イタリアのネオ・プログレッシヴ・ロック・グループ「SYNDONE」。 89 年結成、93 年解散。 イタリアン風味たっぷりのキーボード・トリオであり、スピード感あふれる演奏と伸びやかなリード・ヴォーカルでポップな曲をかっ飛ばす。 2010 年、十八年ぶりの新譜発表。 最新作は 2021 年発表の 「Kama Sutra」。今の方が「いい」です。
Nik Comoglio | hammond, mini-moog, Juno dist, keyboards, orchestration, composition |
Riccardo Ruggeri | vocals, vocoder, lyrics |
Gigi Rivetti | acoustic & electric piano, clavinet on 8, mini-moog on 8 |
Marta Caldara | vibraphone, xylophone, percussion, composition |
Maurino Dellacqua | bass, taurus bass |
Martino Malacrida | drums |
guest: | |
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Vittorio De Scalzi | flute on 3,5 |
Viola Nocenzi | vocals on 5 |
Gigi Venegoni | guitar on 8 |
2018 年発表の第六作「Mysoginia」。
内容は、重厚で耽美、濃密にしてスタイリッシュに決めるジャズ系プログレッシヴ・ロック。
管弦楽の厳粛さとキーボードが主役のジャジーな軽快さを備え、挑戦的な表情で、ブラックホールのように真っ暗な既成音楽の空隙を一気呵成に踊りぬける。
イタリアン・ロックらしくロマンティックに歌いあげるところもあるが、陰翳のグラデーションも巧みであり、時に、俊敏な技巧と血糊のようにべたつく熱気が融けあうようなイメージもある。
そうなると、まるで GOBLIN の作品のようなムードも出てくるが、怪奇、邪悪というよりはワルっぽさがちらつくところは、根っこはやはり「Tarkus」辺りの EL&P である。
ヴォーカルの表現は、現代風のオペラ、あるいは、怨歌、あるいは、狂おしいラヴ・ソング。
中性的な表情のなまめかしい際どさも堂に入っている。
「クール」さやシニシズムとは縁遠く、気品と野卑さが入り交じる、情熱的でストレートで甘ったるい、大陸南部のロックである。
前作に続いて、第一作、第二作の作風に近いけれん味や鼻っ柱の強さを見せていると思う。
生真面目にして気まぐれ、つまり、若い。
その一方で、フルートやヴィヴラフォン、ハモンド・オルガンが、まるで大人の感傷をさらけ出すかのように、くっきりと浮かび上がるようになっているところもうれしい。
1 曲目のインストゥルメンタルがどエラくカッコいい。
クラシックとジャズ、教会、ヴォードヴィル、街場のざわめき、古い映画のサウンドトラック、などなどが郷愁を核に一つになった、やはり芸術的というべきロックである。
自然、若人よりは、大人向けですね。
8 曲目以外はエレクトリック・ギターはない。
そしてその唯一曲のギタリストは、なんと ARTI のジジ・ヴェネゴーニである。
リリカルなフルートは、ヴィットリオ・デ・スカルツィ。
ヴォーカルは英語とイタリア語。
プロデュースはコモーリョ。
「Medea」(3:38)
「Red Shoes」(4:00)
「Caterina」(6:38)
「12 Minuti」(6:00)
「Evelyn」(4:22)
「Mysoginia」(2:58)
「Women」(3:49)
「No Sin」(6:33)
「Amalia」(5:58)
(FAD-021)
Nik Comoglio | piano, keyboards, lead vocals |
Paolo Sburlati | drums |
Fulvio Serra | bass |
guest: | |
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Tony Seffusatti | accordion |
Patrizia Caramazza | chorus |
Alessandra Piovera | chorus |
92 年発表の第一作「Spleen」。
