イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「TWELFTH NIGHT」。78 年結成。88 年解散。2007 年再結成。 ポンプ・ロックの代表的なグループの一つ。 カリスマ・ヴォーカリスト、故ジェフ・マンの歌唱スタイルは各国の次世代フォロワーに多大な影響を与えたようだ。 グループ名はシェークスピアの作品から。
Andy Revell | lead guitar |
Brian Devoil | drums, percussion |
Clive Mitten | bass acoustic guitar on 14, keyboards on 1,2,3,5,6 |
Geoff Mann | vocals |
Rick Battersby | keyboards on 4,7,8,10,12,13 |
82 年発表のアルバム「Smiling At Grief」。
オリジナルはカセットリリース、その後 97 年に CD 化。
本 CD は、その作品にさらに CD-R で発表されたライヴ録音を加えた決定盤であり、2009 年に発表された。
CD 二枚組。
ライヴ盤の強烈な弾けっぷりと比べると、ややおとなしい印象だが、音楽のスタイルそのものは、事実上のデビュー作にしてすでに完成されている。
それは、80 年代初頭の薄っぺらいサウンドとどうってことない演奏が作り上げる、あきれるくらいスタイリッシュなロックであり、その中心には情緒過多のナルシスティックなヴォーカリストがいる。
ヴォーカルを軸にシンプルなフレーズを組み上げたアンサンブルは、3 分あまりの楽曲においても濃密なドラマを描いている。
それが 10 分に広がれば、どうしたって遡ること 10 年前にピーター・ガブリエルが描いた世界と共通する異形の風景を生み出すに決まっている。
違いは、そのガブリエルの描いた風景にも我慢ができずにそこから遮二無二飛び出してゆく反骨心であり、それは若い世代が正当性をもって抱くことのできる、いわば若さの権利である。
現れ方こそ若干違えども、マインドは間違いなくポール・ウェラーの JAM やバリー・アンドリュースのいた頃の XTC と同じだ。
継承と破壊とを繰り返すことが英国ロックの永劫の新陳代謝を生み出している。
また、専任キーボーディストによる音が加わると、ニューウェーヴ的だった曲が驚くほどに「ネオ・プログレ」してくるのも面白い発見だった。
CD 1 の曲目は、以下の通り。
「East Of Eden」(3:29)シンプルなプレイを重ね合わせたアンサンブルが生む奇跡的なインパクト。
「This City」(3:13)重厚で切迫感ある作品。名曲。
「The Honeymoon Is Over」(2:35)
「Creepshow」(10:13)名曲。MARILLION の「Grendel」を連想。元祖は「Knife」。
「Puppets (Intro)」(1:25)
「Puppets」(2:50)
「Three Dancers」(2:54)ニューウェーブ。マン独特の「だらしなさ」のある歌唱がハマっている。
「Makes No Sense」(4:02)味のあるパンキッシュなバラード。名曲。
「Für Helene Part II」(10:48)テクノっぽいインストゥルメンタル。ワウワウとディレイを使ったギターがカッコいい。Part I は「Live At The Target」に収録。
「Kindergarten」(3:05)リハーサル・テイク。
「Midnight(poem)」(0:51)リハーサル・テイク。
「Keep The Aspidistra Flying」(9:40)リハーサル・テイク。
「Convenient Blindness」(3:27)リハーサル・テイク。
「Makes No Sense」(5:10)リハーサル・テイク。
「Eleanor Rigby」(3:03)オリジナル・デモ。
「This City」(3:19)別ヴァージョン。
CD 2 は、本カセット収録作品を中心とした 81 年ライヴ録音。 音は良質のブート並み。
「Kindergarten」(3:05)
「The Honeymoon Is Over」(2:50)
「Eleanor Rigby」(3:38)もちろん THE BEATLES です。
「Makes No Sense」(5:20)
「East To West」(9:39)「Live At The Target」収録。
「Three Dancers」(3:44)
「Puppets」(3:50)
「This City」(4:16)
「Creepshow」(10:19)
「East Of Eden」(5:24)
「Sequences」(20:15)「Live At The Target」収録。
「Convenient Blindness」(4:25)スタジオ・ライヴ録音。
(TN-003 / 200903)
Brian Devoil | drums, percussion |
Geoff Mann | vocals, tape effect |
