カナダ、ケベックのネオ・プログレッシヴ・ロック・グループ「VISIBLE WIND」。 83 年結成。88 年アルバム・デビュー。 2001 年の新作含め作品は五枚。 ハードかつマジカルなモダン・シンフォニック・ロック。 やや気まぐれにメタルがかるギターと男性的なヴォーカルが特徴。
Luc Hébert | drums, keyboards programming, flute |
Louis Roy | bass, gurping operator |
Stephen Geysens | keyboards, vocals |
Philippe Woolgar | guitars, vocals |
Claude Rainville | guitars |
2000 年発表の第五作「Barb-A-Baal-A-Loo」。
あまりに地味な自主制作風ジャケットに驚くが、内容はワイルドにしてセンチメンタルなハード・シンフォニック・ロック。
ヴォーカルを中心とした古典的プログレに、個性的なサウンドとアレンジを盛り込んだ、充実の内容である。
ウェットンばりのバリトン・ヴォイスを誇るリード・ヴォーカル、忘れていたハードネスを突き上げるギター、包み込むようなキーボード、切ないフルートの調べ、そして生々しく荒々しいリズム・セクションによる、ヘヴィにして幻想的そしてロマンティックな音楽だ。
拳を振り上げながらも大粒の涙があふれてしまうロックなんて珍しいと思ったが、世界として THE FLOWER KINGS に近いことに気がつき、改めて感動。
寂しい夜に一人で聴いたら泣いちゃうかも。
ヴォーカルは、フランス語と英語であり、力強くしっかりと歌い込むタイプ。
ロック向きの声である。
ギターはややうるさいが、太くくっきりとした歌やストリングス、オルガン系の音と交じり合うとちょうどいいくらいの荒々しさとなる。
ヘヴィなパートの印象は HR/HM というニュアンスよりも、ガレージ、サイケデリック・ロック風味を感じる。
風に舞うファルセット・ヴォイスのようなシンセサイザーがとてもいいです。
メロトロンはどっさり。
弦楽やギターのゲストもあり。
「Vladivostok」
「The Healer」 感動の歌ものシンフォニック・ロック。
「Maniaquerie」 HM なギター・リフにメロトロン・フルートやモノローグ調のつぶやきヴォーカルが重なるヘヴィ・チューン。
「Barb-A-Baal-A-Loo」
「Hollow Emptiness」ヴィンテージなオルガン・ロック。
「Mal Brook」
「Lost Ideals」メロディアスな歌ものシンフォニック・ロックの佳品。
オルガン、メロトロンを主にした熱く叙情的な音作りです。
「Dans Le Vide」フランス語ヴォーカルに痺れるハード・シンフォニック・チューン。
なぜにフランス語だと狂ったようなシャウトがここまで絵になるのか。
「Epitaph」や「In The Court Of The Crimson King」もしくは「Starless」へのオマージュを感じます。
「Qui Seme Le Vent....」HARMONIUM の作品か?と思わせる静かなギター弾き語り。控えめなハーモニー、フルートもいい。
フランス語独特の耽美な空気がいい。
「Neandertal」フルートとキーボードによるセンチメンタルなアンサンブルをささくれだった演奏が引き裂く。
凶暴ながらも切なさにあふれており、盟友 INDISCIPLINE にも通じる世界。
ヴォーカリストも交代しているようだ。
ひずんだベースをメロトロンの余韻で受け止め、オルガンが吼えるあたりが正統派である、と思わせておいて、後半はヤクザなプレイで迫る。
CRIMSON 系オルタナ・プログレの大傑作。
「Visages De Sable」弦楽奏とフルートらによるややニューエイジ風のアンサンブル。
ただし暗く邪悪なムードが強い。
「Recommencemeal」サウンド、調子ともにアルバム前半の雰囲気に戻った歌ものシンフォニック・ロック。
キャッチーなようでたまに奇妙な和音進行をはさむ。
曲の雰囲気は GENESIS だろうか。
「Freed Again」大団円、まとめの歌もの。
フランス語で終わっていただきたかった。
(PRO-002)
Philippe Woolgar | guitars, vocals |
Luc Hébert | drums, keyboards programming |