内容は、キーボードをフィーチュアした軽快なラテン・ポップス調シンフォニック・ロック。
苦悩する青年を描いたトータル作らしいが、苦悩に対応するような音は見当たらない。(つまり明るい、基本)
サウンドは、いってみれば、プログレ + フュージョン + ポップス。
そして、EL&P をモダンにしたような、華やかなキーボード・ワークと、情熱的なヴォーカル、キャッチーな楽曲と、三拍子が揃っている。(本家は、そのサウンドのままにポピュラー路線に走って惨敗したわけだが)
さすがに現代のグループらしく、いかにもプログレ風のクラシカルなアレンジとともに、テクニカルなリズム・セクションに代表されるジャズ/フュージョン調をも吸収している。
演奏は、初めは自由奔放なイメージが強いが、次第にまとまりのよさが感じられてくる。
80 年代初頭の P.F.M の歌もの路線にむやみに派手なキーボードを突っ込んだような感じ、といってもいいだろう。
また、EL&P が元来備えていた R&B やブリット・ポップ的な面を、クラシックとシームレスにつながっているイタリアン・ポップスで置き換えたともいえる。
作曲はすべてニック・コモーリョ。
プロデュースはベペ・クロヴェッラ。
1 曲目「Spleen」(5:57)。
冒頭に「春の祭典」のテーマが現れるなど、いかにもプログレらしいドラマチックなシンフォニック・ロック。
イントロから凄まじいプレイへの急転直下が続き、息を呑む。
情熱的なヴォーカルとキーボードの絡みは濃密だ。
粘っこさを現代的なシンセサイザーの和音の輝きで一掃するのも面白い。
ストラヴィンスキーやチャーチ・オルガンなど、プログレ的な役者も揃っている。
70' クラシカルなキーボード・ロックに、フュージョンやラテン・ポップを持ち込んだ野心作。
デジタルなシンセサイザー・サウンドが耳に残る。
2 曲目「Padre」(5:55)。
EL&P 風のミステリアスな演奏とラテン・フュージョン/ポップ調のヴォーカルをあわせた華美な歌もの。
メロディアスかつやや翳のあるテーマを、激しく変化するキーボードで彩る作品だ。
メイン・ヴォーカルはグラム風のチープなポップ・テイストあり。
ジャジーなピアノの狂言回しや華やかなムーグ、ハモンド・オルガンなど、EL&P 風のプレイが満載。
それでも、キーボードよりラテン・ポップ風のヴォーカルがメインのようだ。
プログレ・フュージョン・ポップの傑作。
3 曲目「Quousque Tandem」(3:36)。
小気味よいビートによるロカビリー、歌ものラテン・ロック。
シンセサイザーのオブリガートは、オーケストラ・ヒットのようだ。。
熱っぽく濃いテーマと、ランニング・ベースなどジャジーなアクセントが効いている。
イタリアというよりも、南米・スペインに近いような気がする。
4 曲目「Il Salto Degli Amanti」(3:25)。
妖しげなヴォーカルが冴えるアップ・テンポのラテン・ロック。
ハモンド・オルガンとピアノを用いた過激なインストとパワフルなヴォードビル風のヴォーカルのコンビネーションだ。
ヴォーカルは、ささやきと早口を駆使し、女衒のようないかがわしい表情を操る。
5 曲目「Dentro L'Inconscio」(3:46)。
熱愛と別離を歌うような、パッショネートにして秘めやかなバラード。
熱っぽくもあくまで気高いピアノ。
ヴォーカルも熱演だ。
ストリングスの高まりにイタリアン・ポップ、いや、オペラの伝統を見た。
6 曲目「Il Sogno Di Sigfrido」(2:58)。
近年のフレンチ・ロックにありそうな変拍子シンフォニック・フュージョン。
アナログ・シンセサイザーときらめくようなパーカッション系の音色をもつデジタル・シンセサイザーが、思うさま走り回るテクニカル一本勝負である。
音色はモダンだが、病的に手数の多いリズム・セクションや度派手な押し捲りなど、マインドはやはり EL&P である。
インストゥルメンタル。
7 曲目「Il Gioco Del Gatto」(4:58)。
一気呵成に押し捲るシンセサイザー・ロック。
せわしなくもキャッチーな曲展開のなかに、正統プログレたるクラシカルなシンセサイザーのプレイが次々と現れる。
初期 MASTERMIND にも通じる世界である。
8 曲目「Tu Sei」(5:48)。
ジャズ、R&B 的なキーボード・プレイをフィーチュアした、軽快かつ熱っぽいイタリアン・ポップス。
前曲と同じく走りっぱなしである。
