イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「TRIFLE」。 69 年結成。ベテラン、ジョージ・ビーンのグループ。アルバムは一枚。 ベーシストは後に MANFRED MANN'S EARTHBAND に参加。 後に STRAWBS に参加するロッド・クームスは初期メンバーだった。
George Bean | lead vocals, tambourine |
Dick Cuthell | flugelhorn, trumpet, cowbell |
Barrie Martin | tenor/alto saxes, vocals, bongos |
Alan Fealdman | organ, piano, claves |
John Hitchen | lead/acoustic guitars, vocals, jawbone |
Patrick King | bass guitar, vocals |
Chico Greenwood | drums, congas, maracas |
71 年発表のアルバム「First Meeting」。
内容は、強力なリズム・セクションが特徴的なブラス・ロック。
ソウルフルなヴォーカルをブラスが守り立てる、マッチョで逞しくてなおかつ英国らしいちょっぴりメランコリックな苦味もある演奏だ。
とにかくブラス・セクションの華々しく弾力あるサウンドが音の奔流というべき圧倒的存在感を放つ。
初期の CHICAGO とそん色ないキャッチーでなおかつアヴァンギャルドな冒険心にもあふれるブラス・ロックだが、数多のブラス・ロック・グループとは、60 年代ブリティッシュ・ビートの特徴である黒い R&B 調と荒々しいセンチメンタリズムがそのまま現れるところで差別化される。
黒人音楽に憧れ続け、なおかつアメリカの最新流行であるブラスを取り込んだ音から、なぜにこのように幽玄なる響きが生まれるのか、プログレッシヴ・ロックの神様に問うてみたい。
オルガンによるクラシカルで神秘的な味わいやピアノによるうっすらとしたロマンチシズムも格別である。
ヴォーカル表現はもちろんのこと、テーマからもアレンジからも、ハードでワイルドな音を底流で支えるのが優れたポップ感覚であることが分かる。
ファンクや R&B のグルーヴのうちに秘めた音楽的な冒険も並々ならぬものであり、まさにプログレッシヴなロックといえるだろう。
全体としては、あまり時代によって評価が左右されない音になっている。
したがって、ハードではあるが、ラウンジ・ミュージックとしても機能しそうだ。
プロデュースはジョン・シュローダー。
一作のみというのが惜しい傑作だと思う。
DAWN レーベル。
「Alibi Annie」(4:55)半拍ずらしの絶妙なシンコペーションによるアッパーなリフが強烈な印象を残すも、どこまでもキャッチーなキラー・チューン。
ソロも大胆そのもの。
ハモンド・オルガンはほとんど打楽器である。
骨がばらばらになりそうなギターのバッキングも強烈。
こなれた感じとアヴァンギャルドなセンスが結びついたところは BS&T の影響か。
「Home Again」(4:05)謎めいてうねるベース・ラインと派手なブラスが仕切る、グルーヴィな佳曲。
アラン・ボウンや AQUILA によく似た翳りがいい。
高揚にまとわりつく憂鬱、そして沈滞に浮かび上がる興奮。
こなれたブラス・セクションとこなれ切らないギター、オルガンとの取り合わせの妙、開放感と閉塞感の共存共栄。
「One Way Glass」(4:34)極太のバネのような弾力のあるリズム・セクションと歌謡曲風の俗っぽいパワーでギラつくブラス・セクションとセンチメンタルな歌唱が一つになった、神秘的なブラス・プログレ。
サスペンション固めのダイナミズムとけだるいニヒリズム。
全体がこういうトーンだとイージーで開放感のあるサビややさしげなアコースティック・ギターのストロークが映える。
MANFRED MANN CHAPTER THREE のカヴァー。
「But I Might Die Tonight」(3:51)ロマンティックなピアノ伴奏のアレンジが特徴のポップなブラス・ロック・バラード。
メランコリックなトーンもあるが開放的で、ややアメリカを向いている。
バッキングのブラス、間奏のリリカルなフリューゲルホーンをなど、基本は初期 CHICAGO です。
「Is It Loud?」(8:10)
NUCLEUS をさらにプログレ化したようなジャズロック。
角張ったストレートなテーマを経て提示されるフランク・ザッパ風のアブストラクトな第二テーマはこんがらがっているのに奇妙な安定感あり。
謎めいたミドル・テンポ、ハモンド・オルガンのオブリガート、ソロが感電しそうにクール。
叙情的なフリューゲルホーンのソロを経て、3 分過ぎのリズム・チェンジから、アルト・サックスをリードにジャズ・テイストが強まったグルーヴィな演奏が繰り広げられる。
終盤、ギターの一閃、沸き立つピアノらによって音圧は高まり、キース・ティペット・グループか KING CRIMSON のような呪術的混沌へと発展する。
本作では異色となる、妖しくエキゾティックなムードに包まれたジャズロック、プログレ大作。
オルガン、フリューゲルホーン、サックスらが麻薬的酩酊感を演出する。
キーボードは EL&P あたりにもけっこう近い音だ。
インストゥルメンタル。
ここでは異色の本作品が後世に名を残す理由になった。傑作。
「Old Fashioned Prayer Meeting」(4:39)再びアメリカを向く、小洒落たスワンプ・チューン。
曲者っぽくもあくまでもプロフェッショナルなヴォーカルとつややかでなめらかなブラスのコントラストもいい。
ピアノが活躍。
シングル・カット。
「New Religion」(6:43)サイケデリック・エラの呪いを封じ込めた神秘的なブリティッシュ・ロック。
冒頭、厳かなオルガンの響きで早や視界が揺らいでくる。
ブルージーで気だるげなリフを受け止めるブラスのオブリガートの絶妙なつややかさ加減に悶絶。
ハモンド・オルガン、クラーヴェ、ギターらのソロも充実。
さりげない変拍子など、この曲だけは、ジャズや R&B に傾かない「ロック」独自の前衛性を感じさせる。
終盤、トランペット、フューゲルホーンらとリズム・セクションで繰り広げる無制限一本勝負のような展開にもしびれる。
グレアム・ボンドを思わせる大胆なタイトルだ。
「Devil Comin'」(7:45)ロカビリーっぽい作品で、主役はドラムスとベース。
つまりドラムンベース。
スタイリッシュなヴォーカルがこれまたグー。
3 分過ぎからのノイズと化したアナーキーなギター、4 分 40 秒辺りからのハモンドと絡みながらの、タム回し、パーカッションのプレイが最高すぎる。
そして 6 分 40 秒からのドラムス・ソロで失禁寸前。フランスではシングル A 面になっている。
圧巻のロック・ジャズ。今でもまったく問題なくイケます。
「Candle Light」(1:40)ギター弾き語りの幻想的なフォーク・ソングによるエピローグ。
こんな終わりって切なすぎる。
(DNLS 3017 / ARC 7127/28)