フランスのプログレッシヴ・ロック・グループ「TERPANDRE」。 作品は自主制作による一枚のみ。 発掘ものとしては破格の内容です。 パトリック・ティルマンは、FORGAS や ZAO でもプレイするフランス・プログレ御用達ヴァイオリニスト。
Bernard MONERRI | guitar, percussion |
Jacques PINA | piano, electric piano, clavinet, mellotron |
Michel TARDIEU | synthesizer, electric piano, mellotron |
Patrick TILLEMAN | violin |
Paul FARGIER | bass |
Michel TORELLI | drums, percussion |
80 年発表のアルバム「Terpandre」。
78 年録音。
内容は、メロトロン、アナログ・シンセサイザー、ピアノらを活かしたジャジーなシンフォニック・ロック・インストゥルメンタル。
豊かな音色のツイン・キーボードとキレのいいリズム・セクションが余裕をもって歌い上げる、叙情的にしてスリルもある好作品集である。
ジャズロック風のシャープな展開にアナログ・シンセサイザーが唸りを上げるのみならず、メロトロン・フルートまでもが朗々とたなびく。
これはなかなか例のないスタイルだ。
ヴァイオリンがキーボード・アンサンブルをうまく補完して音の面取りを行い、なめらかなタッチに仕上げているのも見逃せない。
アンサンブルは、ピアノとメロトロン、またはメロトロンとムーグ・シンセサイザーなどのキーボード・コンビネーションを中心にしている。
そこには優美な気品があり、ヴァイオリンが加わることで、さらに音全体が美しい光沢を放っている。
メロトロン・ストリングスとメロトロン・フルートは全編にわたってテーマをリードする。
リズム・セクションは丹念かつ躍動的に刻むタイプであり、メロディアスでソフト・タッチのアンサンブルに適切な運動力と緊張感を与えて、このみごとな構成を支えている。
テーマとサウンドの魅力だけではなく、室内楽調の丹念なポリフォニーや強いアクセントを持つ近現代クラシック調の攻撃的なトゥッティも巧みに配されており、クラシカル・ロックのファンにも受けそうだ。
ロングトーンの美しいギターやヴァイオリンも交えて、おだやかで品のある主題をゆったりと奏でるスタイルは、ジャジーであるとともに、初期の KING CRIMSON や GENESIS と同質のリリカルで翳りのある表現スタイルにつながる。
なじみやすいフレーズで歌うキーボードに着目すると、GREENSLADE に通じるところもある。
メロトロンの効用もあるだろうが、それ以上に、美しさの奥底に英国フォーク風の無常感ある哀愁やブルーズ・フィーリングが沈殿しているせいだろう。
トラジックな響きと可憐な愛らしさが共鳴しあい、全体のイメージをほの暗くも深みのあるものにしている。
ジャズとクラシックの微妙な配分をもつサウンドは、同国の CARPE DIEM にも通じるが、こちらの方が演奏が本格的である。
また、70 年代終盤の音だけあって、5 曲目の冒頭のような KING CRIMSON タッチのヘヴィな演奏をジャズ・ピアノ、ジャズ・ギターが一気に払拭してクール・ダウンするところや、メロトロン、ティンパニとともに盛り上がるもどこかニューエイジ風の淡いタッチになるところなどが興味深い。
メロトロンにこだわり続けた果てのジャズロックという見方もできそうだ。
やや平板な製作ではあるが、楽曲の良さがそれを補って余りある。
ユーロロックらしさは満点。
全編インストゥルメンタル。
3 曲目のみミシェル・タデューの作曲で、ほかの作品はジャッキー・ピナの作曲。
プロデュースは、セルジュ・ムソーニ。
「Le Temps」(7:00)あおり気味のアップ・テンポにもかかわらず、シンセサイザーのレガートなテーマのゆったりとした語り口でとうとうと流れてゆくイメージのあるシンフォニック・ロック。
ファンタジックな浮遊感を小気味いいリズムが支える演奏は、全編に現れるメロトロンのせいもあって、長調の「エピタフ」といったところ。
あたかも、ファンタジーとは明朗なる魔術なのだ、と説くような作風である。
ギターやヴァイオリンもしなやかにメロディを歌ういい演奏を見せている。
ヴァイオリンのプレイは、リズムレスの緩徐シーンでのロマンティックな表現から、アップ・テンポのシーンでのスリリングなリード、オブリガートまできわめて効果的。
イタリアン・ロック、フレンチ・ロックなど大陸のプログレに求めてしまうイメージの最大公約数的なサウンドだ。
5:40 の場面転換を準備するメロトロン・ストリングスのたなびきは、GREENSLADE そっくり。
CAMEL、GREENSLADE、MAHAVISHNU ORCHESTRA、CARPE DIEM のプログレ的エッセンスを煮詰めたような内容である。
「Conte En Vert」(4:54)スロー・テンポのスペイシーなバラード風作品。
ナイト・ミュージック風のジャジーな AOR タッチとともに、次第にシンフォニックな盛り上がりを見せる。
テーマの古びたメロトロン・フルートをモダンでスタイリッシュなギターやキーボードが守り立てる。
3:00 付近でゆっくりと底から湧き上がり、感動のクライマックスへと導くのは、圧巻のメロトロン・ストリングスとムーグ・シンセサイザー。
中間部こそあれ、基本的にテーマの繰り返しというシンプルな展開にもかかわらず飽きさせないのは、ひとえにメロトロンなどサウンド面の魅力のせいだろう。
「Anne-Michaele」(5:23)圧倒的なメロトロン・フルートとアナログ・シンセサイザー、ピアノのトリオによる小さなオーケストラの描く清潔感あるファンタジー。
清冽な泉の泡のように湧き立つピアノが美しい。
この世界では消え入りそうに繊細に聴こえるが、別の世界ではしなやかで健やかな音であるに違いない。
ドラムレス。
ここまで二曲でもやや感じられたが、この内省的な印象は、マイク・オールドフィールドからだろう。
「Histoire D'un Pecheur」(5:53)気まぐれな展開を繰り広げる奇想曲風変拍子ジャズロック。
序盤と終盤は、レゾナンス効果を生かしたシンセサイザーが独特のユーモラスな調子でリードする、鋭いアタックの強勢がある演奏。
そのアクセントがまろやかなキーボード・サウンドと好対照を成している。
メロトロン・ストリングスの古式ゆかしいオブリガートや花が散るようなピアノのワン・ポイントもいい。
アンサンブルが、呼吸するように自然な抑揚で浮き沈みするところも幻想味を増すのに効果的だ。
デリケートな MAHAVISHNU ORCHESTRA。
「Carrousel」(13:20)
ギター、ピアノ、ヴァイオリンによる諧謔味あるカンタベリー・ジャズロック、デヴィッド・ベノワ辺りに通じるエレガントなキーボード・フュージョン、圧迫感ある MAGMA 風のアンサンブル、メロトロンとムーグを中心とする古式ゆかしいシンフォニック・ロックなどが、絶妙の配合で交差する美しい大作。
狂言回しは、クラシカルなタッチのアドリヴが冴えるピアノ。
「Conte En Vert(Live version)」(4:46)CD ボーナス・トラック。
「Musique Pour Clair Obscur(Live version)」(8:20)CD ボーナス・トラック。
(FGBG 4150.AR)