パーカッション系のデジタルなシンセサイザー・サウンドが強烈だ。
いかにも 80 年代以降の音である。
9 曲目「David E' Golia」(4:41)。
イタリアン・ポップスの伝統を感じさせる正統的なバラード。
どこまでも甘く、それでいて躍動的。
ピアノ伴奏がメインであり、間奏にシンセサイザーが少しだけ現れる。
10 曲目「Marianne」(7:06)。
インストゥルメンタルを充実させた、ジャジーで官能的なバラード。
決めどころでは、いかにも体温の高そうなヴォーカルが、しつこく迫ってくる。
セクシーなのだろうが、東洋人にはあまり馴染みがない。
変拍子アンサンブルはどこか洒脱でおもしろい。
突如シンフォニックに膨れ上がるところは、ヴォーカルといっしょでややしつこいかもしれない。
歌ものにいろいろとしかけを施して膨らませる、本グループの作風の典型だろう。、
エンディングは、爆発音による突如の破断。そして、オープニングと同じせせらぎの音。
「春の祭典」が流れる。
せせらぎの音。
70 年代キーボード・ロック・リヴァイヴァルに、イタリアン・ポップスをブレンドした佳作。
スピーディかつ迫力満点のキーボード・プレイに加えて、ヴォーカルの放つ独特のあでやかさがいい。
この明るく朗々たるイタリア語ヴォーカルだけでも、充分楽しめる。
プログレ然としたプレイも、ラテン・ポップス調の流麗なメロディが加わると、こんなに粋なのだ。
演奏は、キーボード・トリオの多くがそうであるように、到底トリオと思えない音数で勝負する、テクニカル押し捲りスタイル。
ヴォーカル兼任のキーボーディストは、かなりたいへんだろう。
シンセサイザーはデジタルにして華麗なサウンドを誇り、なおかつ、端々に 70 年代ロックの研究成果も現れている。
とにかく、演奏技術はまったく文句ない。
生きのいいメロディ・ラインとテクニカルなプレイをフュージョン風の音も交えて結合し、キーボード・トリオの新しい可能性を拓いているともいえる。
しかし、曲そのものは、テクニカルなキーボードで押し捲るものよりも、ヴォーカルを活かしたものの方がよいようだ。
キーボード・プログレ・ファンはもとより、ラテン・フュージョン・ファンにもお薦め。
EL&P の大きな特徴でありながら、最近のキーボード・ロックが失った R&B 色を、イタリアン・ポップスで補うというアイデアの勝利でもある。
(VM NP 02)
Nik Comoglio | piano, moog, synthesizer, hamonnd, acoustic guitar, lead vocals |
Edo Rogani | piano, moog, synthesizer, hammond |
Paolo Sburlati | drums, percussion |
Fulvio Serra | bass |
guest: | |
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Renaldo Doro | bag pipe on 5 |
93 年発表の第二作「Inca」。
キーボード担当のメンバーが増員し、四人編成となる。
作風は、ややジャズ色が強まるも大きな変化はない。
「インカ帝国」をテーマに、エネルギッシュなキーボード・プレイを満載したアルバムである。
ピアノ、アナログ・シンセサイザー、ハモンド・オルガンを縦横無尽に操る演奏であり、「フュージョン好きのラテン風 EL&P」と呼んでさしつかえなさそうだ。(フュージョン嫌いのキース・エマーソンが怒りそうだ)
プロデュースはベペ・クロヴェッラ。
「Inti-Raymi」(1:39)
エキゾチックかつ神秘的な序章から、一気にハイ・テンションの変拍子アンサンブルへと飛び込み、シンセサイザーが高らかに歌い上げる。
EL&P のリズムを補強したイメージの痛快な演奏だ。
インストゥルメンタル。
「Inti-Illapa」(5:13)
ヘヴィにして快調な EL&P 風インストゥルメンタル。
「運命の三人の女神」を思わせる荘厳なチャーチ・オルガン、あくまで挑戦的なハモンド・オルガンのリフ/オブリガート、エフェクトされたオルガン・ソロ、破天荒なシンセサイザー、バルトーク風のピアノ打撃技まで、何でもあり。
つんのめったまま走り続けるような演奏は、イタリアン・ロックの伝統芸。
ヘヴィな曲調にもかかわらず、せわしなさとスピード感が勝っており、決して重くなり切らない。
本家と同様である。
シャフル・ビートとともに走るハモンド・オルガンの切れ味はかなりのもの。