Clive Mitten | keyboards, bass, classical guitar |
Andy Revell | electric & acoustic guitar |
82 年発表のアルバム「Fact And Fiction」。
ジェフ・マンを迎えて二作目、初の LP リリースとなった作品である。
専任キーボーディストが録音に参加しておらず、ベーシストがキーボードも兼任している。
演奏は、個性的なヴォーカリスト、手数よりもアクセントで勝負のリズム・セクション(82 年にしてはフィルを惜しまない)、小刻みなヴィヴラートとレガートなフレージングが特徴的なエレキギター、丹念にアルペジオを刻むアコースティック・ギター、ストリングス中心のキーボード(80 年代らし過ぎる音もご愛嬌)らによる、コンパクトで一体感あるもの。
きっちりとしたスコアがあって、それをたどって真面目に演奏している感じである。
シンフォニックといっていい音だが、パワフルな演奏力というよりは(もちろんベーシストを筆頭に真っ当なテクニシャンではあるのは分かるが)、バンドとしてのまとまりとていねいに音を出す演奏スタイルとで勝負している。
結果として GENESIS や初期の YES と共通する感触があるが、とりたてて何かに似ているということを強調する必要は感じない。
小芝居含め、ライヴで鍛えたブリティッシュ・ロックらしい音である。
製作はさほど豪華ではないが、丹念な演奏のおかげで、カッコよさはいささかも損なわれていない。
そして何より、ジェフ・マンというユニークなヴォーカリストの圧倒的な存在感である。
はっきりいうと、声量ほどには歌がすごくうまいわけではなし、発声や声質にも独特の癖がある。
しかし、ひっくり返ろうが躊躇なく裏声で歌い捲くるような、大胆にしてナルシスティックな「なりきり詩人」的性格と、優れた音楽センス(歌そのものではなく、自分の歌を器楽と合わせてどのように送り出すかという戦略)という強みを大いに生かしているようだ。
結果として、ヴォーカルが一人で切る大見得や、器楽とヴォーカルによる丁々発止のやり取りなど、どの場面もカッコいいのである。
歌唱パフォーマンスにしても、不安げな子どものような表情と野卑でコミカルな表情がみごとに矛盾なく一人芝居に収まっている。
英国ロックが伝統芸術であることに納得がいくし、さすが大仰なグループ名を名乗るだけはある。
また、声質とパフォーマンスに惑わされがちだが、メロディ・ラインそのものにも独特の味わいがあり、作曲者の才能がよく出ていると思う。
このヴォーカリストのパフォーマンスが、比較的シンプルな演奏に大きく表情をつけ、全体のパワーを拡張している。
もっと大げさなプロデュースがあれば、MARILLION の第一作と並び賞せられたかもしれないが、個人的にはこのソリッドでシンプルな音が気に入っている。
シャフル・ビートの疾走がバカっぽくなくこれだけ決まるというのもすごい。
歌詞内容は内省的なものから、象徴的なもの、ドキュメント風のものまで多彩であり、往時の世界、英国の状況を嘆く直裁的なメッセージ・ソングも多い。
この作品や JAM や XTC のアルバムにあった切羽詰った調子は、今はどこにもないようだ。
いや、そういう同時代のリアルな感触を失ったのは、ロックではなく僕の方なのだろう。
ロックのためには、そう思いたい。
プロデュースは、グループとアンディ・マクファーソン。
「We Are Sane」(10:27)あまりにイギリス過ぎる英国ロック。(ごく個人的感想:こういう歌を歌ったとき、なぜ FISH だといまひとつで、この人だと大丈夫なのだろう。こちらの方がずっと素人臭いのに)プログレでグラムでニューウェーヴ。
曇りガラスのストリングス、ペカペカのギター・アルペジオ、ラジオ DJ のナレーション、チープなガレージでのマスターベーション臭いバンドごっこ。
みんな病んで大きくなった。
「Human Being」(7:50)
溌剌とオプティミスティックな響きとサスペンスフルな表情のバラードが交錯するメロディアス・ロック。
アタックのない朦朧としたギター・サウンド、感傷的なピアノのリフレイン、杭を打ち込むようなベース、アルペジオとシンセサイザーによるニューウェーヴなリフ、躁鬱を往来するヴォーカル。
リズムを強調したアンサンブルとギターの三連符パターンは GENESIS 伝来の技。
90 年代以降に雨後の筍のように現れるスタイルの原型。
「This City」(4:01)真剣な表情で切々と訴えかける詠唱。U2 や JAM と同じ、時代の音だ。
「World Without End」(1:54)ストリングスによるインテルメッツオ。インストゥルメンタル。
「Fact And Fiction」(3:59)ニューウェーヴでパンキッシュ、即物感あふれるネオ・プログレ。
デジタルなシーケンスと単語の羅列による歌詞とシンプルなビートがいかにも 80 年代的。
詩人はいつの時代もファッショナブルである。
「The Poet Sniffs A Flower」(3:51)変拍子のアルペジオ・パターンとリフでリズミカルに跳ねるインストゥルメンタル。