Louis Roy | bass, gurping operator |
Stephen Geysens | keyboards, vocals |
91 年発表の第二作「A Moment Beyond Time」。
男性的なバリトン・ヴォイスによる AOR 調のヴォーカルと、カラフルかつ安定したインストゥルメンタルによるシンフォニック・ロック作品。
クリアーな音色となめらかなフレージングを持つギターと、幅広い音色のキーボードを中心としたアンサンブルは、ハードな力強さと繊細な描写力を兼ね備えており、メロディアスに歌う場面でも白熱するインタープレイでも安定した演奏をみせる。
キーボードとギターがほぼ対等にソロ・インタープレイで駆け巡る様子は、いってみれば全盛期の CAMEL。
また、リズム・セクションも堅実なリズム・キープと多彩な技で見せ場を作っている。
ドラムスは目立たないが、シンバル・ワークなどに非凡なものを感じる。
また、ベースもギターなみに弾き捲くって、なおかつ重みもあるテクニシャンだ。
さらにアコースティックな音使いやクラシカルなアンサンブルを用いる辺りに、幅広い音楽を吸収したセンスが見える。
そして、ダークな雰囲気づくりやめまぐるしい展開は、70 年代プログレッシヴ・ロックのイディオムそのものといえるだろう。
もちろん、90 年代のグループにふさわしく、オルタナティブから AOR まで幅広い音楽を通過したモダンな感覚も鋭敏だ。
ヴォーカルのメロディ・ラインなど、メイン・ストリームの音をしっかりととらえている。
まさに理想的なサウンドといえるだろう。
これだけ弾けるメンツが揃うと、テクニカル・フュージョンやメタルをやりそうだが、おそらくはキーボーディストのセンスのおかげで、モダン・シンフォニック・ロックのフィールドで中身の濃い楽曲をプレイすることに力を入れてくれている。
ありがたいことだ。
さらっと聴いた印象では、80 年代ハードポップやアリーナ・ロックに近い雰囲気であるが、一つ一つの音/プレイの質が抜群に高く、AOR 調のヴォーカルにさえ抵抗がなければ、かなり評価されると思う。
完成度の高い楽曲は、テクニカルなプレゼンテーションの華やかさではほんの少し分が悪いものの、SPOCK'S BEARD や ECHOLYN に十分迫るものであり、彼らと同様に、プログレと銘打つまでもなく新感覚のロックとして通用するにちがいない。
あえていうならば、ヴォーカル・パートにおける、いかにもステレオ・タイプなヘヴィ・メタル然とした泣きの表情がひっかかる。
しかし、トータルには、近年の英国のグループを軽々追い抜くクオリティだ。
プロデュースはグループ。
2000 年 にリマスター盤が再発表された。
勇壮な 4 曲目「Chasing The Skyline」でおおっと思うはず。
ヴォーカルはフランス語と英語。
「Behind The Curtain」(1:22)
「A Moment In Time」(4:11)
「Soleil D'Aube」(4:24)
「Chasing The Skyline」(7:52)
「Ulysse's Return」(5:50)
「Seeking The Moon」(3:23)
「Solitude」(1:45)
「The Faded Years」(3:49)
「A Moment Beyond Time」(10:30)
「?」(0:20)
(PRO-002)
Claude Rainville | electric & acoustic guitar |
Louis Roy | Rickenbaker bass, Taurus pedal |
Stephen Geysens | organ, Mellotron, synthesizer, harmonium, flute, vocals |
Luc Hébert | drums, acoustic & electric percussion |
guest: | |
---|---|
Jean-Philippe Goulet | violin on 12 |
Jean-Francois Linteau | Didgeridoo on 3 |
Dominique Doucet | vocals on 8 |
96 年発表の第四作「Narcissus Goes To The Moon」。
内容は、芯のあるハードロック系のサウンドによる小気味よさと幻想性が両立した個性的なシンフォニック・ロック。