「Proverbi」(4:49)
キーボードによるクラシカルでせわしないテーマとは裏腹にジャズっぽい AOR 調も見せる作品。
とりあえず、前曲との落差は小気味いい。
洒落たヴォーカルとトリッキーなリズムによるテーマの組み合わせは、意外や、あまり破綻していない。
ベースなど、ランニングから手数の多いプレイも見せてすっかりジャズである。
ゴージャスなフュージョン風味もある。
EL&P 風のオルガンが飛び込んで、あまり聴いたことのない展開になる。
ややヒネリすぎ。
「Inca」(5:29)
シンセサイザーをフィーチュアした、エキゾチックな行進曲風の作品。
重苦しいビートにもかかわらず、ヴォーカルは華やいでいる。
シンセサイザーは、金管から弦楽まで微妙な音使いを見せる。
「尺八」が印象的。
EL&P もこういうエキゾチズムは得意でした。
「Naele」(6:18)
幻想的なオープニングからアコースティック・アンサンブル、激しいハモンド・オルガン中心のアンサンブルへとすすむ、変化に富んだ作品。
ついてゆくのが精一杯。
「Sogno」(4:47)
アップ・テンポの AOR 調ナンバー。
エレポップ風のチープなビート感がある、走りっ放しの演奏である。
リズムは打ち込みと人力の合成か。
「Nazca」(4:34)
ビジーなアンサンブルがせわしなく展開してゆく、エキセントリックなヴォーカル・ナンバー。
多彩なリズムの変化を繰り返し、曲調は限りなく落ちつかない。
ドラムスは、これだけ叩いてなお叩き足りないようだ。
アップ・テンポのヴォーカル・パートを支えるのは、現代音楽風のピアノ、ジャジーなハモンド・オルガン。
中間部のシンセサイザーが気持ちいい。
「L'alba Dei Tempi」(2:33)
ハモンド・オルガンとシンセサイザーによるクラシカルなインストゥルメンタル。
EL&P の「Toccata」を思わせる曲だ。
「Bambole」(3:51)
やたらとエネルギッシュなヴォーカル・ナンバー。
今風のサウンドに、シンセサイザーとハモンド・オルガンだけぶち込んでみました、という感じ。
8 ビートから 8 分の 6 拍子に移るところは、なかなかおもしろい。
ポップでハードでプログレな不思議な曲。
こういう曲では、けたたましさがより強まる。
「Pizarro」(6:48)
リズミカルなヴォーカル・パートとメロディアスな演奏のパートが交互に現れる構成の力作。
全体にリズム・テンポの変化は激しく、演奏そのものもかなりエネルギー過剰気味だが、この曲については、そういう派手さと対応するゆったりした情感がある。
もう少しじっくりタメれば、本当にエンディングにふさわしい感動的なナンバーになったのでは。
ほぼ前作と同じ路線の 70 年代キーボード・ロック。
コブシの効いたセクシーなヴォーカルとジャジーなポップ・センスも健在である。
暑苦しいが、ハマるとなかなかいい感じだ。
主題を得たわりには、曲調そのものにはあまり変化がなく、ストーリー・テリングはもっぱら歌詞に頼っていると思う。
前半は、EL&P そのままのミステリアスかつアグレッシヴな演奏が続き、後半は、メローな音やジャジーなプレイも交えている。
ドラムスがテクニックを誇るあまりに、やや落ちつかない感じを与えるのが残念。
(もっとも EL&P 風の曲での落ちつきのなさは、こちらも慣れているため大丈夫)
エンディングの作品は、やや盛り込み過ぎながらも、叙情的な面も現れている。
これが自然体だとすると、無理にプログレにする必要もない気がする。
もう少し全体に重さがあるといいと思うが、EL&P 風味を消さずに音をずっしり重くするのは、本家もチャレンジして果たせなかったくらいなので相当難しいのだろう。
(VMNP 05)
Nik Comoglio | piano, hammond, moog, rhodes, keyboards, backing vocals |
Federico Marchesano | bass, double bass |
Francesco Pinetti | vibraphone, timpani, cymbals |
Paolo Rigotto | drums, percussion |
Riccardo Ruggeri | lead vocals |
2010 年発表の第三作「Melapesante」。
十七年ぶりの復活作。
経緯は分からないが、ファンとしてはよくぞやってくれましたと手放しで喜びたい。