センチメンタルなトーンが一貫する。歌があっても全然よかったと思う。
「Creepshow」(11:57)おどろおどろしい設定を生かしきった名作。本家同様、奇譚に基づく一人芝居調であり、怪奇諧謔趣味が詰め込まれている。
「Love Song」(5:40)
(TN-006 / UGU 00691)
Brian Devoil | drums, percussion |
Geoff Mann | vocals, tambourine, timbales |
Clive Mitten | bass, bass pedal, classical guitar, additional keyboards, voice |
Andy Revell | guitar, guitar synth |
Rick Battersby | keyboards |
84 年発表のアルバム「Live And Let Live」。
83 年マーキー・クラブで収録されたライヴ・アルバム。
元々小気味のいい演奏を聴かせていたところへ、キーボードによる化粧が施されてパフォーマンスはカラフルになった。
マンのファルセットを多用したエキセントリックな声色劇もおもしろい。(内容はサッパリ分からないが)
演奏もなかなかのものだと思うが、なんというか、うまいへたとは関係ない、限りない熱気と息遣いの感じられる理想的なライヴ演奏である。
これを聴くと、スタジオ盤はほとんど一発演奏で録音したに違いないと思えてくる。
決め所で観客がいっしょに歌い出す、そんな演奏をするバンドで歌ってみたいものです。
CD では LP に 3 曲が追加されている。
本 CD は、若くして世を去ったジェフ・マンに捧げられている。
「The Ceiling Speaks」(8:26)サビがカッコよすぎる「80 年代ブリティッシュ・プログレッシヴ・ロック」。
「The End Of The Endless Majority」(3:18)インストゥルメンタル。ギター・デュオ。
「We Are Sane」(12:04)序盤はヴォーカル独壇場。破綻すれすれのパフォーマンスが異様な迫力を生む。終盤は宗教的な厳粛さを演出。
「Fact And Fiction」(5:27)「ニューロマ」風の作品。
「The Poet Sniffs A Flower」(4:03)インストゥルメンタル。メロトロン風のシンセサイザー。
「Sequences」(17:14)反戦歌だろうか、声色によって複数の役を演じ分けている。キーボードが活躍。比較的淡々と進むが、予想通り中盤で爆発。
「Creepshow」(12:06)CD 追加曲。ブラドベリイの短編を思わせる怪奇とアイロニー。歌とアルペジオだけでもたせられる、それが一流のロンドン・ポンプ。終盤のギター・ソロ含め、全体の作りが MARILLION と共通する。
「East Of Eden」(5:14)CD 追加曲。わりとハードポップに寄った作品。客席とのやり取りがすごい。
「Love Song」(8:29)CD 追加曲。
(CYCL 050)
Geoff Mann | vocals | ||
Clive Norlan | keyboards | Mike Stobbie | keyboards |
Sylvain Gouvernaire | guitars | Karl Groom | guitars |
Brian Devoil | drums, percussion | Paul Flynn | drums, percussion |
Eileen Ruthford | backing vocals on 5 | Simon Forster | harmonica on 5 |
Cliff Orsi | bouncer | Patric Toms | bouncer |
92 年発表のアルバム「Casino」。
ジェフ・マン、PENDRAGON のクライヴ・ノーランら新時代のプログレッシヴ・ロックを築く主役たちが集ったスーパー・プロジェクトによる唯一作。
ノーランが珍しくキーボードを弾きまくり、ギタリストもエモーショナルなプレイを次々と送り込んでくるが、音楽としては全体的にスリムで抑え目な印象がある。
それは決して悪いということではない。
バランスの取れたアンサンブルが、アルバム後半に向かうに連れ、秘めた熱情や断固たる迫力を示す深みある表現を見せてゆく。
PENDRAGON の最上の瞬間に何らひけをとらない。
ロンドン・ポンプのカリスマがリードするドラマなのだから当然といえば当然ではあるが、まさに堂々たるパフォーマンスである。
カジノを舞台にしたコンセプト作品であり、そう思うとスリリングでサスペンスフルなタッチに 007 の OST に通じるものも感じる。
ジェフ・マンのアダルトな歌唱にも魅せられるポンプ・ロックの傑作。
プロデュースは、クライヴ・ノーランとカール・グルーム。
「Prey」(10:40)
「Crap Game」(5:42)
「Drunk」(12:00)
「Crying Onto Bazie」(10:58)
「Stranger」(4:57)
「Beyond That Door」(11:40)
(VGCD008)