アメリカのジャズロック・グループ「VOLARÉ」。 93 年結成、97 年デビュー。 作品は二枚。 GLASS HAMMER、FRENCH TV のツアー仲間だそうだ。 カンタベリー・フォロワー。グループ名は Fly(飛ぶ)のイタリア語。
Patrick Strawser | Rhodes, Yamaha CS-15, Roland Juno-6, Mini-Moog, Alesis |
Korg and Roland synths, piano, organ, Mellotron | |
Steve Hatch | guitars, devices, mandolin, Lightsaber |
Richard M. Kesler | bass, saxophone |
Brian Donohoe | drums, etc.... |
97 年発表のアルバム「The Uncertainty Principle」。
内容は、70 年代のクロスオーヴァー、ジャズロックに強く影響されたインストゥルメンタル・ロック。
ドリーミーなローズ・ピアノ、シンセサイザーと強烈なファズ・ギターのコンビネーションで、なじみやすいテーマを描き、込み入った変拍子パターン反復と個性的なソロを繰り広げるスタイルであり、まさに「アメリカン・カンタベリー」といえる内容である。
とりわけ、ファズ・ギターとエレピは、HATFIELDS や NATIONAL HEALTH に直結する音である。
アナログ・シンセサイザーやメロトロン、ローズ、ハモンド・オルガンなどヴィンテージなキーボード類は多彩な音色を時に美しく時に気難しく奏で、ユーモラスでシニカルな、カンタベリーへの憧れを素直に表明している。
そして、美音ではあるが、親類といえそうな HAPPY THE MAN と比べると、美しさのあまり現実から遊離してしまうほど夢見がちというわけではなく、現世にとどまるぎりぎりの美しさと繊細さであり、ジャジーな官能に訴える音である。
ドリーミーな余韻を浮かべるエレピと武骨ながらも歌心のあるファズ・ギターの響きが変拍子の上で違和感なく重なりあう演奏は、こちらの耳がすでに「慣れていて対応済み」という点を差し引いても、十分に小気味よくインテリジェントな味わいをもっている。
また、ピッチベンドの鮮やかなシンセサイザーの速弾きや時おり見せるファズ・ギターの凶暴な表情、モダンなダイナミクス・レンジなど、おしゃれでおとなしいだけではないエネルギッシュな面もある。
全体として、大まかなフォーマットはカンタベリー調で、各部の音に工夫を凝らした内容である。
凝りに凝り捲くったというイメージではなく、リラックスして素朴に「なり切り」を目指しているようだ。
軸となるのは、エレピ、ムーグとややヘヴィな音色のファズ・ギターがからみ合う、ファンタジックにして時にかなりスリリングなアンサンブルだろう。
アラン・ガウエンやフィル・ミラーのプレイを思い出して正解である。
独自の個性としては、なめらかなアナログ・シンセサイザーと決め所で現れる寒々しいメロトロン、パワフルで緻密なドラミングがある。
ドラムスのプレイは、カンタベリーというにはややアタックが強く、唯一「いわゆるフュージョン風」な立ち位置にいると思う。(あくまでイメージの問題ではあるが)
また、ベーシストがサキソフォニストを兼任しており、おだやかで暖かみのある音でざらつく音の面取り役となっている。
非常にいいアクセントだ。
このソプラノ・サックスやアコースティック・ギターが加わった曲は、ストレートなフュージョン・タッチのメロー・グルーヴを感じさせる。
これは興味深い現象である。
ピアノやアコースティック・ギターといった生楽器の音による自然な叙情性もうまく表現できている。
モダンなグループらしく演奏の端々にハイ・テクニックのジャズの素養を見せるが、決してテクニック志向でなく、むしろ暖かみとユーモア、ロマンのある音楽を目指していることが分かる。
それがうれしい。
演奏する喜びがこちらにも伝わってきて、それでこちらもワクワクと楽しくなるといういい流れである。
プロデュースは、GLASS HAMMER のフレッド・シェンデルとスティーヴ・バブ。
各曲も鑑賞予定。
楽曲も粒よりであり、カンタベリー・ファンには絶対のお薦め。
全曲インストゥルメンタル。
「Caught In A Combine」(4:33)
「Abcircus」(6:35)