内容は、キーボードを中心にクラシック(一部モダン・ジャズ)調のアレンジを効かせたアダルト・ロック。
アダルト・ロックとはいえ、挑戦的な現代音楽調のピアノや荒ぶるハモンド・オルガン、寂寞のメロトロン・フルート、変拍子オスティナートなど「プログレ」的なファクターは十分入れ込まれている。
暴走気味の展開や文脈喪失気味の極端な落差といった往年のイタリアン・プログレ的な面は抑えられてバランスのいい演奏/展開になっているが、メロディアスな中に一本筋の通った緊張感があり、大胆に踏み出すときの姿勢にはいささかの躊躇もない。
また、バラードは、大人としての矜持とイタリアン・ロックらしい熱い歌心がブレンドした心にしみいる出来である。
そして、エモーショナルな歌唱に寄り添うようにオブリガートでメロトロン・ストリングスが密やかにささやくのだ。
まさに、コンテンポラリーなプログレとして十分な内容である。
ゲストによるヴァイオリンやフルート、管楽器もフィーチュアされている。
実力派のメンバーとゲストを迎えているらしく、たしかに、サウンド面はかつての作品を超えるグレードである。
ニック・コモーリョはキーボード演奏に専念し、リード・ヴォーカルの役割は専任者に譲っている。
このヴォーカリストによる、かなり濃い目でいかにも現代的な脱構築系のユニークな表現も魅力の一つである。
(どう聴いてもイアン・ギランなシャウトがあったりするから油断はできないが)
一方、キーボードで特に印象的なのは、音色を工夫したシンセサイザーである。
また、打楽器奏者が二人いるのは、バンドを越えたオーケストラに迫る意気込みを表した編成に思える。
独特の「軽さ」の一因だった前作までのジャジーなタッチが少なめではあるが、回顧にとどまらない歌心のある大人向けのプログレとして満足できる作品である。
音の深みと渋みは、コモーリョ氏がほかのフィールドで積み上げた活動からにじみ出るものなのだろう。
プロデュースは、べぺ・クロヴェラ。
「Melancholia D'ophelia」(5:12)オープニングは変拍子風の 8 ビートで TARKUS のように怪しく迫る。やっぱり好きなのね。キーボード全開。
「Allegro Feroce」(2:09)流麗劇的なるイタリアン・クラシカル・ロック。WOLF や QUELLA VECCHIA LOCANDA を思い出します。インストゥルメンタル。
「Melapesante」(6:03)前曲の印象派風のピアノをそのまま引き継いで始まるも、かなりへヴィな歌ものハードロック。
シンセサイザーが印象的。
重厚ながらも、器楽は気まぐれに揺れ動き自由である。
「Magritte」(5:01)ロマンティックでもの哀しいバラード。ほのかに憂鬱なクラシック・ギターの響きをフィーチュア。ギターとメロトロン・フルートのデュオの妙。ピアノはハマり過ぎ。終盤のシンセサイザー・ソロもいい。
「Giardino Delle Esperidi」(6:34)サスペンス風なモノローグとピアノの弦をかき鳴らす音、ヴァイブ、弦楽の導く現代映画音楽風の叙景作。
なかなかカッコいい。変拍子のヴァイブ・ソロもお洒落。無機的な世界に次第に哀愁と熱気が湧き上がってくるところがイタリア。
「Malo In Adversity」(5:26)せわしなくロールするドラムス、攻撃的で性急なピアノなど EL&P によく似たクラシカル・チューン。
ゴージャスなブラスのアレンジにこのグループらしさが出ている。メイン・パートである悩ましきバラードは、別物ではあるが、力の入った表現である。布施明が歌っても違和感無し。
「Mela Pensante」(3:34)デュキャンばりのコミカルな声色で迫るヴォードヴィル調の作品。ファズ・ベースが暴れ出す短い間奏部がカッコいい。
「Mela Di Tell」(6:18)余裕ある正調アダルト・ロック、というか MARILLION 辺りに近い作風。
ブルーズ・ハーモニカが意外。
ハモンド・オルガンをフィーチュア。後半、あれよあれよと姿を変えてゆく。
「Dentro L'inconscio」(5:12)ジャジーで繊細なバラード。中盤からはオルガン、ピアノが力強く迫る。間奏最後の木管が美しい。
なんだか、次にオルガンとともに「Knife」が始まりそうな感じです。
「4 Hands Piano Boogieprog」(1:45)ピアノ連弾ブギー。「用心棒ベニー」? はたまた一発芸でしょうか。
(ARTPG 2621)
