イタリアのネオ・プログレッシヴ・ロック・グループ「TOWER」。 VinylMagicの"New Prog 90"シリーズの一つとしてデビュー。 総合プロデューサーのベペ・クロヴェッラ自らがメンバーとしてキーボードを担当する。
Paola Mei | voice |
Elio Rivagli | drums |
Beppe Crovella | Hammond, piano, Minimoog, Mellotron, synthesizer |
94 年の作品「Tales From A Book OF Yestermorrow」。
今のところこれが唯一の作品のようだ。
内容は、ロマンチックなハイトーン・ヴォーカルとキーボードが縦横無尽に活躍する純正ネオ・プログレッシヴ・ロック。
ヴィンテージ・キーボードを用いているのだろうが、最終的な音は、いかにも現代的でクリアなものだ。
演奏は、クラシック、ジャズを交えた華麗なるもの。
キーボーディスト(クロヴェラ氏である)が演奏のすべてを掌握しており、あらゆる種類の音で、空間を埋め尽くさんばかりに弾き倒す。
また、ヴォーカリストは、PAVLOV'S DOG とまではいかないにしろ、同じ系統のボーイ・ソプラノ系である、というか女性か。
歌詞がすべて英語なのは、ワールド・マーケットを意識しているのだろう。
そういえば曲のタイトルも、わりとポップス風である。
作曲はすべてベペ・クロヴェッラ。
1 曲目「There Is Music Left To Be...Write!」(8:38)。
ヴォーカルがやや甘目のポップス系(あえていうならジョン・アンダーソンだが)なのが、初め、違和感がある。
特に、末尾のコブシというか、ジャズ・ヴォーカル風のポルタメントが曲調に合わない。
しかし、それを補って余りあるキーボード・プレイの充実。
ドラムスは軽め。
ヴォーカルも、慣れるとハイトーンが曲調にあっている気がしてくる。
ハモンド・オルガンは当然として、シンセサイザーの音がよく、複数キーボードの組み合わせによるアンサンブルが明解で聴きやすい。
ストリングスも重みと豊かな表情のあるみごとな音色。
だんだん讃美歌を聴いているような気がしてくる。
2 曲目「Ann」(6:19)。
トニー・バンクス風のピアノが彩るロマンチックなヴォーカル・ナンバー。
ストリングス、ピアノなど、まさに I POOH を思わせるソフトなラヴ・ロック。
いや、歌入りリチャード・クレイダーマンか。
しかし、インストでは一転してファンファーレ調のムーグとハモンドのコンビネーションだったりする。
おまけに、ピアノの背後を取るのがメロトロン。
ギター・ソロのようなムーグ・ソロには、一瞬だが、センスを感じさせる。
3 曲目「The Box」(5:12)。
コラージュ、SE が取り巻くめまぐるしいなイントロ。
ややシリアスなピアノもあいまって、初めて怪しげな雰囲気が訪れる。
ヘヴィなハモンド。
ヴォーカルも、調子がぐっと抑えられている。
しかし、声質的に不向きなのは明らか。
シーナ・イーストンみたいだ。
サビに入ると、80 年代風エレ・ポップ。
しかし、ユニゾンの相手がヘヴィなハモンドなところが面白い。
ピアノは、またもモダン・ジャズ風。
ライド・シンバルがいい音で煽る。
ジャジーでミステリアスなインストとエレ・ポップの合体したナンバー。
三流ニューウェーヴ。
4 曲目「Sailing Too Long」(7:07)。
厳かというよりは、ダークダックス風のアカペラ混声コーラス。
ピアノ伴奏による哀愁のバラード。
このくらいの音程だと、なかなかいい声だ。
ハモンドがヴォーカルに絡むと、一瞬にして PROCOL HARUM 風に。
劇的な展開を予測させる演奏である。
サビは伸びやかで感動的。
そのあとの 8 ビートでスネアを叩き過ぎるから、軽くなるのだ。
間奏はハモンド・オルガンのゆったりした演奏。
ヴォーカル・パートを経たハモンド・オルガン・ソロは圧巻。
ジャズ・テイストたっぷりに弾き捲くる。
70 年代テイストあふれる極上のバラード、もしくはハイテク PROCOL HARUM。
テーマの元ネタはベートーベン辺りか?
5 曲目「For A Moment Of Love」(4:33)。
ドラマチックなストリングスと透徹なピアノによるクラシカルなナンバー。
ヴォーカルは、オペラ風の風格を見せる。
ミュージカルのヒロインのような、みごとな熱唱である。
演奏は、コンチェルト・グロッソを思い出さずにはいられない。
イタリア音楽の伝統を感じさせる傑作。
胸が熱くなる。
6 曲目「In My Life」(6:02)。
幻想的なシンセサイザー・オーケストレーションを用いたナンバー。
ヴォーカルは、前曲に似た雰囲気だが、ややリラックス。
かわいらしいピアノやオルガン、深く響く歌声は、聖夜を彩るクリスマス・ソングのよう。
間奏は、ハモンド・オルガンのテーマ演奏をストリングスが静かにもちあげてゆく、感動的なもの。
後半ヴォーカルは、ジャズ、ゴスペル調の崩しも見せる。
7 曲目は組曲「Rondo(We Come Back)」(1:50+2:09+2:08)。
5 拍子のリフが強烈な、デイブ・ブルーベック作のスタンダード・ナンバー「Blue Rondo A La Turk」(THE NICE 時代のキース・エマーソンの十八番)を含む。
ハイ・テンションのフレーズを、ハモンドやムーグ、ピアノで、エネルギッシュにたたみかける。
ドラムスも、かけあいなどに手数が多く、カール・パーマー風である。
完全なる様式美の世界であり、拍手というよりは合いの手、賞賛より大向こうからのかけ声が似合う。
インストゥルメンタル。
優美なヴォーカルとキーボードを中心に、華麗な演奏を繰り広げるポップス風キーボード・ロック。
ロマンチックなピアノ、ストリングスが、ヴォーカルを守り立て、ジャジーなハモンド・オルガンのまろやかな音色で魅了する。
曲の展開はなかなか計算されており、アグレッシブなプレイも感極まっての暴走というよりは、華やかな演出の一つのようだ。
キーボードは、ほぼ 70 年代のヴィンテージものらしく、全般に懐かしい音になっている。
ドラムスが軽いのが気にかかるが、あくまで歌もののバックということなのでしょう。
さて、ポップスと EL&P を結びつけるという試みは、かつて TRIUMVIRAT がみごとに成し遂げていたが、これは SYNDONE、EMPIRE に続くネオ・プログレッシヴ・ロック版ということになる。
唯一難点は、どこかで聴いたような旋律が多いこと。
それでも、その曲も特徴のはっきりしたいいメロディをもっている。
どプログレを期待してはいけない。
素直に音に耳を傾ければ、なかなかしみることが分かるはず。
プログレ復権にアイデアを出し捲くるクロヴェッラ氏の活躍を期待しよう。
もっとも、本作は、最終曲を外して、プログレといわずに出した方が売れるような気も。
(VMNP 010)