「Blitz」(8:47)ドラマティックな力作。
「One Minute Of Thought」(3:50)アコースティック・ギター、エレクトリック・ピアノのデュオ。デメオラ/コリアを意識しているのか。今にもリチャード・シンクレアの声が聴こえそう。
「Midnight Clear」(5:04)サックス入り。
「...In Two Seconds Of Time」(8:42)中盤にサックス再登場。
「Vespers」(7:21)アコースティック・ピアノのクラシカルな響きを活かしたリズミカルな作品。名作。
「...(Incomplete, Broken, And Abstract)」(6:03)習作を思わせるタイトル、所在無げなオープニングと融通無碍すぎる展開など、よくも悪くもカンタベリーらしい作品。キライじゃないです。
「Cropcircles」(4:29)冒頭からハイギアでひた走るハイテンション・チューン。オルガンがカッコいい。
「Black And White」(6:31)シャフル・ビートとファズから一歩踏み外したようなヘビメタ・ギターなど、こういう曲は本家系列には見当たらない。
ヘヴィなプログレとしてみれば力作だが、切れすぎるエンディングなどちょっとあざといかも。しかし魅力的。(どっちだ)
(LE 1028)
Patrick Strawser | Rhodes, Yamaha CS-15, Roland Juno-6, Micro-Moog, Kawai111 |
Yamaha clavinova, Roland juno 106, Alesis Q57, Roland MVS-1 | |
Steve Hatch | guitars, devices |
Richard M. Kesler | bass, saxophone |
Brian Donohoe | drums, etc.... |
guest; | |
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Brian Donohoe | cello on 1-5, ocarina on 4 |
99 年発表のアルバム「Memoirs...」。
96 年のデビュー・カセット及び未発表曲から成る作品。
1 曲目から 5 曲目までがデビュー盤の内容であり、6 曲目から 8 曲目は 97 年以降に録音された。
内容は、70 年代のジャズロック、シンフォニック・ロック、特にカンタベリー・シーンの音楽に通じるものであり、技巧と透明な叙情性とユーモアが交差する世界である。
多彩なキーボードと堅実なギターが、変拍子を多用したなかなか複雑な楽曲をリードしてゆく。
最大の魅力は、暖かみあるメロディ・ラインと丹念なタッチが生み出す淡いファンタジーの味わいである。
前半のチェロの存在、アクセントとしてのサックスも見逃せない。
録音状態は今一つだが、内容はすばらしい。
HATFIELD AND THE NORTH や GILGAMESH のファンには一聴をお薦めしたい。
また、シンセサイザーを中心にシンフォニックに盛り上がるところや、ギターの細かなパッセージが生み出すユーモアなど、最初期の HAPPY THE MAN を思わせるところもある。
「North By Northwest」(5:19)HATFIELD AND THE NORTH 直系の佳曲。意識して作曲したとコメントされている。
「Eighth Direction」(6:22)ギターのリードによる変拍子パターンの迷宮。
「The Broken Waltz」(5:28)
「Three O'clock」(5:23)アコースティック・ギターのアルペジオがさざめき、ソプラノ・サックスが物悲しげに歌う、内省的、かつクラシカルなニュアンスのある作品。午前三時のメランコリー。
「The Odessa Steps Sequence」(8:49)硬軟目まぐるしく変転する大作。
ジャジーでドリーミーな世界から、幻惑的反復、挑戦的なヘヴィ・ジャズロックまでを、変則リズムとアンサンブルで大胆に駆け巡る。
野心作だろう。
「Memoirs Of A Misshapen Man」(5:09)即興風の作品。KING CRIMSON もしくはハードコア・パンク的な強迫感あり。
「Oxford Don」(5:57)
「The Hive」(4:15)
(PLGR 003)