Nik Comoglio | piano, hammond, rhodes, minimoog, distortion keyboard, pipe organ, celesta |
Francesco Pinetti | vibraphone, marimba, timpani, glockenspiel, tubular bells |
Riccardo Ruggeri | lead vocals |
guest: | |
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Pino Li Trenta | drums |
Federico Marchesano | bass |
special guest: | |
Ray Thomas | flute |
2012 年発表の第四作「La Bella E La Bestia」。
キーボードをフィーチュアし、管弦楽を導入したオペラチックなトータル作品。
テーマは「美女と野獣」の再読による新解釈というなかなか凝った趣向である。
美の象徴たる「薔薇」を配役の中心にし、配役ごとにさまざまな声色を使って物語を綴っている。
THE MOODY BLUES のレイ・トーマスが客演。
ヴォーカリストは、ロックのシャウトと情熱的なテノールをみごとにオーヴァーラップさせ、キーボードは時に厳粛、時にロマンあふれる表現でそのヴォーカルを支える。
とりわけ、アコースティック・ピアノの重厚な説得力とハモンド・オルガンのジャジーな熱気が印象的。
専任奏者がいるヴァイブやマリンバといった鍵盤打楽器もキーボードの延長として使われていて見せ場が多い。
ポルタメントやベンディングを効かせたギターらしき音もすべてキーボードで演奏してるようだ。
クラシカルでゴシックな雰囲気に情熱的で耽美なニュアンスが浮かび上がるところもイタリアン・ロックらしい。
エキゾチズムのスパイスを効かせてクラシックとジャズを自由に行きかうプログレッシヴなキーボード・ロックの伝統を堅持しつつ、演劇的な表現を前面に出したロック・オペラの佳作である。
ぜひ LE ORME の衣鉢を継いでいただきたい。
プロデュースは、ニック・コモーリョ。
「Introitus」
「Il Fiele E Il Limite 」
「Rosa Recisa」
「Complice Carnefice 」
「Piano Prog Impromptu 」
「Tu Non Sei Qui 」
「Orribile Mia Forma 」
「Mercanti Di Gioia」
「Bestia! 」
「Ora Respira」
「La Ruota Della Fortuna」
「Canto Della Rosa」
(AMS211CD)
Nik Comoglio | keyboards, orchestration |
Francesco Pinetti | vibraphone |
Riccardo Ruggeri | vocals |
2014 年発表の第五作「Odysséas」。
内容は、管弦楽を動員したクラシカルかつフォーキーな歌ものキーボード・シンフォニック・ロック。
リード・ヴォーカリストの歌唱に象徴されるように、多彩な音楽性とリッチなサウンドを独特のダンディズムで貫いた作品だと思う。
プログレらしいクラシカルかつジャジーで奔放なキーボードのプレイやパンチの効いたジャジーなビッグバンドも、このダンディなロマンチシズムを描くためである。
エキゾチズムのスパイスもトラジックな表現もいちいち本格的だし、ピアノの響きとともに強まる空しさとやるせない郷愁の演出はお手のものである。
もちろん、さり気なく挿入されるアナログ・シンセサイザーのオブリガートやリフにプログレ心を揺らされる瞬間も多い。
個人的には、LE ORME に近い世界だと感じる。
海辺で所在なげにたたずむリリー・フランキーの姿にこの音がオーヴァーラップしてもいいかもしれない。
なににせよ、大人向けだ。
ドラムスにマルコ・ミンネマンを迎えたキーボード・ジャズロックのキレ(ヴァイブがカッコいい)、フルートにジョン・ハケットを迎えたバラードの味わい、ともにすばらしい。
ベーシストとドラマーよりも、優れたリード・ヴォーカリストと専任ヴァイブ奏者をメンバーにしているところがおもしろいし、うまく機能していると思う。
「Invocazione Alla Musa」
「Il Tempo Che Non Ho 」
「Focus」
「Penelope」
「Circe」