ジョン・ウェットン系の男性的で包容力あるヴォーカルとパワフルなリズム・セクションによるハードなサウンドに、メロトロン、ハモンド・オルガンなどヴィンテージ・キーボードを配し、重厚にして締まった演奏をくり広げている。
演奏は、音数勝負ではない、役割のはっきりしたシンプルなアンサンブルによる。
したがって、フルートなどのアクセントがより一層映える。
しかし、なにより強調すべきは、基本的な作風として、印象的なメロディをしっかり歌わせることに力を注いでいることだ。
このセンスは、全盛期の CAMEL に迫るものであり、思い切って、ややヘヴィな CAMEL といってしまっていい瞬間も多い。
後半には、PINK FLOYD の「Animals」を今風に解釈したような演奏もある。
おそらく、INDISCIPLINE(ヴァイオリニストがゲスト参加) と同じく、ハードロック、オルタナ的なパターンから出発し、キーボードを中心に音楽の進化を重ねてここへ到達したのではないだろうか。
もちろん単にハードロックにフルートやメロトロンを盛り込んだだけではなく、メロディアスな楽曲には自然な流れと起伏があり、そこにさらにアレンジの工夫が加えられている。
キーボード、フルート担当のステファン・ジェイセンズの感覚がここまでバンドを引っ張ってきたことは、想像に難くない。
70 年代の音への憧憬を率直に現しつつも、バランスのとれたモダンなサウンドになっているところは、SPOCK'S BEARD や THE FLOWER KINGS と同じだが、ドラマチックに攻め引く濃厚な演奏には、情報量の多さという強みにはこだわらない、素朴な息づかいがある。
メタリックなギターのパワー・コードが、単なる手癖ではなく、血潮の熱さを現すなら文句はいうまい。
そして、その尖った若さを、キーボードで力強い豊かさへと変化させるだけのセンスも十分あるではないか。
フルートやヴァイオリンの調べにも、フォルテッシモだけでは音楽にならないという基本中の基本に加えて、熱い思いをしっかり音に結びつけて送り出すという成熟した姿勢が浮かび上がっている。
また、いわゆるメロディック・ロックといわれるネオ・プログレッシヴ・ロックよりは、メロディの「泣き」よりも全体の配色とその色合いの変化を重視している。
リスナーへの間口は、比較的広いのではないだろうか。
四作目にして、しっとりとした余韻を残すメロディと神秘的な雰囲気を基本に、ドラマチックなプレイを綴ってゆく正攻法が実を結んだようだ。
随所でズシッとくるプレイがあるが、特にあげるとすれば、フランス語独特の響きを活かした叙情的な「Intravenus」、PINK FLOYD 調のブルージーな重みとジャジーな音使いが面白い「Lunar Doubts」、そしてエキゾチックなオープニングから緊迫感にあふれた重厚な展開をくり広げる大作「The Awakening」が白眉だろう。
特に、最後の大作はキーボードのセンスが光る。
個人的には、ヴィンテージ・キーボードの厚みのあるサウンドとバランスよいアンサンブル、そして柔らかめのサウンド・プロダクションがうれしい。
ヴォーカルはフランス語と英語。
プロデュースはステファン・ラボームとグループ。
「A Succulent Anachronic Pastiche」(2:19)インストゥルメンタル。
「Fuzzy Concept」(6:50)
「By The River」(2:08)インストゥルメンタル。
「Xenophobia」(6:31)
「Introvenus」(0:55)インストゥルメンタル。
「Intravenus」(10:57)序盤は弾き語り風のフランス語ヴォーカルをフィーチュア。こちらのほうが自然。SI レーベル風の展開を経て、後半のヴォーカル・パートは英語。ネオプログレらしい佳作。
「Lunar Doubts」(7:56)PINK FLOYD 風のブルージーな序章から物憂い雰囲気の続くスタイリッシュな佳作。AOR 風でもある。
「Join My Soul」(2:44)
「Race On A Pseudo Fying Carpet」(2:52)
「Nothing Left To Hide」(4:11)
「Ambulance」(0:58)インストゥルメンタル。
「The Awakening」(20:59)ヴィンテージ・オルガン、シンセサイザーが暴れまわる。
「Strange Days」(3:04)ボーナス・トラック。
DOORS のカヴァー。
(PCCY-01011)