EMPIRE

  イタリアのネオ・プログレッシヴ・ロック・グループ「EMPIRE」。 作品は一枚。 ドラマーは SYNDONE 兼任。 企画ものっぽい。

 Back To Knowledge
 
Edo Rogani keyboards
Paolo Sbuelati drums
Rosanna De Luca vocals

  94 年発表の唯一作「Back To Knowledge」。 内容は、キーボードをフィーチュアしたニューウェーヴ風ポンプ・ロック。 女性ヴォーカルをフィーチュアした歌ものと、キーボードが縦横無尽に活躍するインストゥルメンタルが交互に現われる。 キーボードのプレイは、ヴィンテージ品を駆使した 70 年代大御所風の忙しなくアグレッシヴなスタイルである。 一方、女性ヴォーカルはみごとなまでにクールでニヒリスティックなニュー・ウェーヴ・スタイル。 この組合せは、かなり新鮮だ。 全曲「The」で始まるタイトルであったり、CD カバーの裏側に「帝国」を作り上げた男の訓話めいたものが載っていることなどから、コンセプトものという可能性もある。 ヴォーカルはすべて英語。 プロデュースはベペ・クロヴェッラ。

  1 曲目「The Conquest」(8:45) エキゾチックにしてクラシカルなテーマを軸に、勇ましく気持ちよくかっ飛ばすキーボード・ロック。 徹底したプログレ・キーボードとニュー・ウェーヴの合体というきわめて不思議な内容だ。 モダンなヴォーカルのせいか EL&P よりは U.K. に近いかもしれない。 キーボードのフレーズにはどこかで聴いたようなクラシックが散りばめられている。 MASTERMIND なんかと志は近いのかも。 80 年代ポップスとプログレ・キーボード・ロックの合体。 今聴くとかなり古臭いです。

  2 曲目「The Power」(7:24) アップ・テンポでダンサブルなデジタル・ポップ。 ソウルフルなハイトーン・ヴォーカルがセクシーだ。 キーボードはカラフルな伴奏ときらきらとなめらかな間奏で活躍。 シンセサイザーの音色の変化が多彩。 ドラムスはオクタパッドも用いて華麗な決めを連発する。

  3 曲目「The Book Of Tales」(5:16) 華やかなキーボード・インストゥルメンタル。 ローマ史劇を思わせる勇壮なテーマを軸に、小気味いいハモンド・オルガン、さまざまな音色のシンセサイザーを駆使してゆく。 いくつかのテーマを用いた堅実なアンサンブルと奔放なソロを組み合わせた演奏には、しなやかさと上品さがある。 そして聴きやすい。 シンセサイザーはややテクノがかった感じ。 バスドラを連打するわりにはリズム、テンポは軽やかである。 アメリカの CAIRO に近い、ポップなインストゥルメンタル・ナンバーだ。

  4 曲目「The Evolution」(5:53) やや時代錯誤なテクノ風ニューウェーヴ・ポップ。 歌メロが、あまりに「それ風」でビックリする。 この内容では、切れのいいシンセサイザーがややもったいない。 ちなみにヴォーカルはセクシーです。 「...tion」という脚韻は、いかにも 80 年代初頭のテクノ・ポップ風。

  5 曲目「The Planet」(4:19) やや軽めながらもクラシカルなキーボード・インストゥルメンタル。 明暗表情をつけながら(ダークなテーマは EL&P の「Toccata」に似る)、基本はシャフルで楽しげに突き進んでゆく。 邪悪なピアノ、オルガンもあるが、イノセントなイメージのシンセサイザーが軽やかに走ってゆく展開が主である。 音が軽いせいか、メリハリに欠けるのが残念。 ホルストの例の作品との関連は不明。

  6 曲目「The Immortal」(6:27) 硬派なヴォーカルをフィーチュアしたテンポのいいニューウェーヴ風ロックンロール。 POLICE からガールズ・ポップ、AOR までさまざまなスタイルを見せるが、そこへ 16 ビート基本の手数の多いドラムスとクラシカルなキーボードがサポートに入るところが珍しい。 メインストリーム風の洒落た音に、いかにもな不協和音やクラシカルなフレーズが散りばめられる面白さ(というか異様さ)。 ヴォーカルはクリシー・ハインド風の不良っぽさを強調している。 個人的には HEART を思い出しました。 ややパッチワーク気味。

  7 曲目「The Nite」(5:53) シンセサイザーとオルガンによるスリリングな「禿山の一夜」。 ストリングス、 ブラスをオルガン、シンセサイザーにおきかえてじつに楽しそうである。 たしかにこの曲は和声、フレーズともに、妙にこういうアレンジで活きてくる。 ムソルグスキーという人はアル中で死んじゃったくらいなので、当時の人としては変わってたのでしょう。 EL&P が「展覧会」ならこっちは「禿山」だ!、ぐらいの気持だったのだろうが、すでに多くのバンド(TRACENEW TROLLSら)の後塵が舞っているので、さほどインパクトはないような...。 後半の叙情的でメロディアスな展開の方がいい。 ドラムスは、ニューウェーヴの超シンプル 8 ビートと最近の HM の手足連打系の混ぜ合わせ。 インストゥルメンタル。

  8 曲目「The Artist」(1:36) 美しいピアノで始まるバラード。 「君がうまくいえないことを音楽が伝えてくれる」という歌詞が陳腐だが泣かせる。 伸びやかな歌唱ときらめくピアノ。 短いがこのアルバムでは好印象の残る作品だ。

  9 曲目「The Empire Goes On」(8:28) ポップなクラシカル・キーボード・ロック。 FOCUSTRACE のような愛らしいテーマを軸に、さまざまなキーボードやテンポ/リズムの変化をおりまぜた力作だ。 GENESISEL&P の中間のようなクラシカル・アンサンブルが繰り広げられる。 永遠に続いてゆくようなイメージを与える、みごとな終曲である。 もっとも、5 分でもよかった気もする。


  ポップな女性ヴォーカル入りキーボード・ロック。 インスト・パートは音質こそモダンで軽めだが完全に EL&P に通じるスタイル。 1 曲目の 3 連のテーマや 3 曲目のオープニング、ファンファーレからハモンド・オルガンとシンセサイザーで突っ込んでゆく辺りはその手のファンにはたまらないところだろう。 全般にテーマ、アンサンブルはなかなか決まっている。 そうなると余計に不思議なのが、この女性ヴォーカルの存在。 器楽と歌ものが全然雰囲気が異なり、あたかもニューウェーヴとプログレのコンピレーション(そんなものがあればだが)のようになっている。 4 曲目のようなエマーソン風のオルガンが伴奏するポップ・チューンというのも悪くはないが、こちらの頭が堅いせいかなかなか「入って」こない。 クロヴェラ氏による、プログレ復権のための実験の一つととらえるべきだろう。

(VMNP 09)



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