「Ade」
「Poseidon」
「Nemesis」
「La Grande Bouffe」
「Eros & Thanatos」
「Vento Avverso」
「Ελευθερiα」
「Daimones」
(FAD-012)
Nik Comoglio | keyboards, pipe organ, orchestration |
Riccardo Ruggeri | vocals, 12 string acoustic guitar |
Marta Caldara | vibraphone, piano on 7, mellotron on 3 |
Gigi Rivetti | piano on 6,8,9,11, hammond on 3, moog on 5, electric piano on 1,5, clavinet on 1 |
Maurino Dellacqua | bass, taurus bass |
Martino Malacrida | drums, percussion |
guest: | |
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Steve Hackett | guitar on 11 |
Ray Thomas | flute |
2016 年発表の第五作「Eros & Thanatos」。
内容は、鍵盤楽器を中心にロマン派クラシック風のアレンジを充実させたハイ・テンションのプログレッシヴ・ロック。
ジャジーなヴィヴラフォン、ヴォコーダ風のエフェクトも用いた独創的なオペラ風ヴォーカル表現、本格的なピアノ、アグレッシヴに攻めるアンサンブルなどが特徴である。
リード・ヴォーカリストは声質も歌唱も若々しく、時にパンキッシュな表現で噛みつくのもためらわない。
演奏は、目の回りそうなほど性急なジャズの即興を特徴としつつも、LE ORME に迫るクラシカルなプログレッシヴ・ロックの覇王道にある。
高速で羽ばたきする熊ん蜂の群れのように唸りを上げるシンセサイザーと深淵からの反響のように豊かな音色のピアノが、時にめまぐるしく時に濃密な情感を湛えて薄暗き音楽の伽藍を構築し、血潮をたぎらせたヴォーカリストの歌唱が無明の闇を炎で切り開く。
イタリアらしく、バラードにおけるアコースティックでロマンティックな表現の彫りも深い。
エキゾティックな演出にもためらわずエレクトリックなサウンドをぶち当てて火花を散らすところなど、乱調美を超越して EL&P や P.F.M と同じ風格がある。
なんというか、情感の深さや色合い、こってり感が根本的にアジアの人とは違う気がする。
それでも、バランスや安定した豊かさではなく、エネルギッシュで尖鋭的、アグレッシヴであることを目指しているところがカッコいい。
大人の心の奥底で蠢く焦燥感とエキセントリシティを大胆にさらけ出したような、ちょっとコワいがある意味痛快な作風である。
突っ込みまくるスネア・ドラムと猛り沸騰するハモンド・オルガンで急旋回を繰り返すも、目の前のポカッと口をあけた暗黒の陥穽に響くのは、メロトロンとピアノと弦楽アンサンブルの奏でる美しき挽歌である。
大胆なサウンド・メイキングによるシンセサイザーのプレイも、クラシカルかつジャジーな堂々たるアンサンブルの中でしっかりとした存在感を放っている。
大曲はないが、4 分あまりに過剰なダイナミクスのドラマをたたみ込んでいて、そのドラマを 10 巻たばねると慈愛と妄執が絡み合った巨大な物語になっている。
そういうところは、往年のイタリアン・ロックそのままである。
第二作の曲のリメイクあり。これは、「イタリアン・ポップス + 軽めの EL&P + ジャズ」という趣味的世界のグレードアップ。 無茶さ加減がいい。
音楽の振れ幅の大きさが分かりやすく示されている 6 曲目が強い印象を残す。傑作。
「Frammento」(1:02)
「Area 51」(3:07)
「Terra Che Brucia」(5:26)
「Gli Spiriti Dei Campi」(5:27)
「Qinah」(6:10)
「Duro Come La Morte」(5:54)
「Alla Sinistra Del Mio Petto」(3:08)
「Farha」(3:19)
「L'urlo Nelle Ossa」(7:15)
「Bambole (Remake)」(4:15)
「Sotto Un Cielo Di Fuoco」(5:37)
(FAD-021)