったのかをいぶかるべきである。
アコースティック・ピアノやムーグは、叙情的なアクセントとして機能する場合には非常にいい感じだ。
リズム・セクションは、70 年代的な手数を惜しまないプレイ。
また、ヴォーカルはいかにも男臭く熱気にあふれ、コブシの効かせ方は、ハードロックというよりはソウル、ゴスペル系である。
エキゾチックな原語の響きは非常に魅力的ではあるものの、同時に好みを分けるポイントにもなり得るだろう。
また、讃美歌風のハーモニーも用いられている。
一部しか分からないタイトルから類推するに、哲学的テーマをもつ組曲形式の作品ではないだろうか。
楽曲は、二つのシンセサイザーとギターによるスリリングなアンサンブルに加えて、多声のコーラスやチェロなどによるブリッジも用いて、ドラマティックにうねりながら間断なく展開してゆく。
B 面はアコースティックなタッチからエレポップ調まで幅広い表現が現われる。
終盤のクライマックスは U.K. を思わせるスピーディな演奏が続く。
本作の英語盤「Flying Time」も発表された。
「Kridleni」(1:23)
「Kyvadlo(pendulum)」(1:37)
「Homo Sapiens」(5:13)
「Krupej(drop)」(3:49)
「Krat Kolikrat(By how many times)」(2:48)
「Spor(cause)」(2:15)
「Leco」(0:53)
「Blues O Vycepu」(4:01)
「Kytarove Extempore」(1:11)
「Modrinna Soustava」(4:38)
「Srdce」(5:30)
「Masox」(3:05)
「Souzneni」(2:25)
「Kridleni」(4:41)
(STEREO 8133 0407)